患者数を増やすには?患者さんが集まりにくいクリニックの特徴や実践すべき施策を解説
クリニックにおいて、良好な経営のためには安定した患者数の確保は欠かせません。しかし、立地条件や競合の存在、患者さんのニーズとのミスマッチなど、さまざまな要因により、来院数が伸び悩むことは少なくありません。
本記事では、患者数を増やすことがなぜ難しいのか、患者さんが集まりにくいクリニックの特徴や取り組むべき施策について解説します。
クリニック経営で患者数を増やすことの重要性

患者数を増やすことは、単にクリニックの収益のために重要なのではありません。患者さんが増えることには、地域での信頼獲得や認知度向上といった、長期的に安定した経営につながるさまざまなメリットがあります。
- 信頼性の向上:多くの患者さんが訪れることが、地域の方に選ばれている証拠として地域での評価や安心感につながります。
- 認知向上と情報共有による広がり:患者さんが増えることが、患者さん同士の紹介による新規来院につながります。
- 広告費の削減:紹介など自然な集患効果が高まることで、新規集患のための広告費を抑えることができます。
- スタッフのモチベーション向上:増収によって給与や福利厚生を充実させることができ、スタッフが安心して働ける環境を整えられます。
このように、患者数の増加は、経営面だけでなく働くスタッフや地域社会にとってもプラスに作用します。ただし、患者数を着実に増やすには時間と工夫が必要で、すべてのクリニックに共通する基本的な対策だけでなく、それぞれのクリニックが抱える課題や状況、地域特性に応じた柔軟な施策を検討することが求められます。
患者数を増やすのが難しい理由

患者数の増減には、立地や競合、診療時間、休診日、広告などさまざまな要素が関係しています。集患の具体的な施策を考えるために、患者数を増やすのが難しい理由を把握することが重要です。
クリニック数の増加による競争の激化
現在、日本においてクリニック数は年々増加しています。
令和7年5月現在、全国のクリニック(一般診療所)の数は105,359院に達しており、約25年間で10,000院増加しました。特に都市部におけるクリニック数の増加率が高く、競争は激化しています。
クリニックの密集度が高い地域では、患者さんを複数のクリニックで取り合う構図になりがちです。診療内容や立地、利便性、クリニックの印象など、わずかな違いが患者さんの選択を左右するため、よい医療の提供を目指すだけでは思うように患者数が増加しないこともあるでしょう。
さらに、患者さんのニーズは多様化しており、診療時間の柔軟性や待ち時間の短縮、オンライン対応の有無なども重要な選択基準になっています。
競争が激化するなかで患者数を増やすためには、競合との差別化や独自の強みを打ち出す工夫が不可欠だといえます。
参照:『医療施設動態調査 【令和7年5月診療分】』(厚生労働省)
情報発信の難しさ
クリニックの患者数を増やすためには認知度の向上は欠かせませんが、クリニックの情報発信にはさまざまな課題があります。
1つ目の課題は、集患のための施策が多岐に渡っており、施策を実施するためにはある程度の知識と専門性が必要である点です。
情報発信の手段には以下のようなものがあります。
- ホームページ
- 各SNS(X,Instagram,Youtube,Threadsなど)
- ポータルサイト
- チラシ、看板、地域イベントなど
以前はチラシや看板などでクリニックの周辺に住んでいる方々への認知が主流でしたが、インターネットが発展した昨今では、オンラインでの情報発信の重要性が高まっています。
ただし、インターネットでの情報発信は、Webサイトを公開するだけでは患者さんの目に止まりません。患者さんが抱えている悩みや症状に対して、クリニックの情報を届けるためにも専門的な知識や対策が必要です。
具体的には、以下のような対策が必要です。
| SEO対策 | 検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)の略称です。 Googleなどの検索エンジンによって有益な情報であると判断されると、ユーザーの検索時に検索結果の上位にサイトが表示されやすくなります。キーワードの選定や、実際に検索され表示された回数や、情報の質が評価されるというイメージです。 |
| MEO対策 | Map Engine Optimization(マップエンジン最適化)の略称です。 GoogleMapなどの地図検索で、クリニックの情報が上位表示されるための施策です。詳細な情報が登録されていることや、患者さんからの評価やそれに対する真摯な対応などが評価されます。 |
| LLMO対策 | Large Language Model Optimization(大規模言語モデル最適化)の略称です。 近年は、AIで情報収集する方が増えており、医療業界も例外ではありません。生成AIは主にWeb上にある情報をもとに回答を生成します。この際にクリニックの情報が参照されるための施策がLLMO対策です。 SEO対策に通ずる部分もありますが、論理的で理解しやすい文章構成、構造化データの作成、文章の明瞭化などの対策が評価されると考えられています。 |
これらの対策には専門知識や技術が求められ、すぐに身に付くものではありません。
また、インターネットでの情報発信だけでなく、従来のように看板や交通広告などによる認知度獲得の施策も併せて実施を検討する必要があります。
2つ目の課題は、広告の規制です。医療機関の集客広告にはさまざまな規制があり、保険診療のみならず、自由診療のクリニックにおいても、広告で使用できる文言は限定されています。
このように、クリニックの集客施策は以前よりも高度化しているうえに、制約が大きいことが情報発信の難しさにつながっています。
患者さんが集まりにくいクリニックの特徴5選

次に、患者さんが集まりにくいクリニックの特徴を解説します。
予約が取りづらい、待ち時間が長い
予約の取りにくさや待ち時間の長さは、患者さんにとってクリニック選びの障壁になります。特に忙しいビジネスパーソンや子育て中の方にとっては、足が遠のく理由になってしまいます。
- 電話でしか予約が取れない
- 診療時間や曜日が合わない
- 来院可能なときに予約が取れない
- 待ち時間が長い
特にWeb予約システムなど待ち時間短縮に力を入れているクリニックが近隣にある場合、こうした患者さんにとっての利便性の低さは、敬遠されがちであると考えられます。
ホームページの情報量が少ない
受診する前にインターネットでクリニックの情報を調べる患者さんは多く、その際に次のようなポイントが重視されています。
- 診療内容
- 医師の写真や経歴
- 設備情報
- アクセス方法
これらの項目についてわかりにくい、、情報量が少ない、そもそもクリニックのホームページがないといった状態は患者さんの不安感につながります。
口コミやレビューでの悪い評価が目立つ
レストランやホテルを選ぶ際に、口コミやレビューを参考にしたことがあるのではないでしょうか。
クリニックを患者さんが選ぶことができる現代では、インターネット上での口コミやレビューは、クリニックを選ぶ際の意思決定に大きな影響を与えると考えられます。
医師やスタッフの対応、待ち時間、施設の清潔さなどに関する悪い評価が目立つと、患者さんが不安を感じて受診を見送ってしまう可能性があります。
施設が老朽化している
地域差や診療科による差はありますが、施設の老朽化も患者さんに不安感を与える要因です。
特に美容医療業界では、特定の医療機器による施術を求めてクリニックを探す患者さんもいます。また、医療機器のみならず、待合室や診察室の内装もクリニックの印象に関わります。
医師やスタッフの対応が悪い
医療は対人のサービスであり、医師や看護師、受付スタッフの接遇は患者さんのクリニックへの印象に直結します。
説明が不十分、態度が冷たい、プライバシーへの配慮不足などは患者さんからの信頼度が低下する要因です。
患者数を増やすために実践すべき施策

では、患者数を増やすためにはどのような取り組みが有効なのでしょうか。地域や診療科によって個別の対策は必要ですが、ここでは患者数増加のための基本的な施策について解説します。
ターゲット層に合わせたマーケティングの強化
患者数を増やすためには、クリニックがどの層を中心に診療を行うかを明確にし、そのターゲット層に届く情報発信を強化することが重要です。
子育て世代がターゲットならSNS発信に力を入れる、内科で中高年層がターゲットならSNSだけでなく地域広報誌への広告掲載など、ターゲット層の生活習慣や情報収集手段に合わせた工夫が求められます。
地域との接点を意識した広報活動を行う
地域住民との信頼関係を築くことは、患者数の安定につながります。
- 健康講座やセミナーの開催
- 地域イベントへの参加
- 学校での健康診断協力
- 地域の医療機関との連携強化
これらのイベントや地域活動に積極的に参加することで、地域の方へのクリニックの認知度と親近感が高まります。地域の方による近隣住民の方への紹介は、新規患者さんを呼び込む大きな要素です。
単なる宣伝ではなく、地域の健康を支える存在として発信することが大切です。
予約と受付の利便性を向上させる
患者さんが通いやすいクリニックにするためには、予約や受付の利便性向上が欠かせません。
Web予約やLINE予約、当日順番待ちシステムなどの導入により、待ち時間の短縮や競合との差別化につながります。
また、事前問診システム、自動受付機や自動精算機の導入などを組み合わせることで、来院から会計までスムーズな流れを実現できます。
業務効率化により医師、スタッフの負担を軽減する
電子カルテの活用、自動精算機の導入、問診票のデジタル化など、IT技術を活用した業務効率化により、医師とスタッフの負担を軽減できます。
業務負担が軽減されることで患者さんとのコミュニケーション時間を確保でき、質の高い医療を提供できる体制を整えることが可能です。
人事評価制度を構築し、サービスや接遇を見直す
スタッフのモチベーション維持は、クリニックが提供するサービス品質を上げることにつながります。
明確な人事評価制度を導入し、成果や努力を正当に評価することでスタッフの意欲を高められます。能動的に業務に取り組める環境を整備し、クリニック全体で同じ方向を向いて患者さんへのサービス向上に努めることが重要です。
また、定期的な接遇研修の実施や患者さんからのフィードバックの活用も、日々の業務の品質向上に役立ちます。
リピーターを増やす仕組みを整える
新規患者さんの獲得だけでなく、既存患者さんのリピート率向上も重要な施策です。診療後のフォローアップや、健康情報を提供するメール配信、LINEでの定期的なリマインドなどは、再来院を促す効果を期待できます。
さらに、院内の清潔感や快適さを整えることも患者さんに「また来たい」と思ってもらうための基本です。患者さんに安心感と信頼感を与える仕組みを整えましょう。
まとめ

クリニックに患者さんが集まりにくい背景には、情報発信の不足、利便性の低さ、サービス面での不満など、いくつかの共通する課題があります。
患者数を増やすためには、こうした課題解決のためにシステムやツールの導入を検討しながら、マーケティングや広報活動を通じて地域に存在を知ってもらうことが大切です。
業務効率化によってスタッフの余裕を確保し、患者さんの利便性を高めることで、患者さんにとってもスタッフにとっても安心感のある環境づくりを進めるのがポイントです。
長期的な信頼関係構築を意識しながら小さな改善を積み重ね、地域に根ざした信頼されるクリニックを目指すことが患者数を増やすことにつながるでしょう。




