診療圏調査とは?クリニック開業前に押さえたい考え方と進め方を解説
クリニックの開業においては、立地選びが経営を大きく左右します。その際に重要となるのが診療圏調査です。診療圏調査では、人口構成や競合医院、地域特性などを分析し、開業予定地に十分な患者ニーズがあるかを確認します。本記事では、診療圏調査の基本的な考え方から、具体的な進め方、注意点まで解説します。
診療圏調査とは

診療圏調査とは、クリニック開業予定エリアの人口構成や競合医療機関数、患者ニーズなどを分析し、安定した医院経営が可能かを調査することです。近年は外来医療の地域偏在も課題となっており、開業前に地域医療の状況を把握する重要性が高まっています。
診療圏調査の目的と役割
診療圏調査の主な目的は、開業予定エリアに十分な患者ニーズがあるかを把握し、無理のない開業計画を立てることです。
- 地域人口
- 年齢構成
- 昼間人口
- 競合クリニック数
- 診療科の偏在状況
- 将来的な人口推移
上記の情報から、どの程度の来院患者数が見込まれるかを確認します。
開業前に診療圏調査が必要な理由
クリニック開業は、物件取得や内装、医療機器導入など多額の初期投資が必要になるため、開業後の患者数予測が重要です。
診療圏調査を行わずに開業すると、下記のリスクが生じる可能性があります。
- 想定より患者数が伸びない
- 競合が多すぎる
- 地域ニーズと診療科が合わない
- 人口減少エリアだった
また、厚生労働省では、地域による外来医療の偏在是正を進めており、外来医師多数区域では新規開業希望者に対して地域医療への協力要請が行われる仕組みも整備されています。
そのため、単に人が多い場所を探すだけではなく、地域で不足している医療機能や診療科を把握することも必要です。
開業準備で診療圏調査はいつ実施する?
診療圏調査は、物件契約前の段階で実施するのが一般的です。
特に、候補物件を比較検討しているタイミングで調査を行うことで、下記の情報を踏まえてより適切な立地を選びやすくなります。
- 患者数予測
- 競合状況
- 将来的な人口動態
- 診療科との相性
新規開業に関する協議や届出は、開業前から一定期間を要します。また、内装工事や資金調達、スタッフ採用などは物件決定後に進むケースが多いため、診療圏調査は開業準備の初期段階での実施が重要です。
診療圏調査でわかること

診療圏調査では、開業予定エリアの患者需要や競合状況、地域特性などを多角的に分析できます。単純な人口だけでなく、年齢構成や生活動線なども確認すると、地域に適した診療方針や開業戦略を検討しやすくなります。
推計患者数と地域の需要
診療圏調査では、開業予定エリアでどの程度の患者数が見込めるかを推計できます。
一般的には、地域人口や年齢構成、有病率、受療率などをもとに、診療科ごとの需要を分析します。例えば、小児科であれば子育て世帯の割合、整形外科であれば高齢者人口など、診療科によって重視されるデータが異なります。
また、厚生労働省では地域ごとの外来医療体制や医療需要に関する分析を進めており、外来医療の偏在是正も課題とされています。データを参考にすると、単なる人口規模だけではみえない地域ニーズを把握しやすくなります。
競合医院の数と診療体制
診療圏調査では、周辺の競合クリニック数や診療内容も確認します。
同じ診療科の医院数だけでなく、下記なども重要な比較要素です。
- 医師数
- 診療時間
- 土日診療の有無
- 専門外来
- 設備内容
例えば、周辺に同科クリニックが多く存在していても、夜間診療や専門診療に対応する医院が少なければ、差別化できる可能性があります。
また、厚生労働省では外来医師多数区域に関する議論も進められており、地域によっては開業状況や診療科偏在も重要視されています。地域全体の医療提供体制を踏まえて競合分析を行うことが大切です。
人口構成や生活動線などの地域特性
診療圏調査では、人口だけでなく地域住民の生活特性も分析します。
例えば、下記のような地域特性によって来院ニーズは大きく変わります。
- 高齢の方が多い住宅地
- 子育て世帯が多い新興住宅地
- オフィス街
- 駅前商業エリア
また、駅やスーパー、学校、商業施設など、人の流れが発生する場所との位置関係も重要です。生活動線上にあるクリニックは認知されやすく、通院利便性の面でも有利になる傾向があります。
さらに、昼間人口と夜間人口の差によっても適した診療スタイルは変わります。例えば、オフィス街では内科や皮膚科の需要が高まりやすい一方、住宅地ではファミリー層向け診療の需要が高まるケースがあります。
診療圏の考え方と設定方法

診療圏は、どの範囲から患者さんが来院するかを分析するための考え方です。診療圏の設定方法によって患者数予測や競合分析の結果も変わるため、診療科や立地条件に合わせて適切に設定する必要があります。
【同心円型】距離による診療圏の設定
同心円型は、クリニックを中心に半径ごとの円を設定し、患者さんの来院範囲を分析する方法です。
例えば、下記の距離ごとに人口や競合医院数を確認します。
- 半径500m
- 半径1km
- 半径2km
駅前立地や住宅街など、徒歩・自転車での来院が多い診療科ではよく用いられる考え方です。特に内科や小児科、皮膚科など日常的に受診頻度が高い診療科は、近距離からの来院割合が高くなる傾向があります。
一方で、実際の来院行動は道路状況や駅、商業施設の位置などにも左右されるため、単純な直線距離だけで判断しないことも重要です。
【到達時間型】通院時間による診療圏の設定
到達時間型は、何分で通院できるかを基準に診療圏を設定する方法です。
例えば、交通手段や移動時間をもとに分析します。
- 徒歩10分圏内
- 車で15分圏内
- 電車利用30分圏内
近年、カーナビデータや地図システムを活用し、実際の道路事情や交通量を踏まえて到達時間を算出するケースも増えています。
特に、整形外科や脳神経外科、専門性の高い自由診療などは、患者さんが一定時間をかけて通院するケースも多く、距離より到達時間のほうが実態に近い場合があります。
また、都市部では駅アクセス、郊外では駐車場の有無が来院行動に大きく影響するため、交通利便性を踏まえた分析が重要です。
診療科ごとの診療圏の違い
診療圏の広さは、診療科によって大きく異なります。
例えば、内科や小児科、耳鼻咽喉科などは日常的に通院する機会が多いため、狭い範囲からの来院が中心になる傾向があります。特に小児科は、自宅から近いことを重視する患者さんも多く、住宅地との相性が重要です。
一方で、専門性の高い診療科や自由診療においては、広域から患者さんが来院するケースもあります。
例えば、下記の診療科や分類では、設備や専門性、患者さんの声を重視して遠方から通院するケースも少なくありません。
- 美容医療
- 不妊治療
- 脳神経外科
- 専門外来
また、高齢の方の受診割合が高い診療科は、公共交通機関や駐車場の利便性も重要になります。診療科ごとの患者行動を踏まえて診療圏を設定することが、実態に近い需要予測につながります。
診療圏調査の進め方|4つのステップ

診療圏調査は、単に人口を確認するだけでなく、地域特性や競合状況、実際の生活動線まで含めて総合的に分析することが重要です。ここでは、開業前に行われる代表的な診療圏調査の進め方を4つのステップに分けて解説します。
調査エリアと診療科目の設定
まずは、どのエリアでどの診療科を開業するかを整理します。
診療圏は診療科によって大きく異なるため、診療内容に応じた調査範囲を設定することが重要です。
また、駅前・住宅街・オフィス街など、立地によって来院層も変化します。例えば、小児科であれば子育て世帯が多いエリア、整形外科であれば高齢者人口が多い地域との相性を確認する必要があります。
さらに、複数の候補物件を比較する場合には、この段階で優先順位を整理しておくと、その後の分析を進めやすくなります。
人口と地域特性のデータ収集
次に、人口や地域特性に関するデータを収集します。
一般的には下記などを確認し、地域の医療需要を分析します。
- 総人口
- 年齢構成
- 世帯数
- 昼間人口
- 将来人口推計
特に、厚生労働省や総務省統計局、自治体が公開している統計データは、診療圏調査でも広く活用されています。
また、単純な人口数だけでなく、下記のような地域特性も重要です。
- 子育て世帯が多いか
- 高齢化が進んでいるか
- オフィス街か住宅地か
将来的な人口減少や再開発予定などは、中長期的な医院経営の判断材料として役立ちます。
競合医院の調査
診療圏調査の際は、周辺の競合医院についても詳細に確認します。
確認項目には下記などがあります。
- 診療科
- 医師数
- 診療時間
- 土日診療の有無
- 設備内容
- ホームページや患者さんの評価の状況
単純に医院数だけを見るのではなく、地域で不足している医療機能は何かの分析が重要です。
例えば、夜間診療が少ない、女性医師が少ない、専門外来が少ないなど、地域の不足部分が差別化ポイントになるケースもあります。
また、競合医院の立地や駐車場の有無なども、来院行動に大きく影響します。
現地確認による生活動線や地域環境の把握
最後に、実際に現地へ足を運び、地域環境や生活動線を確認します。
統計データだけではわからない、人通りや交通量、駅利用者の流れ、スーパーや学校の位置、周辺道路の混雑状況などの把握が重要です。
特に、クリニックは通いやすさが来院動機に直結しやすいため、下記も確認しましょう。
- 駐車場へ入りやすいか
- 歩道が安全か
- 高齢の方が通院しやすいか
- 看板が見えやすいか
また、平日・休日、昼・夜など時間帯によって人の流れが変わるケースもあるため、複数の時間帯で現地確認を行うと、より実態に近い分析につながります。
診療圏調査の注意点

診療圏調査は開業判断に役立つ重要な分析ですが、調査結果だけで将来の経営を完全に予測できるわけではありません。人口データや競合状況には変動要素も多いため、複数の視点から慎重に判断することが大切です。
データの前提条件による誤差
診療圏調査では、人口統計や受療率などをもとに推計患者数を算出します。しかし、あくまで統計データをもとにした予測であるため、実際の来院数と差が生じるケースもあります。
例えば、下記の要因で人の流れが大きく変化する場合があります。
- 新築マンション建設
- 再開発
- 大型商業施設の開業
- 交通環境の変化
また、同じ人口規模でも、高齢者さんの割合や子育て世帯数、昼間人口などによって医療需要は変わります。
そのため、診療圏調査は絶対的な数字ではなく、開業判断の参考データとして活用する視点が重要です。
競合の見落としや過小評価
診療圏調査においては、競合医院の分析も重要ですが、単純な医院数だけでは実態を把握できない場合があります。
例えば、専門外来の有無や医師の専門性、地域での評判、土日診療対応、Web集客力などによって、実際の競争力は大きく異なります。
また、現在開業していなくても、建設予定の医療モールや今後の新規開業、法人展開するクリニックなど、将来的な競合増加も考慮する必要があります。
特に都市部では、短期間で競合状況が変わるケースもあるため、新しい情報を継続的に確認しましょう。
将来の人口変化を踏まえた判断
現在の人口だけでなく将来推計人口も立地選びの判断材料です。
総務省や国立社会保障・人口問題研究所などでは、地域ごとの人口推計が公表されており、多くの地域で少子高齢化や人口減少が進むと予測されています。
例えば、子ども人口が減少する地域や高齢化率が急上昇する地域、再開発で人口増加が見込まれる地域などでは、今後求められる診療内容も変化します。
開業時点では需要が高く見えても、10年後には患者層が変化している可能性もあるため、中長期視点での地域特性の確認が重要です。
また、診療科によっても影響は異なります。小児科は出生数、高齢者さんの診療では高齢化率など、診療内容に応じて将来人口を分析する必要があります。
まとめ

診療圏調査は、開業エリアの人口や競合状況、地域特性などを分析し、安定した医院経営が可能かを判断する重要な調査です。ただし、調査結果はあくまで予測データであり、将来的な人口変化や競合増加によって状況が変わる可能性もあります。そのため、統計データだけでなく現地確認も行いながら、中長期的な視点で総合的に判断しましょう。




