クリニック開業にかかる費用は経費にできる?開業費に含まれる項目と節税するための3つのポイントを解説!
クリニックの開業準備にかかる費用は経費として計上できますが、経費として認められない項目もあるため事前に把握しておく必要があります。
経費として計上できることを知らなかったばかりに「本当だったら節税できるのに損をした」と後悔するのはできるだけ避けたいものです。
この記事では、
- 開業費とは
- 開業費で節税するための3つのポイント
- 開業費として認められる項目例
- 開業費として認められない項目例
これらについて解説します。クリニックの開業を検討している方は、開業費を活用した節税対策の参考にしてみてください。
開業費とは
開業費とは、開業の準備にかかった費用のことで、開業日までの準備資金が対象になります。
開業費は、開業後の決算時に償却して経費にすることで節税効果を得ることができるため、発生した費用の内容は、必ず記録を残しておくようにしましょう。
開業費は繰延資産として償却する
開業費は「繰延資産」として資産の科目でいったん処理し、その後一定の期間にわたって償却することができます。この方法により、毎年少しずつ経費として計上することで、節税効果のメリットを得られます。
開業後、数年は売上があがらず赤字の場合、しばらくは開業費の償却は行わず、黒字化してから少しずつ償却して経費として計上していくことができます。逆に、開業当初から想定以上の売上があがった場合は、課税所得をできるだけ減らすために初年度に全額償却してしまうこともできます。
開業費として計上できる費用
開業費として計上できるのは、開業に関する打ち合わせのために発生した飲食費や、開業について学ぶために参加したセミナーや勉強会の参加費、スタッフの採用費、開業準備に必要な備品の購入費、贈答品やお礼状の費用とそれらの配送料や郵送費、開業案内や内覧会にかかる費用などです。開業前であれば、お歳暮やお中元の費用も開業費として認められます。
開業費はいつまでさかのぼって計上できるのか
開業費として計上できるのは、クリニックの開業日からさかのぼって、半年〜1年以内に発生した費用とするのが一般的です。
厳密には、開業のために発生した費用であれば、何年前のものでも開業費とすることはできます。ですが、あまりにも昔の費用を開業費として計上していると、税務署から不審がられる可能性も出てきてしまいます。
通常、クリニックの開業準備は半年〜1年くらいかかるので、その間に発生した費用を開業費の対象とするといいでしょう。
開業費と創業費の違い
開業費と創業費は似た言葉ですが、意味が異なります。創業費とは、法人を設立するまでに発生した費用のことをいいます。一般的なクリニックの開業の場合、最初から医療法人を設立することは少なく、個人経営として開業することが多いでしょう。そのため、開業準備に発生した費用は、創業費ではなく「開業費」を科目として計上しましょう。
開業費で節税するための3つのポイント
開業費で節税するためには、下記の3つのポイントがあります。
- 開業前に発生した費用を「開業費」として償却する
- 発生した費用のレシートや領収書は保管しておく
- 簡単でも良いので発生した費用を記録してまとめておく
開業前に発生した費用を開業費として償却する
開業費の償却は、開業の初年度だけでなく、数年にわたって償却することができます。
これは「開業前の準備費用は、将来にわたって事業をするため、つまりは、開業の初年度だけのものではなく、それ以降にも影響する経費である」という考え方からです。
開業前に発生した費用を開業後に償却することで、課税所得を抑えることができる節税方法です。
具体的な仕訳の例は下記のようになります。
例:開業前、先輩開業医との打ち合わせで発生した費用
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
開業費 | 5,000円 | 元入金 | 5,000円 | 会議費 |
例:開業後の決算で開業費を経費として計上(償却)した
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
繰延資産償却 | 5,000円 | 開業費 | 5,000円 |
このように処理をすることで、5,000円分の課税所得を減らすことができます。
金額が大きくなれば、その分の節税効果も高まるでしょう。
発生した費用のレシートや領収書は保管しておく
開業準備のために使用した費用のレシートや領収書は保管しておくようにしましょう。
開業前から、帳簿をつけていない場合、開業後の決算時にまとめて処理をする必要があります。そのため、「いつ」「どこで」「なにに使ったのか」の証拠を残すために、レシートや領収書はすべて保管しておきましょう。
しかし、発生した費用の中には、レシートや領収書がもらえないものもあります。例えば、
- 電車やバスなどの少額の旅費交通費
- 取引先との打ち合わせで支払った割り勘の食事代
- 関係先のお祝いや不幸で発生した、ご祝儀や香典の出費
これらの費用は、下記の項目を記録し残すことで、開業費として計上できるようになります。理想は出金伝票を作成することですが、いったんはメモのような記録を残すだけでも問題ありません。
- 支払いをした日付
- 支払いをした相手の名称
- 支払った金額
- 支払った目的
簡単でも良いので発生した費用を記録してまとめておく
費用の詳細を記録してまとめておくことで、開業費として計上している根拠を明確にできます。
費用の内容が一覧でわかるように、エクセルやスプレッドシートでまとめることが理想です。マネーフォワードやフリーなどの会計管理アプリを活用することもおすすめです。
レシートや領収書の保管だけでも面倒なのに、一覧にまとめるのはさらに手間がかかります。しかし、開業後の税理士との打合せをスムーズに進められたり、開業費として使用している正当性を高めたりできるので、発生した費用はその都度まとめておくようにしましょう。
開業費として認められる項目例
ここでは、個人経営のクリニックが開業費として認められる項目例を紹介します。
- 開業関連のセミナーや勉強会に関係する費用
- 打ち合わせや情報収集の一環としてかかった食事費用
- 開業前のクリニック視察にかかった費用
- 近隣のクリニックへの挨拶や手土産にかかった費用
- クリニックのスタッフ採用に関する費用
- 開業にともなう消耗品の購入費用
- 開業告知や内覧会の開催費用
開業関連のセミナーや勉強会に関係する費用
クリニックの開業や経営に関するセミナーや勉強会への参加は、事業成功のためには必要不可欠でしょう。事業計画の策定や経営のノウハウ習得に役立つため、これらの参加費用は、開業費として認められることが多い項目です。
具体的には、
- クリニックの開業や経営に関するセミナーの参加費
- 経営を学ぶための書籍購入費
- セミナー会場までの旅費交通費
- 開業医同士の交流会や食事会費用
- セミナー参加にともなう宿泊費用
これらの費用が、開業費として認められます。
打ち合わせや情報収集の一環としてかかった食事費用
開業準備において、情報収集や人脈をつくることを目的とした食事会などの費用は、必要経費として開業費に認められることが多い項目です。食事に行くまでの交通費も同様です。
ただし、食事費用や交際費は「本当にクリニック開業のために必要だったのか」と、疑われやすい勘定科目でもありますので注意が必要です。
そのため、レシートや領収書には、どこの会社の誰と一緒だったのかを記載しておくと役に立つでしょう。税務署から詳細を確認されたときに、すぐに回答できることで、税務署からの信用度も高くなります。
開業前のクリニック視察にかかった費用
知り合いのクリニックの内装や手術施設の視察、スタッフ研修の見学などで発生した旅費交通費や打ち合わせにかかった費用は、開業費として認められます。
ガソリン代も旅費交通費として認められますので、発生した場合はレシートか領収書を残しておきましょう。
近隣のクリニックへの挨拶や手土産にかかった費用
開業する地域の近隣クリニックへの挨拶、紹介先の病院、医師会への挨拶で発生した旅費交通費や手土産代は開業費として認められる項目です。
医師会や地域のコミュニティと良好な関係性を構築しておくことで、開業後の患者さんの紹介や学校医の担当割り当てなどがスムーズに進められるかもしれません。
クリニックのスタッフ採用に関する費用
スタッフの採用費用も開業費に含めることができます。具体的には、
- 求人サイトへの広告掲載費
- クリニックが未完成なら面接に使用する会場費
- 面接に来る候補者の補助交通費
- スタッフの研修費
これらの費用を開業費に含めることができます。
開業にともなう消耗品の購入費用
開業にともない必要となる消耗品や、日常業務で使用する物品の購入費用も、開業費の一部として計上可能です。これには、クリニックで使用する医療材料も含まれます。具体的には、
- 受付用の文房具
- 待合室の雑誌など
- スタッフ用の制服やシューズ
- スタッフ用のロッカー
- 診察や処置で使用する医療材料
などがあります。ただし、10万円以上の備品は開業費として認められないので注意が必要です。
開業告知や内覧会の開催費用
周辺地域への広告掲出、内覧会の開催にともなう費用は開業費に含めることができます。
具体的には、
- 開業案内や内覧会のチラシ・はがきの作成費用
- ホームページ制作にかかる外注費用
- 内覧会のスタッフの飲み物や弁当代
- 内覧会で来場者に配布する記念品作成費用
これらの費用は開業費として認められます。
開業費として認められない項目例
その一方で、開業費として認められない項目もあります。
- 土地や建物、テナント賃借料など資産取得で発生する費用
- 10万円以上の備品などの購入費用
- 領収書が残っておらず利用を証明できないもの
土地や建物、テナント賃借料など資産取得で発生する費用
土地や建物の購入・建設費は、資産取得となるので開業費として認められていません。
また、テナントの賃借料、敷金や礼金も一見すると開業費として扱えそうですが、認められていません。水道光熱費も同様です。
10万円以上の備品などの購入費用
医療機器やパソコンなど、10万円以上する備品の購入費は開業費として認められていません。これらの購入費は、資産として扱われることが理由です。
例えば、電子カルテや自動受付精算機、医療機器などは数百万円以上するものもあるでしょう。これらの備品は固定資産として計上し、減価償却をしなければなりません。
備品それぞれに法定耐用年数が設定されており、その年数に応じて減価償却費を計上することになります。
レシートや領収書が残っておらず利用を証明できないもの
レシートや領収書が残っていないものは、いつ発生したものか、なにに使用したものかが確認できないので開業費として認められません。
ただし一部例外があり、少額の旅費交通費や、領収書を入手できない費用においては、いつどこでなにに使ったのか記録が残っていれば、開業費として認められます。
クリニックの開業資金はいくら必要?
クリニックの開業には、自己資金を含めて2,000〜8,000万円は必要になります。もちろん、施設の規模や形態によって、資金額は大きく変わります。開業する診療科によって、必要な検査機器や医療機器も異なります。特に高額な医療機器を要する診療科では、1億円に近い開業資金が必要となる場合もあるでしょう。
もし、開業する場所が都心部であるのなら、物件費用やスタッフの人件費が増えますので、さらに高額な開業資金が必要になります。
<テナントで開業する内科クリニックの場合>
■ 開業費として認められる開業資金
- 内装工事や備品などの購入費用: 1,000万〜4,000万円
- 診察に必要な医療機器、消耗品費: 200万〜1,000万円
- 看護師や事務職員を雇用に関わる費用: 100万〜300万円
- 広告宣伝やWebマーケティング費用: 100万〜500万円
- 税金や医師会の会費などの諸費用: 100万〜300万円
■ 開業費として認められない開業資金
- テナント賃料、敷金礼金など物件費用: 200万〜1,000万円
- 電気、水道、ガスといった光熱費: 10万〜30万円
編集部まとめ
この記事では、開業費で節税するためのポイント、開業費として認められる項目と認められない項目について解説してきました。
クリニックの開業には多額の費用が必要となります。そのため、開業費として認められる項目を上手く使いながら節税することが大切です。
本記事が、クリニックの開業を検討している方の参考になれば幸いです。