開業しやすい診療科とは?おすすめ診療科トップ5を紹介
将来クリニックの開業を希望している医師の中には、「実際のところ、どの診療科が最も開業しやすいのか?」このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
希望している診療科が、開業しやすい診療科なのか、開業しにくい診療科なのかという点も、気になるところでしょう。
この記事では、
- 開業しやすい診療科とは
- 開業しやすい、おすすめの診療科トップ5
- 診療科ごとの開業資金の目安
- 開業で失敗しないために検討すべき施策
これらについて解説します。
何をもって開業しやすいと判断するのか、難しいと考える方も多いでしょう。「診療科数の増減」と「必要な開業資金」の観点から解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
開業しやすい診療科とは?
開業しやすい診療科を決める要因として、
- 診療科の施設数が増えているかどうか
- 開業に必要な資金を少なく抑えられるか
これらが開業のしやすさを判断する材料になります。
直近で診療科の施設数が増えているのであれば、医療ニーズの高い診療科であり集患が見込めると判断できますので、開業がしやすい診療科であると捉えることもできるでしょう。
開業資金の観点においても、必要な資金を少なく抑えられる診療科は、資金計画も立てやすいため開業のハードルは低くなります。
ここでは、厚生労働省の調査「医療施設調査・病院報告の結果」最新のデータから、診療科の施設数の増減を確認していきます。
施設数が増加傾向にある診療科
一般病院の診療科目別にみた施設数は下記となります。
最新の2022年調査結果と、2020年、2018年の調査結果を比較しています。
2022年 | 2020年 | 2018年 | 増減率2018年比較 | |
呼吸器内科 | 2,802 | 2,770 | 2,761 | 1.5% |
循環器内科 | 4,012 | 3,997 | 3,955 | 1.4% |
消化器内科 | 3,990 | 3,986 | 3,955 | 0.9% |
腎臓内科 | 1,453 | 1,379 | 1,246 | 16.6% |
脳神経内科 | 2,572 | 2,570 | 2,530 | 1.7% |
糖尿病内科 | 1,684 | 1,596 | 1,479 | 13.9% |
血液内科 | 760 | 721 | 660 | 15.2% |
リウマチ科 | 1,402 | 1,382 | 1,323 | 6.0% |
感染症内科 | 199 | 170 | 153 | 30.1% |
精神科 | 1,800 | 1,763 | 1,752 | 2.7% |
心療内科 | 637 | 632 | 633 | 0.6% |
呼吸器外科 | 1,042 | 1,019 | 992 | 5.0% |
心臓血管外科 | 1,198 | 1,166 | 1,139 | 5.2% |
乳腺外科 | 1,083 | 1,039 | 958 | 13.0% |
消化器外科 | 1,832 | 1,806 | 1,740 | 5.3% |
泌尿器科 | 2,881 | 2,862 | 2,819 | 2.2% |
脳神経外科 | 2,617 | 2,612 | 2,594 | 0.9% |
形成外科 | 1,440 | 1,430 | 1,390 | 3.6% |
小児外科 | 408 | 398 | 376 | 8.5% |
この中からさらに、施設数の増加率が5%以上、かつクリニックの開業に向いている診療科を抜粋すると下記のようになります。
2022年 | 2020年 | 2018年 | 増減率2018年比較 | |
腎臓内科 | 1,453 | 1,379 | 1,246 | 16.6% |
糖尿病内科 | 1,684 | 1,596 | 1,479 | 13.9% |
血液内科 | 760 | 721 | 660 | 15.2% |
リウマチ科 | 1,402 | 1,382 | 1,323 | 6.0% |
感染症内科 | 199 | 170 | 153 | 30.1% |
呼吸器外科 | 1,042 | 1,019 | 992 | 5.0% |
心臓血管外科 | 1,198 | 1,166 | 1,139 | 5.2% |
乳腺外科 | 1,083 | 1,039 | 958 | 13.0% |
消化器外科 | 1,832 | 1,806 | 1,740 | 5.3% |
小児外科 | 408 | 398 | 376 | 8.5% |
特に、施設数の母数が多く増加率が高い「腎臓内科」「糖尿病内科」は開業がしやすい診療科と判断できそうです。
施設数が減少傾向にある診療科
増加している診療科がある一方で、一般病院の診療科目別で減少しているのは下記のようになります。最新の2022年調査結果と、2020年、2018年の調査結果を比較しています。
2022年 | 2020年 | 2018年 | 増減率2018年比較 | |
内科 | 6,581 | 6,640 | 6,759 | ‐2.6% |
皮膚科 | 3,050 | 3,054 | 3,052 | -0.1% |
アレルギー科 | 447 | 445 | 447 | 0% |
小児科 | 2,485 | 2,523 | 2,567 | -3.2% |
外科 | 4,392 | 4,468 | 4,528 | -3.0% |
気管食道外科 | 78 | 84 | 88 | -11.4% |
肛門外科 | 1,151 | 1,178 | 1,187 | -3.0% |
整形外科 | 4,866 | 4,902 | 4,913 | -1.0% |
美容外科 | 125 | 122 | 128 | -2.3% |
眼科 | 2,342 | 2,376 | 2,398 | -2.3% |
耳鼻咽喉科 | 1,947 | 1,962 | 1,957 | -0.5% |
産婦人科 | 1,074 | 1,094 | 1,116 | -3.8% |
母数が多い、「内科」「外科」「整形外科」では、既に施設数が十分にあり、飽和状態になっていると捉えることができます。そのため、クリニックとして開業する場合は、競合クリニックの多さから集患が難しくなる可能性があるでしょう。
その一方で、医療ニーズはあるものの、なり手が少なく、結果として減少している診療科もある点には注意が必要です。
例えば、産婦人科は必要とされているにも関わらず、医師が足りておらず施設数が減少している状況です。このような診療科では競合となるクリニックが少ないため、開業しやすい診療科と考えることができます。
(参考:令和4年医療施設調査・病院報告の概況|厚生労働省)
(参考:令和2年医療施設調査・病院報告の概況|厚生労働省)
(参考:平成30年医療施設調査・病院報告の概況|厚生労働省)
開業しやすい、おすすめの診療科トップ5
診療科数の増減や開業資金の金額、これらを総合的に判断すると、下記の5つが開業しやすい診療科といえます。
- 腎臓内科
- 糖尿病内科
- 精神科
- 産婦人科
- 眼科
それぞれ、具体的な理由を解説します。
腎臓内科
腎臓内科はいわゆる人工透析内科に該当しますが、以下の理由から開業しやすい診療科となっています。
- 施設数が2018年からの4年間で16.6%増加
- 透析を必要とする患者さんは増え続けている
- 患者さんが継続通院するので安定した収益が得られる
日本透析医学会の調査によると、慢性透析患者数の推移は、1968年から50年以上も増加し続けているようです。これは世界でも第2位の有病率となり、日本における透析治療の需要は今後も高いことがわかります。
また透析患者は慢性疾患のため、継続した通院が必要です。そのため、一定の患者さんを集患することができれば、安定して収益が得られるため、開業がしやすい診療科であるといえます。
(参考:わが国の慢性透析療法の現況|透析会誌)
糖尿病内科
糖尿病内科が開業しやすい診療科の理由として以下があげられます。
- 施設数が2018年からの4年間で13.9%増加
- 生活習慣の変化により糖尿病患者数は増加傾向
- 開業資金が一般内科とあまり変わらない
腎臓内科と同様に、この数年で施設数は大きく増加しています。それほどに需要が高い診療科であるため、集患に困らないともいえるでしょう。
糖尿病患者数は世界的にも増加傾向であり、今後30年間で2倍以上の患者数になると報告もされています。日本国内においても同様で、これからますます、治療の需要が高まっていく診療科と想定されています。
糖尿病内科は、特に高額な医療機器を導入しなくても診療が可能なため、開業資金を抑えられることも、開業がしやすい理由の一つです。
(参考:世界の糖尿病人口は5億2900万人に増加|糖尿病ネットワーク)
精神科
精神科が開業しやすい診療科の理由として以下があります。
- 施設数が2018年からの4年間で2.7%増加
- 必要な開業資金が全診療科の中で最も少ない
精神科は、全診療科の中で最も少ない資金で開業できる診療科といわれています。診療はカウンセリングが中心のため、高額な医療機器や検査機器は必要ありません。
電子カルテにレセコンといった必要最小限の費用で賄えることが、開業しやすい診療科の理由なのでしょう。
産婦人科
産婦人科が開業しやすい診療科の理由として以下があります。
- 産婦人科の数が足りておらず需要が高い
- 不妊治療の需要で高い収入が期待できる
産婦人科は、病院と診療所の両方とも不足しているといわれています。
そのため、厚生労働省は「医療施設調査・病院報告」において、産婦人科の施設数をピックアップし定点観測をしているほど、産婦人科医が不足しているという認識をもっています。
別の調査「医師・歯科医師・薬剤師統計」においても、全体の医師数は増加しているのに対して、産婦人科の医師数は微減、もしくは変化がない状況です。
その結果、年収もほかの診療科より高く設定されているケースが多く、産婦人科医の需要の高さがうかがえます。
(参考:令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概要|厚生労働省)
眼科
眼科が開業しやすい診療科の理由として以下があります。
- 小児から高齢者まで幅広く集患できる
- 日帰り手術を行えば高い収入が期待できる
眼科の疾患は、小児の近視やアレルギー、働きざかり世代のドライアイ、高齢者の白内障や緑内障といった、どの年齢層の患者さんも罹患するという特徴があります。
幅広い年齢層が対象になるため、集患に困ることが少ない診療科といえます。
また、ほかの診療科には少ない日帰り手術ができる診療科でもあるため、手術をほかの治療と上手く組み合わせれば大きな収益を見込めることから、開業しやすい診療科といえるでしょう。
開業しやすい診療科の開業資金の目安
開業しやすい診療科トップ5の開業資金の目安は以下になります。
- 腎臓内科: 約7,000〜9,000万円
- 糖尿病内科: 約4,000〜5,000万円
- 精神科: 約1,000〜1,500万円
- 産婦人科: 約5,000〜6,000万円
- 眼科: 約5,000〜7,000万円
それぞれについて解説します。
腎臓内科
腎臓内科、いわゆる人工透析内科の開業資金は約7,000〜9,000万円といわれています。
人工透析内科では、透析ベットや人工透析用の機器のスペースが必要となるため、広い敷地面積が必要となります。
さらに、人工透析機器や透析内科特有の工事が必要となるため、戸建てやテナントの形態に関わらず開業資金は高額になります。
糖尿病内科
糖尿病内科の開業資金は約4,000〜5,000万円とされています。
糖尿病内科の診療は、様々な検査が必要になるため、自院で全て準備をしようとなると開業資金は高額になります。しかし、近隣の病院と連携を取ることで、必要な検査は病院で行い、治療に関してはクリニックで実施することも可能です。
そのように上手く連携することで、一般的な内科と変わらない開業資金で開業することができます。
精神科
精神科の開業資金は約1,000〜1,500万円といわれており、全診療科の中で最も少ない開業資金で開業できます。
精神科の診療は、高額な医療機器が不要なため資金を抑えて開業できるのが魅力です。
開業資金が抑えられる分、アクセスの良い集客が見込めそうな立地の選択に費用をかけることができる診療科でもあります。
産婦人科
産婦人科の開業資金は約5,000〜6,000万円といわれています。
自院で分娩を行うのであれば、入院設備が必要となり開業資金は高額になります。
産婦人科は女性の患者さんが大半なので、落ち着いた綺麗な内装にするための費用も準備した方が良いでしょう。
もし、不妊治療をメインに行うのであれば、医療機器の設備費用、培養や無菌室の広さが必要になりますので開業資金はさらに高額になります。
眼科
眼科の開業資金は約5,000〜7,000万円が必要となります。
眼科の診療は、ほかの診療科と比較して検査が多い特徴があります。そのため、必要な医療機器の設備投資で開業資金は高くなります。
もし、日帰り手術を行うのであれば、手術室や回復室を設置する準備、手術に必要な医療機器や材料費の購入に、追加で約2,000万円以上必要となるでしょう。
開業で失敗しないために検討すべき施策
開業で失敗しないために検討すべき施策として以下の3つがあります。
- 自院の強みを活かす
- ほかのクリニックを徹底的に分析する
- 資金計画をしっかり立てる
それぞれについて解説します。
自院の強みを活かす
まず、競合のクリニックと比べて、自院の強みが何かを明確にすることが大切です。
いくら開業しやすい診療科でも、競合がなくなることはありませんし、何も対策せずに集患することはできません。
自院の強みや特徴、魅力を患者さんに訴求して集患に繋げることが、開業で失敗しないためのポイントです。
ほかのクリニックを徹底的に分析する
同じ診療科のクリニックを徹底的に分析することも大切です。
近隣で評判の良いクリニックの共通点を徹底的に分析することで、患者さんが何を求めているのかも見えてくるでしょう。
競合クリニックの分析ができれば、自院の強みと比較して差別化の対策をとることも可能です。競合と差別化がしっかりとできれば、集患に失敗する確率も低くなるでしょう。
資金計画をしっかり立てる
開業資金やクリニックの運用費用がどのくらい必要なのか、綿密な資金計画を立てることが、開業で失敗しないためのポイントです。
家賃やスタッフの人件費、医療材料費など、運営にかかる費用も細かく見積もることも大切です。収益の大半を占める保険診療収益は、入金まで2カ月ほどかかるため、資金繰りをショートさせない計画が必要でしょう。
編集部まとめ
この記事では、開業しやすい診療科とは、開業しやすいおすすめの診療科トップ5、診療科ごとの開業資金の目安、開業で失敗しないために検討すべき施策について解説しました。
診療科の増加率や開業資金の観点から、「腎臓内科」「糖尿病内科」「精神科」「産婦人科」「眼科」がほかの診療科と比較して開業しやすいという結果になりました。
将来開業を検討している場合、標榜する診療科が開業しやすいのかどうかは、重要な判断ポイントになります。
本記事が、開業する際の診療科選択の参考になれば幸いです。