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開業医の年金事情について解説|勤務医との違いや必要な老後資金に備える方法

                   
投稿日: 2025.01.31
                   

永藤 貴弘

ビジョンシード会計事務所 公認会計士・税理士

2007年上智大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入所致しました。トーマツでは会計・税務領域の支援だけではなくIPO支援、PwCにて事業再生コンサルティング、金融系バイアウトファンドにて当事者として事業承継・企業価値向上に取り組んで参りましたので、多面的に依頼企業様のご相談に対応することが可能です。専門家というよりも壁打ち役としてお気軽にご相談ください。

開業医の方や開業を検討している勤務医の方の中には、老後資金や年金事情など、老後への不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
ここでは開業医と勤務医の年金制度の違いや、老後資金の備え方について解説していきます。

医師の年金事情

医師の年金事情は、そのキャリアパスの多様さから一般的な職業に比べて複雑に感じられることが多いかもしれません。そこでまずは一般的な年金の仕組みと、開業医と勤務医が加入する年金制度の違い、また受給額の差についても解説します。

年金の仕組みを教えてください。

年金には大きく分けて「厚生年金」と「国民年金」があります。

「厚生年金」とは会社勤めの方が加入する公的年金であり、その保険料は会社と折半したうえで給与から天引きされる仕組みです。勤務医はこちらの厚生年金に加入するのが一般的です。

「国民年金」とは個人事業主や自営業の方が加入する公的年金で、保険料はすべての加入者が一律で16,980円(月額)* です。個人で全額支払うため負担が大きく感じられますが、確定申告の際には支払った分を所得控除として申告でき、納める税金の額を抑えられるというメリットがあります。開業医はこの国民年金に加入するのが一般的です。

(*参考:国民年金保険料|日本年金機構

厚生年金と国民年金の受給額の違いを教えてください。

国民年金は20歳から60歳までの保険料をすべて納めると、満額の68,000円(月額)が支給されますが、2022年時点での平均受給額は約56,000円(月額)*にとどまっています。

一方、厚生年金は収入や加入期間によって受給額が異なります。2022年時点での平均受給額は約144,000円(月額)*です。

このように、平均でも2.5倍以上の差になっています。
なぜこの差が生まれるのかというと、厚生年金の保険料には国民年金の保険料も含まれているためです。その分現役時代の負担は大きいですが、受給できる額も高くなっています。

(*参考:令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省年金局

開業医の年金

開業医は年金をもらえますか?

もちろん、開業医も年金を受給することはできます。

ただし、もらえる年金の種類が変わる点に注意が必要です。
前述の通り、勤務医の方は厚生年金、開業医の方は国民年金となり加入する年金制度が異なるため、給付額も違ってきます。

開業医と勤務医の年金給付の違いについて教えてください。

開業医と勤務医の年金給付シミュレーションを見てみましょう。

実際には年齢やキャリアパスによる年収の変動によって金額も変わってきますが、それでも厚生年金に比べ、国民年金のみでは給付額が少ないことがお分かりいただけるかと思います。

40歳年収990万円の方が退職まで勤務医として勤めた場合

:1カ月あたり202,500円の給付

40歳から開業して国民年金に加入した場合

:1カ月あたり34,000円の給付
(+勤務医時代の厚生年金加入期間に応じた給付額)

開業医の老後事情

開業医の老後は安泰ですか?

一般的に、医師は平均年収が高いと言われている職業ですが、必ずしも老後が安泰とは言い切れません。

特に開業医となった場合は大幅な収入増が見込まれる一方で、クリニックの宣伝費やスタッフ採用のコスト、場合によってはコンサルタント費など、これまでは必要なかった出費も増える傾向にあります。
また長く経営を続ければその分ランニングコストが発生します。したがって、「老後資金の心配は一切しなくていい」とは言いがたいでしょう。

開業医は老後もお金がかかるって本当ですか?

開業医は、老後もお金がかかります。

開業すると個人事業主となるため、退職金という制度が存在しません。同時に定年もありませんが、医師として何歳まで働き続けられるかは自身の健康状態にもよります。

予期せぬ事情で仕事を続けられなくなると老後のために貯蓄していた資金を切り崩すことにもなりかねませんので、将来を見据えて、早めに準備をしておく必要があると言えるでしょう。

開業医の老後資金はどれくらい必要ですか?

一般的に、老後資金は夫婦でおよそ6,400万円必要だと考えられます。

65歳以降にかかる夫婦の生活費は平均で約26.8万円(月額)*とされており、その後85歳まで20年暮らした場合、約6,432万円と試算できます。
しかしこの額は、生活水準によって異なる点にも注意が必要です。
医師であれば一般的な家庭よりも生活水準が高い方が多いと思われるので、現在の生活を保つためにはいくら必要かをシミュレーションしておくことをおすすめします。

(参考:家計調査年報 2022年(令和4年)家計の概要|総務種統計局

開業医の老後資金

開業医の老後資金の備えについて教えてください。

十分な老後資金に備えるためには、基礎年金に上乗せできる私的年金制度や投資についてあらかじめ知識を得ておくと良いでしょう。

私的年金制度を利用することで、基礎年金だけでは足りない額を上乗せすることができます。

「国民年金基金」とは何ですか?

国民年金基金とは、国民年金に上乗せできる年金制度です。開業医になると国民年金へ加入し「第1号被保険者」になりますが、この第1号被保険者であることが国民年金基金の主な加入条件です。

個人事業主にとっての「厚生年金」のような位置付けであり、国民年金同様に控除の対象となる点がメリットです。

「医師年金」とは何ですか?

医師年金とは医師に特化した私的年金制度で、日本医師会を通じて加入することができます。日本医師会の会員であることが主な加入条件です。

キャリアパスが豊富で複雑になりがちな医師の老後資金をサポートすることを目的に設立された年金制度になっています。自身のキャリアに合わせて柔軟に保険料の設定ができることや、中途解約の自由度が高いのもメリットです。

「小規模企業共済」とは何ですか?

小規模企業共済とは、中小企業基盤整備機構が運営する共済制度です。
個人事業主が廃業や引退した際の資金を確保することを目的としており、個人事業主にとっての「退職金制度」とも言えます。また、「小規模企業共済」には節税効果があります。

共同経営者の要件を満たしていれば、配偶者や後継者も加入することができ、かつ、当該共済への掛金は全額所得控除の対象とすることができます。そのため、個人事業主にとっては大きな節税効果が見込める制度となります。

「個人投資」についても詳しく教えてください。

ここではiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISAについてご紹介します。
いずれも個人投資であるため、自身で金融機関や金融商品を選定し運用することになります。

iDeCo(個人型確定拠出年金)
個人で年金を運用する制度です。運用した資産は60歳以降に退職金代わりとしてまとめて受け取ることや、年金のように分割形式で受け取ることができます。

掛金は月額5,000円*といった少額からでも始められますが、年金制度の一種であるため原則60歳までは引き出すことができません。

同じ額を預貯金した場合と比較して、運用益分が上乗せされる分手元に残る資産も大きくなります。また毎月の掛金が所得税控除の対象となるなど、個人事業主である開業医にとってメリットが多いのも特徴です。

(*参考:iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等|iDeCo公式サイト

NISA
NISAには「つみたて型」と「成長投資型」の2種類があります。今回は老後資金を想定し、長期間の運用を得意とする「つみたて型」にフォーカスしてご説明します。

NISAの「つみたて型」は毎月自身で決めた額を積み立てていく運用方式です。長期間放っておいたままでも資産が増えていくため、日頃多忙な医師の方が取り入れやすいのもメリットです。

iDeCoとの違いは、積み立ての途中でも残高を引き出せる点にあります。老後だけでなくライフステージでまとまったお金が必要な時にも便利な制度です。

医師年金の仕組みについて教えてください。

積立方式を採用しており、給付は確定給付です。

医師年金は公的年金に上乗せすることで基礎年金の足りない分を補い、医師の老後の生活をサポートすることに特化した私的年金制度です。

  • 任意加入
  • 基本年金と加算年金の二階建て
  • 積立方式(確定給付)

医師年金に加入すると定額の基本年金を支払うことになりますが、将来の給付額をさらに増やしたい場合は加算年金を上乗せすることができます。加算分は一口6,000円で上限は設けられていません。

また医師年金では「積立方式」が採用されています。自身が積み立てた金額によって給付額が確定するため、老後の資金計画が立てやすいという利点もあります。
万が一運用がうまくいかなかったとしても運営側の負担で年金を支払う義務があるため、受給者にとっては安心と安定性のある仕組みと言えるでしょう。

開業医が小規模企業共済に加入する方法について教えてください。

共済サポートのサイトからオンラインで申し込むことが可能です。

ただし、小規模企業共済には加入条件があります。

  • 個人事業主であること
  • 事業の兼業などで給与を得ていないこと(雇用関係を結んでいないこと)
  • 従業員が5人以下であること

個人経営で常勤スタッフが5人以下であれば要件を満たし、加入することができます。

まとめ

個人事業主である開業医になると、

  • 国民年金への加入が必須
  • 保険料は全額自己負担
  • 厚生年金(勤務医)よりも将来の年金給付額が低い

以上のことがお分かりいただけたかと思います。
しかし医師年金などの私的年金制度や投資といった基礎年金を補完する仕組みについて知っておくと、漠然とした老後の不安も取り除けるのではないでしょうか。

特に老後資金の準備は、なるべく早い時期に始めることで最大限のリターンが得られるため、今のうちから計画しておくことをおすすめします。