歯科医院の開業に必要な情報をまとめて紹介!失敗しないための手順とは?
歯科医師として開業を検討し始めたけど、具体的に何から着手すればいいか分らないという方も多いのではないでしょうか。開業している歯科医師に相談しても、初めてのことが多く、さらに不安が増してしまったという方もいらっしゃるかもしれません。
そこでこの記事では、
- 開業する前に知っておくべき統計データ
- 開業するまでの具体的な手順
- 開業するメリットとデメリット
これらについてまとめて解説します。
歯科医院の開業は、長い準備期間と多額の資金が必要なため、綿密な事業計画をしっかりと立てることが何よりも重要です。
本記事が、開業を検討されている方の不安を解消し、開業準備の参考になりましたら幸いです。
目次
歯科医院の開業に関わる統計データ
歯科医院を開業するうえで、まずは知っておくべき基本となる統計データを紹介します。
歯科医院の施設数はほぼ横ばい
歯科医院の施設数は、2015年をピークに、それ以降はほぼ横ばいの微減傾向にあります。歯科医師の高齢化により、新規開業する医院数よりも廃業数の方が多いこと、新規開業したものの上手く収益を上げられずに廃業してしまうことが理由として考えられます。
- 2015年の歯科診療所数は68,737施設
- 2022年は67,755施設で、2015年に比べて約1,000施設の減少
歯科診療所の施設数は微減していますが、その一方で「人口10万人あたりの歯科医師数」は年々増加しています。
- 2014年の歯科医師数は103,972人で人口10万人に対して「81.8人」
- 2020年には107,443人で約4,000人の増加、人口10万人に対して「85.2人」
歯科医院を開業するまでの全体の流れ
ここからは具体的な開業までの手順について、ポイントを絞って解説します。大きく分けて下記の5つを押さえておくと準備の抜け漏れがなくなるでしょう。
- 事業計画を立てる
- 資金調達を行う
- 医療機器の選定や内装などのハード面の準備
- スタッフの採用や広告施策などソフト面の準備
- 各種申請書の準備と提出
歯科医院の事業計画を立てる
事業計画とは、1〜5年後の比較的近い将来までの経営戦略のことをいいます。事業で失敗しないためには、綿密な事業計画の立案が重要です。
<事業計画のポイント>
- どのようなクリニックするのかを検討
- 開業エリアや物件候補の選定
- 事業計画書の作成
どのようなクリニックにするのかを検討する
出発点になるのが、どのようなクリニックを開業したいかの目的を定めることです。
- 地元地域に根付いた歯科診療を行いたいのか
- 小児歯科を専門に診療を行いたいのか
- 最新機器を取り揃え、先進的な診療を行いたいのか
- 審美歯科を中心に自由診療を行いたいのか
- 自分以外の医師を雇いクリニックの規模を大きくしたいのか
など、まずは理想とするクリニック像を定めましょう。
開業エリアや物件候補の選定
クリニックのコンセプトが決定したら、次は開業エリアと物件を選定します。理想とするクリニック像に合わせて開業エリアを選びます。例えば、小児歯科をメインにするなら、ファミリー層の多いエリア、住宅街の近くが候補として挙がります。またもし、審美歯科などの自由診療をメインにするなら、若者の多い都心部などの街中で物件を選定をすると良いでしょう。
事業計画書の作成
事業計画書では、毎月必要な経費と売上目標を可視化させます。借入金がある場合は、どのくらいの期間でクリニックを黒字化させ、何年で返済できるかといったことについて、綿密な計画を立てることが重要です。
とはいっても、実際どのように作成すればいいのか、どのような項目を記載すればいいのか、わからない方も多いと思います。そのような場合は、日本政策金融公庫から公開されている、歯科診療所の創業計画書記入例が参考になります。
<記入例>創業計画書の記載項目
- 創業の動機(創業するのはどのような目的か)
- 経営者の略歴など(担当業務や役職、身につけた技能など)
- 取扱商品やサービス(保険診療と自由診療の売上割合・販売戦略やターゲット)
- 取引先情報(販売先・仕入先・外注先に関する情報)
- 従業員数(常勤・非常勤・パート従業員の人数)
- 借入状況(診療所だけでなく、住宅や車などのプライベートも含む)
- 必要な資金と調達方法(設備資金と運転資金に分けて記載・調達する金融機関名)
- 月平均の事業の見通し(売上に経費、家賃などの固定費も含めて月の利益を試算)
資金調達を行う
歯科医院の開業には多額の資金が必要になり、自己資金でそれらを賄えるケースは少ないでしょう。開業するための資金が足りない場合は、資金調達を行います。開業資金の調達先としては、以下が候補になります。
- 日本政策金融公庫
- 独立行政法人福祉医療機構
- 民間の金融機関
- 親族から借りる
日本政策金融公庫は、中小企業などの小規模事業者に対して、民間の金融機関では届かない融資のニーズに応えることを主な目的としている金融機関です。民間の金融機関で融資を受けられなかった場合の有力な候補先になります。独立行政法人福祉医療機構は、厚生労働省が運営しています。医療機関や福祉施設への貸付事業を行っており、こちらも資金調達先の候補となります。
資金調達先を検討する際は、融資を受けるための条件、融資の上限金額や金利などを事前に確認したうえで、事業計画も参照し、自院の運営方針や返済計画に合っている機関を選ぶようにしましょう。
医療機器の選定や内装などハード面の準備
歯科の医療機器にかかる費用は、2,000〜3,500万円といわれています。導入する医療機器の種類によっては、さらに高額になりますので、事業計画に合わせて選定することが大切です。
最初から高額な医療機器を導入してしまうと、集患が上手くいかなかったなどの理由で計画通りに売上を伸ばせなかった場合に、赤字が続いてしまい、歯科医院の経営を維持できないリスクが高まります。医療機器リースを利用するなど、初期費用を抑える方法も選択肢として検討するようにしましょう。
スタッフの採用や広告施策などのソフト面の準備
優秀な人材の確保は、歯科医院の経営を成功させるための大切なポイントになります。歯科衛生士や歯科助手、事務スタッフなどを採用するために、事業計画に基づいた人員計画を策定し、転職サイトへの出稿や知人からの紹介などのリファラル採用を活用して採用を進めましょう。
歯科衛生士の月給相場は、25万円〜30万円といわれています。採用する人数によっては人件費がかさみ、経営を圧迫してしまう恐れがあるため、必要最小限の人数から始めるようにしましょう。
歯科医院を開業する際は、開院の周知や継続的な集患のために、様々なマーケティング施策の実施も検討する必要があります。マーケティング施策には大きく分けてオンラインとオフラインの2種類があり、オンラインマーケティングには、自院のホームページ制作やインターネット広告への出稿、公式SNSの開設などがあり、オフラインマーケティングには、ポスティングや新聞の折込チラシ、駅看板などの交通広告への出稿などがあります。
各種申請書の準備と提出
歯科医院を開業する際は、下記の書類の準備と提出が必要です。
- 診療所開設届:所轄の保健所に提出
- 保険医療機関指定申請書:所轄の厚生局に提出
- 開業届:税務署
特に注意すべきは、「診療所開設届」と「保険医療機関指定申請書」です。
診療所開設届が受理されないと、クリニックで診療を行うことができません。そのため、開業予定日の約2カ月前、内装工事完了のタイミングを目処に提出をする場合が多いようです。
保険医療機関指定申請書は、月1回のみ申請が可能で、受理されるまでに1カ月ほどかかります。受理された翌月の1日付けで指定を受けることができ、保険診療が行えるようになります。
なお、保険医療機関指定申請書は、診療所開設届が受理された後でないと申請することができないことにも注意が必要です。
歯科医院を開業するメリット
ここでは、歯科医院を開業するメリットについて解説します。
経営が成功すれば勤務医より年収が上がりやすい
開業するメリットの一つとして、経営が成功すれば、勤務医よりも年収が上がりやすいことが挙げられます。
厚生労働省の統計によると、勤務歯科医師の年収は690万円〜700万円ほどなのに対して、開業歯科医師の年収は1,400万円ほどと約2倍の差があります。
勤務医の場合は、年齢や役職、勤務形態によって得られる年収は異なりますが、勤務医よりも開業医の方が多く収入を得られる傾向にあるといえるでしょう。
また、歯科医院ではむし歯などの治療のためだけでなく、定期検診やメンテナンスのために通院するという、他の医療機関にはないアドバンテージがあります。
つまり、定期的に通院してもらいやすい診療科であるといえ、さらに、マーケティング施策を上手く活用して集患することができれば、さらに収益を伸ばし、年収を高めることも可能になります。
診療方針などを自由に決めることができる
歯科医院を開業することには、診療方針などを自分で自由に決定できるというメリットもあります。勤務医の場合は、勤務する施設の方針に従わなければならず、不本意な方法による治療を実施したり、スタッフの採用や教育の方針が意に沿わない場合もありえます。しかし、開業すれば自身が歯科医院に関する全てのことにおいて裁量権があるので、自由に方針を決めることができます。
保険診療をメインにするのか? 自由診療を積極的に行うのか? 自分の理想とする診療方針を自由に決めることができるのも開業医の魅力といえるでしょう。
開業する地域を自由に決めることができる
開業する地域を自由に決められることもメリットといえるでしょう。勤務医の場合は、医局の人事や受け入れ先の施設の状況などによって、自分で働く場所を選択できないケースがほとんどです。しかし、自分で歯科医院を開業するのであれば、生まれ育った地元や、住んでみたい地域など、自由にその地域を選ぶことができます。
歯科医院を開業するデメリット
歯科医院の開業にはメリットが多いですが、次に挙げるようなデメリットもあります。
集患するための施策が必要になる
歯科医院を安定して経営をするためには、集患するための施策が重要です。集患施策には下記のようなものが挙げられます。
- 開業前の内覧会で地域住民に知ってもらう
- クリニック紹介チラシの作成と配布
- 看板広告を利用するかの検討
- ホームページやSNSの運用
- MEOやSEOの対策
- 口コミやレビューの管理
最近ではYouTubeの活用など、様々な集患施策を行う歯科医院も増えています。オンラインマーケティングに関する専門的な知識がない場合は、外部業者に委託することも検討する必要があります。
診療以外の業務が必要になる
開業医は勤務医と違い、集患施策以外にもスタッフの採用や教育、売上管理、税務報告などの経営者としての業務を行う必要があります。自分で担当するのか、開業に際してビジネスパートナーがいる場合は分業するのか、コストをかけて外部委託するのかなどを検討して、これらの業務も行っていかなければなりません。
多額の開業資金が必要になる
歯科医院の開業には、約5,000万円の資金が必要になるとされています。これは、開業する立地や採用するスタッフの人数、初期に導入する医療機器の種類や数などによって変動しますが、それでも多額の資金が必要となります。
勤務医の給与のみで開業資金を準備することは難しいため、銀行や金融公庫から資金を調達しなければなりません。多額の融資を受けて事業を開始することは、安定感のある勤務医の状況に比べて、経済的にも精神的にも大きな負担と感じる人も多いでしょう。
編集部まとめ
この記事では、歯科医院の開業に関する統計データ、開業するまでの具体的な手順、開業するメリット・デメリットについて解説してきました。歯科医院の開業には、長い準備期間と多額の資金が必要になります。そのうえで、開業を成功に導くためには、事業計画の策定や集患施策など綿密な事前準備をしっかりと行うことが重要です。歯科医院を開業されるにあたり、本記事が参考になりましたら幸いです。