TOP > 開業の準備、開業とは > クリニックのブランディング戦略|具体的施策と実践方法、よくある失敗を解説

クリニックのブランディング戦略|具体的施策と実践方法、よくある失敗を解説

                   
投稿日: 2026.02.27
更新日:2026.02.23
                   

医療を取り巻く環境が大きく変化するなかで、クリニックのブランディングの重要性が高まっています。クリニックは、医療技術や設備などの要素だけで差別化を図ることが難しいため、理念や患者さんの体験を通じたブランディングが重要です。

本記事では、クリニックのブランディングの考え方から重要性、実践手順、院内外での施策例、よくある失敗と対策まで解説します。

クリニックにおけるブランディングとは

クリニックにおけるブランディングとは

クリニックのブランディングは、数ある医療機関のなかから自院を選んでもらうために、価値や特徴を明確化し、一貫して伝える取り組みです。

ブランドは診療方針、スタッフの対応、院内の雰囲気、情報発信の姿勢など、患者さんが接触するすべての要素を通じて形成される、クリニックの一貫した印象のことです。クリニックのブランディングの意味と、混同されやすいマーケティングとの違いを解説します。

ブランディングとは

ブランディングとは、自院が「どのようなクリニックなのか」を明確にし、価値を継続的に伝え、選ばれやすい状態をつくることです。

ブランドの語源は、他人のものと区別するために牛に押した”焼印”にあるとされています。クリニックのブランドは、医療技術や専門分野だけで決まるものではありません。診療時の説明の丁寧さ、スタッフの応対、院内の清潔感、WebサイトやSNSでの情報発信など、患者さんが体験するすべての接点がブランドの形成に影響します。

ブランディングとマーケティングの違い

マーケティングは来院につながる仕組みづくり、ブランディングは選ばれ続けるための土台づくりです。

マーケティングとは、商品やサービスが顧客に届くまでのプロセスを設計し、利用されやすい状態をつくる活動全般を指します。クリニックでは、診療内容の設計、価格設定、導線、予約方法、広告や情報発信などがマーケティングに該当します。

ブランディングによって、クリニックとしての姿勢や価値観が明確になると、患者さんだけでなく、スタッフや求職者、地域社会との信頼関係も築きやすくなります。

ブランディングによって信頼の基盤を整え、マーケティングによって価値を適切に届けることで、クリニックのブランドが醸成されます。

クリニックでブランディングが重要な5つの理由

クリニックでブランディングが重要な5つの理由

診療内容や価格だけで差別化を図ることが難しい現在、クリニックとしての考え方や姿勢、体験全体を通じた一貫した印象づくりが、経営や運営に大きな影響を与えます。ここでは、クリニック経営でブランディングが重要な理由を解説します。

競合との差別化が図れる

日本の公的医療の枠組みのなかでは行える医療対応は規制されているため、診療内容や価格だけでの差別化には限界があります。そのため、診療方針、専門性、地域との関わり方、患者さん対応の姿勢などを整理し、ブランドメッセージとして明確に打ち出すことが重要です。

患者さんさんから選ばれやすくなる

ブランディングによってクリニックの考え方や姿勢が一貫して伝わることで、患者さんは安心して任せられる医療機関かどうかを判断しやすくなり、初診時の心理的ハードルも下がります。結果として、他院と比較した際に特徴が伝わりやすくなり、受診先として選ばれやすくなります。

リピーターを獲得しやすくなる

ブランドは、来院動機だけでなく、継続利用の理由になりえます。診療体験とブランドメッセージが一致している場合、患者さんは「期待どおりの医療を受けられた」と感じやすくなります。結果として信頼関係が構築され、継続利用につながります。

採用、人材の定着が容易になる

ブランディングは、患者さんだけでなく職員に対しても大きな影響を持ちます。医療機関では、職員一人ひとりの行動や意識が、そのままブランド体験として患者さんに伝わります。そのため、ブランド価値を職員に浸透させるインターナル・コミュニケーション(IC)が重要です。

院内でブランドの理念や方向性が共有されていれば、職員は自らの役割を理解しやすくなり、仕事への納得感や一体感が高まります。結果として採用のミスマッチが減少し、定着率の向上につながります。

経営の安定化につながる

ブランドが統一され、職員が主体的に体現できる状態になると、患者さんや地域、関係機関などとの信頼関係の構築につながります。

また、外部への情報発信(オウターナル・コミュニケーション:OC)にも好影響を与えます。ICを起点としてブランドを浸透させることで、組織全体にポジティブな循環が生まれ、結果として安定した経営基盤の構築が可能になります。

クリニックにおけるブランディングの実践手順

クリニックにおけるブランディングの実践手順

クリニックのブランディングは、コンセプト設計を起点として、戦略・デザイン・数値管理・施策実行へと段階的に進めることが重要です。クリニックのブランディングの実践手順を解説します。

ブランドの全体像とブランド戦略の決定

最初に行うべきは、クリニックのコンセプトを明確にし、ブランドの全体像を定めることです。クリニックのコンセプトは、自院が「どのような存在でありたいか」を定義したものです。

具体的には、下記のような点を整理します。

  • どのような患者さんを対象とするのか
  • どのような治療やサービスを提供するのか
  • どのような姿勢、価値観で医療に向き合うのか

整理する際は、院長やキーパーソンとなる医師や事務長などの経営メンバーのビジョンや理想像を明確にし、すり合わせるようにしましょう。

デザインポリシーを策定

ブランド戦略が定まったら、視覚的・感覚的に伝えるためのデザインポリシーを策定します。デザインポリシーとは、ブランドの世界観を統一するためのルールや考え方のことです。

クリニック名、ロゴ、配色、フォント、建物外観、看板、内装、キャッチコピー、ホームページなど、患者さんの目に触れるすべての要素に一貫性を持たせることで、ブランドイメージが定着しやすくなります。

デザインは装飾ではなく、コンセプトを直感的に伝える手段のため、戦略と切り離さずに設計しましょう。

目標数値(KPI)を設定

ブランディングを継続的に改善するためには、成果を測る指標(KPI)の設定が不可欠です。KPIを定めることで、施策が感覚的な取り組みで終わらず、客観的な評価が可能になります。

KPIの例は下記のとおりです。

  • 再来院率
  • 認知度や想起率
  • 患者さんの評価
  • Webサイトの閲覧数や予約数
  • 採用応募数・定着率

クリニックのコンセプトや戦略に合った指標を選定し、定期的に確認・見直すことが重要です。

院内外に向けたブランディング施策を実施

最後に、策定した戦略とKPIに基づき、院内外へ向けた具体的なブランディング施策を実施します。

院内では、職員を重要なステークホルダーととらえ、理念やブランド価値を共有・浸透させる取り組み(インターナル・コミュニケーション)を行います。職員一人ひとりがブランドを正しく理解し、日々の業務で体現できなければ、患者さんや地域に対するブランド価値の向上は期待できません。

一方、院外には、Webサイトや広報物などを通じて、専門性やクリニックの姿勢を一貫したメッセージとして届けます。

院内での実践が伴ったブランドは、院外への発信(オウターナル・コミュニケーション)にも説得力を持ち、信頼の醸成につながります。

クリニックでのブランディング施策の具体例

クリニックでのブランディング施策の具体例

クリニックのブランディング施策は、院内に向けた取り組みと院外に向けた取り組みを切り分けつつ、相互に連動させて進めることが重要です。

クリニックで実践しやすい代表的なブランディング施策を、院内向け・院外向けに分けて解説します。

インナーブランディング(院内向け施策)

インナーブランディングは、職員が自院の理念や価値、方向性を正しく理解し、日々の業務のなかで体現できる状態をつくるための取り組みです。ブランディングを形骸化させないためには、院内の理解と共感をえることが欠かせません。

インナーブランディングの手段の1つが、院内の人材へのヒアリングです。理事長や院長、医師、看護部長・看護師長、現場スタッフなど、立場の異なる職員に対してインタビューを行い、医療機関に対する想いや評価を丁寧に言語化します。

結果として、職員は自分自身の価値観や病院への想いに気付き、結果として自院への理解が深まっていきます。また、ヒアリングを重ねることで共通するキーワードや価値観が浮かび上がり、ブランドメッセージやキャッチコピーを検討する際の材料になります。

アウターブランディング(院外向け施策)

アウターブランディングは、患者さんや地域、関係機関に向けて、クリニックのブランドメッセージを発信する取り組みです。院内で形成された価値観や姿勢を、外部へ一貫した形で伝える役割を担います。

インナーブランディングによって職員の理解と納得が深まると、行動や発信に統一感が生まれ、結果として院外への情報発信にも説得力が生まれます。院内向け施策(インターナル・コミュニケーション)と院外向け施策(オウターナル・コミュニケーション)を循環させることで、ブランド価値の向上が期待できます。

施策には、ホームページやSNSを活用した情報発信、病院広報誌やニュースレターの刊行、地域イベントやセミナーの開催、プレスリリースやメディア対応などが挙げられます。継続的に実施すると、患者さんや地域住民は無意識のうちにブランドメッセージに触れることで、クリニックへの信頼が高まっていきます。

クリニックのブランディングでよくある失敗と対策

クリニックのブランディングでよくある失敗と対策

クリニックのブランディングは、進め方を誤ると信頼低下や逆効果を招くリスクがあります。

ここでは、クリニックで起こりやすい代表的な失敗例と対策を解説します。

マーケティング(広告)との区別がついていない

ブランディングと広告を混同すると、過剰な宣伝や誇張表現に陥りやすくなります。実現不可能な治療効果の約束や、資格・実績の誤解を招く表現は、患者さんの信頼を損なうだけでなく、法的リスクにも発展しかねません。

対策として重要なのは、ブランディングを信頼の構築ととらえることです。短期的な集患を目的とした広告表現ではなく、事実に基づいた誠実なメッセージを発信し、患者さんが安心して選択できる情報提供を心がける必要があります。

表面的な施策のみに取り組んでいる

見た目やイメージだけを整えても、実際の医療サービスと乖離していれば、ブランド価値は維持できません。

例えば、高級感を前面に打ち出しているにもかかわらず、設備や接遇、診療体験が見合っていない場合、患者さんは期待を裏切られたと感じてしまいます。

こういった事態を回避するためには、ブランディングで打ち出すメッセージと、実際に提供する医療・サービス内容を一致させることが重要です。患者さんの期待と現実の体験を揃えることで、納得感と信頼が生まれ、ブランドは長期的に評価されます。

院内の情報共有が疎かになっている

院内でブランドの考え方が共有されていないと、患者さんへの対応にばらつきが生じます。

受付での説明と診察時の説明が異なるなど、スタッフ間の認識のずれは、患者さんに混乱や不安を与える原因となります。

失敗を防ぐためには、スタッフ全員がブランド理念やメッセージを理解し、共通認識を持つことが不可欠です。患者さんと接する機会の多い受付スタッフや看護師に対しては、定期的な情報共有や教育を行い、一貫した対応ができる体制を整える必要があります。

目標数値(KPI)を設定していない

KPIを設定していないブランディングは、成果が見えず改善につながりません。「何がうまくいっていて、何が課題なのか」が把握できないまま施策を続けると、方向性が曖昧になってしまいます。

再来院率、患者さんの評価、患者さん満足度、Webサイトの閲覧数や予約数など、ブランド戦略に合った指標の設定が重要です。

まとめ

まとめ

クリニックのブランディングは、広告や一時的な集患施策ではなく、患者さんや職員、地域から信頼され、選ばれ続ける医療機関であるための基盤をつくる取り組みです。医療技術や設備だけで差別化が難しい現代では、診療方針や価値観、スタッフの対応、情報発信の姿勢などを通じて形成される一貫した印象が、クリニックの評価を左右します

一方で、ブランディングを広告と混同したり、表面的な施策のみに偏ったりすると、期待と現実のズレが生じ、かえって信頼を損なうリスクもあります。コンセプト設計を起点に、院内外での施策を連動させ、数値による検証と改善を重ねていくことが重要です。

自院のあり方をあらためて見つめ直し、日々の診療や組織運営のなかでブランドを体現し続けることが、長期的に安定した経営と医療の質の向上につながるでしょう。