メンタルクリニックを開業するには?資金や手続き、収支を解説します
近年、心の健康への関心が高まり、精神科や心療内科のニーズは広がっています。患者さんに寄り添った診療を提供するためにメンタルクリニックの開業を検討する際、どのくらいの資金やどのような準備が必要か、開業後の経営のポイントなど、気になる点がたくさんあるのではないでしょうか。
本記事では、メンタルクリニック開業に必要な資金の目安や運転資金、収支シミュレーション、開業までの流れや手続きについて丁寧に解説します。
メンタルクリニックを開業するには

メンタルクリニックの初期開業資金は1,500〜3,000万円程度が一般的な目安ですが、クリニックの規模や立地条件によってはもっと費用画家かかるケースもあります。メンタルクリニックの場合、ほかの診療科では導入が必要な検査機器や手術設備よりも空間づくりに重点を置くことが多いため、内装費にある程度の予算を確保することがポイントです。
クリニック開業時には、初期費用だけでなく運転資金も確保する必要があります。
運転資金とは、毎月かかる家賃や人件費、光熱費、広告費などの費用をまかなうためのお金のことで、開業後すぐに収益が安定しないことを見越して最低でも3〜6ヶ月分を準備しておくことが望ましいといわれています。
保険診療の収入は診療から約2ヶ月後に振り込まれる仕組みのため、開業直後は支出が先行します。このタイムラグに対応できるよう、余裕を持った資金計画を立てることが求められます。
開業資金の調達には、自己資金と融資などほかの方法を組み合わせるのが基本です。自己資金以外の調達方法の例は、以下のとおりです。
- 日本政策金融公庫からの開業融資
- 金融機関からの融資
- 補助金・助成金の利用
- 親族や知人からの出資・借入
自己資金をある程度用意しておくことが融資審査の信頼性を高めることにつながるので、総投資額の1~2割程度の自己資金を用意できるのが望ましいでしょう。
融資審査を通過するには詳細な事業計画書の作成が不可欠です。事業計画書には、開業後の収支見通しや返済計画を明確に示し、クリニックの将来性と安定性を数字で裏付けます。
- 開業コンセプトと市場分析:地域の人口動態や競合状況を調査し、どのようなニーズに応えるクリニックかを説明
- 患者数と売上予測:1日あたり何人の患者さんを診察し、平均単価はいくらかを算出
- 費用計画と返済計画:損益分岐点を計算し、借入額と金利、返済期間から毎年の返済額を算出、黒字化までのシナリオを示す
- 差別化戦略・集患計画:競合クリニックとの差別化戦略や集患施策を説明
金融機関はどのように利益を出して返済していくかという点を重視するため、売上予測や患者数の見込みを現実的に盛り込むことが大切です。
開業コンサルタントや税理士など、医療開業の支援実績がある専門家に相談しながら、説得力のある計画を仕上げましょう。
メンタルクリニックの売上のシミュレーション

クリニックの収支シミュレーションを行うには、収入面と支出面の両方で具体的な仮定を置く必要があります。まず収入のシミュレーションでは以下の情報が必要です。
- 1日あたりの想定患者数
- 患者さん1人あたりの売上単価
- 診療日の稼働数
次に支出面では、クリニック運営に必要な経費を漏れがないように洗い出します。
- 人件費
- 賃料
- 水道光熱費
- 医療材料費
- 宣伝広告費
- ローン返済
- リース料 など
これら固定費・変動費の月額を算出し、予測売上と突き合わせて損益計算します。開業初期は患者数が安定しないことも多いため、楽観、標準、悲観など複数のシミュレーションを立てて検討するという方法もあります。
クリニック院長の収入は、患者数や経営状況によって大きく異なります。
厚生労働省の『第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-』によれば、精神科の開業医の平均年収は約5,421万円で、『第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和5年実施-』では約2,185万円となっています。
令和3年の調査結果はコロナ禍前後の影響も含んでおり、需要の急増が年収増加の背景と考えられているため、メンタルクリニックの経営者の平均的な年収は2,000〜3,000万円と考えるとよいでしょう。
出典:
『第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和3年実施-』(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf)(2025年7月15日に利用)
出典:
『第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和5年実施-』』(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf)(2025年7月15日に利用)
メンタルクリニックを開業するまでの流れと手続き

メンタルクリニック開業までの流れは次のとおりです。
- 開業コンセプトの策定
- 事業計画・資金計画の具体化
- 物件の決定と資金調達
- 内装工事
- スタッフの採用と研修
- 各種届出や手続き
- 広告や集患準備
- 開業
開業準備には約1年の期間をみておくとよいでしょう。どのような診療方針で誰を対象とするクリニックにするかといったコンセプトを明確にし、必要な手続きに漏れがないように丁寧に準備を進める必要があります。
クリニック開業には、医療法や関係法令に基づく許認可手続きが欠かせません。
| 手続き | 届出・申請先 | 必須度 | ポイント |
| 診療所開設届 | 保健所 | 必須 | 医療法に基づく手続きで、開設10日前までに提出が必要 |
| 保険医療機関指定申請 | 地方厚生局 | 原則必須 | 申請していないと自由診療のみとなってしまうので、保険診療を行う場合は必ず申請 |
| 精神科標榜届 | 都道府県知事(保健所) | 必須 | 設備や人員基準があり、診療経験の確認書類などが求められる可能性もある |
| 入会申請 | 医師会 | 任意 | 強制ではないが、地域医療との連携や各種情報の共有、研修機会を得られる、開業支援を受けられる可能性があるなどのメリットがある |
| 労災保険指定申請 | 労働基準監督署 | 診療内容による | 労災診療を行う予定がある場合は申請が必要 |
| 電子カルテ・レセコンの導入契約 | 各ベンダー | 実務上は必須 | レセプト請求には実質必須だが、紙レセプトで対応する場合は不要 |
| 医療廃棄物処理業者との契約 | 廃棄物処理の専門業者 | 実務上は必須 | 感染性廃棄物の適正処理義務があるため、事実上は必須 |
手続きに時間がかかることもあるので、余裕を持って準備を進めましょう。
開業準備には1年程度を要するケースが多いですが、クリニックを新築する場合は1年以上かかることもあります。
物件選定や内装工事、保健所との調整には時間がかかることも多く、勤務しながら準備する場合は時間的制約もあるため、計画的なスケジュール管理で余裕を持って準備を進めることをおすすめします。
クリニック開業に関する各種業務は、開業コンサルタントなど専門の開業支援サービスや税理士、行政書士などに依頼することが可能です。開業コンサルタントに依頼すれば、以下のような幅広い業務をトータルサポートしてもらえます。
- 事業計画の策定支援
- 開業地・物件選定
- 資金調達サポート
- 内容設計・医療機器選定
- スタッフ採用支援
- 広報・集患施策
- 各種行政手続き代行
- 開業後の経営アドバイス
費用はかかりますが、開業準備から開業後までワンストップで支援を受けられ、本来の診療業務に集中できるメリットもあるので、手間やリスクを抑えて開業準備を進めたい方は検討してみましょう。
編集部まとめ
メンタルクリニック開業を成功させるには、資金計画・事業計画を綿密に立て、開業までのプロセスを計画的に進めることが重要です。
自由診療のニーズ拡大や心のケアへの関心の高まりを背景に、今後も需要が見込まれる分野ですが、安定した経営のためには慎重に準備することが求められます。経営者として知識を蓄え、各種届出など法定手続きの期限管理をしっかり行い、必要に応じて専門家の力も借りましょう。
一歩ずつ確実に準備を進めることで、患者さんの心に寄り添う理想のクリニックの実現に近づけます。




