クリニックの開業に必要な準備とは?ハードとソフトの両面から内容を解説!
開業医になりたいと考え始めたものの、どのような準備をすればいいのかわからないという方もいらっしゃるかと思います。また、同僚や先輩に相談したくても、退職が決まるまで開業医になることを知られたくないという方も多くいらっしゃるでしょう。本記事では、そのような方に向けて、開業をするうえでのポイント、場所の決め方、資金調達の仕方、スタッフの採用方法、集患する方法について説明いたします。
クリニックの開業に必要な準備とは
クリニックを開業するということは、一定の利益を自分の力で稼がなくてはならないということです。そのためには、開業コンセプトや開業場所、資金の調達方法などを、事前にしっかりと考えておく必要があります。ここでは、そういった開業における注意点を説明します。
開業コンセプトを決定する
開業をするうえで大切になるのが、事業計画です。事業計画作成のためには、主に2つのことを分析する必要があります。一つ目は、マーケット分析です。マーケット分析では、まず、開業を検討している地域ではどのような医療が求められているのか、患者さんの年齢層はどれくらいかなどを調べます。そして、5年後、10年後のクリニックの将来を見据え、地域の方に喜ばれる医療が提供できるのかを考える必要があります。そのうえで、提供する医療サービスや診療方針などを決めましょう。2つ目は、財務分析です。提供する医療サービスによって変わりますが、設備購入費・メンテナンス費・光熱費・人件費・税金などが年間でどれくらいかかり、毎年の利益はどれくらい伸ばせるかをシミュレーションする必要があります。そうした考えをもとに、診療内容や事業規模などの計画を立てます。事業の方向性を明確にすることは、収益を伸ばすことにもつながるでしょう。
開業場所を決定する
開業する場所の選定は、収益に直結します。地方で開業するのであれば、アクセスの利便性を考えなければなりませんし、東京や大阪などの人が密集する場所で開業する場合は、他院との差別化や診療体制を考える必要があります。また、どの地域で医療を行っても、毎月の家賃は発生します。収支のバランスを考えながら、賃貸契約を結ぶことが大切です。こうしたことを計算せずに開業する場所を決めてしまうと、売り上げが思うように伸ばせず、事業が破綻してしまう恐れがあります。
開業資金を調達する
クリニックを運営するうえで、資金調達は必須です。テナント料や内装工事費、また診療科目によっては検査機器やレーザー治療機器、リハビリテーション機器などの導入費用もかかりますので、金融機関から多めに融資を受けておきましょう。
勤務医が開業するときに必要な準備
勤務医の方で、開業を決心されている場合は、半年前に退職の意思を伝えておきましょう。労働基準法では、最低2週間前に退職届けを提出すれば、退職することができます。しかし、業務の引き継ぎにはある程度の時間がかかりますので、あまりに急な退職は勤務先に悪い印象を与えてしまう可能性があります。半年前に上司や同僚に伝えておけば、良好な関係性を築いたまま辞められる可能性が高くなるでしょう。また、開業に関する資料は、自宅宛に送付してもらいましょう。退職を伝える前に開業の準備をしておく必要がありますが、意思を伝える前に勤務先に知られてしまうと、働きづらくなります。同様の理由で、医療メーカーやコンサルタントとのやりとりは、勤務時間外または休日に行うことをおすすめします。また、どのタイミングで退職をするべきかどうかは、すでに開業医として診療を行っている先輩などに相談してみるのがおすすめです。
ハード面でクリニックの開業に必要な準備
患者さんを集める要素として、どこで開業するかは重要です。アクセスの利便性や周囲の環境、土地の価格などを考えながら慎重に決めましょう。あわせて、患者さんやスタッフにとって居心地の良い環境が大切になりますので、内装もしっかり考えなければなりません。ここからは、開業場所の選び方、内装のポイントをわかりやすくお伝えします。
開業場所を検討する
都心・地方・医療モールで開業をするメリット・デメリットについて紹介します。都心で開業するメリットは、患者数が多く、交通の利便性が良く、看護師を始めとするスタッフの採用がしやすい点ですが、競合が多く運営費が高くなる点がデメリットとして挙げられます。地方は、診療圏が広く、競合が少ない点がメリットです。しかし、都心とは反対に、スタッフの採用が難しい点がデメリットになります。場合によっては、診療圏が広いために、送迎サービスなどを行う必要もあります。医療モールは、それぞれの科の医師と連携が取れるのと、集患力があるのが強みと考えられています。ただし、ほかの医療機関と診療範囲がかぶる恐れがある点や、内装業者・医療機器メーカーの自由度の低い点がマイナス面となります。施設面以外に、駅やバス停の近さ、ショッピングモール・学校の有無などの周辺環境が集患に影響しますので、開業コンサルタントに相談することも検討しましょう。
設計や内装工事を依頼する
院内は、医師やスタッフ、患者さんが移動しやすいよう、あらかじめ人の動きを考慮した設計にしておくと、快適な環境で業務を行うことができます。内装を考える際は、患者さんやスタッフの目線に立つことが大切です。精神科や泌尿器科、美容皮膚科などの診療科は、ほかの診療科以上にプライバシーへの配慮が大切になりますので、防音設計や完全個室などを検討するといいでしょう。小児科や耳鼻咽喉科にはキッズスペースや授乳室、おむつ交換台などを設置することで、受診するお子さんや親御さんが快適に過ごしやすくなります。また、内装工事が必要な場合は、設計料にきちんと目を通しておくことも大切です。業者によって設計料の算出が異なり、意図せぬ出費がかさむかもしれません。見積もりの段階から、金額に相違がないか、医療法・建築基準法にのっとっているかを注意深く確認しましょう。
医療機器などを購入する
医療機器の導入は、クリニックの経営を左右しますので、慎重に考えてから購入しましょう。判断基準は、将来を見据えたときに必要なものなのか、今が購入すべきタイミングなのかなどです。例えば、内科を専門としているのに、リハビリテーション設備を導入するのはあまり意味がありません。それよりも、レントゲンやエコー、胃カメラ、大腸カメラなどの設備を取り揃えたほうが、コンセプトともマッチし、患者さんにより専門的な医療を提供することができます。また、MRIやCTなどの検査機器を導入しなくても、ほかの医療機関に検査を依頼することもできます。医療機器の購入方法にはさまざまな選択肢があり、新品を購入するだけでなく中古品を選ぶことも、一括でなく月額で支払うこともできます。予算を考えながら、医療機器の購入を検討してみてください。
ソフト面でクリニックの開業に必要な準備
土地や建物選び、医療設備の導入以外に、人材の採用も開業のために必要な準備です。スタッフや看護師の雇用方法、求人広告の出し方、会計業務・労務管理について説明します。
士業(税理士・公認会計士・社労士など)への依頼
クリニックを運営していくうえで、利益があれば、一般の企業と同じように、法人税などを納める義務があります。会計の業務は、専門的な知識がないと手間がかかってしまうため、税理士や公認会計士に依頼することも視野に入れておきましょう。また、スタッフや看護師などの従業員を雇う場合は、労務管理が発生しますので、社会保険労務士に相談できる体制を整える必要があります。このように、開業をするということは、医療の分野以外の専門的な知識も求められるようになるということです。事前にどのような知識が必要になるのかを見据え、そのための準備をしておきましょう。
スタッフの採用
クリニックを運営する際は、受付対応にあたるスタッフ、医師のサポートをする看護師などを雇う必要があります。募集の仕方は、ハローワークに求人を出したり、求人サイトに掲載したりするなどさまざまです。求人サイトの種類はたくさんありますので、いくつか登録しておくことをおすすめします。ホームページを開設しているのであれば、そこに求人に関する情報を掲載しても良いでしょう。
ネットの集患(ホームページ、SNSなど)
地域の方にクリニックについて知ってもらうためにも、ホームページを作成することをおすすめします。何も情報を発信していないと、そもそもクリニックの存在が認知されず、集患が思うようにいきません。また、ホームページがあっても情報が不十分であれば、どのような医師がどのような診療を行っているのかがわからず、患者さんの受診につながりません。必要な情報が十分に網羅されたホームページがあれば、クリニックの存在を認識してもらえますし、電話予約・ネット予約などの機能をつけることで、問い合わせ数の増加も期待できます。現在、情報発信のメディアはSNSが主流となっていますので、ホームページとあわせてSNSを利用することで、若い層の患者さんを呼び込むこともできるでしょう。
ネット以外の集患(チラシ、地域誌など)
チラシ・地域誌などによる周知は、ホームページに比べて費用を抑えることができます。また、電車やバスなどで広告を出すこともできます。掲載期間は、2〜3カ月とされており、広告の効果を見ながら継続して掲載するかどうかの判断をしましょう。美容皮膚科・美容外科などは、テレビやラジオ、動画サービスなどで宣伝することもおすすめです。そのほか、地域のイベントに参加するといった方法もあります。
開業資金の準備をする
クリニックを開業するためには、多大な資金が必要となります。すべてを自己資金でまかなうことはほぼ不可能だと言って良いでしょう。ここでは、どれくらいの資金が必要になるのか、融資を受けられる機関にはどのようなものがあるのかをご説明します。
開業にどれくらいの資金が必要か把握する
開業する場所や標榜科目によって、開業資金は異なります。クリニックの場合は、建物・工事費用で約4000万円、医療機器の費用が約3250万円、広告費・生活費などが約3000万円とされています。合算すると、1億円ほどかかると想定されます。クリニックを先代から引き継ぐ場合は、そのまま医療機器を使え、スタッフの雇用をしなくて済むので、金額を半分以下に抑えることができます。
どこで融資を受けるか検討する
融資が受けられる金融機関は、日本政策金融公庫、民間の金融機関、医師会・地方自治体、福祉医療機構・リース企業などです。融資条件はそれぞれ異なり、金利が高く設定されているところもありますので、慎重に選ぶ必要があります。注意しなくてはならないのが、不動産投資をしている場合です。投資用の不動産を所持していると、多くの借入金があると金融機関に判断され、審査に通らないことがあります。
開業準備のよくある質問
ここからは「開業準備に必要な書類は?」「開業準備金を経費で落とせるのか?」といったよくある質問について詳しく説明します。
開業準備に必要な書類はなにか?
事業開始の1カ月前までに、開設手続きを行わなくてはなりません。また、保健所との事前打ち合わせでは、クリニックの名称や診療科名を決める必要があります。なお、こちらの名称は後から変更することも可能です。クリニックの内装が決まれば、図面を保健所に確認してもらいましょう。この図面のやりとりは、コンサルタントに代行させることができます。
開業準備にかかった費用は経費にできるか?
開業前に申告することはできませんが、開業後に「開業準備金」として、開業準備金を経費にあてることは可能です。医療機器・設備などを購入した際は、領収書やレシートを保管しておきましょう。
まとめ
開業を考えている医師の方へ向けて、事業計画を作成する重要性、開業する場所、機器を導入するタイミング、スタッフを採用する方法、集患の仕方、融資方法など、開業準備について詳しく説明させていただきました。将来クリニックを開業することを検討している方や、クリニックの継承を考えている方の参考になれば幸いです。