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診療報酬の役割や仕組みとは?改定の頻度や流れについても解説!

                   
投稿日: 2024.04.03
                   

診療報酬という言葉は、医療従事者のみならず多くの方が聞いたことがあるでしょう。テレビなどで「診療報酬改定」に関するニュースを見ることも多いのではないでしょうか。しかし、診療報酬の役割や、算出方法までは知らないという方がほとんどかもしれません。この記事では、そういった診療報酬にまつわるさまざまな情報を解説します。ぜひ参考にしてみてください。

医療制度の仕組みを保つ土台「診療報酬」とは 

診療報酬は、医療行為や医薬品などを提供した際に医療機関や薬局が受け取る対価のことです。医療機関や薬局は、その診療報酬の中から人件費や光熱費、設備費などをまかなうため、診療報酬を適切に受け取る必要があります。診療報酬は、医療機関にとっては経営を続けていくため、患者さんにとっては適切な医療を受けるために必要な原資となっているのです。ただし、この診療報酬は、すべてを患者さんが負担しているわけではありません。患者さんの負担割合は診療報酬の1〜3割となっており、残りは国民健康保険や健康保険組合、全国健康保険協会などから支払われています。

診療報酬について

診療報酬は、「公定価格」として国に定められており、基本的に2年に一度の頻度で改定されています。また診療報酬は、診療や医療サービスの対価で医療従事者の人件費などにあてられる「本体」と、医薬品や医療機器の公定価格を定める「薬価」の2つで構成されています。

診療報酬の動向

現在の日本では、医師や看護師をはじめとする医療従事者の処遇に関して、専門的な知識やスキルを要し、過酷な労働環境であるにもかかわらず、それに見合った報酬が得られていないという問題があります。またそういった問題と少子高齢化などの現状も重なり、医療従事者の人手不足は深刻な問題となっています。そのため「医療の質の向上」や「医療従事者の処遇改善」のために「本体」を引き上げるべきという声が上がっています。その一方で、診療報酬の財源には保険料・税収などの公費、患者さんの自己負担があてられていることから、現役世代への負担増加などにより引き上げには慎重になるべきだという意見も同様にあります。そのため、診療報酬改定は毎回多くの注目を集めています。なお、2022年度の改定では、「本体」を0.43%引き上げた一方「薬価」を1.37%引き下げて、全体では0.94%のマイナスという改定となりました。それ以前に関しても「本体」を引き上げて「薬価」を引き下げるという改定が続いていた傾向にあり、2024年度も同様に「本体」を引き上げる方向で調整が続いています。

診療報酬の計算式 

診療報酬の計算式

ではここからは、診療報酬の計算式を始めとした診療報酬制度の仕組みについて詳しく解説します。

診療報酬=医師の収入ではない

まず頭に入れておかなければならないのは、診療報酬がそのまま医師の収入になるわけではないということです。医療機関を運営していくためには、看護師や受付スタッフといったスタッフの人件費、診療のために必要となる医薬品費・医療機器などの設備費、家賃や光熱費などのランニングコストなど多額の費用がかかります。医師の収入に加え、これらの費用も診療報酬の中からまかなう必要があるのです。

報酬は、なぜ「点数」で設定されている?

医療機関から発行された領収書や明細書を見て、「なぜ点数で記載されているのだろう」と疑問に思ったことはないでしょうか。医療機関で行われる医療行為は、それぞれの行為に対し厚生労働省によって点数が定められており、その点数に基づいて診療報酬が算出されています。1点は10円となっており、この金額に地域差や医療機関ごとの差はありません。ではなぜ「10円」ではなく「1点」と点数で記載されているのかというと、それは物価変動に対応しやすくするためだといわれています。例えば、物価が変動した際に、円で価格が決められていればすべての診療報酬を算出しなおす必要があります。それに対し、点数であれば、1点の価格を10円から上げたり下げたりすることで対応できるという考え方です。

診療報酬が医療機関に支払われる仕組み

患者さんから支払われる自己負担額を除いた診療報酬は、診療日が属する月の翌月10日までに審査支払機関に請求することで、診療を行った月の翌々月に受け取ることができます。この際の支払い方式は2つあり、1つは出来高払い方式です。これは、実際に行った検査や処置などに応じて報酬が決まる方式です。日本ではこの出来高払い方式が原則となっています。もう1つは包括払い方式といい、これは国が定めた診断と処置の組み合わせに基づいて定額の報酬が支払われるものです。原則として出来高払い方式ではありますが、外来診療の一部や入院の費用において包括払い方式となっている場合があります。

診療報酬の役割 

診療報酬は、医療機関の経営の原資となる大切なものだとお伝えしましたが、そのほかにもいくつかの役割があります。ここでは「医療の質の均一化」「医療機関の運営改善」「政策の誘導」という3つの役割について解説します。

医療の質の均一化を図る

診療報酬制度の役割の1つが、医療の質の均一化を図ることです。そのために、医療機関が診療報酬を受け取るためにはいくつもの要件が用意されています。「看護職員の配置基準」や「看護師の比率」などがその一例です。こういったさまざまな要件を満たしたうえで診療報酬を受け取ることができるようになっているため、保険診療を行うすべての医療機関で、ある一定の質を保った医療が受けられるようになっています。

医療機関の運営改善

次に挙げる役割は「医療機関の運営改善」です。医療そのものや医療を行う環境は、時代にともなって多少なりとも変化しています。そのため、診療報酬が何十年も同じままでは、その変化に対応できなくなる可能性があります。例えば先に挙げたように、現在は少子高齢化により医療を必要とする人の人口は増えているものの、医療を提供する人材は不足しており、医療従事者一人当たりの労働ボリュームが大きくなりがちという問題があります。そのため、2020年度の診療報酬改定では「働き方改革」が大きな焦点となり、補助人員を配置した場合の加算点数が上がるという動きがありました。このように、2年に一度診療報酬の見直し・改定を行うことで、その時代の状況に合わせて医療機関が運営を改善していけるようにしているのです。

政策の誘導

診療報酬制度の役割として、最後に説明するのが「政策の誘導」です。これは、診療報酬という報酬により、国が政策に基づいて医療業界を誘導していくという意味です。例えば、2022年度には「急性期充実体制加算」が新設され、ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)、SCU(脳卒中集中治療室)に関する加算も上がりました。これは国が高度急性期病床を充実させたいと考えているからだといわれています。日本の8割の医療機関は民間で運営されているため、もし診療報酬制度の改定がない状態で「高度急性期病床を充実させましょう」と国が呼び掛けても、多くの医療機関においてその方針に従って動くことは簡単ではありません。それに対し、診療報酬の加算がある状態であれば、動くことができる医療機関が増えることが期待できます。このように、政策に従って医療業界全体を動かしていくための役割が、診療報酬制度にはあると考えられています。

診療報酬の請求方法 

診療報酬の請求方法

診療報酬は「診療日が属する月の翌月10日までに審査支払機関に請求」すると前述しましたが、具体的にはどのような方法で行われるのでしょうか。診療報酬の請求に必要なレセプト業務や手順について解説します。

診療報酬の請求に必要なレセプトとは

診療報酬を請求するためには、レセプトを審査支払機関へ提出する必要があります。このレセプトとは診療報酬明細書のことであり、患者さんに対して提供した検査や治療の内容、調剤の内容、点数などが記載されています。診療報酬には初診料、再診料、入院基本料などの基本診療料と、医学管理料、在宅医療などの特掲診療料があり、提供した医療行為に応じて点数を加算していくことになります。レセプト作成は、患者・診療月・入院・外来・調剤別で行う必要があり、種類は入院・外来・歯科・調剤の4つに分かれています。

レセプトの提出先

レセプトは、審査支払機関である「社会保険診療報酬支払基金」もしくは「国民健康保険団体連合会」に提出を行います。診療報酬の請求先は保険者であるにもかかわらず、間に審査支払機関を挟むのは、審査および支払い業務の効率化と審査の公正性を維持するためです。審査支払機関では、「診療担当者代表」「保険者代表」「学識経験者」で構成される審査委員会がレセプトの審査を行い、審査に通れば審査支払機関から保険者へと請求が行われます。審査項目は、「記載事項」「診療行為」「医薬品」「医療材料」の4つに分かれており、「記載事項」では記載漏れや保険者番号の不備などの確認、「診療行為」では診療行為の名称や回数、医学的に適しているかどうか、算定要件などの確認、「医薬品」では医薬品の名称や適応、用法用量、医学的に適しているかどうかなどの確認、「医療材料」では医療材料の名称や用法・使用量、医学的に適しているかどうかなどの確認が行われます。これらの審査で不備や疑わしいと思われる点が見つかった場合には、レセプトが差し戻されたり、診療報酬点数が減らされたりする可能性があります。

診療報酬請求に必要な手順

厳格な審査が行われ、不備があった場合には診療報酬が変わってくる可能性もあることから、レセプト請求業務は細心の注意を払いながら行われます。その大まかな流れとして、まずは診療情報をレセプトコンピューターに入力する必要があります。従来は紙のレセプトで請求が行われていましたが、業務効率化の観点から現在はほとんどの医療機関で、レセプトコンピューターによるオンラインまたは電子媒体での提出が行われています。入力後は、その内容の確認作業に入ります。医療機関の体制や規模によって異なりますが、1日単位や1週間単位で確認が行われています。また、必要に応じて医師によるダブルチェックも行われます。これらの工程を経て不備のない状態のレセプトを審査支払機関に提出します。審査支払機関への提出は、診療日が属する月の翌月の10日までに行う必要があります。

診療報酬改定の頻度や流れ 

診療報酬は基本的に2年に一度改定されると説明しましたが、そのほかにも改定される場合があります。ここでは、そのような改定頻度や流れについて解説します。

診療報酬の改定頻度は?

医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤報酬は原則2年に1回の頻度で改定されます。また、介護報酬は3年に一度改定されます。

診療報酬が改定されるまでの流れ

診療報酬改定のための動きは、約1年前から始まっており、まずは中央社会保険医療協議会が課題の整理や調査を行います。その後内閣による骨太方針が決定したことを受け、社会保障審議会(医療保険部会・医療部会)が診療報酬改定の基本方針を議論していきます。これは主に改定前年の9月頃に行われます。その後12月頃には内閣による国の予算決定と診療報酬全体の改定率決定がなされ、同時期に社会保障審議会(医療保険部会・医療部会)が基本方針を決定します。これらを受けて中央社会保険医療協議会は1月ごろから詳細の議論を開始し、2月には詳細が決定されます。その後は、3月に疑義解釈、4月に診療報酬改定という流れとなります。

3つのパターンがある診療報酬改定

診療報酬改定には3つのパターンがあり、2年に一度行われている改定は通常改定と呼ばれます。そのほかには同時改定と消費増税による改定があり、消費増税による改定はその名の通り、消費税が上がったタイミングで行われるものです。同時改定に関しては、6年に一度行われます。これは、2年に一度の通常改定と、3年に一度の介護報酬の改定が重なったタイミングで行われます。

まとめ

診療報酬について解説しましたが参考になったでしょうか。「名称や意味はなんとなく理解していたけれど、その具体的な役割やそれにまつわる業務などについては知らなかった」という方が多いかもしれません。これを機会にぜひ2年に一度の診療報酬改定のニュースなどにも目を向け、知識を深めていっていただければと思います。