開業医と勤務医の年収を比較!開業医の年収でよくある質問や儲からない開業医の4つの共通点についても解説
開業医と勤務医の違いについて、気になることの一つがそれぞれの「年収」ではないでしょうか。
開業医になるメリットや年収がわからないと、なかなか開業に踏み切れないという方も多いでしょう。
そこで、この記事では下記の3つを解説します。
- 開業医のメリットとデメリット
- 開業医と勤務医の年収の違い
- 開業医の年収でよくある質問
開業を考えている方にとって役に立つ情報を具体的に解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
開業医とは
開業医とは、個人でクリニックや病院を開設し経営する医師のことをいいます。
一般的には、医院や診療所などを一つの診療科で開業することがほとんどですが、
複数の診療科や病床を備える病院のオーナーも開業医に含まれます。
開業医のメリット
クリニック経営者となり、自身が考える理想の診療を提供して、勤務医を超える収入を目指せることがメリットです。
下記の項目が、開業医になるメリットとして挙げられます。
- 自分自身で診療方針を決定できる自由度の高さ
- 勤務医時代をはるかに超える収入を得られるチャンスがある
- 地域社会への直接的な貢献を実感しやすい
- 医療以外にも経営やマネジメントのスキルを身につけられる
開業医のデメリット
その一方で、集患率が想定したほどあがらず、経営が赤字に陥れば、最悪の場合は倒産してしまう可能性もあることがデメリットです。
下記の項目が、開業医になるデメリットとして挙げられます。
- 多額の開業資金が必要となる
- 経営が安定するまでに時間がかかる
- 患者さんの人数によって収入が増減する
- 経営やマネジメント業務など、医療行為以外の業務が発生する
- 勤務医の時にしていた研究や論文執筆がしにくくなる
開業には多額の借入金が必要となり、集患には時間を要しますので、勤務医に比べて収入が不安定になることも理解しておきましょう。
開業医の年収
開業医の年収は、患者数や標榜している診療科によって大きく変動します。
また、開業したばかりのクリニックと、何十年も経営をしているクリニックでは、借入金の返済状況やスタッフの給与額も異なるため、年収にも大きく影響してくるでしょう。
ここでは、統計データの平均値をもとに紹介します。
開業医の平均年収は2,748万円
厚生労働省の調査結果「医療経済実態調査」によると、開業医の平均年収は約2,748万円とされています。
(参考:第21回医療経済実態調査|厚生労働省)
ただし、これはあくまで平均値であり、実際の年収は診療科や地域、そしてクリニックの経営状態によって大きく変動します。
経営が上手くいっている開業医は、この数倍の収入を得ることも珍しくありませんが、その一方で経営難に陥ってしまうケースも存在します。
診療科別の平均年収
開業医の年収は診療科によっても大きく異なります。
例えば、美容外科や整形外科、小児科などの診療科では、一般的な内科や外科よりも高収入を得やすい傾向にあります。
これは、自費診療の割合が高い診療科であるか、日帰り手術などの保険点数が高い診療行為の提供が可能かどうかなどが影響します。
診療科目ごとの平均年収は下記のとおりです。
一般診療所(個人)入院診療なしの平均収益 | |
内科 | 2,424万円 |
小児科 | 3,068万円 |
外科 | 1,977万円 |
精神科 | 2,587万円 |
整形外科 | 2,988万円 |
産婦人科 | 1,834万円 |
眼科 | 1,511万円 |
耳鼻咽喉科 | 2,709万円 |
皮膚科 | 2,709万円 |
その他 | 2,355万円 |
(参考:医療経済実態調査機能別集計表|厚生労働省)
診療科別の平均保険点数
医業収入の80〜90%を占めるのが保険診療収益です。
患者さん一人当たりの平均保険点数を知っておけば、収益を得やすい診療科の目安にもなるでしょう。
下記は、地方厚生局から公開されている、2023年度東京都内の保険医療機関を集計した結果です。
平均点数が低い診療科で多くの収益を上げるためには、自由診療の組み込みや、患者数を増やす対策が重要となるでしょう。
東京都内の保険医療機関等の診療科目別平均点数一覧表(診療所) | |
内科(人工透析あり以外(その他)) | 1,389点 |
内科(人工透析あり以外(在宅)) | 2,130点 |
内科(人工透析あり) | 10,550点 |
小児科 | 1,915点 |
外科 | 1,626点 |
精神・神経科 | 1,492点 |
整形外科 | 1,437点 |
産婦人科 | 3,306点 |
眼科 | 944点 |
耳鼻咽喉科 | 1,012点 |
皮膚科 | 699点 |
泌尿器科 | 3,264点 |
(引用:令和5年度東京都内の保険医療機関等の診療科目別平均点数一覧表)
開業医と勤務医の年収の違い
開業医と勤務医の平均年収の差額は、約1,300万円にもなります。
- 個人一般診療所の平均収益は約2,748万円
- 勤務医の平均年収は約1,467万円
- 開業医と勤務医の差額は約1,300万円
(参考:第23回医療経済実態調査|厚生労働省)
ただし、個人経営のクリニックは収益から、人件費や医療材料費、家賃や水道光熱費などの経費を差し引き残った分が利益となり、そこから税金を引いた金額が開業医の年収になりますので、勤務医の収入とは構造が大きく異なることに注意が必要です。
事業所得か給与所得か
開業医の年収は事業所得になるのに対して、勤務医の年収は給与所得になります。
事業所得は、事業で得られた収益から、人件費や医療材料費、家賃や水道光熱費などの経費を差し引き残った分が利益となり、そこから税金を引いた金額が開業医の年収です。
つまり、経営を上手く効率化して、収益を増やし経費を減らすことができれば、上限なく収入を増やせることが事業所得の特徴です。
その一方で、勤務医の給与所得は比較的安定しているというメリットがあります。
勤務する病院が潰れない限りは、給与所得として安定してもらうことができます。
もし、勤務先が廃業となったとしても、他病院に移れば給与所得は継続します。
ただし、給与所得は基本的には年功序列、役職に応じて昇給する特徴があるため、事業所得のように上限なく増やしていくことは難しいかもしれません。
経費が使えるか使えないか
個人事業主である開業医は、経費を使い事業所得をコントロールすることができます。
その一方、副業をしていない勤務医は、給与所得のみとなります。
事業所得と給与所得には下記の違いがあります。
- 収益ー経費ー所得控除=事業所得
- 給与ー所得控除=給与所得
開業医は、事業に関係する購入費用であれば、経費として認められます。
必要経費として認められるかどうかの判断が難しいものもありますが、上手く活用することで事業所得を抑えることができ節税に繋がります。
そのため、個人事業主の開業医の実際の年収は、統計結果と差があるかもしれません。
<経費として認められるものの例>
- 学会や講演会の参加に必要な旅費交通費
- 往診で使用している車両代やガソリン代
- 同業者との情報交換や懇親目的の交際費
- 取引業者との打ち合わせ食事代
開業医の年収でよくある質問
開業医の年収に関わる、よくある質問にお答えします。
- 開業医として年収1億円は稼げる?
- 都市圏と地方だと、どちらが稼ぎやすい?
- 儲かる開業医の特徴は?
- 逆に儲からない開業医の特徴は?
開業医として年収1億円は稼げる?
自由診療をメインにしたり、医療法人化して事業を拡張すれば、年収1億円を目指すことはできます。
ただし、自由診療をメインにするにも、自由診療そのものが一般化していない診療科では収入の柱とするのは難しいでしょう。
美容外科や整形外科などでは、高額な自費診療が普及しているので、自由診療で稼ぎたいなら有利な診療科とも言えます。
また、医療法人化して事業拡張をすることで年収1億円を目指せますが、その分リスクも伴います。
分院を開設するにしても、新たな開業資金が必要になりますし、分院で診療をする医師を雇う人件費もかかります。スタッフの人件費や医療機器・材料も同様でしょう。
安定して集患するためには、綿密な市場調査と患者さんの満足度を高めるサービスの提供も不可欠です。
年収1億円を超える開業医は確かに存在しますが、それ相応のリスクも覚悟して事業を行わなければなりません。1億以上稼ぐのは例外的な成功例と考えてよさそうです。
都市圏と地方だと、どちらが稼ぎやすい?
都市圏と地方では、それぞれメリットとデメリットがありますので、どちらが稼ぎやすいとは一概にはいえません。
都市圏では患者数が多く、高い集患率を見込めることが利点として挙げられますが、同時に競合も多く、ほかのクリニックとの差別化が成功の鍵となります。
また、テナントで開業するのなら、賃料などの固定費、スタッフの人件費が地方よりも高くなるので、集患率と必要経費のバランスをみてよく検討することが大切です。
その一方で、地方は競合のクリニックが少ない分、地域に密着したサービスを提供しやすく、患者さんとの強い信頼関係を築きやすいでしょう。
人口が少ないところであれば、患者数が限られているため、地域のニーズを正確に把握し、それに応えていくことが求められます。
結局のところ、どちらが稼ぎやすいかは、医師の専門性、経営戦略、そして地域の特性をどれだけ理解し活用できるかがポイントになります。
儲かる開業医の特徴はある?
儲かる開業医には、下記の共通する5つの特徴があります。
- クリニックの強みや独自性を打ちだして医療を提供している
- 周辺クリニックの状況を把握して、競合と差別化できている
- 地域ニーズを満たす医療を提供し、口コミやネットのレビューで高い患者満足度を得ている
- 経営の知識をもって効率的にクリニック経営をしている
- 先進的な医療機器の導入やDX化で業務を効率化している
開業している地域のニーズに合った医療を提供し、患者さんだけでなく働いているスタッフも含めて、満足度の高い経営を行えていることが儲かる開業医の共通する特徴です。
儲からない開業医の特徴とは?
儲からない開業医にも共通する4つの特徴があります。
- 経営スキルが身についていない
- 目先の細かい利益ばかりを追っている
- 明確に運営方針を示していない
- スタッフやパートナーと連携がとれていない
それぞれについて詳しく説明します。
経営スキルが身についていない
開業医が経営スキルを身につけていないクリニックは儲からない可能性があります。開業医は、診療に加えて経営業務を行わなければなりません。導入する医療機器の選択や集患対策のための広告・宣伝、スタッフの採用活動など、さまざまな場面で判断能力が問われます。経営スキルが身についていないと、クリニックの経営は不安定になり、安定した収益を獲得することは難しくなるでしょう。
目先の細かい利益ばかりを追っている
目先の細かい利益ばかりを追っている開業医は、儲からない傾向にあるといえます。クリニックの経営には、医療機器のリース代や物件の賃料、スタッフの給与など、多額の費用がかかります。儲からない開業医はどうやって費用を抑えて、目先の利益を上げるかばかりを考えてしまいがちです。一方で、儲かる開業医はそのような費用を先行投資として捉えており、現在だけではなく将来に焦点を当てているため、事業拡大などの打ち手を講じやすいのです。
明確に運営方針を示していない
明確に運営方針を示していないクリニックは、儲からない可能性があります。どのような患者層に、どんな治療を提供していくかなど、運営方針が明確に示されていないと、クリニックの方向性が定まらず、スタッフの認識が統一されません。また、開業医による運営に対する指示も筋が通ったものでなくなってしまい、結果として患者満足度まで低下してしまうことがありえます。スタッフが働きやすく、患者さんの満足度が高い院内環境を実現するためにも、運営方針は明確に定め、常に見直すようにしましょう。
スタッフやパートナーと連携がとれていない
スタッフやパートナーと連携がとれていない開業医は、儲かりにくい傾向にあるといえます。クリニックには看護師や医療事務など、様々な職種のスタッフが勤務しているため、開業医とスタッフ、スタッフ同士の連携は重要です。コミュニケーションが取れておらず、開業医とスタッフの関係性が悪くなっていると業務に悪影響を及ぼしてしまいます。また、開業医は税理士や弁護士など外部のパートナーとも連携を取る必要があります。特に、クリニック経営の財務面に関する業務で連携する税理士とは密にコミュニケーションを取る必要があるでしょう。
編集部まとめ
この記事では、開業医になるメリット・デメリット、開業医と勤務医の年収の違い、開業医の年収でよくある質問を解説してきました。
勤務医から開業医になると、年収アップが期待できますが、その一方で、開業資金の借入金や廃業のリスクを背負うことにもなり、クリニック経営のためのマネジメントや事務作業など業務負担も増えます。
満足のいく将来設計のためには、働き方や年収は大切な要素となりますので、本記事を参考に、最善の選択ができることを願っています。