開業医になるには?勤務医から独立開業までの流れと必要な準備を解説
勤務医としてキャリアを積むなかで、クリニック開業を検討する医師もいます。しかし、開業医になるためには診療経験だけでなく、資金計画や物件選定、各種届出など多くの準備が必要です。十分な計画がないまま開業すると、経営面で思わぬ課題に直面する可能性もあります。本記事では、勤務医から開業医になるまでの流れや必要な資金、求められるスキル、開業前に知っておきたい注意点を解説します。
開業を検討したいタイミングとは

現在、医師は医学部卒業後、初期臨床研修を経て専門科に進むというルートをたどります。多くの医師の場合、最初は医療機関で勤務医として働くことが一般的です。その後、キャリアを重ねるなかで開業を検討する医師もいます。
日本医師会が2009年に行った調査では、新規開業をした医師の年齢は平均41.3歳でした。
なお、以下のようなものが開業につながる動機でした。
- 自分が理想とする医療を追求したい
- 自身が経営側に回ることで経営者の立場からのやりがいを感じたい
- 勤務医としての過重労働や精神的なストレスに疲弊した
- 家族の事情
- 労働条件・収入に魅力を感じた
なお、開業してからの年数にかかわらず、理想とする医療を追求したいという動機が最多でした。
このデータはやや古いもののため、現状と一致していない可能性はあります。しかし、多くの医師が自分が求める医療を実現したい、あるいは勤務医としての労働に疲れた・限界を感じるという理由から開業を検討するという傾向に大きな変化はないのではと考えられます。このタイミングが、医師としての一定期間のキャリアを積んだ40歳前後になっている可能性が示唆されます。
令和6(2024)年の厚生労働省による調査では、クリニックの開設者もしくは法人の代表者として働く医師は70,046人であることがわかっています。
参照:『開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査』(日本医師会総合政策研究機構)
『開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査』(日本医師会)
『令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』(厚生労働省)
『令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(全体版)』(厚生労働省) p4)
勤務医から開業医になるまでの流れ

勤務医から開業医になる際には、以下のようなステップを踏んでいくことが多いと考えられます。クリニック開業には、診療方針の検討や資金計画、物件選定など多くの準備が必要となるため、段階的に計画を進めていくことが重要です。ここでは、一般的なクリニック開業までの流れを解説します。
勤務先に開業の意向を伝える
勤務医が開業する場合、勤め先である病院を退職しなければならないケースが大半です。そのため、あらかじめ勤務先に開業する意向を伝えることは欠かせません。
就業規則に退職について規定されている場合もあるため、開業の意思が定まったら早めに伝えましょう。退職後も、開業したクリニックから紹介する先の病院として付き合いが続く可能性もあります。退職に関するトラブルを避けるためにも、なるべく開業の意向は早く伝えるとよいでしょう。
開業コンセプトと診療方針を決定する
開業のコンセプトと診療方針を明確にすることで、経営理念の確立や開業する場所の選定、診療の内容、必要な医療機器などが具体化します。また、開業のコンセプトをしっかりと作ることで、金融機関などの理解を得て融資を受けやすくなる効果も期待できます。
また、コンセプトの作成により、開業のプロセスのなかで直面する課題に対しても一貫した対応をしやすくなります。どの部分にお金をかけるべきかなどの判断にも役立つでしょう。
開業後にも、コンセプトがブレないようにすることで安定したクリニック経営につながります。
例えば以下のような3つの項目に分けてまとめると、理想とするクリニックのコンセプトが明確になります。
- 誰に
- 何を
- どのように
この3つの観点をクリニック開業の場合にあてはめ、次のような視点で整理するとコンセプトを具体化しやすくなります。
| 誰に | どのような患者さんを対象とするか。年齢層、男女などの患者さんの層の想定をする。 |
| 何を | どのような診療を行うか。外来診療のみにするのか、訪問診療やオンライン診療も行うのかを決める。 |
| どのように | どのように経営をしていくのか。看護師や検査技師、受付事務などのスタッフの数も具体的に想定する。 |
クリニックが患者さんにどのような価値を提供できるのかを明確にするコンセプトを作成することで、開業後もスムーズに経営を進めていくことができるでしょう。
資金計画と事業計画を作成する
作成したコンセプトをもとにして、資金計画と事業計画を作成します。
クリニックを開設するための資金の融資を受ける際にも、資金計画と事業計画を提出することが求められます。
ここでは、内装費や医療機器費などの初期費用だけでなく、開業後しばらくの人件費や家賃、医療材料費などの運転資金も含めて見積もることが重要です。想定受診者数や診療単価を踏まえた収支計画を立てておくことで、開業後の見通しを具体的に把握しやすくなります。
開業場所と物件を選ぶ
一度開業すると簡単に移転することはできないため、開業する場所と物件は慎重に選ぶ必要があります。
コンセプトに基づき、想定する受診者数や診療内容に適した広さの物件を選びましょう。
資金の面で土地と物件の両者を購入することが難しい場合、医療モールなどにクリニックを構えるという方法もあります。最寄りの駅から近い場所であれば、大きな駐車場は不要かもしれません。一方、公共交通機関からのアクセスがあまりよくない場所であれば、駐車場を広く設けることは不可欠でしょう。
このように、立地条件や患者さんの層、診療内容などを総合的に考慮しながら物件を選ぶことが重要です。開業後の集客やクリニック運営にも大きく影響するため、周辺の医療機関の状況や地域の人口構成なども踏まえて検討するとよいでしょう。
各種届出を行う
医院を開業するときに必要な届出は多岐にわたります。
なお、ここでいう医院とは、入院を想定していない、または入院ベッドがあり(有床)、19床以下の診療所を指しています。
医院が開業する前には、診療所開設届の提出が求められます。また、有床クリニックであれば診療所開設届の前に診療所使用許可申請書を提出し、検査および許可証の交付を受ける必要があります。
そのほか、診療科目や診療の内容により、さまざまな届出が必要です。都道府県によっては届出窓口や手続きが多少異なる場合もあるため、届出をする窓口に確認をすることが大切です。
主な諸官庁への各種届出は下記のとおりです。
| 提出書類名 | 提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|
| 診療所使用許可申請書(有床の場合) | 開設前 | 保健所 |
| 診療所開設届 | 開設後10日以内 | 保健所 |
| 診療用X線装置設置届 | 開設後10日以内 | 保健所 |
| 保険医登録申請書 | 開設前 | 社会保険事務所 |
| 保険医療機関指定申請書 | 開設前 | 社会保険事務所 |
| 麻薬管理者・使用者免許申請書 | 提出は随時(診療所開設届の提出後) | 保健所 |
| 労災保険指定医療機関指定申請書 | 提出は随時(診療所開設届の提出後) | 労働基準監督署 |
| 生活保護法指定医療機関指定申請書 | 提出は随時(診療所開設届の提出後) | 福祉事務所 |
これらは、一般的な保険診療を行う医院を開業することを想定した届出です。
自由診療のみを行うクリニックの場合には、生活保護法指定医療機関指定申請書は不要な場合もあります。
また、人工中絶手術も行う予定の産婦人科クリニックなどでは、母体保護法指定医師申請書を随時、地区の医師会に提出する必要があります。
さらに、結核の可能性がある患者さんを診察する可能性がある呼吸器内科クリニックなどの場合、結核指定医療機関指定申請書を随時、保健所に提出することが求められます。
そのほか、税金関係の書類の提出や社会保険に関する手続きも必要です。開業時には複数の行政手続きが発生するため、必要書類や提出期限を事前に確認しておくとよいでしょう。
開業医になるために必要な資金と準備

開業医になるためには、資金の用意を含む準備が不可欠です。クリニックの開業時には、医療機器や内装工事などの初期費用に加え、開業後の運営を見据えた資金計画も必要です。開業に向けた準備を円滑に進めるためにも、必要となる資金の目安や準備内容を事前に把握しておくことが重要です。
クリニック開業に必要な資金の目安
クリニック開業に必要な資金は、診療科によって大きく異なりますが、数千万〜1億円前後と考えられます。
内視鏡設備やCT・MRI装置など、診療科の特性上必要な医療機器が高額であれば、開業に必要な費用も高額になると考えられます。
また、内装工事費や医療機器費、電子カルテなどのシステム導入費、人件費など複数の費用が発生するため、開業前に資金の内訳をあらかじめ把握しておくことが重要です。
開業資金の調達方法
開業資金を調達する主な方法は下記のとおりです。
- 自己資金
- 親族からの支援金
- 銀行から開業用の融資を受ける
- 日本政策金融公庫からの新規開業資金
- 医師会・自治体連携の制度融資
- 独立行政法人 福祉医療機構(WAM)の活用
多くの場合、開業資金をすべて自分の貯金などでまかなうことは難しいでしょう。しかし、可能であれば開業時には、開業後数ヶ月分の固定費を確保しておくと資金ショートのリスクを低減できます。
開業前に整備すべき設備とシステム
医院開業前には、医療機器や電子カルテ・レセコンなどのシステム、待合室や事務用品、感染対策消耗品などを準備します。また、近年は予約システムやキャッシュレス決済、自動精算機などを導入するクリニックも増えています。診療の効率化だけでなく、患者さんの利便性向上にもつながるため、自院の診療方針に合った設備を選ぶことが大切です。導入後にスタッフが円滑に運用できるよう、事前の説明や動作確認も欠かせません。
開業医に求められるスキル

開業医には、外来での診察や治療行為といった医師としての臨床能力だけでなく、院長としてクリニックを運営する経営的な視点も求められます。スタッフマネジメント能力のほか、集患・マーケティングについてもある程度理解しておく必要があります。
一定の臨床経験とスキル
ある程度の期間、勤務医としての臨床経験とスキルを身につけてから開業するパターンが多いと考えられます。開業医は自分を看板医師として売り出していくため、勤務医の場合よりもより診療スキルがクリニックの評価にもつながりやすいといえます。
一方で、開業した後の悩み事の一つに、自身の医療水準の維持を保つのが大変というものがあります。原因として、規模が小さい病院では症例数が限られる、ほかの医師が少ないなどの理由が考えられます。開業後も、学会や勉強会に参加するなどの方法で、より自己研鑽を積んでいく姿勢が重要です。
スタッフマネジメント能力
開業後は院長として、スタッフのマネジメントも求められます。看護職員などの採用に際しても積極的に動く必要があります。クリニックでは、受付、看護職員、医療事務などが限られた人数で連携しながら業務を進めることが多いため、院長が診療方針や接遇の考え方を共有することが重要です。採用だけでなく、働きやすい環境を整えてスタッフの定着につなげる視点も欠かせません。
集患・マーケティングへの理解
診療所の収入のほとんどは、来院患者さんへの医療行為に集中しています。そのため、経営の観点からは、患者さんの確保が安定した経営の鍵といえるでしょう。全体としては固定費の割合が大きいため、いかに集客するのかが重要です。
とはいえ、すべての医師がマーケティングに長けているわけではありません。そのため経営コンサルタントや企業支援担当者など、外部の力を借りることも選択肢の一つといえます。
開業医になる前に知っておきたい注意点

開業医になってから「こんなはずではなかった」と後悔しないよう、知っておきたい注意点があります。開業医は医師であると同時に経営者としての役割も担うため、勤務医とは異なる視点で準備を進めていくことが大切です。
収入がすぐに安定するとは限らない
新規のクリニック開業の場合、特に開業当初は集客がうまくいくとは限りません。開業直後は地域での認知度が十分ではないため、収益が安定するまでには時間がかかることもあらかじめ想定しておくべきといえます。また、診療科によっては季節による患者さんの数の変動が大きい場合もあります。
また、物価や賃金の上昇、診療報酬の改定などで経営が悪化する懸念もあります。そのため、開業時には数ヶ月分の運転資金を確保するなど、一定期間収入が安定しない状況にも対応できる資金計画を立てておくことが重要です。
勤務医よりも責任範囲が広がる
開業後には、勤務医よりも責任範囲が広がることは避けられません。例えば、レセプトの作成やチェックが負担になることもあります。
それに加えて、スタッフの労務管理や採用、患者さんからの問い合わせ対応、設備トラブルへの対応など、診療以外の業務にも向き合う必要があります。医師としての判断だけでなく、院長としてクリニック全体を運営する視点が求められる点は、勤務医との大きな違いといえるでしょう。
まとめ

開業医になるためには、診療経験だけでなく資金計画や事業計画、立地選定など多くの準備が必要です。また、開業後は医師としてだけでなく経営者としての役割も担うことになります。開業を検討する際には、医療理念や地域ニーズを踏まえながら、計画的に準備を進めることが重要です。




