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クリニック開業時に必要なリサーチとは?ポイントや方法を解説します

                   
投稿日: 2025.12.10
更新日:2025.12.03
                   

近年、医療機関の競争が激化しており、開業前は競合や患者層、立地などのリサーチが欠かせません。

本記事では、開業時に必要なリサーチの種類や具体的な進め方、押さえておくべきポイントを解説します。

クリニック開業時のリサーチが重要な理由

クリニック開業時のリサーチが重要な理由

クリニック開業の成否は、どれだけ綿密にリサーチを行えるかにかかっています。

事前の調査を丁寧に行うことで、開業後の経営リスクを減らし、安定した集患と運営につなげることができます。

リサーチによって得られる主なメリットは次のとおりです。

  • 地域ニーズの把握:その地域で求められている診療科やサービスを明確にできる
  • 競合分析:近隣クリニックとの違いを打ち出し、効果的な差別化戦略を立てられる
  • 立地・導線の適切化:アクセスのよさや患者さんの動線を考慮し、通いやすい環境を整えられる
  • 経営計画の精度向上:実態に基づいた収支シミュレーションで、無理のない経営を実現できる

開業準備の第一歩として、リサーチは成功の土台を築く重要な工程です。

リサーチの前に整理しておくべきもの

リサーチの前に整理しておくべきもの

クリニック開業のリサーチを始める前に、自院の方向性を明確にしておくことが大切です。

クリニックとして大切にしたい理念

まずはどのような想いで、どのような医療を提供したいのかを言語化します。

地域に根ざした医療、専門性を活かした診療、働く世代を支えるクリニックなど、理念は今後のすべての方針決定の軸になります。どういった患者さんに来てもらいたいのか、どのようなスタッフに働いて欲しいかといった観点から、理念を決定するとよいでしょう。

診療科目と提供したい医療サービスの範囲

診療科目や提供サービスを明確にすると、ターゲットとなる患者さんの層を絞りやすくなります。ただし、首都圏と地方では求められる医療ニーズが異なる点に注意が必要です。

ターゲットにしたい患者層

ターゲットとする患者さんの層を明確にしておくことも重要です。

ターゲットを具体的に想定するほど、立地や内装、サービス設計が現実的になります。例えばシニア層をターゲットにする場合、温かみのある外観や内装、バリアフリーが徹底された内装というように、ターゲット層に合わせたコンセプトでクリニックを設計できます。

通院頻度や収益モデル、運営方針のイメージ

患者さんにどのくらいの頻度で通院してもらうのかを想定し、1日あたりの来院数をもとに収益モデルを設計します。

また、運営方針として予防医療に力を入れる、特定の科に特化した外来を設けるなどの方向性を定めておくと、自然と集客戦略や経営計画の骨格が見えてきます。

クリニック開業時に必要なリサーチの種類

クリニック開業時に必要なリサーチの種類

開業時に行うべきリサーチの主な種類と、その具体的な方法について解説します。

診療圏リサーチ

診療圏リサーチとは、どの地域から、どのくらいの患者さんが来院する可能性があるかを分析する調査です。

地域の人口構成や競合状況を把握することで、開業地選びの精度を高め、安定した経営基盤を築くことができます。

競合医院の調べ方

競合状況の把握には、オンライン調査と現地調査の両方を行うのが理想です。

オンラインでの調査は、次の3つの方法が挙げられます。

  • Googleマップ検索:「内科 〇〇市」「〇〇内科 〇〇駅」などで検索し、医院の数や分布を確認
  • 病院の評価サイト:Googleマップやポータルサイトなどで診療科や評価、診療時間をチェック
  • 厚生労働省の医療機関情報提供システム:都道府県ごとの登録医療機関を一覧で確認可能

現地調査では、実際にエリアを歩き、看板や通行量、アクセス動線を確認します。

特に、コンビニやスーパー、駅前ビルなどの生活動線上にあるクリニックは、患者さんの流れをつかむうえで参考になります。

推計来院患者数の算定方法

リサーチの目的は、開業後の患者さんの数の見込みを立てることです。来院患者数の推計は、以下の式で算出できます。

推計来院患者数 = 商圏人口 × 受診率 × 市場シェア

商圏人口とは、実際に通院が見込まれる範囲の人口です。国勢調査やRESAS(地域経済分析システム)で年齢別人口を確認し、高血圧や糖尿病の多い中高年層など、ターゲット層に合わせて算出します。都市部では半径500〜800m、郊外では1.5〜3kmを目安にするのが一般的です。

受診率は、診療科ごとの年間受診率です。厚生労働省の統計データを用いると信頼性が高まります。

市場シェアは、商圏内で自院がどの程度のシェアを得られるかを示す値で、一般的には競合医院数から次のように算出します。

市場シェア = 1 ÷(同診療科の競合医院数+1) × 差別化係数

差別化係数には、専門性や利便性、駐車場の有無や予約システムなどを考慮し、自院の強みを反映させるとより現実的な推計になります。

参照:

『令和5年(2023)患者調査の概況』(厚生労働省)

『医療機関を場所で探す(全国)』(厚生労働省)

地域ニーズのリサーチ

地域ニーズでは、まず開業エリアの人口構成を調べ、ターゲットとなる患者さんの層がどの程度存在するかを把握します。

国勢調査やRESASなどを利用すると、年齢別・世帯構成別の人口データが確認できます。

例えば、高齢の方の人口が多い地域では生活習慣病や整形外科系のニーズが高く、子育て世帯が多い地域では、小児科やアレルギー科などが求められやすい傾向があります。

参照:

『令和7年 国勢調査』(総務省統計局)

『RESAS 地域経済分析システム』(内閣府 地方創生推進室 ビッグデータチーム) 

人口構成や生活動線の把握

次に、近隣の医療機関の数や診療科目の分布を調べましょう。医療機関の数と診療科目の分布は、競合分析にとどまらず、地域全体の医療バランスを知るためにも役立ちます。

例えば同じ診療科のクリニックが密集している場合は、診療時間をずらす、特定の科に特化した外来を設けるなどの差別化が必要です。

これらの情報は、市場シェアの算定や開業後の集患戦略にも直結します。

現地調査とオンライン情報の両方を活用し、地域にどのような医療が求められているのかを客観的に把握することが成功のポイントです。

高齢化率や将来推計人口の確認

開業予定地の高齢化率や将来の人口推計の確認も必要です。国内では地域によって高齢化の進行に大きな差があり、特に高齢の方の人口が多いエリアでは、訪問診療や在宅医療、慢性疾患フォローなど、一歩進んだ医療サービスが求められます。

また、今後人口減少が見込まれる地域では、長期的な集患計画や診療科の柔軟な運営体制を検討する必要があります。短期的な開業成功だけでなく、10年先を見据えた経営戦略を策定しましょう。

物件に関するリサーチ

クリニックの立地は、患者さんの利便性と経営安定を左右します。

次のような項目を事前に調査しておきましょう。

  • アクセス:駅やバス停からの距離、通勤動線上にあるか
  • 交通量と視認性:前面道路の交通スピードや信号位置、看板の見やすさ
  • 駐車場の有無:近隣のコインパーキングの数や利用しやすさ
  • 建物の構造:階数、エレベーターの有無、バリアフリー対応の可否

なお2階以上のテナントの場合は、高齢の方やベビーカー利用者の来院しやすさに直結するので、エレベーターの有無が重要です。

マーケティング手法や集客方法に関するリサーチ

開業時には、どのように認知され、選ばれるクリニックにするかを明確にすることが大切です。

自院の理念や強みを軸に、マーケティング戦略と集患動線、広報手段を検討しましょう。

  • 周辺クリニックの集患方法を分析し、重複を避ける
  • SNSやホームページ、Googleビジネスプロフィールなど、デジタルツールを活用
  • 地域イベントや健康講座などによるリアルな接点づくり

どの手法を選ぶかは理念とターゲット層によって異なります。

例えば働く世代を対象とするならオンライン予約や夜間診療、地域密着型であれば病院の評価や地域情報誌の掲載などが効果的です。

資金調達や融資に関するリサーチ

開業に必要な初期費用は、立地や規模、設備内容によって大きく異なります。

年齢と年収、勤務歴や健康状態などをもとに、銀行からの融資がどの程度可能かを早めに確認しておき、以下の要素を整理して無理のない資金計画を立てましょう。

  • 診療機器の購入・リースの比較
  • 運転資金の見込み期間(開業後6ヶ月分が目安)
  • 自己資金の比率と返済シミュレーション

複数の金融機関や自治体の開業支援制度、補助金を比較検討するのがおすすめです。

必要な許認可の取得や法人設立に関するリサーチ

クリニック開業には、各種許認可や届出が必須です。

事前にスケジュールを立て、漏れのないよう確認しましょう。都道府県や自治体によって要件が異なる場合もあるため、行政書士や開業コンサルタントに早めに相談してスケジュール管理するのがおすすめです。

クリニック開業時のリサーチのポイント

クリニック開業時のリサーチのポイント

クリニック開業においては、データや統計情報の分析だけでなく、患者さんの生活目線に立ったリサーチが欠かせません。

患者さん視点でのニーズを把握する

開業を成功させるためには、まずどのようなクリニックがこの地域で求められているかを患者さんの立場で考えることが重要です。ターゲットとなる年齢層やライフスタイルに応じて、必要とされる診療内容や診療時間は異なります。

例えば、働く世代が多い地域では夜間診療や予約制の導入が効果的であり、高齢の方が多い地域では通いやすさや家庭的な雰囲気が重視されます。

周辺住民の受診行動と日常動線を考える

患者さんがどのような経路で生活しているかを理解することも大切です。

駅から自宅までの帰り道、買い物のついでに立ち寄れるスーパーの近くなど、生活動線上にあるクリニックは自然と受診につながりやすいと考えられます。

開業候補地を選ぶ際は、駅やバス停、スーパーなどとの位置関係を意識して検討しましょう。

地域ごとの医療に対する価値観の違いを踏まえる

医療に対する期待や求められる診療スタイルは、地域によって異なります。

都市部では専門性の高さやスピード感のある診療が求められる傾向があり、地方では総合的に幅広く診る姿勢や、地域に寄り添う対応が重視されます。

地域の文化や住民の価値観を理解し、それに合ったコンセプトを打ち出すことが成功の鍵だといえます。

数字だけに頼りすぎない

統計データや推計数値は重要な指標ですが、数字だけに頼りすぎると、地域の本質的なニーズや患者さんの行動心理を見落としてしまうおそれがあります。

「人口が多い=患者数が多い」とは限らず、生活リズムや通院習慣、地域コミュニティのつながり方など、数字では表せない要素が診療の成果を左右することもあります。実際に開業予定地を自分の足で歩き、人流や雰囲気、生活リズムを感じ取ることが大切です。

数字で見えるデータと、現場で感じ取る空気感や人の動きを合わせてとらえることで、より実態に近いリサーチが可能になります。データで裏付けを取りながら人の流れと心の動きを読むという視点で柔軟に判断することが、長く地域に根ざしたクリニック経営へとつながります。

クリニック開業時のリサーチを専門家に依頼する方法

クリニック開業時のリサーチを専門家に依頼する方法

開業準備では、時間や情報収集の手間を軽減するために、専門家へリサーチを依頼するという選択肢もあります。専門家のサポートを受けることで制度面や経営面の見落としを防ぎ、より現実的な開業計画を立てることができるでしょう。

医療系のリサーチ会社やコンサル会社に依頼する

医療業界に特化したリサーチ会社や開業コンサルティング会社では、診療圏調査や競合分析、患者さんの動向の把握など、専門性の高いデータ分析を行っています。

医療制度や診療報酬の仕組みに精通しているため、信頼性の高い調査が期待できます。多くの会社では、開業地の候補選定から経営計画書の作成支援までトータルでサポートしており、初めての開業でも安心感をもって進められるのがメリットです。

医療卸会社が提供するコンサルサービスを活用する

医療機器の販売を行う卸会社のなかには、開業支援部門を設けている企業もあります。

こうした企業では、立地選定や診療圏調査、機器選定や内装業者紹介などをワンストップで支援してくれる場合があり、必要な機器をどの範囲まで導入できるか、初期費用をどこまで抑えられるかといった、実務的な視点でのサポートを受けられるのが特徴です。

不動産会社が提供するコンサルサービスを活用する

医療モールやクリニック向け物件を多く扱う不動産会社では、商圏データや交通量データをもとに、立地選定に特化した提案を行っています。

同エリアの競合状況や人口動態を分析したうえで、どの場所なら来院が見込めるかをデータに基づいて提案してもらえる点が強みです。

また、医療モールの空き区画や新築物件など、一般には出回りにくい情報を得られる場合もあります。物件選定を進める際は、医療案件に詳しい担当者がいるかどうかも確認しておくとよいでしょう。

まとめ

まとめ

クリニック開業を成功させる鍵は、戦略性のあるリサーチにあります。昨今のクリニック開業には戦略が必須です。綿密なリサーチで、開業後の運営をスムーズに進めていきましょう。

【参考文献】