病院が赤字になる理由とは?黒字化するための4つのポイントを解説!
多くの病院経営者にとって、赤字経営に陥らないための対策は必須です。そもそも、なぜ病院経営が赤字になりやすいのか、その理由がわからなければ適切な対策をとることも難しいでしょう。
そこで本記事では、
- 病院が赤字になる理由とは?
- 病院経営を黒字化させるポイントとは?
- 黒字化させるための具体的な対策
これらについて解説します。
近年では、約7割の病院が医業利益において赤字であるとの調査結果も出ており、対策せずして安定した病院経営を行うことは難しい環境になってきているといえます。具体的な対策事例も紹介しますので、本記事を参考に、病院経営の黒字化に役立ててもらえれば幸いです。
病院が赤字になる理由
近年の医療情勢の中、病院が赤字になる主な理由には下記のようなものが挙げられます。
- 病院経営にかかるコストの増加
- 医療保険制度による売上単価の限界
- デジタル化が進まず業務効率が悪い
- コロナ禍の影響
それぞれについて具体的に解説します。
病院経営にかかるコストの増加
人件費、医療材料費、水道光熱費や電気代の高騰が、病院経営のコスト増加につながり、赤字の原因となっています。病院経営にかかるコストの中で、大きな割合を占めるのが、医師や看護師、検査技師などの給与として支払う人件費です。
多くの病院では慢性的な人手不足のため、医療従事者の一人ひとりにかかる仕事量が多くなる傾向にあります。そのため、激務に耐えきれず離職者がでれば、さらに人員補充のための採用費が発生してしまいます。離職率の高い病院の場合は、採用費削減のための労務管理対策が急務となります。
近年は、医療材料費や水道光熱費などの高騰も深刻な状況です。この背景には、ここ数年の急激な為替変動、新型コロナウイルス感染症の蔓延、ロシア・ウクライナ問題などの不安定な世界情勢の影響による、エネルギーコストの上昇があります。
エネルギーコストの上昇は、病院で使用する水道光熱費や電気代の高騰に直結します。病院のように規模が大きく医療機器の多い施設では、その影響度合もさらに高くなります。
また、エネルギーコストは医療材料費にも影響を与えます。医療材料費を販売する企業によっては、海外からの原材料仕入費、輸入費用の高騰が要因で、病院に納品する医療材料の価格を値上げせざるをえない状況になっています。
医療保険制度による売上単価の限界
病院の売上の大半を占める診療報酬は売上単価が固定されているため、これが病院経営の赤字の原因になっている場合があります。
病院の医業としての売上収益は「診療報酬平均点数×患者数」で計算できますが、医療保険制度により、どれだけコストをかけて医療を提供しても、診療報酬が増えることはありません。
2年に1度行われる診療報酬改定を待つにしても時間を要しますし、そもそも改定内容が自院にとって有利なものになるかはわかりません。
医療材料費などが高騰したコストの増加分を補うためには、患者数を増やすしか方法がない状況といえるのです。
デジタル化が進まず業務効率が悪い
2020年の厚生労働省の報告から、一般病院の約4割が電子カルテを導入しておらず、紙カルテで診療を行っていることが分っています。
紙カルテは、同時に作業ができなかったり、手書きによる書き間違いや読み間違いなどのミスが発生したりするなど、その業務効率の悪さが懸念されています。その結果、スタッフの長時間労働で残業代がかさんでしまい、コストが増加してしまう可能性もあります。
コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症の影響により、赤字化に転じた病院は数多くあります。
新型コロナウイルス感染症に罹患した患者さんへの対応は、感染力の強さや重症化のリスクから、専用病棟への隔離や専任看護師の配置、治療に必要な医療機器の設置など、特別な対策が必要でした。その分のコスト増加が、病院の経営を圧迫し赤字化につながりました。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会から公開されている「病院経営定期調査」によると、医業利益で赤字になっている病院の割合の年度推移は下記のようになっており、新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年度から増加し、7〜8割以上にのぼっています。
- 2018年度:64.0%
- 2019年度:62.2%
- 2020年度:82.9%
- 2021年度:75.7%
- 2022年度:83.8%
(参考:2023年度病院経営定期調査 概要版)
統計データからみる病院経営の現状
2023年度の「病院経営定期調査」によると、入院や外来の患者数が増え売上は上がったものの、医療材料費や医薬品費、水道光熱費などのコスト増加が顕著で、利益率は減少する結果となっています。
(参考:2023年度病院経営定期調査 概要版)
病院経営を黒字化させる4つのポイント
ここでは、病院経営を黒字化させるポイントを4つ紹介します。
- 業務効率を改善してコストを抑える
- 人件費の最適化
- 集患や増患の対策をする
- 業務のIT化を進める
これらは、一朝一夕にできるものではなく、初期投資の費用も必要になりますが、経営が上手くいっている病院の共通点でもありますので、ぜひ参考にしてみてください。
業務効率を改善してコストを抑える
病院内で発生している様々な業務を効率化させ、不要なコストを削減することが黒字化につながります。
- コストの内訳を把握して無駄をなくす
- 既存業務の見直しを行い、効率化のための対策を検討する
特に病床数の多い病院では、コストの種類が多く、さらに金額も大きいため、全てを管理するのは大変です。多忙な毎日の中で、業務改善のための時間と労力を捻出することも難しい状況でしょう。しかし、医師一人当たりの対応できる患者数にも限界があるため、集患率を上げて収益全体を大きく伸ばすのは難しいというのも事実です。そのため、いかに不要なコストを削減できるかがポイントになります。
人件費の最適化
適切な人員配置と勤務体系の見直しによって、人件費を最適化させることが大切です。
コストの約半分は人件費が占めています。業務効率の見直しを行う中で、過剰な人員配置をしているケースも見つかるかもしれません。
長時間労働が続くと、残業代などの人件費が増えるだけでなく、スタッフが疲弊して離職につながる可能性もあります。
業務効率化で、スタッフ一人当たりの生産性を上げていくことが大切です。
集患や増患の対策をする
患者さんを増やす対策も、病院経営を黒字化させるために重要です。
地域のニーズに応える医療サービスの提供や、特定分野を専門として集患することも必要でしょう。
病院の経営戦略を見直し、近隣の競合病院との差別化がポイントになります。
業務のIT化を進める
業務効率が悪いと、患者さんの待ち時間が長くなったり、人的ミスでクレームが発生したりして、患者さんからの口コミ評価が悪化する可能性があります。
IT化で、業務効率化が進めば、スタッフの患者さんへの接遇面が改善され、患者さんの満足度向上も期待できます。さらに、業務のIT化では、無駄な人件費削減も見込めるでしょう。
病院経営を黒字化させるための具体的な対策
前述した病院経営を黒字化させるためのポイントを踏まえて、具体的な対策事例を紹介します。
電子カルテの導入
電子カルテを導入することで、業務効率の改善が期待できます。
電子カルテは、診療録を一元管理できるので、検査結果から診察内容や治療方法、処方薬の情報までタイムリーに共有することができます。
紙カルテは、管理に時間がかかり、スタッフの業務時間が長くなることで、結果的にコスト増加につながる傾向にあります。
導入するための初期費用や、導入後の新しい操作に慣れるまでの時間はかかりますが、中長期的なコスト削減を考えると電子カルテを導入するメリットは大きいといえます。
予約や呼び出しシステムの導入
予約や呼び出しシステムを導入することで、患者さんの待ち時間の負担軽減につながります。その結果、病院への満足度が向上し、口コミ評価が上がれば、集患にもつながるでしょう。
病院のクレームで多いのが「長い待ち時間」に関するものです。呼び出しシステムを導入すれば、患者さんは病院外でも待ち時間を過ごすことができるので、心理的な負担を軽減できます。
「長い待ち時間」が原因でクレームが発生した場合、その対応のためにスタッフの時間が取られてしまい、ほかの業務が止まってしまいます。予約や呼び出しシステムの導入は、患者さんの負担軽減だけではなく、スタッフの業務効率改善も期待できる対策です。
キャッシュレス決済の導入
クレジットカード、スマホのQRコード決済を導入することで、業務効率の改善が期待できます。
キャッシュレス決済には、現金管理にかかっていたコストの必要がなくなる、接触感染のリスクがなくなる、手数料が無料の決済もあるといったメリットがあるにもかかわらず、導入している医院はまだまだ少ないのが現状です。また、患者さんの利便性の観点からも、導入するメリットは大きいと考えられます。
勤怠管理や報告業務のIT化
勤怠管理や報告業務などのバックオフィス業務をIT化することで、スタッフの業務負担を軽減することが可能になります。
勤怠管理システムは、スタッフの労働環境が適正かの確認や、残業代の支給などに有用なシステムです。日本の病院やクリニックでは、スタッフの労働時間が守られていないというケースも少なくありません。労働環境が改善されないままでいると、労働基準監督署から是正勧告を受けることにもつながってしまいます。
また、報告業務をIT化することができれば、スタッフが多忙な業務の中で報告のためだけに時間を割いて集まる必要がなくなり、履歴が残るため、報連相のヌケモレも防ぎやすくなります。
スタッフが離職しない環境づくり
スタッフが離職しない環境づくりも大切です。働きやすい環境を整えることがスタッフの業務効率と生産性を高め、病院の収益性を改善することにもつながります。そのため、離職率を下げ優秀な人材に長く働いてもらうことも重要なポイントになります。
給与面や福利厚生を見直し、良好な人間関係を築ける環境づくりが大切です。また、休職後の復帰支援なども必要でしょう。
地域クリニックとの連携
近隣のクリニックと病診連携することは、集患対策において大切です。
病院が近隣のクリニックから連携先として必要とされるためには、どのような医療を病院に求めているのか、ニーズを知らずして応えることは難しいでしょう。病院としては、クリニックからの紹介患者を増やすこと、クリニックとしては、紹介した患者さんが完治して戻ってくることを期待するでしょう。
入院や専門的な治療が必要な患者さんは病院が担当し、かかりつけ医としての定期的な診察はクリニックが担当するといった、それぞれの役割に応じた連携をすることが必要です。
ホームページやSNSで情報発信をする
ホームページやSNSで、病院の情報を発信することも必要です。受診する前に、インターネットで病院のことを調べる患者さんが増えています。診察をしてくれる医師の情報、院内の様子、通院するまでの交通手段などはもちろんのこと、入院予定の患者さんの場合はどのような入院手続きがあるのかを、インターネットで事前に調べることが一般的になっています。
病院の情報をわかりやすく発信することは、患者さんの安心感にもつながります。また、ホームページは、スタッフの採用活動にも役立ちます。病院内の明るく柔らかい雰囲気が伝われば、スタッフ募集への応募者数を増やす効果も期待できるでしょう。
編集部まとめ
この記事では、病院が赤字になる理由、黒字化させるための4つのポイント、具体的な対策事例を紹介しました。
一般的に、赤字になっている病院は、コストがかかりすぎていることが原因になっているようです。そのため、病院経営の黒字化には、複数の業務課題への対応と対策が必要です。コスト削減と業務効率化、さらには集患効果の高い医療サービスの提供が鍵となります。