眼科の開業で成功するには?検討すべきことや失敗しないためのポイントを紹介
眼科の開業は、扱う診療内容によって必要な設備や経営戦略に大きな違いがあるため、綿密な事業計画の策定が重要になります。
白内障手術などの日帰り手術を行うか、レーシックやICLなどの近視治療を扱うかなどで必要な設備投資にかかる額は大きく変わってきます。眼科を開業する前に検討しておくべきことや失敗しないためのポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事では、
- 眼科の開業で検討すべきこと
- 眼科の開業で失敗しないためのポイント
- 眼科の開業にまつわる気になる疑問
これらについて紹介します。
眼科の開業で検討すべきこと
眼科を開業する前に検討すべきことを、以下の3つの観点から解説します。
- 診療・検査の内容
- 開業エリア
- 眼鏡店との連携
診療・検査の内容
最初に検討すべきことの一つに、白内障などの日帰り手術を行うかどうかがあります。
白内障などの日帰り手術を行うかどうかで、クリニックの内装や必要な設備投資は大きく異なります。一般的に手術室を整備するのであれば、2,000万〜3,000万円の追加資金が必要だと認識しておくと良いでしょう。
手術を行う場合、具体的には、
- 手術室や回復室の設備投資関連費用
- 白内障手術で使用する医療機器の購入費用
- 眼内レンズなどの手術に必要な医療材料費用
- 術前検査に必要な検査機器の購入費用
これらの費用が発生するため、より多くの開業資金が必要になります。
検査機器においても最新の機器を導入するのか、もしくは中古やリースで初期費用を抑えるのか検討が必要です。
開業エリア
開業エリアも検討すべき重要なポイントです。
以下の観点から開業エリアを検討するとよいでしょう。
- 子どもから高齢者まで幅広く集患できる地域か
- ターゲットとなる患者層が多く住んでいる地域か
- 同じ診療圏内で競合となるクリニックはあるか
- 競合のクリニックと差別化できるか
- 勤務していた病院と同じ診療圏内の地域か
開業後に経営を安定させるためには、新規の患者数を増やすことが大切です。
そのため、ターゲットとなる患者層が多く住むエリアで開業することが望ましいでしょう。
厚生労働省の調査によると、国内の眼科診療所は8,244施設あります。この施設数は、内科や皮膚科、整形外科に次いで多い診療科となります。特に都市部などでは、診療所が密集しているので、開業するエリアが飽和状態になっていないか調査が必要です。
またどのような地域でも、近隣のクリニックとの差別化は重要です。
例えば、日帰り手術ができる診療所が開業候補のエリアにないのであれば、手術に対応できるクリニックを開業することで、周囲との差別化につながり患者数の増加が見込めます。
その他にも、勤務していた病院と同じ診療圏内で開業することも集患数を上げるのに効果的です。
勤務医の時から診ていた患者さんが通院してくれる可能性が高く、患者さん同士の口コミの広がりにも期待できるでしょう。
(参考:令和2年医療施設調査・病院報告の状況|厚生労働省)
眼鏡店との連携
開業候補地周辺の眼鏡店との連携も検討しておくべきでしょう。
眼鏡店のお客さんが目の異常を感じた際に、眼科の受診を勧めてもらえるように連携しておくことが大切です。
そうすることで、患者さんの病気の早期発見につながり、結果として、クリニックの集患や増患対策にもなります。
最近では、ショッピングモールや街中でも簡単にメガネを作れる眼鏡店の増加にともない、眼科での検査を受けずにメガネを購入する人が増えています。
そのため、公益財団法人日本眼科学会から、眼鏡店における眼科検査では病気の有無を診断することはできないため、疾病の早期発見の機会を失する懸念があると警告し、まずは眼科医療機関の受診を強く推奨しています。
(参考:眼鏡店における眼科検査について|公益財団法人日本眼科学会)
眼科の開業で失敗しないためのポイント
眼科の開業で失敗しないためは、以下のポイントを押えておきましょう。
- 資金計画
- 開業する立地やクリニックの内装
- スタッフの採用計画
- 集患対策
それぞれについて解説します。
資金計画
開業に必要な資金調達や開業後の収支予測など綿密な資金計画を立てることが、開業で失敗しないためのポイントとして挙げられます。
眼科は検査が多い診療科のため、必要な検査機器の種類も多くなります。そのため、開業資金も高額になりますので、どのくらいの資金を自分で準備し、残りをどこから借入れるのかといった資金調達方法を検討する必要があります。
また、物件費や人件費、医療材料費など、クリニックの運営にかかる費用も細かく見積もりましょう。クリニック収益の大半を占める保険診療収入は、入金までに2カ月ほどかかるため、資金繰りをショートさせないよう必要な運転資金額の計算は重要です。
1カ月分の運転資金だけでは資金不足に陥る可能性があるため、一般的には3〜6カ月分が運転資金として必要な額の目安とされています。
開業する立地やクリニックの内装
眼科は視力低下など視覚に問題を抱えた患者さんが通院する診療科のため、開業する立地やクリニックの内装にも配慮が必要です。
例えば、駅から遠かったり、エレベーターがない2階以上の物件だったりすると不便に感じる患者さんも多いでしょう。
郊外の物件で開業する場合、家族に付き添われて車で来院する患者さんも多いため、広めの駐車場の完備は必須です。
また、クリニックの内装では、視覚障害のある患者さんが困らない院内導線を整備する必要があります。クリニック専門の内装を得意とするデザイン会社も多くありますので、相談してみるのも良いでしょう。
スタッフの採用計画
クリニック経営で失敗しないためには、優秀な人材確保が必須です。眼科では視能訓練士や検査助手など専門職の人材確保が必要になる場合があります。
求人サイトや広告では、視能訓練士の採用に苦戦することが多いかもしれません。そのため、勤務していた病院の関係者を勧誘したり、先輩開業医や知人から紹介してもらったりすることも検討しておくと良いでしょう。
集患対策
クリニックのホームページ制作やSNS運用などに注力した集患対策は、開業を成功させるためのポイントの一つです。
院長のプロフィールや顔写真、クリニックの雰囲気が伝わる画像や診療内容などをわかりやすく発信することは、周辺クリニックとの差別化につながります。
コンタクトレンズやメガネ処方、レーシックやICLなどで若年層を集患したいのならSNS運用も効果的でしょう。
また、最近は「地名+眼科」でネット検索し、クリニックを比較検討する患者さんが増えてきています。そのため、検索結果の上位に表示させるようなSEOやMEO対策も必要となります。
眼科の開業資金や平均事業収入
眼科の開業を検討している医師にとって、気になるのが開業資金や事業収入といった金銭面でしょう。
- 眼科の開業に必要な資金
- 眼科開業医の平均事業収入
これらについて解説します。
眼科の開業に必要な資金
一般的に眼科の開業に必要な資金は、約5,000万〜6,000万円とされています。
しかし、以下の条件によって必要な資金は変わります。
- 都市部と地方のどちらで開業するか
- 戸建てとテナントのどちらで開業するか
- 日帰り手術を行うのかどうか
都市部であれば、家賃や人件費は高くなるため、必要な開業資金や運転資金は多く準備する必要があるでしょう。
もし、白内障の日帰り手術を行うのなら、手術に必要な医療機器などの備品代、手術室や回復室の設備投資に2,000万〜3,000万円以上の追加費用が必要になります。
眼科開業医の平均事業収入
眼科開業医の平均事業収入は約3,700万円といわれています。
一般診療所(歯科を除く)全体の平均は約3,200万円なので、眼科は平均よりも収入が高いと言えます。
厚生労働省が調査する「第24回医療経済実態調査」では、一般診療所の眼科クリニックの損益計算書が公開されています。
経営が安定している眼科から、開業したばかりの眼科、手術実施の有無を問わず全ての平均値になっていますので、参考として捉えるとよいでしょう。
<一般診療所(個人)眼科の診療所全体の1施設当たり損益>
医業収益 | |
入院診療収益 | 約18万円 |
外来診療収益 | 約9,900万円 |
その他の医業収益 | 約320万円 |
医業費用 | |
給与費(人件費) | 約2,400万円 |
医薬品費 | 約800万円 |
材料費 | 約390万円 |
委託費 | 約520万円 |
減価償却費 | 約580万円 |
その他の医業・介護費用 | 約1,900万円 |
医業収益(約1億300万)ー 医業費用(約6,600万円)= 利益:約3,700万円 |
(出典:第24回医療経済実態調査|厚生労働省)
開業形態ごとに違いはある?
開業形態によって必要な開業資金や経営戦略は異なってきます。資金計画を含め、自分にあった形態を選択することが大切です。
戸建てクリニック
戸建てクリニックは、外装や内装、院内設備など自由に設計できることがメリットになります。
広い土地を確保できるのであれば、駐車場も併設でき、遠方からの集患も見込めます。
一方で、土地の購入や建物の建設に費用が必要になるため、開業資金は高額になります。建設工事に時間もかかるので、開業の準備期間が長くなってしまうことは認識しておきましょう。
既に土地を有している場合や、自宅兼診療所として開設を検討している方にとっては選択しやすい開業形態です。
医療モール
医療モールは、戸建てクリニックよりも開業資金を抑えて、比較的立地が良いところで開業できることがメリットになります。
医療モールにはほかの診療科もあるため、上手く連携すれば集患につながります。
例えば、目の周りのアレルギー症状で皮膚科を受診した患者さんに対して、目の状態を確認するために眼科の受診も勧めてもらうこともできるでしょう。
一方で、テナントの広さや内装設計の自由度に限りがあるため、窮屈さを感じてしまうかもしれません。手術室を完備したくても、十分な広さがなければ難しいでしょう。
医療モールなどのテナントでの開業は、できるだけ開業資金を抑えたい方にとっては良い選択肢になります。
事業承継
開業資金をもっとも抑えて開業ができるのが事業承継です。患者さんやスタッフを引き継げることも承継のメリットといえます。
事業承継を選択する際は、契約内容のほかに、前院長の経営理念や診療方針が自分に合っているかなどを確認することが大切です。
開業のメリット・デメリット
開業をするメリットとして、以下が挙げられます。
- 勤務医時代よりも収入アップが期待できる
- 自分の理想とする働き方や診療方針を追求できる
開業をするデメリットとして、以下が挙げられます。
- 多額の開業資金が必要となり、収入が安定しない可能性もある
それぞれについて解説します。
勤務医時代よりも収入アップが期待できる
眼科勤務医の平均年収は1,078万円という調査報告があります。
眼科開業医の平均事業収入は約3,700円なので、開業医の方が収入アップできる可能性が高いといえます。
(参考:勤務医の就労実態と意識に関する調査:労働対策研究・研修機構)
自分の理想とする働き方や診療方針を追求できる
自分が理想とする働き方や診療方針を自由に選択し、追究できることが開業するメリットの一つとして挙げられます。勤務医は、勤務先の病院の勤務体制や診療方針に従わなければなりません。
その一方で開業医は、自分の経営理念や診療方針に沿ったクリニック経営を行うことができます。
実際に、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、医師が開業を考える理由は「自らの理想の医療を追求したいから」がもっとも多く、次いで「勤務医の収 入は労働時間に比べ賃金水準が低いと感じるから」となっています。
多額の開業資金が必要となり、収入が安定しない可能性もある
多額の開業資金を借入れ、初期投資を行ったにも関わらず、患者さんが集まらず思うような収入を得られないことがあります。
集患が上手くいかず経営難に陥ると、最悪の場合、倒産してしまう可能性があることは認識しておきましょう。
厚生労働省や企業調査の結果から、一般診療所の廃業・倒産率は約0.5%とされています。ほかの業種と比較すると低い確率ですが、一定割合で経営を存続できないクリニックがあることは認識しておきましょう。
(参考:医療施設実態調査|厚生労働省)
(参考:医療機関の休廃業・解散動向調査|株式会社帝国データバンク)
編集部まとめ
この記事では、眼科の開業で検討すべきこと、眼科の開業で失敗しないためのポイント、眼科の開業にまつわる気になる疑問について解説してきました。
経営に成功すれば高い収入が得られる眼科開業医ですが、開業前に検討すべきポイントをしっかり押さえて準備することが重要です。
開業に必要な資金調達や、開業後の収支予測など綿密な資金計画をしっかり立てることが、その後の経営の成功を左右します。
これから眼科医として開業を検討している方にとって、本記事が参考になれば幸いです。