心療内科の内装デザインで大切にしたいことは?安心感を与える空間づくりを解説
心療内科のクリニックでは、内装デザインが患者さんの心身に与える影響が大きく、細やかな配慮が求められます。
本記事では、心療内科の内装が患者さんに与える心理的影響や、安心して過ごせる空間づくりの工夫などを解説します。
心療内科における内装の役割

心療内科の内装は、患者さんの心理状態や治療の効果にさまざまな影響を与えます。
例えば、騒々しさが患者さんのストレスを上昇させる、強めの色味が不安を抱える患者さんの恐怖感や不安感を増幅させる、といったことが考えられます。
また、プライバシーが守られていない環境は、患者さんの満足度を低下させる一因になるでしょう。
一方で、ストレスの軽減に配慮されたプライバシーが守られる環境は、治療に前向きになる手助けとなる可能性もあります。
参照:『A Review of the Research Literature on Evidence-Based Healthcare Design』(HERD Vol. 1, No. 3 SPRING 2008 ● HEALTH ENVIRONMENTS RESEARCH & DESIGN JOURNAL )
患者さんが安心できる理想的な内装とは、心が安らぎ、不安や抑うつが和らぐような環境です。具体的には、下記の要素を考慮することで患者さんのストレスを軽減できる可能性があります。
- できる限り開放的な空間にする
- 自然光を取り入れる
- 観葉植物や風景画などを設置する
精神疾患を抱える患者さんは、狭くて閉鎖的な空間よりも開放的な空間の方がストレスを感じにくい傾向があります。
また、自然光の導入や観葉植物や風景画、風景写真などの掲示には、精神科の患者さんの不安を和らげ感情を落ち着かせる効果があるとされています。
参照:『Stress-Reducing Effects of Real and ArtificialNature in a Hospital Waiting Room』(THE JOURNAL OF ALTERNATIVE AND COMPLEMENTARY MEDICINEVolume 18, Number 4, 2012, pp. 329-333)
内装の具体的な要素ごとに、以下のポイントに配慮するとよいでしょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 壁の色 |
|
| 照明 |
|
| 音と音響 |
|
| 床材の材質 |
|
特に自然光は患者さんによい影響を与えるとされており、積極的に取り入れたい要素のひとつです。
騒音にも配慮し、クリニック内部は防音壁にする、遮音カーテンを設置するなどして、できる限り静かな環境を保てるような工夫が必要です。
患者さんのプライバシーを守りながら診療の質を高める空間設計

受付や待合スペースのデザインは下記の要素を考慮しましょう。
- プライバシーの尊重
- ストレス軽減
- 安全性の確保
受付カウンターは、カルテなどの個人情報が患者さんに見えないように配慮しましょう。受付カウンターは、木目調や木製などナチュラルな素材が患者さんの安心感につながります。金属は患者さんの不安感を増幅させる可能性があるので、できるだけ避けましょう。
心療内科を訪れる患者さんのなかには、不安が強い方、ストレスを抱えている方もいらっしゃいます。
そういった患者さんのストレスを軽減できるような工夫も必要です。例えば、植物や植物のアート作品が設置されている待合室では、患者さんのストレスのレベルが低くなるとする研究もあります。
また、待合室には患者さんの身体に危険を及ぼすようなインテリアを設置しないようにしましょう。具体的には、ガラス製品や固定されていない大型の観葉植物、彫刻などです。さらに、受付カウンターからの死角が生じないように家具、什器を配置しましょう。
参照:『Stress-Reducing Effects of Real and ArtificialNature in a Hospital Waiting Room』(THE JOURNAL OF ALTERNATIVE AND COMPLEMENTARY MEDICINEVolume 18, Number 4, 2012, pp. 329-333)
心療内科では患者さん同士が顔を合わせずに済むような動線の設計や、椅子の配置を検討するのがおすすめです。
例えば、待合室の椅子は受付カウンターに背を向ける形で配置し、外の風景や風景画、観葉植物などが目に入るようにすることで、患者さん同士の視線が交わりにくくなります。
また、診察室の出入り口2つ設けて、一方は入り口専用、もう一方は退出専用にすることで患者さんが顔を合わせにくくなります。
スタッフにとって動きやすい動線設計は、クリニック全体の業務効率とサービス品質に直結します。院内でのスタッフの移動距離が長いと、生産性が低下してしまいます。受付スタッフや医師、看護師が患者さんと丁寧に向き合う時間を確保するためにも、効率よく移動できるような動線にしましょう。
待合室のレイアウトでは、以下のポイントに配慮すると患者さんに安心感を与えやすくなります。
- 入口から待合室が見えないように間仕切りや観葉植物を配置する
- 外部から患者さんの顔が見えないように、窓には表面加工された型ガラスや目隠しフィルムを使用する
- 患者さん同士の視線が交わりにくさや顔を合わせにくい動線を意識する
また、診察室のレイアウトでは以下のポイントを押さえておくと患者さんのストレスを軽減と診療の質向上を期待できます。
- 話し声が聞こえないよう、診察室との間に廊下や前室を設ける
- 型ガラスや目隠しフィルムで外からの視線を遮断する
- できる限り広い空間を確保する
- 医師と患者さんとの間隔を1.2~1.5m程度あける
特に重要な点は、防音性に配慮したレイアウトです。待合室や外の廊下に診察時の声が届かないように、防音扉や吸音効果のあるカーペット、床材などを取り入れましょう。診察室と廊下の間に前室があると、より防音性が高まります。
心療内科の内装設計でよくある失敗と注意点

患者さんに緊張や不安、恐怖を与えてしまう可能性がある内装は避けるべきです。
具体的には、赤や黒などの緊張や恐怖を感じさせる色彩の壁や家具は心療内科には好ましくありません。また、コントラストの強い配色も患者さんに不安感を抱かせてしまいます。
明るすぎる照明や暗すぎる照明も患者さんにとっては緊張の原因の一つです。閉塞感の強い狭い待合室や診療室の雰囲気も避けた方がよいでしょう。
建築基準法ではクリニックの内装工事に関して配慮すべき事項を規定しています。
建築基準法において、有床の医療機関は特殊建築物に分類され、厳格な耐火基準などの規制が適用されます。無床の心療内科クリニックは一般建築物ですので、以下の規制が適用されます。
- 居室には採光のための開口部が必要
- 居室には換気可能な開口部、もしくは換気設備が必要
このほかにも、構造耐力や電気設備などに関する規定がありますので、内装業者や建築士の助言をもとに規制に即した内装を検討しましょう。
また、各自治体で診療所の構造設備に関する手引きを公開しています。例えば、東京都には下記のような基準があります。
- 診療所とほかの施設が機能的かつ物理的に明確に区画されていること
- 診察室は医師1人につき、一室が望ましい
- 各室用途が明示されていること
- 診察室の面積は9.9平方m以上とする
これらの基準を満たさない場合には保健所からの指導を受ける可能性があります。各市区町村の基準も確認しておきましょう。
参照:『診療所・歯科診療所の構造設備基準について』(東京都保健医療局)
参照:『建築基準法』(e-Gov 法令検索)
編集部まとめ

心療内科の内装デザインは、患者さんが安心して通える空間であること、スタッフにとっても安全で働きやすい環境を両立させる必要があります。
暖色系の色彩や自然光や自然のアクセントなどを上手に取り入れることで、患者さんの緊張をやわらげ、ストレスを軽減できる空間を実現できます。
信頼できる内装の専門家と連携し、患者さんにとって居心地がよく、スタッフにとっても機能的で働きやすいクリニックを目指しましょう。




