医療法人の決算で必要な手続きとは?作成する書類や決算月を決める際の注意点について解説!
医療法人は、毎会計年度終了後に事業報告書等(決算届)を作成し都道府県知事に届出をしなければなりません。決算は事業の状況を正確に把握し、今後の経営方針を考える上でとても重要なプロセスです。しかし、専門的な知識が必要な上に決められた期限までに届出が義務付けられているため、煩わしいと感じている方も多いのではないでしょうか。本記事では、医療法人の決算で必要な手続きと流れ、作成する書類や決算月を決める際の注意点などについて分かりやすく解説します。
医療法人の決算とは
- 医療法人の決算とは具体的にどのような手続きがありますか?
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医療法人の決算では、事業年度の終了後に法人の財務状況を正確に把握し、今後の経営方針を考えるために、以下のような手続きを行います。
・事業報告書等の作成
・監査
・理事会での承認
・社員総会での承認
・都道府県知事への届出
・決算公告
これらの手続きを適切に行うことで、医療法人の財務状況を明確にし、透明性を担保することができます。また、決算手続きを通じて、法人の経営状況を関係者に報告し、今後の経営方針を検討する機会にもなります。
- 医療法人の決算手続きの流れを教えて下さい。
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医療法人の決算手続きは、事業年度終了後から始まります。まず、事業年度終了後2カ月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者との取引の状況に関する報告書などの事業報告書等を作成します。一定規模以上の医療法人は、これらに加えて純資産変動計算書と附属明細表の作成も必要となります。
次に、一定規模以上の医療法人は、公認会計士または監査法人による監査を受けます。監査報告書は、事業報告書等を受領した日から4週間以内に理事と監事に通知されます。そして全ての医療法人において、監事による監査が行われ、監事は事業報告書等を受領した日から4週間以内に監査報告書を理事に通知します。
監査が完了したら、理事会の1週間前までに、理事と監事に理事会の招集通知を発送します。理事会では、監査を受けた事業報告書等の承認を受けます。承認された事業報告書等は、社員総会の1週間前から事務所に備え置く必要があります。
社員総会の5日前までに、社員に社員総会の招集通知を発送します。社員総会では、理事会で承認された事業報告書等の承認を受けます。社員総会の開催時期は、多くの医療法人で5月に行われることが多いですが、一定規模以上の医療法人や該当することが見込まれる法人は、決算スケジュールに余裕を持たせるため、6月開催を検討することをおすすめします。
社員総会での承認後、決算終了後3カ月以内に、決算関係書類を都道府県知事に届け出ます。従来は紙媒体での届出でしたが、2022年4月より、医療機関等情報支援システム(G-MIS)へのアップロードによる届出が可能となりました。
最後に、一定規模以上の医療法人と全ての社会医療法人は、社員総会後に官報、日刊新聞紙、または電子公告(ホームページ)のいずれかの方法で決算公告を行います。電子公告の場合は、貸借対照表および損益計算書を承認した社員総会の終結の日の後3年を経過する日までの間、継続して公告する必要がある点に注意が必要です。
医療法人の決算書類の作成と提出
- 医療法人の決算にはどのような書類を用意する必要がありますか?
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医療法人の決算では、法人の財務状況を正確に把握し、適切な経営判断を行うために、以下のような書類を作成する必要があります。
まず、事業報告書の作成が必要です。事業報告書には、法人の概要、事業の概要、社員総会や評議員会で議決・同意した事項、当該会計年度内の主要な出来事などを記載します。これにより、1年間の法人の活動状況を取りまとめます。
次に、財産目録、貸借対照表、損益計算書を作成します。財産目録は、決算時点における法人の全ての資産、負債、純資産を一覧にしたものです。貸借対照表は、財産目録をもとに、資産、負債、純資産を対照的に表示した書類です。損益計算書は、1年間の法人の収益と費用を対比し、当期純利益を表示した書類です。
また、関係事業者との取引がある場合は、関係事業者との取引の状況に関する報告書の作成も必要です。関係事業者との取引内容、取引金額、取引条件等を記載し、取引の透明性を確保します。
一定規模以上の医療法人は、上記の書類に加えて、純資産変動計算書と附属明細表の作成も求められます。純資産変動計算書は、1年間の純資産の変動状況を表示した書類であり、附属明細表は、計算書類の内容を補足説明する書類です。
- 医療法人の決算書類はどこに提出する必要がありますか?
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医療法人の決算書類は、定款で定められた時期に、所轄庁である都道府県知事に提出します。従来は、決算関係書類を紙媒体で都道府県に提出していましたが、2022年4月からは、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じたオンラインでの提出も可能となりました。G-MISを利用することで、書類の作成や提出がより効率的に行えるようになっています。
決算関係書類の提出先は、法人の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県になります。例えば、東京都に主たる事務所を置く医療法人の場合、東京都知事に決算関係書類を提出することになります。
- 医療法人の決算書の提出期限はいつですか?
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医療法人の決算関係書類の提出期限は、原則として事業年度終了後3カ月以内とされています。つまり、3月決算の医療法人であれば、6月末までに都道府県知事に決算関係書類を提出しなければなりません。
ただし、決算関係書類を期限内に提出するためには、期限の1〜2カ月前までには決算書類の作成を完了させ、監事や会計監査人の監査を受ける必要があります。また、理事会や社員総会での承認も得なければなりません。
したがって、実務上は、決算関係書類の提出期限よりもかなり早いタイミングで決算業務に着手し、スケジュールを管理していく必要があります。特に、公認会計士等の監査を受ける医療法人は、監査の日程も考慮に入れる必要があるため、より早期から決算業務を開始するよう計画しておくのがおすすめです。
医療法人の決算時の注意点
- 医療法人が決算時に注意すべきポイントを教えてください。
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医療法人は、会社法ではなく医療法に基づいて設立された法人であるため、法人税法上の同族会社には該当しません。このことから、同族会社に関連するいくつかの規定は、一般的な医療法人には適用されない点に注意しましょう。ただし、三つ以上の病院や診療所を運営し、その半数以上が個人開設から医療法人に組織変更した事業所である場合には、同族会社等の行為又は計算の否認規定が適用される可能性があります。規模拡大を検討する医療法人は、組織変更のタイミングに気をつけるようにしましょう。
医療法人が注意すべき代表的な税務規定としては、役員給与の損金不算入があります。定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与以外の役員給与は、原則として損金に算入できません。ただし、利益連動給与を採用している医療法人はほとんどないようです。また、過大な役員給与や使用人給与も、損金不算入となる場合があります。役員の親族等に対する使用人給与についても、不相当に高額であると税務署に判断された部分は、損金不算入となります。
また、寄付金の取り扱いにも注意が必要です。国や地方公共団体、特定公益増進法人等への寄付金は全額損金算入できますが、それ以外の寄付金は一定の計算式で損金算入限度額が定められています。
- 医療法人の決算月を決める際に考慮すべきことはありますか?
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基本的に日本では3月決算の法人が圧倒的に多く、国や地方自治体の会計年度との整合性や、他法人との比較可能性の観点から3月決算を選択するのが一般的であるといえます。しかし、決算月の選択肢は3月だけに限られるわけではありません。
医療法人にとって適切な決算月を選ぶ際には、まず自院の事業の季節変動を考慮することが重要です。繁忙期に決算作業が重ならないようにすることで、本業への影響を最小限に抑えつつ、適切な税務対策を講じる時間的余裕を確保できます。
また、決算月の選定にあたっては、法人税や消費税の納付時期との兼ね合いにも留意が必要です。例えば、5月決算の場合、7月納付の労働保険料や賞与などの支払いと重なり、資金繰りが逼迫するリスクがあります。
- 医療法人の決算書類に間違いがあった場合、どうすればいいですか?
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決算関係書類に誤りが発見された場合は、速やかに修正作業に取り掛かります。影響の範囲を見極め、財務諸表や注記事項等の訂正を行い、監事や外部監査人の再監査を受けます。理事会や社員総会での再承認を経て、修正後の決算書類を所轄庁に提出し、税務署への修正申告も行います。
- 医療法人が決算後にやるべきことはありますか?
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医療法人は毎会計年度終了後3カ月以内に資産総額の変更登記を行わなければなりません。登記を行うことで、登記事項証明書にその年度の資産総額が記載されることになります。そして、登記を行った際に遅滞なく登記をしたことを都道府県知事へ届け出る必要があります。届出書類の名称や様式は都道府県ごとに異なりますが、基本的に登記の日時および登記内容を届け出ます。
また、2年に1度、役員の重任に関する手続きが必要となります。医療法人の役員の任期は2年であり、たとえ役員に変更がない場合でも、2年ごとに任期が満了します。同じ人物が続けて次の期も役員に就任する場合には「重任」となり、その届出が必要です。特に理事長の重任の場合には、登記および登記の届出も必要になります。
編集部まとめ
医療法人の決算は、法人の財務状況を正確に把握し、今後の経営方針を考える上で欠かせないプロセスです。事業報告書等の作成から監査、承認、届出に至るまで、各段階で求められる手続きを漏れなく進めていくことが重要です。決算業務を滞りなく進めるためには、経営者や事務担当者が、スケジュールや必要書類について十分に理解し、期限を守って作業を進めていくことが大切です。