クリニックの業務を効率化させる問診システムの機能や選び方を解説!
近年、医療業界においてデジタル化が進んでいます。なかでも代表的なのが電子カルテの普及で、2011年の一般診療所(クリニック)における電子カルテ普及率は21.2%でしたが、2023年には55.0%にまで拡大しています。
電子カルテに並んで注目されているツールが問診システムで、効果的に活用することで、患者満足度の向上やクリニックの業務効率化、診療の質の向上が期待できます。
本記事では、問診システムの基本知識からメリット、導入や運用にかかる費用まで詳しく解説します。
出典:
『電子カルテシステム等の普及状況の推移』(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf)(2025年7月15日に利用)
問診システムの基本

問診システムとは、患者さんが従来の紙での問診票ではなく、スマートフォンやタブレット端末を用いて自宅や病院内で回答できる問診ツールです。本章では、従来のアナログの問診票の問題点をはじめ、問診システムが注目されている理由や問診システムの種類について解説します。
アナログ問診票の問題点
紙の問診票は現在も多くのクリニックで使用されていますが、以下のような問題点があります。
- 記入漏れ
- 記入ミスや読み間違い
- 事務処理によるスタッフへの負担
スムーズで正確な診療を行うために、医師は患者さんが事前に記入した問診票をもとに診察を行います。問診票は、医師と患者さんをつなぐ重要なツールです。しかし、問診票の記入漏れや記入ミスやスタッフによる読み間違いがあると、医師と患者さんの間での正確な情報共有ができなくなります。
記入漏れがあれば先に進めない、確認メッセージが出るといった機能がある問診システムもあるので、スタッフが確認する手間を省くことができます。
また、電子カルテは導入しているが紙の問診票を運用しているクリニックでは、診察前にスタッフが問診票の回答を電子カルテに転記する作業が必要です。その際にも読み間違いや転記ミスなどの可能性があるほか、転記作業のための時間が必要で、クリニックの業務効率化の妨げとなります。
問診システムが注目された背景
問診システムは、2010年代から日本でも少しずつ導入され始め、特にここ数年間で注目度が高まっています。その背景には、いくつかの社会的要因があります。
- 新型コロナウイルス感染症の流行:
新型コロナウイルス感染症の流行は、医療現場のデジタル化にとって大きな転換点となりました。オンライン診療が広がって電子カルテや問診システムの必要性が高まったほか、紙の問診票は感染リスクの一因と考えられるようになり、他者との接触を避けられる問診システムが注目されました。
- 政府による医療DX推進政策:
政府による医療DX(デジタルトランスフォーメーション)推進政策も大きな影響を与えています。医療分野でのデジタル化を促進するため補助金制度が整備されたことで新規システム導入のハードルが下がり、関心を持つきっかけになったと考えられます。
こうした要因が重なり、問診システムは現在の医療現場にとって有益なツールとして注目されるようになりました。
問診システムで実現できること
問診システムで実現できることは多岐にわたります。
例えば、患者さんがあらかじめ問診を済ませておくことで来院時の受付作業が簡素化され、待ち時間の短縮につながります。
電子カルテと連携できるシステムなら、入力されたデータが自動で電子カルテと連携され、スタッフによる転記作業や記録ミスを減らすことができます。
また、患者さんごとに症状に応じた質問を出し分ける条件分岐の機能では、医師が事前に有用な情報を把握しやすくなり、より的確でスムーズな診察につながるでしょう。
さらに、多言語に対応している、画像で選ぶことができる、クリニックの診療ガイドラインなどを表示できるなど、問診票のカスタマイズが可能なシステムだと診療スタイルに合わせた柔軟な運用が可能です。
入力された情報はリアルタイムで院内のPCやタブレットに表示できるため、患者さんの情報を診察前に把握でき、スムーズな対応がしやすくなるのもメリットだといえるでしょう。
問診システムの種類
問診システムにはさまざまな種類があります。代表的な問診システムの種類を、その特徴ごとに解説します。
| 問診システムの種類 | 特徴 |
| Web問診システム | 患者さんが自身のスマートフォンやPCを使い、来院前に問診に回答するタイプです。一般的なシステムで、アンケート形式やチャット形式のものもあります。 |
| AI搭載型問診システム | 患者さんの回答内容に応じて、その都度関連する質問をAIが選択し、一人ひとりに合った内容の問診を行えるシステムです。病気の見逃しリスクを減らせるほか、患者さんを専門の医療機関へつなぐために役立つこともあります。 |
| 電子カルテ連携システム | 問診で得られた情報を電子カルテへ自動的に転記・反映する機能を持ちます。スタッフの入力業務を削減し、転記ミスを防ぐことができます。 |
問診システムによっては、これらのうち複数の機能を持ち合わせていることもあります。ご自身のクリニックに合った問診システムを選択することで、業務効率化や患者満足度向上につなげることができます。
クリニックが問診システムを導入する5つのメリット

問診システムは単なる業務効率化ツールではなく、医療現場の質を高め、患者さんの満足度向上にもつながる重要な仕組みです。本章では、問診システムの導入によりもたらされるメリットを5つ紹介します。
業務効率化とミスの削減
従来のように紙の問診票を受け取り、内容を確認し、電子カルテに転記するという一連の流れは、時間と手間がかかるうえに記入ミスや入力漏れの原因にもなりやすい作業です。
しかし、問診システムを活用すれば患者さんが入力した内容がそのまま医師やスタッフに共有されるため、転記作業が不要でヒューマンエラーのリスクを減らせます。
業務の自動化が進み、医師とスタッフの確認業務を効率化することで本来の業務に集中できる環境が整います。
待ち時間の短縮
クリニックの待ち時間に関する問題は深刻です。厚生労働省の令和5年受療行動調査によると、医療機関への不満で多いのは待ち時間で、対象となった外来患者さんのうち25.2%が「診察までの待ち時間に不満がある」と回答しています。
患者さんがスマートフォンやパソコンから事前に入力できるWeb問診システムなら、事前に入力を済ませてもらうと患者さんは受付での時間を短縮でき、クリニックは入力された情報を院内で共有することで問診のための時間を短縮することができます。
問診システムの導入で待ち時間が完全に解消されるわけではありませんが、待ち時間の減少によって患者さんの来院体験の改善が期待できます。
出典:
『令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況』(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/23/dl/gaisu-kekka2023.pdf)(2025年7月15日に利用)
記入漏れや読み間違い、書き間違いの防止
手書きの問診票では、記入漏れや書き間違い、スタッフの読み間違い、必要な情報の抜け落ちなどが起こりえます。
問診システムの必須項目設定やプルダウン選択、チェックボックス形式を使うことで、記入漏れや曖昧な回答を防ぐことができます。
また、デジタル入力によって文字の読み間違いやスタッフによる書き間違いもなくなり、正確な情報を取得しやすくなります。
伝達ミスがなくなることで診療の正確性が高まるほか、手作業のために費やしていたリソースを医療の質の向上に充てることができます。
ほかのシステムとの連携でスムーズな情報共有
問診システムには、電子カルテや予約システム、会計システムなどと連携できるものがあります。
これらの連携機能を活用することで、回答内容からカルテの下書きを自動生成したり、患者さんの予約時に自動で問診へ誘導したりと、さまざまな業務効率化が実現できます。スタッフ間や患者さんとの情報共有がスムーズになることで、クリニック全体のサービス向上につながります。
利便性向上や満足度向上によるリピーター獲得
このように、問診システムを導入することで院内での待ち時間が短くなり、再診の際もスムーズに診察を受けられるようになります。こうした効率化は患者さんのストレスを減らし、通いやすいクリニックづくりに直結します。
特に自由診療のクリニックでは、利便性や受診時の快適さが患者さんの満足度を高め、リピーターの獲得につながります。
問診システムの導入は、クリニックにとっての業務効率化だけでなく、患者さんの満足度向上に直結する要素だといえます。
クリニック向け問診システムを選ぶポイント

では、問診システムはどのように選べばよいのでしょうか。本章では問診システムの選定ポイントを解説します。
自由記入、選択式など回答方法を確認する
診療科目によって診察前に必要な情報の種類や詳細度が異なり、自由記述式と選択式のどちらがより適しているかも変わります。
例えば、経過が長かったり症状が複雑だったりする場合、選択式では患者さんが症状を正確に伝えられないことも考えられます。 問診システムによっては両方の形式を兼ね備えているものや、回答内容による条件分岐で次の質問をカスタマイズできるものもあるため、回答方法のチェックは必須です。
導入費用とランニングコストはどのくらいか
システムにどのような機能が搭載されているか、既存のシステムとの連携ができるかなどにより、導入費用やランニングコストは大きく異なります。詳しくは次の章で解説します。
自院に合った機能が搭載されているか
問診システムにはさまざまな機能があるため、自院に必要な機能が搭載されているものを選ぶことが大切です。
お薬手帳や紹介状のスキャン、過去の問診結果データの分析などの便利な機能も存在しますが、診療の特徴や患者さんの傾向、スタッフの作業フローはクリニックによって異なるため、必要な機能にも違いがあります。自院の利用目的や具体的な利用シーンに合わせて、必要な機能が揃ったシステムを選択しましょう。
患者さん目線での操作性と入力サポートのしやすさ
デジタルデバイスを日常的に使用する方にとっては使いやすい問診システムが、ご高齢の方や身体障がいを有する方にとっては操作が難しい場合もあるため、クリニックを訪れる患者さんの層に合わせたシステムの選択が大切です。
具体的には、操作が直感的か、インターフェースが見やすいか、ボタンがタップしやすいか、アンケート形式とチャット形式のどちらか、などの判断ポイントがあります。
スタッフが使いやすく管理しやすいか
スタッフの協力なしにシステムの導入は成り立ちません。患者さんだけでなく、院内でシステムを使用するスタッフにとっても扱いやすく、負担が軽いシステムを選択する必要があります。
電子カルテと連携できるかどうか
問診システムの導入を検討する際の重要なポイントの一つが、電子カルテとの連携可否です。
電子カルテは、オンプレミス型(院内サーバー動作)かクラウド型(事業者サーバー動作)かに限らず、個別に連携の可否が異なります。例えば、Bluetoothなどで問診データをカルテに送信できても、逆にカルテデータの問診システムへの共有はできないなど、機能に制限がある場合もあるので、導入前に現在使用している電子カルテとの対応状況を確認し、連携の方法や対応フォーマット、セキュリティ面の安全性も十分に検討しましょう。
問診システム導入のステップと費用の目安

実際に問診システムを導入する前に、導入・利用開始までの期間や導入前後にかかる費用を把握しておきましょう。
一般的な選定から導入までの流れ
選定から導入までの一般的な流れは以下のとおりです。
1. 導入システムの比較・検討:
前章で紹介した検討ポイントをもとに、自院に合った問診システムを絞り込みます。メーカーによっては無料のトライアル期間を設けている場合もあるため、実際の操作感を確認するためにもトライアルを活用して複数のシステムを比較検討するとよいでしょう。
2. 契約:
導入するシステムが決定したら、メーカーと詳細な打ち合わせを行い、契約手続きを進めます。
3. システム構築・カスタマイズ:
これまで使用していた紙の問診票の内容をもとに、クリニックに合わせて問診システムを構築します。
4. 稼働開始:
クリニック内の準備システム導入後、スタッフ全員で診療の流れ、システムの操作方法、運用ルールを共有します。
これらの準備が整ったら、実際に患者さんに問診システムの利用を開始してもらいます。
クリニック向け問診システムの費用目安
問診システムの導入費用は、機能や規模によって大きく変わりますが、一般的な目安は以下の通りです。
| 費用項目 | 費用目安 | 特徴など |
| 初期導入費用 | 10〜50万円 | 問診システムに搭載されている機能、既存のシステムとの連携作業やカスタマイズの有無などによって異なる |
| ランニングコスト | 1〜5万円 | 月々のシステム使用料、アップデート対応、保守運用など |
| 追加費用 | 内容による | 既存のツールとの連携作業、クリニック独自のカスタマイズなど |
IT導入補助金と医療DX支援策とは
IT導入補助金や医療DX支援策は、小規模事業主と中小企業の業務効率化や売上の向上のために、政府がDXを進める補助として行っている支援です。以下の基準を満たしている場合に最大で半額の補助金を受けられます。
- IT導入補助金事務局に認可されたIT導入支援事業者の提供するツールの導入
- 医療法人ではないクリニックの場合、資本金または出資額が3億円以下かつ常時使用する従業員数が300人以下
- 医療法人の場合、常時使用する従業員の数が300人以下
また、政府は医療DX令和ビジョン2030を掲げ、医療現場のペーパーレス化の達成目標として電子カルテの普及率100%を目指しています。電子カルテの普及に伴って問診システムやオンライン予約システムの需要も高まり、導入ハードルが下がると考えられます。政府や各自治体は目標達成のため補助金などの整備を進めているため、支援制度を活用してクリニックのDXを進めることを検討しましょう。
まとめ
従来の紙ベースのカルテ・問診票から電子カルテ・デジタル問診へと移行する流れは、今後も続くと予想されます。適切に技術を活用することで、患者さんの満足度を上げると同時に、クリニックの業務効率化や診療の質の向上が期待できます。
クリニックに合った問診システムを選ぶために、複数のシステムを調べて比較検討し、納得できるものを選びましょう。




