医療法人と開業医の違いとは?それぞれのメリット・デメリットや医療法人化を検討するケースを解説!
開業医は、個人事業主として医療機関を運営する医師のことを指します。一方で医療法人は、医療機関を法人として運営する組織体です。両者には事業形態や税制面での違いがあります。開業医のメリットは、意思決定の早さや自由度の高さにありますが、経営リスクを個人で負担するというデメリットもあります。それに対して医療法人は、経営リスクを分散できますが、設立や運営に関する手続きが煩雑というデメリットがあります。医療法人化を検討するケースとしては、事業規模の拡大や相続対策、経営の安定化などが挙げられます。本記事では、医療法人と開業医の違いを解説するとともに、それぞれのメリット・デメリットや医療法人化を検討するケースについても紹介します。
医療法人と開業医の違い
医療法人と開業医にはどのような違いがあるのでしょうか。医療法人の概要や種類についても併せて説明します。
- 医療法人とはどのようなものですか?
-
医療法人とは、医療法で定められた規則に基づいて設立された組織であり、病院や診療所、介護老人保健施設などを運営することを目的にしています。人命を預かる業務を行うという観点から、非営利法人であることが求められています。設立するためには、定款などの多くの書類が必要となり、煩雑な手続きを進めて、各都道府県知事から認可を得なければなりません。
- 医療法人の種類について教えてください。
-
医療法人には大きく分けて、社団医療法人と財団医療法人があります。社団医療法人とは、病院や診療所などを開設することを目的として設立される法人のことを指します。設立には、金銭や不動産または医療機器などの資産に対して出資や拠出が必要であり、また、2カ月以上の運転資金も準備しなければなりません。財団医療法人は寄付などを介して金銭や財産を集め、それを資本に設立される法人です。
現在の日本では、設立されている大半が社団医療法人となっています。かつて社団医療法人では出資持分と呼ばれる、株式会社の株主のような権利を出資者(社員)が保有できる制度がありましたが、現在は出資持分がある医療法人を設立することはできません。
- 医療法人と開業医の違いを教えてください。
-
医療法人と開業医の大きな違いは、開業医の場合はその創設者の医師が医院やクリニックを所有し経営するのに対して、医療法人の場合は法人格が所有者になるという点にあります。
また前述したように、医療法人は医療という人の命に関わる業務を行っているため、非営利団体である必要があります。したがって院長や理事長が、医院の資産や事業収入を自由な用途で使うことはできません。開業医は、営利目的での活動が可能であったり、自分の思うとおりに収入を事業の拡大に使えたりするため、この点も大きな違いといえるでしょう。
さらに、医療法人では得た収益が余剰金となった場合でも配当金という形で分配することが禁止されています。そのほかにも開業時の手続きや税制などに関する違いがあります。
医療法人と開業医のメリット・デメリットの比較
ここまで、医療法人と開業医の違いについて説明してきました。ここでは、医療法人と開業医のそれぞれのメリット・デメリットを3つの面で比較しながら解説します。
- 医療法人と開業医の納税面での違いを教えてください。
-
開業医は個人事業主として所得税の対象となります。売上から経費を差し引いた事業所得に対して、所得が高くなるほど税率も高くなる累進課税制度で最大45%の所得税が課されます。さらに住民税が加算されることで所得に対して課税される税率が最大で55%になります。
一方で医療法人の場合は、所得税ではなく法人税として税金を納めることになります。法人税率は段階的に異なり、15〜23.2%で所得税よりも税率が低いため、法人事業税を加味しても約30%まで抑えることが可能です。以上のことから、売り上げが大きくなるほど税率が上がる開業医と比べて、医療法人は節税効果が高いといえます。
- 医療法人と開業医の経営面にはどのような違いがありますか?
-
開業医は、個人事業主として開業するため、医療法人を設立する際に必要な複雑な手続きや認可を必要とせず、開業にかかる資金や時間も比較的少なく済みます。また、個人として事業を運営するため、意思決定が迅速に行えます。法人のように理事会の承認を得る必要がないため、経営面での柔軟性は高いでしょう。
一方で医療法人化すると、複数のクリニックや介護施設を経営できるようになります。分院や事業所を複数展開することで、法人全体の売上を増加させることができ、経営規模の拡大を図ることが可能になります。また、医療法人化のメリットは事業承継を行うケースでも得られます。開業医の場合は、事業継承時に相続税や贈与税が事業規模などに応じて課せられますが、医療法人の場合は理事長の変更のみで継承することができます。
- 医療法人と開業医の社会的信用面での違いを教えてください。
-
医療法人は、設立の際に厳正な審査を経て各都道府県知事から認可を得る必要があることに加え、事業報告書や監査報告書などの提出義務により、信用の裏付けや財務状況の明確化が行われるので、一般的に開業医よりも社会的信用が高くなります。そのため、医療法人化することで銀行などからの資金調達が比較的行いやすくなり、事業の拡大や安定を図ることができます。
また、医療法人は社会保険に加入する義務があるため、スタッフを採用する際に応募が集まりやすくなります。開業医でも社会保険や医療賠償保険の制度を完備している医院は多いですが、医療法人に比べると制度が整っていない印象を持たれてしまう可能性は否めないでしょう。
医療法人化の流れ
開業医が医療法人化することで、さまざまなメリットを得られることがわかりました。ここからは、実際に医療法人化するための手続きについて説明します。
- 医療法人を設立する流れについて教えてください。
-
医療法人を設立する際は、下記の流れで手続きを進めていきます。
- 設立事前登録
- 医療法人設立説明会への参加
- 定款の準備
- 設立総会の開催
- 設立認可申請書の作成と提出
- 設立認可申請書の審査と補正指示
- 本申請書類の提出
- 設立認可書の受領
- 設立登記申請書の作成と提出
- 設立登記完了
医療法人の設立では、自治体ごとに手続きができる期間が決められています。書類に不備があると修正が間に合わなくなる可能性もあるため、事前に定められた期間を把握し、十分に余裕を持って手続きを進めるようにしましょう。また、提出する書類などの細かい部分は各都道府県によって異なるため、開業する地域が属する地方自治体の規定をしっかりと確認するようにしてください。
医療法人化を検討するケース
- 医療法人化を検討するべき、事業所得の目安を教えてください。
-
開業医の場合、年間の事業所得が1800万円を超えると医療法人化した方が良いといわれています。1800万円を個人事業主の事業所得として得る場合と、医療法人の役員報酬として得る場合では、医療法人の方が税率が7%ほど低くなるため、控除額を考慮しても130万円ほどの節税効果を得られる可能性があります。
- 医療法人化に適した開業年数はいつですか?
-
開業時に購入した医療機器の償却期間が終わる開業7年目が、医療法人化する1つのタイミングと考えられるでしょう。医療機器の償却期間は開業から6年が経過するまでになっており、7年目以降は減価償却費を計上できなくなります。経費が減る分、課税対象の利益が増すため、このタイミングで税率の低い医療法人への転向を検討するケースが多いようです。
編集部まとめ
本記事では、医療法人と開業医の違いを解説するとともに、それぞれのメリット・デメリットや医療法人化を検討するケースについて説明しました。医療法人化を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。