SOAP方式とは?医療現場での活用と開業医向けガイド

これからクリニックを開業する医師にとって、診療記録の管理は非常に重要です。患者さんの状態を正確に把握し、適切な治療を行うためには、カルテの記載方法がポイントになります。その中でも、SOAP方式は世界的に広く採用されているカルテ記載の方法であり、適切に活用すれば、診療の質を向上させるだけでなく、医療訴訟のリスクを軽減することにもつながります。
本記事では、SOAP方式の基本概念から、電子カルテとの相性、導入のメリット、具体的な書き方、記録例まで詳しく解説します。開業を予定している医師の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
SOAP方式とは?医療における基本概念

SOAPとは?
SOAP方式とは、医療記録を「S(主観的情報)」「O(客観的情報)」「A(評価)」「P(計画)」の4つの要素に分けて整理する方法です。
- S(Subjective:主観的情報)
患者自身が訴える症状や病歴などの主観的な情報を記載します。 - O(Objective:客観的情報)
診察や検査で得られた客観的なデータを記録します。 - A(Assessment:評価)
診断や経過の評価を行います。 - P(Plan:計画)
今後の治療方針や検査計画を立てます。
SOAP方式の歴史と医療における重要性
SOAP方式は、1960年代にアメリカの医師ローレンス・ウィードによって開発されました。彼は、従来の医療記録の非体系的な方法に問題があると考え、論理的で一貫性のある診療記録の必要性を提唱しました。SOAP方式は、現在では世界中の医療機関で標準的な診療記録の方法として採用されています。
SOAP方式が特に重要視される理由は以下の点にあります。
- 診療記録の標準化により、診療の質を向上させる
- 医師間、医療スタッフ間の情報共有がスムーズになる
- 診療履歴が明確に残り、患者のフォローアップがしやすい
- 訴訟リスクの軽減に寄与する
開業医にとって、SOAP方式を取り入れることで、スタッフとの情報共有がスムーズになり、患者さんの診療履歴を明確に管理できるというメリットがあります。
SOAP方式を導入するメリット

SOAP方式を導入することで、開業医や医療スタッフにとって多くの利点があります。
医師・スタッフ間の情報共有がスムーズに
SOAP方式を用いることで、診療記録が明確に整理され、ほかの医師や看護師が患者情報をすぐに把握できるようになります。診療の引き継ぎやチーム医療の実践において、統一された書式は非常に役立ちます。
診療記録の標準化によるミスの防止
SOAP方式は、情報の抜け漏れを防ぎ、医療ミスのリスクを軽減します。特に開業医にとって、正確な記録を残すことは診療の質を担保するうえで不可欠です。
患者対応の質向上と医療訴訟リスクの軽減
SOAP方式で記録を詳細に残すことで、患者とのトラブルを防ぐことができます。また、診療の根拠を明確に示すことができるため、万が一の訴訟リスクにも備えることができます。
クリニック経営の効率化
SOAP方式を採用することで、診療時間の短縮やスタッフの業務負担の軽減につながります。例えば、電子カルテとの組み合わせにより、記録の入力を効率化し、医師が診療に集中できる環境を整えることが可能です。
SOAP方式の具体的な書き方
SOAP方式を適切に活用するためには、各項目を正しく記載することが重要です。以下、それぞれの項目について解説します。
S(Subjective:主観的情報)
- 患者が訴える主症状(主訴)
- 症状の経過や発症時期
- 痛みの程度やその他の関連症状
- 既往歴や服用中の薬
例:「昨日から38℃の発熱が続いており、喉の痛みと倦怠感がある。」
O(Objective:客観的情報)
- 診察所見(視診、触診、聴診など)
- バイタルサイン(血圧、体温、脈拍など)
- 検査結果(血液検査、レントゲンなど)
例:「体温:38.2℃、咽頭発赤あり、リンパ節腫脹なし。」
A(Assessment:評価)
- 考えられる診断(鑑別診断を含む)
- 症状の進行具合や重症度の評価
- 既往症との関連性
例:「ウイルス性上気道炎が疑われる。細菌感染の可能性は低い。」
P(Plan:計画)
- 治療方針
- 必要な検査やフォローアップの計画
- 患者への指導内容
例:「対症療法として解熱鎮痛薬を処方し、水分摂取を促す。3日後に再診。」
電子カルテとSOAP方式の相性は?

近年、電子カルテの普及によりSOAP方式の運用がさらに容易になっています。電子カルテの主なメリットは以下のとおりです。
- テンプレート機能を活用できる
- 診療記録の検索や共有がしやすい
- 音声入力やタブレット端末の活用で記録が効率化
開業する際は、SOAP方式に対応した電子カルテを導入することで、よりスムーズな診療記録の管理が可能になります。
SOAP方式の記録例(診療科別サンプル)
内科(風邪症状の患者)
- S:「3日前から発熱と咳が続いている。」
- O:「体温38.1℃、咽頭発赤あり。」
- A:「ウイルス性上気道炎の疑い。」
- P:「対症療法を行い、必要に応じて再診。」
整形外科(腰痛患者)
- S:「1週間前から腰の痛みが続いている。」
- O:「前屈制限あり、筋緊張亢進。」
- A:「筋筋膜性腰痛が考えられる。」
- P:「鎮痛薬処方、ストレッチ指導。」
小児科
- S:「3日前から咳と鼻水が続いている。熱は一時的に38.5℃まで上がった。」
- O:「体温37.2℃、咽頭発赤あり、呼吸音は正常。」
- A:「ウイルス性上気道炎の疑い。」
- P:「対症療法として解熱鎮痛薬を処方、経過観察とする。」
精神科
- S:「仕事のストレスが強く、最近眠れない。食欲も減っている。」
- O:「表情はやや沈み込み、会話のテンポが遅い。」
- A:「抑うつ状態が疑われる。ストレス因子の影響を評価する必要あり。」
- P:「心理療法の導入を検討し、必要に応じて抗うつ薬を処方。」
SOAP方式の課題と注意点

SOAP方式には多くのメリットがありますが、次の点には注意が必要です。
- 記載に時間がかかる
- 形式にこだわりすぎると柔軟な診療が難しくなる
- 適切なバランスを意識した運用が重要
SOAP方式を導入する際は、実際の診療に適した形で運用することが重要です。
まとめ
SOAP方式は、開業医にとって診療の質を向上させるための有効なツールです。適切に活用すれば、診療の標準化や情報共有の効率化、医療訴訟リスクの軽減に役立ちます。開業に向けた準備の一環として、SOAP方式を取り入れることを検討してみてください。