開業の準備、開業とは
開業医として働くことには、自分の理想とする医療を実現できたり、収入アップが期待できたりするなど、さまざまな利点があります。そのため、勤務医として働く中で開業を考え始める医師の方は大勢いらっしゃるでしょう。この記事では、そのような方に向けて開業の基本的な知識や、開業に必要な準備について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
01開業とは
病院やクリニックに雇用されて働く「勤務医」に対し、自分自身で医療機関を開業し経営と診療を行うのが「開業医」です。開業には、大きく分けて「新規開業」と「承継開業」の2つがあり、新規開業は医療機関の立ち上げから行うこと、承継開業は親族や知り合いの医師から既存の医療機関を引き継いで開業することを指します。新規開業には、診療方針やコンセプト、クリニックの立地などすべてを自由に決められるというメリットがある反面、1から準備する必要があるため多額の資金が必要となることや、経営が安定するまでにある程度の時間が必要であることなどのデメリットがあります。一方で承継開業の場合は、医療設備や既存のスタッフ、患者さんを引き継ぐ場合が多いため、初期費用が抑えられ採用活動や集患対策への労力やコストも削減できるといったメリットがあります。しかし、地域住民との関係性や診療方針なども引き継ぐ必要が出てくるため、新規開業に比べて自由度は低いといえるでしょう。
02クリニックの開業準備でまずやること
開業したいと考え始めたら、まずはクリニックのコンセプトを考えましょう。コンセプトとは「なぜ開業をしたいのか」「開業をして、どのようなクリニックを作りたいのか」を明確にすることです。そのうえでさらに、診療方針や専門性、立地、ターゲットとなる患者さんの層、クリニックの規模、導入する設備といった、クリニックの方向性を決めましょう。このような開業コンセプトがしっかりと定まっていないと、必要な融資を希望通りの金額で受けられない可能性があります。さらに、いざ開業しても集患がうまくいかず経営難に陥る可能性もあります。
03開業までの流れ・スケジュール
開業を決意しコンセプトを決定してから実際に開業をするまでには、さまざまな手順を踏む必要があり、1年ほどの期間を要するのが一般的です。どれだけスピーディーに準備をしても半年はかかりますので、理想とする開業時期から逆算してスケジュールを組んでおきましょう。その際は、さまざまな手続きや準備が必要になることを想定し、余裕をもったスケジュールにしておくことが大切です。また、「いい物件が出てきたら開業しよう」など、受け身の状態でいると開業はうまくいきにくくなるでしょう。開業を決意したのであれば、「〇月までに理想に合う物件を探す」というように、スケジュールに沿って自ら行動することが大切です。
04クリニック開業までの手順
クリニックを開業するために必要な手続きや準備について解説します。
開業時期の想定
まずは、開業時期を決めましょう。前述したように、開業までにはいくつもの準備をする必要がありますので、1年以上先の日程でスケジュールを策定しておくことが大切です。スケジュール策定と同時に、情報収集や家族への相談、経営戦略の立案なども進める必要があります。その後の大まかな流れとしては、後述する「事業計画の策定」「開業の土地選び・物件選定」は半年前までを目安に行い、「資金調達・借り入れ」「内装工事」は半年前から始めるのが一般的です。その後、開業の2、3カ月ほど前から「導入機器選定」「スタッフ採用や研修」「集患対策」を行いましょう。また「行政、保険医療機関への申請」も必要になります。
事業計画の策定
事業計画とは、その名の通りクリニックの事業をどのように行っていくのかを文書としてまとめたものです。クリニックを開業するにあたって、ほとんどの場合において融資を受ける必要がありますが、その融資を好条件で受けるためにも、綿密で信頼性のある事業計画を作成することが大切です。具体的には、経営の理念や戦略、開業する場所など基本となる部分をまとめた「経営基本計画」、初期投資や運転資金、融資などに関する項目をまとめた「資金計画」と「収支計画」の主に3つの構成で策定します。また、導入を検討している医療機器や内装工事費の見積もりなどもとっておく必要があります。
開業の土地選び・物件選定
開業する土地や物件は、クリニックの経営に大きく影響します。そのため、さまざまな調査を行い、慎重に選ぶ必要があります。例えば、1日あたりの推計患者数を把握するための診療圏調査や、競合の調査は必要不可欠です。物件自体は希望通りだったとしても、その地域の人口や年齢層、競合の多さなどによっては、想定した来院数が見込めない場合があります。また、その地域の医師会の加入条件や耐震及び大規模修繕計画書の内容を確認しておくことや、物件に構造上の問題がないかを把握しておくことも大切です。このようなさまざまな情報と予算を照らし合わせながら、自身の理想とするクリニックに合った物件を選定しましょう。また、必要に応じて継承物件を検討することも視野に入れておくのがおすすめです。
資金調達・借り入れ
クリニックの開業には、多額の費用がかかります。そのため、多くの場合において自己資金だけで賄うことは難しく、銀行などからの融資が必要となります。融資を受ける場合は、資金調達の方法の検討・決定、金融機関への相談・交渉、申し込みという流れが一般的です。交渉にあたっては、前述した事業計画書や資金計画の作成が必要です。また、一般的に必要となる書類は、事業計画書、確定申告書、預金や土地などの財産リスト、借り入れ返済表、履歴書、医師免許証、医療機器見積もり、内装業者見積もり、賃貸借契約書などです。漏れがないようにするだけでなく、現実的かつ将来性を感じさせる計画書を作成することで、有利な条件で融資を受けられるように準備をしておきましょう。
内装工事
資金調達の準備ができたら、内装工事に着手します。内装工事は、設計コンペを行ってコストを抑えるのがおすすめです。内装に関する要望をリスト化し、同条件・同タイミングで複数の業者に依頼することで、理想とする内装デザインに出会いやすくなります。内装業者が決定したら、内装の細かい部分をかためていきます。その際、医療機関専門の開業コンサルタントなどにも介入してもらうと、認識相違や設計後に「ここはこうするべきだった…」と後悔することを防ぎやすくなります。また、内装工事費用は、引き渡し後だけでなく、着工時や着工途中に中間金として一部必要になる場合があります。さらに、場合によっては工事が一通り終わった後に追加での工事が必要になることもあるでしょう。このような、契約・金銭面での取り決めは、事前に細かく定めておくことがリスクを避けるためには大切です。
導入機器選定
内装工事が完了したら、導入する医療機器の選定を始めましょう。目安としては、開業の3カ月ほど前から行っておくと、十分に検討をしたうえで開業に間に合わせることができます。ある程度余裕をもって見積もりや交渉を行わないと、スケジュールに間に合わせるために高い金額で購入することになりかねませんので、注意しましょう。時間に余裕がある場合は、メーカーから直接購入することで、卸業者を間に挟むよりもコストを抑えることができます。また、コストを抑えるためには複数の業者に見積もりをとることと、決算月など値下げが期待できる時期を利用することがおすすめです。
スタッフ採用や研修
開業の2カ月ほど前になったら、スタッフ採用や研修を始める必要があります。その前段階として、内装の図面や医療機器の設置場所をもとに、スタッフの動線や配置、必要人数を計画しておきましょう。人件費は運転資金に大きく影響するため、初期段階では最小限の人数に抑えておくのがおすすめです。必要なスタッフの職種や人数が決まったら、近隣の医療機関の情報も参考にしながら、就業時間や給与体系などの各種規定を策定します。そのうえで、ハローワークや各種求人サイトを利用して求人広告を出しましょう。応募が来たら、書類選考、面接などを経て採用を決定し、その後は開業の1カ月前をめどに研修を始めます。
集患対策
開業しただけでは、思うように患者数は集まりません。特に、競合が多い都心部に開業する場合や、人通りが少ない場所に開業する場合は、十分な集患対策を行う必要があります。具体的には、ホームページの作成やSEO対策・広告運用、リーフレットやチラシの配布、看板の設置などを検討しましょう。ホームページを作成する場合、開業前から開業して間もない間までは簡易的な作りになることもあるかと思いますが、開院日時や内覧会日時、院長紹介や標榜科目などはわかりやすく記載し、どのようなクリニックがいつどこに開業するのかは周知できる状態にしておきましょう。また、これらの集患対策と同時に診察券のデザインなども決めておく必要があります。
行政、保険医療機関への申請
開業をするためには、行政や保健医療機関への申請が必要です。保健所へは診療所開設届、管轄の厚生局には保険医療機関指定申請書、施設基準の届け出などを出す必要があります。さらに、個人で開業する場合は税務署への開業届、法人を設立する場合には法人設立届の提出が必要です。そのほか、医師会への加入手続きや、税務署への給与支払事務所の開設届、年金事務所への健康保険・厚生年金保険新規適用届、労働局への雇用保険適用事業所設置届など、いくつもの申請・手続きが必要になります。要件を満たしていないと申請が通らず、保険点数を請求できない場合もありますので、余裕をもって慎重に作業をすすめましょう。
05クリニック開業時に注意する点
医師会への挨拶、入会
医師会への入会は任意であり、必ずしも入会しないといけないわけではありません。特に都心部などでは、入会をしない医療機関も増えています。しかし、医師会に入会することで、小児予防接種の業務委託が割り振られたり、知名度が上がったりと、収入の増加につながるケースもあります。そのため「入会はしない」と決めている場合以外は、まずは地域の医師会に入会を前提に挨拶をして、話を聞いてみるのがおすすめです。入会をする場合は、その後医師会による審査が行われます。
開業コンサルタントや開業支援活用の検討
ここまで説明してきた内容からもわかる通り、医療機関を開業するにあたって必要となる手続きや準備は数多くあり、医療法や消防法といった遵守しなければならない法令も複数あります。多くの場合、開業を検討している医師の方は、勤務医として日々診療を行っている状態かと思いますので、その生活の中でこれらの作業を並行して進めていくことはそう簡単ではありません。そのため、必要に応じて開業コンサルタントに業務を委託したり、開業支援サポートを受けたりするのがおすすめです。医療機関に特化したコンサルタントや、すでに開業医として活躍している先輩医師から紹介された業者などを選べば、より適切なサポートを受けやすくなるでしょう。
周辺や競合クリニックの調査
土地選びと物件選定の項目でもふれたように、周辺調査や競合調査は、開業後のクリニック運営に大きく影響します。地域の人口、年齢構成、交通機関、競合クリニックの数や実態は必ずチェックしておきましょう。また、駅から徒歩1分の立地だったとしても、駅のどちら側にあるのか、大通り沿いなのか奥まった場所にあるのかなどで、患者さんの来院数には差が出ますので、クリニック周辺の人の流れもチェックしておくことが大切です。
06まとめ
これからクリニックを開業しようとしている方に向けて、開業の基本的な知識から、開業準備を進めるうえでの注意点まで、さまざまな情報をまとめましたが参考になったでしょうか。開業には、自分の理想とする診療を追求できる、年収アップが期待できるといったメリットがある反面、複雑な手続きが数多く必要となります。余裕をもって準備を始めることはもちろん、必要に応じてコンサルタントなど専門家にサポートを依頼することで、開業を成功に導きましょう。
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