クリニックは医師以外でも開業できる?法的な可否や役割、リスクを解説
クリニックの開業は医師でなければできないのではと思われがちですが、実際には医師以外の方が関与できる場面も少なくありません。ただし、関わり方を誤ると法令違反やトラブルにつながる可能性もあります。本記事では、医師以外がクリニック開業に関与できる範囲や法的な位置づけ、注意点について解説します。
目次
クリニック開業における開設者の法的な位置づけ

クリニックを開業するうえで重要なのが、誰が開設者になるのかという点です。医療法上の考え方を理解しておく必要があります。
医療法上の開設者とは
医療法では、病院や診療所を設置し、その運営に責任を負う者を開設者と定義しています。
そして、原則として個人が開設する場合、診療所の開設者は医師または歯科医師だとされています。
この背景には、医療は国民の健康の保持や増進に寄与することを目的として提供されるサービスであるという点が挙げられます。医療機関は一般の事業所とは異なり、診療内容や医療の質が直接的に人の生命や身体に影響を及ぼすため、開設者には高度な専門性と責任が求められています。
個人以外では医療法人が診療所を開設することができます。医療法人は、病院や、医師または歯科医師が常に勤務する診療所、介護保健施設、または介護医療院の開設を目的として設立される法人です。
開設主体は、原則として営利を目的としてはならないことになっています。また、医療機関が運営するなかで生じる剰余金を役職員や第三者に配分してはならないことも定められています。
これは、医療が利益追求ではなく公共性を重視すべき分野であることを明確にするための規定です。
参照:『・医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について(◆平成05年02月03日指第9号総第5号)』(厚生労働省)
『医療法 | e-Gov 法令検索 第一章』(厚生労働省)
『医療法人・医業経営のホームページ』(厚生労働省)
『医療法人の業務範囲』(厚生労働省)
医師免許がなければ開設できない理由
個人の場合、医師や歯科医師のみが診療所を開設することができます。
診療所では、患者さんに対して良質かつ適切な医療を行うように努めることが求められます。また、その責任の所在を明確にする必要もあります。
仮に無資格の者が医療行為を行った場合、誤った判断や不適切な処置によって、患者さんの脅威となり、生命が脅かされるという事態も生じえます。こうした事態が起こってしまうと、患者さん個人の問題にとどまらず、医療全体への信頼低下にもつながりかねません。そのため、医師または歯科医師が病院や診療所を開設する際には、法律に照らし合わせて有資格者であるという確認を徹底するように求められています。
一般企業であれば、事業の内容に応じて資格を持たない経営者が存在することも珍しくありませんが、医療機関の場合は事情が異なります。医療の安全性を確保する観点から、開設者に医師免許が求められている点は、一般的な事業との大きな違いといえるでしょう。
参照:『医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について』(厚生労働省)
『・医師及び歯科医師の資格確認の徹底について(通知)〔医師法〕(◆平成24年09月24日医政医発第924001号医政歯発第924002号)』(厚生労働省)
医師以外がクリニック開業に関与する主な形

医師以外であっても、一定の形でクリニック経営や運営に関与することは可能です。
ここでは、代表的な関与の方法を解説します。
事務長やマネージャーとして運営を支える
医師が開設者となる場合に、医師以外が開業準備やその後の経営などに関わる形として、診療所の事務長やマネージャーとして運用を支える方法があります。これは、医師免許を持たない者は、個人としては医療機関を直接開設できないという法的制約を踏まえたうえで、現実的に選ばれている関与の形といえます。
近年は、診療以外にも人事管理、労務対応、経理、集患対策など、クリニック運営に求められる業務が増加しています。医師がこれらすべてを担うことは大きな負担となりやすく、事務長やマネージャーが実務を引き受けることで、医師は診療に集中しやすくなります。
また、医療法人や一般社団法人の役員となる形もあります。医療法人のなかでも特に重要な意思決定機関は社員総会です。この社員総会の過半数を医師以外が確保することで、実質的なクリニック運営を担うという関与方法をとることが可能です。ただし、医療行為に対する最終的な責任は医師にある点を踏まえた関与が求められます。
MS法人を活用した間接的な経営関与
医師以外が関与する方法として、メディカル・サポート(MS)法人を活用するケースもあります。
医療法人の業務は限定されています。一方で、MS法人とは医療法人の経営効率化を支えるために密接な関係をもってさまざまな業務を行うものです。例えば、医薬品や医療機器など医療機関で使用される物品の共同購入や、不動産の管理、シーツなどのクリーニング、病院内の売店の管理など多岐にわたります。こうした業務を外部化することで、医師や医療法人側の負担を軽減できる点が特徴です。
医師以外の者がMS法人を設立し、医療機関と適切な契約関係を結ぶことで、診療には関与せず、間接的に経営を支えることが可能となります。医師の業務負担が増えやすい現代の医療現場において、こうした形での関与は実務上のニーズが高まっています。
医師以外がクリニック経営に関与できることとできないこと

医師以外の方が関与できる範囲を正確に把握しておくことは、トラブル防止の観点からも重要です。医療機関では、業務内容によって医師のみが行えるものと、医師以外でも対応できるものが明確に分かれています。この線引きを理解したうえで関与することが、安定した運営につながります。
医師以外が行えない業務
医師法の第一七条では、医師でなければ、医業をなしてはならないと定められています。
ここでいう医業とは、医師による医学的判断や技術をもとにして行われなければ、患者さんに危害を及ぼしかねない行為、つまり医行為を、反復継続する意思をもって行うことを指します。
医業に含まれる行為としては診療や治療、薬剤の投与などが挙げられます。これらは患者さんの生命や身体に直接影響を与える行為なので、医師免許を持たない者が行った場合には医師法違反となる可能性があります。
また、医療現場では業務内容が多岐にわたるため、医療行為とそれ以外の業務の境界がわかりにくい場面もあります。そのため、判断に迷う場合には、医療行為に該当するかどうかを慎重に見極める姿勢が求められます。
参照:『医師法 | e-Gov 法令検索 第十七条』(厚生労働省)
医師以外が関与できる業務
一方で、経理や労務管理、広報、物品の管理、スタッフ教育などは医行為には該当しません。これらは医療機関の運営を支える重要な業務であり、医師以外が担当することが可能です。実際、多くのクリニックでは、こうした実務を医師以外が担うことで、効率的な運営が行われていると考えられます。
特に、日々の会計処理や人事・労務管理、業者対応などは専門知識が求められる分野であり、医師がすべてを兼任すると負担が大きくなりがちです。医師以外が運営面を担うことで、医師は診療や医学的判断に集中しやすくなります。
ただし、医師以外が関与できる業務であっても、診療内容や医療方針に踏み込まないよう注意が必要です。業務範囲を明確にしたうえで役割分担を行うことが重要といえるでしょう。
医師以外が経営や運営に関与するメリット

医師以外が関与することで、クリニックの運営が円滑になるケースもあります。特に、経営に関しては医師が不慣れなケースも少なくありません。専門的な経営手法の導入によって業務の効率化を図ることができ、医師が診療などの医行為に集中できるようになります。ここでは、医師以外が診療所の経営や運営に携わるメリットをまとめます。
医師が診療に集中できる体制を構築できる
財務管理や経営戦略、マーケティング、スタッフ採用などを医師以外が担うことで、医師である院長は診察や治療、あるいは自己研鑽に専念することができます。診療と経営を無理に一人で抱え込まず役割を分けることで、診療の質低下や過重労働を防ぎ、持続的なクリニック運営につながります。
このように役割分担を明確にすることで、診療と経営の両立による負担を軽減し、医師が本来の専門性を十分に発揮できる環境を整えることが可能になります。
開業準備や立ち上げ期の実務負担を抑えられる
開業時には、開業場所や物件の選定、事業計画の立案、医療機器の選定、スタッフ採用などさまざまなステップを踏む必要があります。また、保健所や厚生局などへの届出や手続きも煩雑です。医師以外がこれらの準備を担うことで、医師は診療方針の検討やスタッフ教育など、本来注力すべき業務に時間を割くことができ、開業初期の負担軽減につながります。
特に開業直後は想定外の対応が発生しやすいため、医師以外が実務を担う体制を整えておくことは、安定したスタートを切るうえで有効といえます。
採用や労務、人事管理を専門的に運用できる
スタッフの採用や労務管理は専門知識が求められる分野です。医師以外が人事や労務を担当することで、採用ミスマッチや労務トラブルの予防が期待できます。役割分担を明確にすることで、組織としての安定性が高まり、働きやすい職場づくりにもつながります。
専門性をもった担当者が関与することで、長期的な人材定着や職場環境の改善にもつながり、結果としてクリニック全体の運営安定化が期待できます。
経営状況を可視化しやすくなる
経営に精通した人材が関与することで、収支状況やコスト構造を把握しやすくなります。数値をもとにした経営判断が可能となり、感覚的な運営から脱却できます。経営状況を定期的に可視化することは、将来的な設備投資や人員配置の判断にも役立ちます。
経営状況を客観的に把握できる体制を整えることは、短期的な対応だけでなく、中長期的な経営戦略を検討するうえでも重要です。
医師が不得意な分野の判断を補完できる
医師は医学の専門家である一方、経営や契約交渉、マーケティングを不得意とするケースもあります。医師以外がこれらの判断を補完することで、リスクを抑えた意思決定が可能になります。専門性を活かした役割分担は、クリニック全体の安定運営に寄与します。
医師と医師以外がそれぞれの専門性を活かして意思決定を行うことで、過度な負担や判断の偏りを防ぎ、より安定した運営につながります。
医師以外がクリニック開業に関与する際に注意したいリスク

医師以外の関与にはメリットがある一方で、関わり方を誤るとトラブルに発展する可能性もあります。事前に想定されるリスクを把握しておくことが重要です。
主導権や意思決定のバランスが崩れるリスク
経営への関与が強くなりすぎると、診療方針と経営判断の間で意見の食い違いが生じることがあります。最終的な医療判断は医師が行うという原則を共有し、意思決定の範囲や権限を事前に明確にしておくことが重要です。特に開業初期は判断事項が少なくないため、主導権の所在を曖昧にしたまま進めると、後から認識のずれが顕在化しやすくなります。
法令違反やコンプライアンス上のリスク
医師以外が診療内容や医療行為に過度に関与すると、医師法や医療法に抵触するおそれがあります。経営と医療行為の線引きを曖昧にしないことが不可欠です。役割分担を明文化し、法令遵守を前提とした運営体制を構築する必要があります。意図せず法令違反に該当するケースもあるため、関与の範囲については定期的に見直し、慎重に運用することが重要です。
金銭面や人間関係のトラブルが起こる可能性
報酬や権限、責任範囲を曖昧にしたまま関与を始めると、後から金銭面や人間関係のトラブルが生じることがあります。契約内容や役割を事前に整理し、書面で取り決めておくことが、長期的なトラブル防止につながります。
金銭や権限に関する問題は感情的な対立に発展しやすいため、関係性が良好なうちにルールを明確にしておくことが求められます。
まとめ

今回は、医師以外がクリニック開業にどのような形で関与できるのかについて、法的な位置づけや役割、注意点を整理しました。診療所の開設者は原則として医師または歯科医師に限られていますが、事務長やマネージャー、MS法人などの形で、医師以外が経営や運営を支えることは可能です。
一方で、医療行為に関わる業務には明確な制限があり、役割分担を誤ると法令違反やトラブルにつながるおそれがあります。医師以外が関与する場合には、業務範囲や責任の所在を明確にし、書面で整理しておくことが重要です。
医師と医師以外がそれぞれの専門性を活かし、適切な距離感で連携することが、安定したクリニック運営の実現につながるといえるでしょう。




