【医療機関に必要な書類の保存期間一覧】保存方法のよくある疑問を解説
医療機関で発生する大量の書類、法律で一定期間の保存が必要だと聞いたことはあるけど、具体的になんの書類を、いつまで保存するのか、わからないという方も多いのではないでしょうか。書類全般をとりあえず全て保存としていると、保管場所に困るだけでなく、もし必要になったとき探すのにも時間がかかり生産性が低下してしまいます。
この記事では、
- 医療機関の書類保存に関する疑問
- 書類ごとの保存期間一覧
- 書類の保存方法に関する疑問
これらについて解説します。これから開業し保存方法を検討している方、既に開業して見直しを考えている方も、本記事が参考になれば幸いです。
医療機関の書類保存に関する疑問
- 保存が必要な書類にはどのようなものがありますか?
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医療機関の書類は、医師法や医療法によって保存すべき書類と期間が定められています。
保存書類の代表的なものに、診療録(カルテ)があります。
医師は診療をした時、患者さん本人や家族に診療に関する事項や療養の方法を指導し記録に残すことが、医師法によって定められています。
その他にも、法律で保存すべき書類が定められていますので、詳細な確認が必要です。
参考:医師法第24条|法令検索
参考:法令上作成保存が求められている書類|厚生労働省
- 書類それぞれの保存期間について教えてください。
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<保存期間5年>
- 医師や歯科医師の診療録
- 助産録
- 救急救命処置録
- エックス線装置などの測定結果記録
- 放射線障害が発生するおそれのある場所の測定結果記録
- 保険医は、一定の様式の診療録
- 死体交付証明書
- 臨床研修病院の帳簿
<保存期間3年>
- 歯科衛生士の記録
- 調剤済み処方せん
- 薬剤師の調剤記録
- 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿、書類その他の記録
- 保険薬剤師の調剤録
- 保険薬局は、療養の給付に関する処方せん、調剤録
<保存期間2年>
- 歯科医師は、歯科技工にかかる指示書
- 病院日誌
- 各科診療日誌
- 処方せん
- 手術記録
- 看護記録
- 検査所見記録
- エックス線写真
- 紹介状
- 退院患者にかかわる入院期間中の診療経過の要約
- 地域医療支援病院は、救急医療の提供実績、紹介患者の診療実績などの帳簿
- 特定機能病院は、高度医療の提供実績、従業員数や研修実績などの状況
以上の書類保存が、医師法や医療法などで定められています。
しかし実際のクリニックでは、これより長い期間、保存されているケースはよくあります。
法律で定められている保存期間を確認したうえで、何年以上経過したものは破棄すると、クリニックの状況に合わせて決めるといいでしょう。
- 保存期間まで保存してなかった場合のデメリットはありますか?
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法律で定められた書類を保存していなかった場合、罰則を受ける可能性があります。
少なくとも定められた期間は保存しておくようにしましょう。
法律上、保存期間を過ぎた書類は破棄をしてもよいとなっていますが、これには注意が必要です。
例えば、診療録(カルテ)の保存期間は5年ですが、期間が過ぎた後でも診療録が必要になるケースはあります。保存期間の経過後に医療過誤が発覚した場合がそれに該当します。適切な医療行為がおこなわれたのか、診療録の開示請求を受ける可能性があります。
2020年の改正民法にて、医療訴訟の時効は「不正行為があった時から20年で時効消滅」とも定められました。
また、日本医師会から公開されている指針「医師の職業倫理指針第3版」では、カルテは永久保存することを推奨しています。
参考:民法の一部を改正する法律|法務省
参考:医師の職業倫理指針第3版|日本医師会
書類の保存方法に関する疑問
- 書類保存にはどのような方法がありますか?
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書類を保存する方法には下記のようなものがあります。
- 紙でクリニック内に保存
- 電子化して保存
- 外部の倉庫などで保存
それぞれの保存方法には、メリットとデメリットがあります。
- 書類を紙で保存するメリットについて教えてください。
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クリニック内で保存できるスペースがあるのなら、追加コストが発生することなく保存できることはメリットになるでしょう。
停電などでネットやパソコン利用ができない時にでも、すぐに取り出せることも利点になります。
- 書類を紙で保存するデメリットについて教えてください。
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紙での保存は経年劣化や、保管場所を確保しなければならないことがデメリットになります。患者さんが増えるにつれて紙カルテの量も増加するので、保管場所の圧迫にもつながります。
- 書類を電子で保存するメリットについて教えてください。
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書類の保管場所を確保する必要がないことが大きなメリットになります。
クラウド型のサーバーに保存できるようにすれば、クリニック内に機器を設置しなくてもすむため、さらにスペースを気にすることなく、過去、数十年の診療録をデータとして保存することができます。
- 書類を電子で保存するデメリットについて教えてください。
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初期費用がかかることや新しく操作を覚える手間が発生することはデメリットになるでしょう。
電子カルテを導入するのであれば、数百万円以上の初期費用が発生する場合もあります。パソコン操作が苦手なスタッフがいれば、慣れるまでに時間がかかり、かえって業務効率が低下してしまう可能性も考えられます。
- 書類を外部の倉庫などで保存するメリットについて教えてください。
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書類を外部の専門業者が管理する倉庫などで保管するサービスを利用する方法もあります。厚生労働省の資料によると、紙媒体のままで書類の外部保存を行う場合は下記の条件を満たす必要があります。
- 必要に応じて直ちに利用できる体制を確保しておくこと。
- 患者のプライバシー保護に十分留意し、個人情報の保護が担保されること。
- 外部保存は、診療録等の保存の義務を有する病院、診療所等の責任において行うこと。また、事故等が発生した場合における責任の所在を明確にしておくこと。
書類の保管に使用していたスペースを有効活用できる、保管作業を外注することでスタッフの業務負担を軽減することができるといったメリットがあります。
- 書類を外部の倉庫などで保存するデメリットについて教えてください。
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書類を外部の専門業者が管理する倉庫などに保存する場合のデメリットは、コストがかかることです。また、大切な書類を外部の業者に預けることにセキュリティ面での不安を感じる方も多いでしょう。この点については、プライバシーマークなどの資格を取得し個人情報の扱いに長けている、防犯・防災対策と耐震構造・免震機能を備えた倉庫であれば、安心して保管を任せることができるでしょう。
そのほか医療機関の書類保存に関するよくある疑問
- 電子記録と紙の記録で保存期間に違いはありますか?
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電子と紙で保存期間の違いはありません。
いずれの保存方法でも、法定の保存期間は同じです。
- 保存期間を過ぎた書類はどのように廃棄すればいいですか?
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機密文書処理を専門とする業者に委託して廃棄することが一般的です。
医療機関の書類には重大な個人情報が記載されているため、シュレッダーで粉砕し焼却する必要があります。
万が一の情報漏洩にも備え、専門の業者に依頼しましょう。
- 紙カルテをスキャナで電子化する時の注意点はありますか?
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厚生労働省から公開されている「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン|第6版」にて、具体的な電子化のガイドラインが示されています。
本ガイドラインを要約すると、
- 電子化した際に情報が欠損しないように注意する
- そのためには、高解像度のスキャンデータを用いること
- カルテに添付されているすべての情報をスキャンすること
- 改ざん防止のために、実施責任者を明確にすること
以上の内容に注意する必要があります。
編集部まとめ
この記事では、医療機関が保存すべき書類と期間、その保存方法のメリット・デメリットについて解説してきました。
クリニックの書類には個人情報やカルテなど、半永久的に保存しておいた方が良いものもあります。
保存方法はその後の利便性にも大きく関わるため、本記事を参考に書類保存について見直すきっかけになれば幸いです。