クリニックに自動精算機を導入予定の開業医必見!補助金を活用して賢く設備投資する方法

開業準備において大きな出費となるのが設備投資です。自動精算機は受付効率化・感染症対策に有効ですが、導入費用が高額になる傾向があります。こうした設備投資に活用できる補助金はあるのでしょうか。
本記事では、自動精算機の導入に使える国や自治体の補助金の種類や要件、申請の注意点を解説します。
目次
なぜ開業時に自動精算機の導入を検討すべきなのか?

自動精算機(セルフレジ)は、導入することで会計の待ち時間短縮やスタッフの業務効率化、人件費削減を見込める設備です。近年は医療機関への導入も進んでいます。
ここでは、開業時に自動精算機の導入を検討すべき理由を紹介します。
受付スタッフの人件費削減・業務効率化
自動精算機を設置することで、患者さん自身が会計処理を行えるようになります。受付スタッフとやり取りする必要がなくなるため会計をスムーズに済ませることができ、会計の待ち時間短縮につながります。
クリニック側としては、受付スタッフの会計業務の負担が減り、ほかの業務を行えるので業務効率化が期待できます。また、自動精算機に支払い履歴が記録されるため、会計状況の確認もスムーズに行えます。
業務効率化によって残業が減る、受付や会計のための人件費削減を検討できるといった可能性もあり、コスト削減につながります。
患者さんとの接触機会の削減による感染対策
自動精算機は、感染症対策としても有効です。自動精算機を使用することで患者さんとスタッフが接触する機会を減らすことができ、感染リスクの低減につながります。
タッチパネルではなく、画面に触れることなく操作できる機種の開発も進んでいます。
開業当初から業務をスムーズに回すための「初期整備」の重要性
クリニック開業当初から自動精算機を初期設備として導入することは、スタッフが環境や業務に慣れていない時期に、業務をスムーズに進めることに役立ちます。
とりあえず導入せずに開業し、あとから導入を検討するケースもあるでしょう。その場合、自動精算機への動線の整備やスタッフの研修、患者さんへの対応など、さまざまな追加コストがかかります。開業前の段階で初期設備として導入することで、開業後に導入する際のコストや手間を削減できます。
導入タイミングとして「開業時」が最も適している理由
自動精算機の導入タイミングは、開業時が適しています。
上述のように、初期設備として導入することで開業後の業務を円滑に進められるというメリットもありますが、資金面でもメリットがあります。
開業時は、医療機器や内装などを揃える必要があります。開業時に自動精算機の導入を検討することで、どこにどれくらいの予算を投じることができるか、全体のバランスをみながら予算計画を立てることができます。
また、開業後すぐに自動精算機を使用できるため、スムーズな会計で患者さんの満足度向上にもつながるでしょう。
クリニックの自動精算機導入に使える補助金の種類と概要

自動精算機の導入に使える補助金の種類や概要について解説します。
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者などの労働生産性向上を目的として、業務効率化やDX推進に向けたITツールの導入を支援する補助金です。
クリニックや病院といった医療機関も対象に含まれており、クラウド型サービスの導入などにも利用できます。
2025年度のIT導入補助金では、インボイス枠(インボイス対応類型)の場合、ソフトウェア購入費やクラウド利用費(クラウド利用料最大2年分)、ハードウェア関連費、導入関連費が補助対象となります。
電子カルテ情報共有サービスの導入に係る補助金
電子カルテ情報共有サービスとは、マイナ保険証を利用することで、医療機関で記録された電子カルテ情報の一部を全国のほかの医療機関などが閲覧できる仕組みです。
このサービスを用いることで、ほかの医療機関で記録された病名やアレルギー、検査結果などの患者さんの情報を迅速かつ正確に把握できるようになり、より安全性の高い医療の提供に役立ちます。
地域連携を目的としたICT整備ともいえます。
この補助金の対象となる項目は、以下のとおりです。
- 電子カルテ共有サービスに接続することを前提として、医療機関システム(※)と電子カルテ情報共有サービス間で電子的に送受信する機能を導入する費用
- 健診部門システムが導入済みの場合、健康部門システムと電子カルテシステムの連携のための費用
(※)電子カルテシステム、レセプトコンピュータ/医事会計システム、文書作成システム、地域連携システム、検査システム、健診システムなどの総称
なお、自動精算機そのものの導入費用は原則補助外ですが、電子処方箋管理サービスの導入やその機能拡充に係る補助金もあり、補助金交付の項目の一つとして自動精算機など、再来受付機の改修に伴い発生する周辺システムの改修費が対象となるケースもあります。
補助金の対象項目は、公式ホームページで確認してください。
自治体独自の補助金・助成金制度
自治体ごとに、独自の補助金や助成金制度を設けていることもあります。
新型コロナウイルス感染症流行期には、感染対策として医療機関は新しい対応を迫られ、さまざまな自治体が財政支援を行いました。
例えば、栃木県鹿沼市では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に取り組む中小企業を支援する目的で、自動精算機などの導入に対する補助金制度を設けていました。
こうした自治体独自の補助金や助成金制度は地域によって内容が異なり、医療施設の設備や環境を整えるための支援として設けられている助成金制度もあります。補助対象となる商品やサービス、申請方法などの詳細は、各自治体のホームページで確認しましょう。
それぞれの補助金の上限金額
次は、補助金の上限金額について解説します。
IT導入補助金
IT導入補助金のインボイス枠において、ITツールの補助上限額は350万円です。会計・受発注・決済のうち1機能のみを有する場合は50万円、2機能以上有する場合は350万円までとなります。
なお、PCやタブレットは10万円まで、自動精算機などのレジや券売機は20万円までです。これらは、補助対象経費となるソフトウェアの導入と合わせて購入する場合に限り補助対象となるため、ソフトウェア導入と同時に自動精算機を購入する必要があります。
電子カルテ情報共有サービス導入に係る補助金
電子カルテ情報共有サービスの導入に係る補助金は、基本的には病院(20床以上)において、電子カルテ情報共有サービスに接続することを前提としています。電子カルテ情報・文書をFHIR(医療情報をWeb技術で相互運用するための標準規格)に基づいた形式に変換し、電子的に送受信するために必要な改修などにかかる費用について補助されます。
電子カルテ情報共有サービスのシステム開発は国が負担し、医療機関側の電子カルテシステムの改修は一部補助を行っています。
【クリニックに対する東京都の補助の例】
自動精算機の購入費用そのものに対する補助ではありませんが、東京都では診療所診療情報デジタル推進事業として、電子カルテシステムの導入費用の一部を補助しています。
- 5床以上の有床診療所:60万5,000円×病床数
- 4床以下の診療所:300万円
上記いずれかの金額と支出予定額の小さい方に対して、4分の3が補助されます。
対象経費の違いや併用の可否などを比較
IT導入補助金と電子カルテ情報共有サービスの対象経費の違いや、併用の可否は以下のとおりです。
対象者 | 対象経費となるもの | |
IT導入補助金 | 中小企業・小規模事業者 | ・在庫管理システム、決済ソフトなど事業のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステム導入 ・インボイス制度に対応した会計ソフトやPC・ハードウェアなど |
電子カルテ情報共有サービス補助金 | 医療機関 | ・電子カルテの情報を共有することが前提 ・医療機関システムに導入されている電子カルテシステムなどのシステム改修費用、システム適用作業費用 ・健診部門システム導入済の場合は、健康部門システムと電子カルテシステムの連携費用 |
なお、これらの補助金はそれぞれ独立した制度のため、同一のシステム改修や設備投資に対する併用は基本的にできません。異なる目的・異なる費用区分であれば併用可能な場合もありますが、事前に申請先や専門家に確認することをおすすめします。
補助金活用における申請の流れと注意点

ここでは、補助金を活用する際の申請の流れと注意点について説明します。
事前準備
まずは、希望する補助金制度の内容を正しく理解することが大切です。自動精算機の導入が補助対象に含まれているかを確認し、対象となる経費は要件を把握しておきましょう。
次に、IT導入補助金を申請する場合には、補助対象となるITツールの導入をサポートしてくれるIT導入支援事業者の選定が必要です。また、導入したい自動精算機が支援事業者の登録製品であるかもあわせて確認しておきましょう。
補助金申請前に「発注・契約・支払を行ってはならない」ルール
IT導入補助金を利用する際に注意すべき点は、交付決定前に発注や契約、支払いを行ってはならない点です。
事前に契約を済ませてしまうと補助対象外となるため、必ず交付決定を受けてから手続きを進める必要があります。
申請スケジュール
申請の流れは以下のとおりです。
- IT導入支援事業者およびツールの選定
- 補助金交付申請
- 審査
- 交付決定後、ITツールを発注、契約、支払い
- 補助事業完了後、証憑(しょうひょう)の提出
- 補助金額の確認と承認後、補助金受領
- 事業実施効果報告の提出
証憑は取引や契約の事実を証明するための書類のことで、実際にITツールの発注や契約、納品、支払いなどが行われたかがわかる書類を指します。
事業実施効果報告では、実際に交付された補助金を使ってどのような効果が得られたかなどを報告します。
審査を通すための事業計画書のポイント
補助金を申請する際には、事業計画を提出する必要があります。
例えば、IT導入補助金(インボイス枠)では、以下の点を満たす3年の事業計画を策定し、実行することが加点項目とされています。
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
- 事業計画期間中に、給与支給総額の年平均成長率を1.5%以上にする
このような要件に沿って、自動精算機を導入することで受付業務の効率化と人件費の削減が可能になり、患者対応数が増加することで収益向上につながるなど、具体的な見通しも併せて記載すると事業の成長性がより具体的に伝わります。
忙しい開業準備中に申請を進めるコツ
開業準備と並行して申請を進めるのは大変ですが、行政書士などの専門家に相談することで事業計画の作成や申請書類の準備を効率的に進めることができます。
ただし、補助金申請や報告に係る申請代行費は補助対象外の経費となるため、注意が必要です。
自動精算機の導入で開業準備を一歩リードする

自動精算機の導入は、開業準備をスムーズに進めることにもつながります。
補助金を賢く使えば初期投資を抑えられる
自動精算機は高額な設備投資となるケースもありますが、補助金を活用することで、初期投資費用を抑えることが可能です。
さらに、開業時から自動精算機を導入することで受付業務の一部を自動化できるため、開業前の採用活動の負担軽減や人件費削減につながります。
他院との差別化と開業初期からの運営安定化
キャッシュレス化が進んでいる昨今、現金以外の支払い方法に対応することが患者さんにとっての利便性の高さに直結します。開業初期から自動精算機を導入することで競合クリニックとの差別化につながるだけでなく、患者満足度の向上、クリニックの安定した運営にもつながります。
成功しているクリニックの導入事例
自動精算機の導入によって、業務改善ができた事例を紹介します。
老舗クリニックとして地域医療に携わってきたある19床のクリニックでは、残業代を含めた人件費率が高いことや会計の締め作業に時間がかかること、現金勘定にミスが生じることなどが課題となっていました。
そこで医療会計システムと自動精算機の導入を実施したところ、医療会計業務の自動化によって現金の計算ミスの解消、患者さんの待ち時間の短縮、毎日の会計締め業務時間の短縮、スタッフの時間外業務の削減などの効果が得られました。
まとめ

今回の記事では、クリニック開業時に、自動精算機を導入する際に活用できる補助金について解説しました。
今回ご紹介した制度については、年度や地域によって要件が変更される場合があります。制度の最新情報は、各制度の公式ホームページなどで確認してください。行政書士などの専門家に相談することも検討し、補助金制度をうまく活用して開業準備をスムーズに進めましょう。