PACS導入で変わる診療の未来|PACSメーカー10選を紹介
医療の現場で日々行われる画像診断を効率化し、正確な診療を支えるのがPACS(医用画像管理システム)です。メーカーによって機能や既存システムとの連携性、サポート体制が大きく異なるため、自院に適したPACSを選び出すのは容易ではありません。本記事ではPACSの基本的な役割や導入のメリットを整理し、選定時に重視すべき基準と代表的なPACSメーカー10社の特徴を紹介します。
PACSとは?導入の基本を理解する

PACS(Picture Archiving and Communication System)は、医療機関で撮影された画像データを保存・管理し、院内外で効率的に活用するためのシステムです。近年は電子カルテや各種モダリティとの連携が進み、医療DXの推進に欠かせない基盤として導入が広がっています。本章では、PACSの役割や必要性、医院での具体的な利用シーンと導入効果を解説します。
PACSの役割と医療現場における必要性
PACSの役割は、CTやMRI、X線などで取得した医用画像をデジタルデータで一元管理し、迅速に参照できる環境の提供です。医師や放射線科だけでなく、診療科をまたいだチーム医療の場でも画像の共有が可能となり、診断や治療方針の決定をスムーズにします。また、フィルムを使用した従来の運用に比べて保管スペースを削減でき、データ検索の効率化や誤紛失防止にも寄与します。さらに、読影レポートや検査履歴と紐付けることで、患者さんの情報を包括的に管理できる点も強みです。
医院での利用シーンと期待される効果
クリニックや中小病院でも、PACSの導入は診療効率を大きく変えます。例えば、検査後すぐに医師が画像を参照できるため、患者さんへの説明や診断が迅速化され、待ち時間の短縮につながります。また、過去の画像データを容易に比較できるため、経過観察や再診時の判断が的確になります。クラウド型のPACSを採用すれば、院外からの遠隔読影や地域医療連携にも活用でき、診療の質を高めることが可能です。結果として、患者さんの満足度向上と業務効率化の両立につながります。
PACSメーカーを選ぶ際の基準

PACSの導入を検討する際、どのメーカーを選ぶかは、診療効率や患者さんへのサービスに直結します。各社の製品には特徴があり、価格や知名度だけで選ぶとトラブルにつながることもあります。本章では、メーカーを選ぶ際の基準を解説します。
画像処理性能や操作性の違い
PACSは、CTやMRI、X線などで撮影された大量の画像データを扱うため、処理速度と表示の快適さが診療効率に直結します。読影時に画像の拡大やコントラスト調整がスムーズに行えるか、複数画像を同時に表示して比較できるかなどは、診断の正確性にも影響します。また、医師だけでなくスタッフも日常的に使用するため、直感的に操作できる画面設計や、エラー時の対応しやすさなど操作性の評価も欠かせません。
既存システムとの互換性と拡張性
医療機関では、電子カルテやRIS(放射線情報システム)、各種モダリティとの連携が必須です。互換性が低いPACSを導入すると、データの取り込みや参照に手間がかかり、結局はスタッフの負担が増えることになります。医療DXの進展に伴い、クラウド型のPACSや遠隔読影との連携など、今後必要になる機能も想定しておく必要があります。拡張性に優れたメーカーの製品であれば、将来の診療体制や施設規模の変化にも柔軟に対応でき、長期的な投資効果を高めることが可能です。
導入コストと保守サポート体制
PACSは、高額な医療IT機器のひとつであり、初期費用や月額利用料、サーバー、ストレージの容量に応じた追加コストなど、費用構造を正確に把握する必要があります。価格だけで判断せず、導入後のランニングコストやアップデートの有無を含めての判断が大切です。さらに、障害発生時に迅速な対応が可能か、リモートサポートや定期的な保守点検が提供されているかなどのサポート体制も欠かせない判断基準です。中小規模のクリニックでは、院内に専門のIT担当者を置けない場合もあるため、メーカー側の支援体制を確認しておきましょう。
PACSメーカー選びで注意すべき点

PACSを導入する際、メーカー比較で陥りやすいのが、目先の条件だけで判断してしまうことです。価格や知名度だけで選んでしまうと、導入後に想定外のトラブルが発生するケースも少なくありません。PACSメーカー選定時に見落としがちな注意点を整理し、失敗を避けるための視点を解説します。
価格だけで判断するリスク
PACSは高額な医療ITシステムであり、費用は大きな関心事です。しかし、初期費用が安いからといって安易に決めてしまうと、必要な機能が不足していたり、データ容量や端末追加のたびに高額なオプション費用がかかる場合があります。結果的に長期的な運用コストがかさみ、かえって負担になるため、価格以外の条件も含めた総合的な判断が重要です。
サポート体制の不十分さによる運用トラブル
導入後の安定稼働を左右するのはメーカーのサポート体制です。障害発生時に迅速な対応が得られなければ、診療の遅延や患者さん対応の混乱につながります。クリニック規模によっては、専任のIT担当者を配置できないケースもあるため、電話やリモートで即時対応できる仕組みや、定期メンテナンスの有無は確認しておくべきポイントです。
将来のシステム更新・拡張性を見落とす危険性
医療DXの進展により、クラウド型のPACSや遠隔読影、他院とのデータ共有など、新しい機能が求められる時代になっています。導入時は現在の診療体制だけでなく、数年後の更新や拡張への対応力も見据える必要があります。拡張性に乏しい製品を選んでしまうと、再導入の手間や追加コストが大きくなり、結果的に非効率な投資となる可能性があります。
PACSメーカー
数多くのPACSメーカーが存在するなかで、自院に適した製品を選ぶためには、各社の特徴や導入実績を比較することが欠かせません。本章では、代表的なPACSメーカー10社を取り上げ、それぞれの製品の強みや対応可能な施設規模、サポート体制などを紹介します。自院の診療体制や将来の運用方針に合った選定の参考にしてみてください。
CARNACORE|富士フイルム
富士フイルムは、長年培ってきた画像診断技術を強みとし、画像診断ワークステーションCARNACOREを提供しています。この製品は、フィルム時代から続く画像処理技術をモニタ診断に応用しており、目的に合った画像を素早く表示できます。これにより、診断の効率化や精度の向上を支援します。サポート体制は、全国のサービス拠点による故障対応に加え、リモートでの操作支援も提供されており、24時間365日いつでも相談できる体制が整っています。シンプルで使いやすく、電子カルテとの連携も可能なため、初めてPACSを導入するクリニックに適しています。
NEOVISTA I-PACS SX|コニカミノルタジャパン株式会社
コニカミノルタジャパン株式会社は、画像診断機器のノウハウに基づく独自の画像処理技術を強みとしています。同社が提供するNEOVISTA I-PACS SXは、医療機関同士のスムーズな情報連携を目的としたクラウド型のPACSです。院内外での画像運用が可能で、レポート機能も備えているため、業務の効率化を支援します。全国のサービス拠点がコールセンターなどと連携し、24時間365日体制でサポートを実施します。初期費用やランニングコストを抑えつつ、ほかの施設との連携を重視するクリニックや、遠隔での画像確認を必要とする医療施設に適しています。
RapideyeCore Grande|キヤノンメディカルシステムズ株式会社
キヤノンメディカルシステムズ株式会社は、画像診断装置のメーカーとして長年培ってきた技術を強みとしています。医用画像情報システムRapideyeCore Grandeは、大容量のデータを高速に処理できる技術を搭載しており、読影時間の短縮に役立ちます。また、エリアフリーでどこからでも画像にアクセスできるため、夜間や休日などにも迅速な読影が可能です。患者IDが異なる複数の医療機関でも同一患者として管理できます。これらの特徴から、連携を重視する大学病院や、大規模なデータ処理を必要とする施設に適しています。
NOBORI|PSP株式会社
PSPは、医療情報の管理と共有に強みを持つ企業です。NOBORIは、院内サーバーを必要としないクラウド型のPACSであり、初期費用を抑えたいクリニックに適したサービスです。データは東日本と西日本の二つのデータセンターで多重管理されており、暗号化も施されているため、災害時にも大切な情報を守り、高い信頼性を誇ります。独自機能のSmart-Retrieveにより、過去の画像もスムーズに参照でき、迅速な読影を支援します。システムの稼働状況を常時監視しており、障害を検知すると自動でサポートセンターに通知される仕組みが整っています。
Climis クラウドPACSサービス|株式会社ジェイマックシステム
株式会社ジェイマックシステムは、直感的な操作とコストパフォーマンスに優れたシステム開発に強みを持っています。Climis クラウドPACSサービスは、新規開業クリニック向けに開発されたクラウド型のPACSです。初期費用を抑え、月額定額制でデータ容量が無制限に利用できるため、経済的負担を減らしたい医療機関に適しています。また、面倒なインストールや更新作業が不要なWebベースのビューアを採用しており、電子カルテや他施設とのスムーズな連携も可能です。ノートパソコンやタブレット端末があれば、院外からも画像閲覧ができるため、利便性が高いことも特徴の一つです。
Vue Cloud Service|フィリップス・ジャパン
フィリップス・ジャパンは、画像診断装置からITソリューションまで幅広く手がける企業で、オランダに本拠を置く多国籍企業ロイヤル フィリップスの日本法人です。Vue Cloud Serviceは、世界で初めて運用が開始された医用画像クラウドサービスです。画像のバックアップから、関連施設との画像共有、遠隔読影の連携まで、要望に応じて必要な機能を、必要な範囲で利用できます。高速な3次元位置合わせ処理による自動レジストレーション機能を備えており、読影の効率化に貢献します。他施設との連携を積極的に行いたい医療機関や、地域医療連携を推進している施設に適しています。
Centricity PACS|GEヘルスケア・ジャパン
GEヘルスケア・ジャパンは、アメリカに本社を置くゼネラル・エレクトリック(GE)のヘルスケア事業部門です。画像診断機器メーカーとしての強みを活かし、多様なモダリティの画像を高速に表示できるCentricity PACSを提供しています。このシステムは、大規模なフィルムレス運用を支える快適なプラットフォームを提供し、CTやMRIの画像を3秒以内に表示できます。また、過去画像との比較も簡単に行え、読影の効率化を支援します。サポート体制は24時間365日体制の保守、監視体制を整えており、病院の規模に関わらず、チーム医療や地域連携を重視する医療機関に適しています。
LOOKREC|株式会社エムネス
株式会社エムネスは、放射線診断を専門とする医師とIT専門家が協力して開発したクラウド型のPACSを提供しています。LOOKRECは、院内にサーバーを設置する必要がないため、初期費用や更新費用を抑えたいクリニックに適しています。セキュリティ面では、ISO27017などの国際規格に準拠したGoogle Cloudを利用しており、高い信頼性を確保しています。また、3Dビューワ機能や遠隔読影依頼など、多彩なオプションサービスも充実しており、効率的な診療を支援します。サポート体制も充実しており、導入前から運用後まで専任チームによるフルサポートが受けられます。
Claio|株式会社ファインデックス
ファインデックスは、医療システムの専門知識を持つエンジニア集団で、医療機関のデータ管理に特化しています。Claioは、DICOM規格外の画像や数値データも一元管理できることが特徴です。検査データの自動取り込みや電子カルテへの連携を効率化し、紙カルテ運用が残る診療科のDX化を支援します。導入メリットは、インフォームドコンセントの向上や、院内全体のデータ共有の円滑化です。特に、画像検査が多い大規模病院や、非DICOMデータ管理が煩雑になりがちな眼科や耳鼻科に適しています。サポートは直販と販売代理店を通して提供されます。
WATARU|株式会社スリーゼット
株式会社スリーゼットは、医療機関ごとの課題に合わせた柔軟なカスタマイズ提案に強みを持つ企業です。PACSサービスのWATARUは、サーバーを設置する必要がないクラウド型で、初期費用を抑えながら運用できるため、経済的な負担を減らしたいクリニックに適しています。また、東西2拠点のデータセンターでデータを二重保管し、暗号化もされているため、災害時にも不安なく利用できます。画像表示が高速で、マンモグラフィにも対応しており、複数の診療科があるクリニックや、コストとセキュリティの両方を重視する単科のクリニックに適しています。
PACSメーカーを導入するメリット

PACSの導入は、単に画像を保存、閲覧する仕組みを整えるだけでなく、診療の質や業務効率、経営面にも大きなメリットをもたらします。本章では、診療効率の向上や患者満足度の改善、データ管理の強化、さらには長期的なコスト削減につながる効果を紹介します。
診療効率の向上と患者満足度の向上
PACSを導入すると、検査直後に画像を閲覧できるため、診療のスピードが向上します。医師が必要な画像をすぐに表示し、その場で患者さんへ説明できるため、診療の迅速化と患者さんの信頼感の向上につながります。また、複数の診療科で同じ画像を参照できるため、チーム医療の推進にも役立ちます。
データの一元管理による安全性と利便性
画像データや読影レポートを一元的に管理できることは、医療の安全性の観点からも役立ちます。従来のフィルム保管で発生しがちだった紛失や取り間違いを防ぎ、セキュリティ強化にも寄与します。さらにクラウド型を選択すれば、院内外でのデータ共有や遠隔診断も可能となり、地域医療や連携先との協力体制を強化できます。
長期的なコスト削減と経営改善への効果
フィルムや保管スペースの削減、業務の効率化による残業時間の短縮は、直接的なコスト削減につながります。さらに、患者さんの回転率向上や再診率の改善が見込める点も経営的な利点です。初期投資は必要ですが、適切なメーカーを選定すれば、長期的には費用対効果が高く、安定した経営基盤を築くことができます。
まとめ
PACSは、画像診断の効率化やデータの一元管理を実現し、診療の質と患者満足度を高める重要なシステムです。導入コストやサポート体制を含め、自院の規模や将来の運用方針に合ったメーカーを選ぶことが、長期的な経営改善にもつながります。気になる製品があれば、早めに比較検討を進めて導入を具体的に検討することをおすすめします。














