医療モールの開業で失敗する原因は?よくある事例などを解説
クリニックの開業を検討する際、候補のひとつになるのが「医療モールでの開業」ですが、その具体的なメリットやデメリットについては、よく把握していないという方も多いのではないでしょうか。
医療モールの開業は成功しやすいといわれていますが、その理由を知らずに開業するのは失敗のリスクを高めることにつながります。
この記事では、
- 医療モールとは
- 医療モールで開業するメリット
- 医療モールで開業するデメリット
- 医療モール開業で、よくある失敗事例と失敗しないための対策
これらについて解説します。
医療モールでの開業を検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
医療モールとは
医療モールとは、内科や皮膚科、整形外科といった複数の診療科クリニックと薬局が、集合している施設のことをいいます。
ひとことで医療モールといっても、下記のように様々な形態があります。
- 複合施設型医療モール
- 医療ビレッジ
- 医療ビル
- その他(商業施設併設型、オフィス併設型、レジデンス併設型)
それぞれの医療モールの違いと特徴について解説します。
複合施設型医療モール
複数の診療科と商業施設、レクリエーション施設などが一体となった複合型の施設のことをいいます。
クリニック以外に、ショッピングセンターや飲食店、フィットネスクラブなどが併設されています。駅近の立地の良い物件も多いためアクセスがよく、ほかの用事のついでにクリニックを受診する患者さんを集患しやすいというメリットがあります。
医療ビレッジ
医療ビレッジは、同じ敷地の中に複数の診療科の「戸建てクリニック」が集まった形態のことをいいます。戸建ての建物が集まった様子から「村=village(ビレッジ)」といわれています。
医療ビレッジは複数の戸建てが建てられる広い敷地が必要なため、都心部よりも郊外にあるケースが多いようです。広い駐車場を共有できることや、クリニックごとに外観や内装設備を自由に設計できるというメリットが特徴の形態です。
医療ビル
全てのテナントが、医療機関であるビル施設のことを「医療ビル」といいます。複数の診療科や薬局、リハビリテーション施設などが併設されているケースが多いようです。
医療機関向けに、バリアフリー設計や患者さん専用の設備になっていることが特徴です。
その他(商業施設併設型、オフィス併設型、レジデンス併設型)
「商業施設併設型」は、食料品や衣料品などの店舗が入っている商業施設にある医療モールのことをいいます。複合施設型と似ていますが、限定的な商業施設のみと併設していることが特徴です。
「オフィス併設型」は、複数の企業が入っているオフィスビルの中にある医療モールのことをいいます。オフィスで勤務する働き盛りの世代を集患のターゲットとしてるので、急な体調不良の対応や自由診療、健康診断・人間ドックといった診療をメインにすることが多いようです。
「レジデンス併設型」は、住居用のマンション内に併設されている医療モールのことをいいます。最近では、マンションの入居率を上げるために、低階層に医療機関や商業施設、レクリエーション施設を併設するマンションが増加しています。
レジデンス併設型の医療モールは、マンション住人のかかりつけ医として安定した集患が見込めるというメリットがあります。
医療モールで開業するメリット
医療モールでの開業には、下記のメリットがあります。
- 初期費用や設備費用が抑えられる
- 集患がしやすい
- ほかの診療科との連携が取れる
- 開業の専門家のアドバイスが受けられる
それぞれについて具体的に解説します。
初期費用や設備投資が抑えられる
医療モールは、施設内で必要な設備を共有することができるため、開業に必要な初期費用を抑えられるというメリットがあります。
例えば、駐車場やトイレ、エレベーターなどの設備費やバリアフリー設計のための費用など、医療モールの施設内で共有することができますので、自身で設置する必要がありません。
また、医療モールでは、貸主側(オーナー側)が空テナント対策のため、借主側(クリニックを開業する側)にとって有利な条件で契約をしてくれる場合があります。
一般的に、集客が見込める商業施設に入る場合、敷金は賃料の10〜12カ月分が相場とされています。賃料の高い物件になると、高額な初期費用が必要となります。
医療モールの場合だと、6〜10カ月分に敷金を下げて契約してくれるテナントもあるようです。オーナーからの条件にもよりますが、初期費用を下げやすいというメリットがあります。
集患がしやすい
医療モールでは複数の診療科クリニックで集患するため、単一のクリニックで行うよりも集患がしやすいというメリットがあります。
特に複合施設型や商業施設併設型の医療モールでは、施設自体に集客力があるため、医療モールとして施設内に広告を行うことで、一般的なクリニックよりも集患がしやすいでしょう。
また、医療モールの多くは、調剤薬局が積極的にクリニックを誘致しています。
調剤薬局の収益は患者さんの処方せんの枚数で決まるため、調剤薬局が主導となり集患対策もしてくれます。
さらに調剤薬局と連携することで、患者さんを紹介してもらうことも期待できるでしょう。医療モールでの開業は、一般的なクリニックの開業と比べて、様々な集患対策をとれるというメリットがあります。
ほかの診療科との連携がとれる
複数の診療科が入る医療モールでは、相互連携ができることもメリットになります。
具体的には、
- 医療モールのオープンに合わせて共同で内覧会を実施できる
- クリニック同士で患者さんの紹介がしやすい
複合施設型やビル型の医療モールだけではなく、医療ビレッジ型の戸建てクリニックにおいても、同じメリットが期待できるでしょう。
開業の専門家のアドバイスが受けられる
大手チェーンの調剤薬局が企画している医療モールの場合、開業の専門家のアドバイスを受けられるメリットもあります。
大手チェーンの調剤薬局は、数多くの医療モールを立ち上げた経験と経営ノウハウがあるため、開業で失敗しないための適切なアドバイスを受けられる可能性があります。
医療モールで開業するデメリット
医療モールでの開業には、下記のようなデメリットがあります。
- 医療モールのルールなど制約がある
- 患者さんの奪い合いやクリニック間でのトラブルがある
- 施工会社や製薬会社を指定される場合がある
それぞれについて具体的に解説します。
医療モールのルールなど制約がある
医療モールは、同じ施設内で設備を共有するため、一定のルールや制約があることには注意が必要です。
診察時間や休診日は、医療モールの営業時間に合わせなければならないケースもあります。割り当てられている区画や広さが決まっているので、設置できる院内設備にも制限があるでしょう。
手術施設のための十分なスペースが確保できず、医療モールでの開業を断念しなければならない可能性もあることを認識しておきましょう。
ビレッジ型の方が、複合施設型や医療ビル型よりもルールや制約が緩くなるケースが多いようです。
患者さんの奪い合いやクリニック間でのトラブルがある
医療モール内に同じ診療科が既にある場合、患者さんの奪い合いにつながる可能性があります。最悪の場合、集患が上手くいかず赤字経営に陥るリスクも考えられます。
また、同じ医療モール内に、診療方針や考え方が合わない院長がいる場合、ストレスを感じることもあるでしょう。できる限りトラブルを避けるためにも、日頃からコミュニケーションを心がけ、関係悪化の防止に 努める必要があります。
施工会社や製薬会社を指定される場合がある
医療モール全体として、決まった施工業者や医薬品卸と契約しているケースが多いため、自由に選択できない可能性があります。
自院の内装工事を、以前から付き合いのある業者に依頼したい場合でも、医療モールの指定業者への発注が義務付けられているということも多いでしょう。
知らずに契約をすると後からトラブルの原因になるので、必ず事前に確認するようにしましょう。
医療モール開業で、よくある失敗事例は?
集患しやすいとされる医療モールでも、経営に失敗することはもちろんありえます。
よくある失敗事例には下記があげられます。
- 医療モールのカラーが合っていない
- テナント料が高い
- 立地が悪い・評判が悪い
それぞれ具体的に解説します。
医療モールのカラーが合っていない
医療モールの開業で失敗する要因に、医療モールのカラーが自身のクリニックと合っていないことがあげられます。ここでいう「カラー」は、医療モールのコンセプトやターゲットにしている患者層などを指しています。
- 医療モールの提供する医療サービスが、自身のクリニックや地域のニーズと合っていない
- 医療モールとクリニックのコンセプトが一致していない
例えば、高齢者が多く住む地域の医療モールに、若年層向けのスポーツリハビリセンターや美容整形クリニックを誘致しても地域のニーズには合わないでしょう。
都心部の高級医療モールに必要なのは、地域医療に注力するクリニックではなく、豪華な内装で富裕層をターゲットにする会員制の高級人間ドックを提供するクリニックでしょう。
自身のクリニックが、医療モールのコンセプトやターゲットにしている患者層に合っているかよく確認したうえで、開業を検討する必要があります。
テナント料が高い
都心部の駅近でアクセスの良い医療モールは、その分テナント料も高くなります。想定していたよりも集患が上手くできないとテナント料の負担が大きくなり、クリニックの経営を維持できなくなる可能性があります。
そのため、テナント料の高い医療モールでの開業は、綿密な事業計画の策定が特に重要になります。
立地が悪い・評判が悪い
立地が悪く、いつまでも空いているテナントが多く閑散としている医療モールで開業すると失敗する可能性が高くなってしまいます。
また、医療モールの評判が悪いとクリニックの印象も悪くなってしまうでしょう。
医療モールでの開業を検討する際は、施設の地域での需要や将来性も考慮する必要があるでしょう。
医療モール開業で、失敗しないための対策
医療モールの開業で、失敗しないための対策に下記の方法があげられます。
- 時間をかけて綿密な事業計画を策定する
- 自身の目指す医療方針と合っているかを見極める
- ほかのクリニックや調剤薬局と日頃からコミュニケーションをとる
それぞれ具体的に解説します。
時間をかけて綿密な事業計画を策定する
医療モールの開業で成功する鍵は、しっかりとした綿密な事業計画の策定です。
事業計画には、開業地の見込み患者数の調査や、近隣のクリニックが専門としている領域や特徴といった競合調査は欠かせません。
また開業後、いつ頃までに事業を黒字化できるのかといった収支予測も必要でしょう。医療モールの開業は、集患がしやすく安定した収益を得られますが、その分、固定費も増えやすくなります。家賃や人件費などの固定費を抑えることも、事業を成功させるポイントです。様々な事態を予測しながら、赤字に陥らないための事業計画をしっかりと立てるようにしましょう。
自身の目指す医療方針と合っているかを見極める
医療モールのコンセプトやターゲットにしている患者層が、自身の目指す医療方針と合っているか見極めることが大切です。
- どのような医療を提供したいのかを十分に考える
- 事業計画で収支予測をしっかりと立てる
- 医療モールのコンセプトやターゲットにしている患者層を調査する
- 自身の目指す医療方針と合っているか見極める
これらの手順で確認するとよいでしょう。
難しい場合は、開業支援のコンサルを受けることも有用です。
ほかのクリニックや調剤薬局と日頃からコミュニケーションをとる
ほかのクリニックや調剤薬局と日頃から積極的にコミュニケーションをとり上手く連携をすることで、医療モール開業で失敗する可能性を低くすることができます。
医療モールの大きなメリットの一つに、クリニック同士で患者さんを紹介して集患につなげられることがあげられます。調剤薬局とも上手く連携をすることで、患者さんの紹介が期待できるでしょう。
そのためには、ほかのクリニックの院長や調剤薬局の管理薬剤師と日頃から積極的にコミュニケーションをとり、お互いの診療方針を知ることで良い関係を築くことが大切です。
編集部まとめ
この記事では、医療モールとは、医療モールで開業するメリットとデメリット、医療モール開業でよくある失敗事例と失敗しないための対策について解説してきました。
医療モールでの開業は、一般的なクリニックに比べて集患がしやすく、クリニック同士で患者さんを紹介できるというメリットがあります。そのため、経営を安定化させるまでの見通しが立てやすいことは大きな魅力のひとつです。
医療モールの形態で開業を考えている方は、よくある具体的な失敗事例や失敗しないための対策を参考に検討してみてください。