2024(令和6年度)診療報酬改定 4つの基本方針と6つのポイントを解説
2024年の診療報酬改定では、医療従事者の働き方改革や、医療DXを推進させるための内容が多く盛り込まれています。
今回の改定では、医療・介護・障害福祉サービスのトリプル改定であるため、その複雑さから要点を整理できていない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、
- 2024年の診療報酬改定は「トリプル改定」
- 2024年診療報酬改定の4つの基本方針
- 2024年診療報酬改定の6つのポイント
これらについて解説します。
厚生労働省が公開する資料は情報が多すぎて整理が大変なので、診療報酬改定の概要とポイントを知りたいという方は、本記事を参考にしてみてください。
目次
診療報酬改定とは
診療報酬改定とは、医師などの医療従事者が行った医療行為に対する報酬金額を見直すことを指します。基本的には2年に1度の間隔で実施されるものです。
厚生労働省が診療報酬改定を行う目的には、下記があげられます。
- 効率的で質の高い医療を維持するため
- 医療費を適切に配分するため
- 社会情勢に沿った報酬額に調整するため
診療報酬改定は政府の重要施策の一つであり、国の財政常態に大きく影響します。
2021年の国民医療費は約45兆円と言われており、前年比較すると4.8%の増加となっています。国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は年々増加しており、財源を圧迫している状況です。
この状況で仮に診療報酬を+ 1%改定すると、4500億円もの医療費が追加で必要になります。効率的に質の高い医療を維持するためには財源の分配が大切であり、その役割のひとつを担うのが診療報酬改定なのです。
(参考:令和3年度国民医療費の概要|厚生労働省)
過去の診療報酬改定での変更点
2022年の診療報酬改定では、
- 新型コロナウイルス感染症に対応できる医療体制の構築
- 質の高い医療を実現するために医療従事者の働き方改革
- ICTを活用した医療DXの推進
これらを基本方針として診療報酬の改定が行われました。
新型コロナウイルス感染症対策による看護職員の過重労働問題を受けて、収入を上げる処遇改善をしたことは社会情勢をよくあらわしています。
また、医療DXを進めるために、オンライン診療の評価体系見直し、リフィル処方箋の導入が行われました。
<2022年診療報酬改定のポイント>
- 診療報酬の改定率は+0.43%
- 特定の医療機関で働く看護職員の収入を上げる改善措置
- 処方箋を繰り返し使用できるリフィル処方箋の導入
- 不妊治療の保険適用
- 情報通信機器を用いたオンライン診療の評価新設
(参考:令和4年度診療報酬改定の概要|厚生労働省)
診療報酬改定の確認方法
診療報酬改定の内容を確認する方法は、厚生労働省の公式な発表内容を確認することです。もっとも正確な情報が入手できるでしょう。
「診療報酬関連情報」として一覧でまとめているページがあり、健康・医療の政策一覧から閲覧することが可能です。
少しでも早く最新の診療報酬改定に関連する検討事項を知りたい方は、中央社会保険医療協議会(中医協)の議事録や資料を確認するとよいでしょう。こちらも厚生労働省のホームページに公開されています。
(参考:診療報酬関連情報|厚生労働省)
(参考:中央社会保険医療協議会|厚生労働省)
2024年の診療報酬改定のスケジュール
2024年の診療報酬改定のスケジュールは、
- 診療報酬の本体は2024年6月から施行
- 薬価改定のみ2024年4月から施行
従来は診療報酬の本体と薬価ともに4月1日から施行するのが基本でしたが、2024年から開始時期がずれるようになります。
この背景には、診療報酬改定の具体的な内容の公示から施行開始までの期間が短く、クリニックや薬局の負担が大きいことが問題とされていたことがあります。
そのため、2024年度の診療報酬改定より、診療報酬の本体は6月1日から施行になったようです。
2024年の診療報酬改定は、6年に1度の「トリプル改定」
2024年の診療報酬改定は、医療・介護・障害福祉サービスの3つの報酬が同時改定される、「トリプル改定」と言われています。これは6年に1度のこととして注目されています。
医療・介護・障害福祉サービスの同時改定
診療報酬の改定は2年に1回、介護や障害福祉サービス等の報酬改定は3年に1回の間隔で行われており、2024年度はこの3つが同時に改定される年度となっています。
- 診療報酬(2年に1回):医療行為や薬価など医療機関の報酬改定
- 介護報酬(3年に1回):要介護者にサービスを提供する事業所の報酬改定
- 障害福祉サービス等報酬(3年に1回):障害者や難病患者に対する福祉サービスを提供する事業所の報酬改定
中医協では2023年3〜5月にかけて、トリプル改定に向けた意見交換会が行われています。この意見交換会は、団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を目前にして、医療と介護の連携を深めるために開催されたものです。
- 地域包括ケアシステムの推進
- 医療・介護・障害福祉サービスの一体的な連携
- リハビリテーションや口腔ケア、栄養管理
これらの内容が「トリプル改定」で注目されているポイントになります。
2025年問題と2040年問題
トリプル改定が注目される理由に、2025年問題の前年度の改定という背景があります。
厚生労働省の統計によると、2025年には「団塊の世代」が後期高齢者(75歳以上)となり、医療や介護ニーズの急速な増大が予想されています。さらに、医療費や年金、社会保障費の分野で多くの課題が生じるため「2025年問題」と呼ばれています。
また、2040年には、生産年齢人口(15〜64歳)の割合が55.1%まで減少し、65歳以上の高齢者の割合が全人口の34.8%を占めると予想されています。そのため、国内は深刻な労働力不足となり、医療や介護の現場での人材不足が指摘されています。
6世帯のうち1世帯が高齢単身者世帯となる推計もあり、さまざまな問題が顕在化される年度として「2040年問題」と呼ばれています。
(参考:社会保障を支える人材の確保|令和4年版厚生労働省白書)
2024年(令和6年度)診療報酬改定の4つの基本方針
厚生労働省が公開する2024年診療報酬改定の基本方針には、
- 雇用情勢も踏まえた人材確保や働き方改革の推進
- ポスト2025を見据えた地域包括ケアや医療DXの推進
- 安心・安全で質の高い医療の推進
- 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性の向上
これらを基本的な方針として、具体的な改定を行っています。
特に1つ目の人材確保や働き方改革の推進を重点課題として捉え取り組みがされています。
雇用情勢も踏まえた人材確保や働き方改革の推進
2024年診療報酬改定の4つの基本方針の中でも、重点課題として位置づけられているのが、人材確保や働き方改革の推進です。
具体的な方向性の例として下記があげられています。
- 医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組み
- 高い専門性を発揮できる勤務環境の改善・チーム医療の推進
- 業務効率化に資するICT活用の推進と勤務環境の改善
- 必要な救急医療体制の確保
- 多様な働き方を踏まえた評価を拡充
- 医療人材および医療資源の偏在への対応
医療従事者の賃上げのためのベースアップ評価料新設は目新しいものです。
医療機関が勤務医や看護職員、事務職員の賃金を2024年度に+ 2.5%ベースアップすると、初診時や再診時、訪問診療時の診療報酬点数が加算されます。
ベースアップ評価料の加算には施設条件と届出が必要になりますが、医療従事者の人材確保に向けた施策のひとつとして注目されています。
ポスト2025を見据えた地域包括ケアや医療DXの推進
2025年問題を目前とする中で、具体的な方向性として下記があげられています。
- 医療情報の有効活用と遠隔医療の推進
- 地域包括ケアシステムの推進のための取り組み
- リハビリテーション・口腔ケア・栄養管理の連携と推進
- 患者に応じた入院医療の評価
- 外来医療の機能分化と強化
- 新興感染症に対応できる医療体制の構築に向けた取り組み
- かかりつけ医の機能の評価
- 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
「医療DXの推進」のひとつである、医療情報の有効活用ができる基盤を構築するために、「医療情報取得加算」が新設されています。これはマイナ保険証を利用したオンライン資格確認ができる体制を整えることで加算されるものです。
その他にも、救急の現場では電子カルテ情報共有サービスの整備を進めることを評価したり、プログラム医療機器を用いた医学管理を評価したりするといった、医療DXの推進に関わる診療報酬の新設が目立っています。
安心・安全で質の高い医療の推進
安心・安全で質の高い医療を推進するために、下記の具体例があげられています。
- 食材費や光熱費などの物価高騰を踏まえた対応
- 安心・安全に医療を受けられるための体制評価
- アウトカムに着目した評価の推進
- 重点的な対応(小児・周産期・救急医療)への適切な評価
- 生活習慣病などの疾病管理や重症化予防の取り組み推進
- 生活の質に配慮した歯科医療の推進
- 薬局のかかりつけ機能に応じた評価
- 地域のニーズに対応した機能を有する薬局の評価
- 医薬品の安定供給の確保
食材料費などの物価高騰への対応として、入院時の食事基準額の引き上げが、+ 0.06%加算されています。また後発医薬品を安定的に供給確保をするため、不採算品目(製薬企業にとって赤字品目)の薬価を下支えする特例措置があります。
その他、三次救急医療機関において、重症患者を受け入れられる体制を取るため、救急患者の下り搬送の評価が新設されています。医療従事者の働き方改革も踏まえ、周辺病院と連携して地域包括ケアを進める項目として設定されています。
効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性などの向上
今後の医療財政の圧迫を踏まえて、持続性のある医療保険制度を実現させるため、下記のような具体例があげられます。
- 後発医薬品やバイオ後続品の使用促進
- 長期収載品の保険給付のあり方を見直し
- 市場実勢価格を踏まえた適切な評価
- 医療従事者の協働による医薬品適正使用の推進
国民医療費を押し上げる要因のひとつに、高額なバイオ医薬品の使用があります。
バイオ後続品の使用加算が検討されており、後発医薬品の使用に係る評価を引き続き検討するようです。
長期収載品の選定療養やリフィル処方の取り組みについても、医療財政の圧迫を踏まえた改定のひとつになります。
2024(令和6年度)診療報酬改定のポイントは6つ
診療報酬改定の基本方針を踏まえて、ここでは6つの改定のポイントを紹介します。
- 外来医療の推進
- 第8次医療計画との関連
- 医師の働き方改革
- 診療報酬改定DX・医療DXのさらなる推進
- 介護サービスとの連携
- プログラム医療機器(SaMD)における評価の明確化
それぞれについて説明します。
外来医療の推進
2024年度診療報酬改定のポイントの1つ目は「外来医療の推進」です。
これは2025年問題を目前にして、「かかりつけ医」「地域包括ケア体制の推進」「外来機能の分化」「オンライン診療」を推進させるものでもあります。
超高齢化社会の中で在宅医療が進めば、かかりつけ医はオンライン診療に対応しなければなりません。オンライン診療の報酬改定は今後も変化していくことが予想されます。
第8次医療計画との関連
第8次医療計画との関連も重要なポイントです。
2025年から2040年にかけて、生産年齢人口の割合が減少し医療や介護においても、深刻な人手不足になることが予想されています。
このような状況を受けて、地域にある病院機能を明確にし効率化させていくのが第8次医療計画のひとつです。
- 初期救急医療では、軽症患者や夜間の外来診療
- 二次救急医療では、高齢者救急や初期診療を担当
- 三次救急医療では、重症患者への専門的な治療に集中
三次救急医療から初期救急医療の病院へ下り搬送を推進するなど、救急医療の見直しが検討されています。
医師の働き方改革
基本方針の中でも重要課題として位置づけられていたのが「医師の働き方改革」です。
一般には2019年から始まった働き方改革ですが、2024年の診療報酬改定でも様々な改定項目の背景には医師や医療従事者の働き方改革があります。
例えば、三次救急医療から周辺病院の下り搬送の評価が新設されたのは、救急医療の過度な労働を軽減させることが目的でもあります。
「処置及び手術の休日加算1・時間外加算1・深夜加算1」においても、交代勤務制またはチーム制の要件を満たさないと算定ができなくなりました。これも医師の働き方改革を推進する観点からとなるでしょう。
診療報酬改定DX・医療DXのさらなる推進
2024年診療報酬改定において、「医療DX」のさらなる推進は重要ポイントです。
マイナ保険証の利用による医療情報取得加算の新設や、オンライン診療加算の変更などは、将来の地域医療包括ケアシステムの推進に必要不可欠なものとして位置づけられています。
医療DXを推進する診療報酬改定は、2024年以降も加速していくことが予想されます。
介護サービスとの連携
2024年の診療報酬改定では、医療と介護・障害福祉サービスのトリプル改定であることも重要なポイントです。
リハビリや要介護の高齢者に対応した急性期の入院医療や訪問看護のあり方が検討されて、診療報酬改定の中にも組み込まれています。
プログラム医療機器(SaMD)における評価の明確化
プログラム医療機器(SaMD)の評価が明確化されたことも、今後の診療報酬改定を考えるうえで重要なポイントです。
2024年に新設されたのは、内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術において、病変検出を支援するプログラム医療機器を用いた際の加算です。
さらに、患者さんの健康管理に使用するプログラム医療機器の指導管理料や導入期加算料が新設されたことも、今後の技術発展への影響は大きいでしょう。
診療報酬に組み込まれることで医療機関の収益につながり、結果として企業の製品開発にもつながることが期待できます。
編集部まとめ
この記事では、2024年の診療報酬改定は「トリプル改定」、2024年診療報酬改定の4つの基本方針と6つのポイントについて解説してきました。
今後も医療従事者の働き方改革、医療DXによる地域包括ケアの対策が重視され、診療報酬の改定が進んでいくでしょう。
診療報酬改定は、医療機関の収益に大きく影響します。改定のポイントを押さえることで、政府がどのような方向性で医療政索の舵を取っているのかが見えてきます。
医療のこれからを予測しながら、安定したクリニック経営の戦略を検討する際に、本記事の内容が参考になれば幸いです。