クリニック開業の物件選びでチェックすべきポイントとは?
クリニック開業が成功するかどうかは、その立地や物件選びにかかっているといっても過言ではありません。開業の際には、土地や建物を購入するか、または賃貸にするかといった選択肢があります。
今回は、クリニック開業の物件選びでチェックすべきポイントについて解説します。開業を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
クリニック開業における物件の種類
クリニック開業の物件を選ぶにあたって、以下のような選択肢が考えられます。それぞれについて解説していきます。
土地・建物ともに購入
土地・建物ともに購入するという形でクリニックを開業します。
この形態のメリットは、所有権が自分にあるため、建物の設計や運営において自由度が高く、賃貸料がかからないという点にあります。
一方で、土地の購入代や建築費といった初期費用が高額になるため、資金調達が課題となります。
借地権を購入
土地を借り、そこに建物を自分で建てるという形でクリニックを開業します。
土地の所有者とクリニックを開業する医師が借地契約を結ぶことになります。
この契約形態は、土地の購入にかかる資金を抑えることができ、建物については自己所有のため、クリニック特有の導線などに配慮した設計が可能です。
一方で、土地の賃料が継続的に発生するので、運用費用として考慮する必要があります。
物件を賃借
物件を借りるという契約形態は、初期費用を抑えられるため、開業時の負担を軽減できます。賃借の形態は、さらに以下のように分類されます。
テナントビル
医療モールや複合施設の区画を借りて、クリニックを開業します。
大きな医療機器を置くための広いスペースを必要としない場合や、土地代が高い都市部での開業に適した形態です。駅や大きな商業施設の近くにあることが多く立地条件がいいので、集患が見込めるというメリットがあります。その反面、ほかの競合クリニックとの差別化を図るのが難しいというデメリットがあります。
その中でも、居抜き物件は前のテナントが使用していた内装や設備をそのまま活用できるため、初期費用を大幅に抑えることができ、さらに開業までの準備期間を短縮できます。ただし、、追加で改修が必要になるケースや、設備が古いとメンテナンス費用が発生することもあるため注意が必要です。
建て貸し
建て貸しとは、土地の所有者がその土地に建物を立て、土地と建物をセットで貸すという形態です。設計には借りる側の希望が反映されるという特徴があり、オーダーメイド賃貸と呼ばれることもあります。この形態は、初期費用を抑えられる、賃貸物件が少ない地域への開業が可能となる、比較的自由な建築設計ができる、といったメリットがあります。
開業を成功させる物件の選び方
開業する立地と物件選びは、クリニック経営を成功させるうえで重要なポイントです。特に、立地は開業後の集患数に大きく影響するので、慎重に判断していく必要があります。また、標榜する診療科に応じた立地や広さなどにも配慮が必要です。
クリニック開業の物件選びのポイント① 良い立地を選ぶ
ここでは、良い立地の条件を解説し、診療圏についても触れていきます。
アクセスの良さ
良い立地の最も重要な要素の一つがアクセスの良さです。患者さんが通いやすい場所であることがクリニックの集患力を高めることにつながります。
近くにバス停や駅があると、幅広い年齢層の患者さんが来院しやすくなります。特に、車の運転が難しい高齢者や、公共交通機関を利用している通勤者にとっては、こうしたアクセスの良いクリニックには継続して通院しやすいでしょう。
また、車で通院する患者さんが多い地域では、駐車場が十分に確保されていることが重要です。特に、郊外では駐車場の有無が患者さんの利用頻度に大きく影響します。
地域の患者層と競合の調査
クリニックがターゲットとする患者層の人口比率や近隣クリニックの競合調査を事前にしっかり行ったうえで、開業物件を検討する必要があります。
開業するエリアは、クリニックが標榜する診療科のニーズが高い地域を選ぶことが重要です。高齢者が多い地域では、慢性疾患に対応できる内科や整形外科、リハビリテーション科、また子どもが多い地域では小児科や耳鼻咽喉科の需要が高いでしょう。
都市部では高い集患率が見込める一方、競合も多いため、近隣の競合状況を把握し標榜する診療科が少ないエリアを選ぶと良いでしょう。また、競合との差別化を図るため、自院の強みを訴求することも大切です。
診療圏の把握
診療圏とは、自身のクリニックにどのくらいの患者数が見込めるのかを把握するための範囲を指します。診療圏を適切に調査・設定することで、事業計画を立てやすくなりクリニックの収益性や成長性を高めることができます。
診療圏を設定する際には、地域の人口構成、患者さんの行動パターン、交通の利便性、競合施設の数などを総合的に考慮します。診療圏の設定により、適切な規模のクリニックを開設でき、無駄な投資を避けることができます。
地域の医療需要と供給バランスについてのデータは、日本医師会総合政策研究機構による、地域の医療提供体制の現状などの資料で確認できます。開業を検討する際にはチェックしておきましょう。
(参考:地域の医療提供体制の現状 -都道府県別・二次医療圏別データ集- (2023年4月) | 日本医師会総合政策研究機構)
クリニック開業の物件選びのポイント② 理想の医院を実現できる物件を選ぶ
建物の内装やデザインは、患者さんや働くスタッフの安全性、快適性に直結します。ここでは、内装やデザインを検討する際に重要なチェックポイントを解説します。
建物の耐震性・防災対策
安全なクリニック運営において、建物の耐震性は重要なチェックポイントです。災害時にも対応できる建物であるか確認しましょう。
1981年以前の建物は、建築基準法で定められた耐震基準が強化される前の「旧耐震基準」を遵守しているため、耐震性が不十分なものが多くみられます。もし、開業を検討している物件がこれにあてはまる場合は、耐震診断を実施し、耐震性を把握しましょう。耐震診断の結果、耐震性が不十分であった場合は、耐震改修や建替えを検討する必要があります。
また、火災報知器やスプリンクラー、防火扉などの防災設備が適切に設置されているかも確認しましょう。スタッフと患者さんが迅速に避難できる経路の確保も重要です。
内装と導線
クリニックの内装は、院内の快適性を大きく左右する重要な要素です。スムーズな診療を行うために必要な十分なスペースと患者さんが待合室でソーシャルディスタンスが保てる導線を確保することが大切です。
また、スタッフがストレスなく働けるレイアウトを確保することで、業務効率の向上が期待できます。
バリアフリー対応
高齢者や障害を持つ患者さんが来院する可能性があるため、バリアフリー対応は不可欠です。車いすでも移動できるスロープやエレベーター、バリアフリー対応のトイレが設置されているかも重要なチェックポイントです。入り口や診療室へのアクセスがスムーズであるか確認しましょう。
設備の設置スペース・換気設備
大型の診療機器を導入する際には、十分な設置スペースがあるかどうかを確認する必要があります。
医療機器の稼働に必要な電力供給が十分であるか、配線が適切にできるかも重要なチェックポイントです。特に、MRIやCTスキャナーなどの大型機器を導入する場合は、電力の容量を必ず確認するようにしましょう。
また、換気設備が整っているかも重要なチェックポイントです。手術室や放射線設備がある場合は、特に厳しい換気基準が求められます。近年では、感染症対策の一環としても、換気設備が整っているかどうかは大切なポイントになります。
メンテナンスと管理
クリニックの運営を長期的に行うためには、建物のメンテナンスが行いやすいかどうかも考慮する必要があります。
具体的には、内装や外装が傷や汚れがつきにくい耐久性のある素材で作られているかを確認しましょう。また、定期的に点検が必要な設備(空調、配管など)のメンテナンスが容易に行える設計であるかも確認しましょう。
クリニック開業の物件選びのポイント③ プロに相談をする
クリニックの開業準備は長期に渡り、煩雑な申請作業も多いため、医師は診察と並行して進めるのは困難です。
信頼できるプロに相談するのも一つの選択肢として検討してみましょう。
専門家の力を借りる
医療機関向けの物件に精通した不動産屋や設計事務所に相談することで、開業をスムーズに進めることができます。
クリニックや病院の開業サポート実績が豊富な不動産屋は、自院の希望にあった物件を提案してくれるでしょう。特に、建物の耐震性や防災設備、バリアフリー対応の有無など、医療機関に必要な基準に詳しい不動産屋や設計事務所を選ぶことが大切です。
開業支援サービスを活用する
近年では、医療専門の開業支援サービスも多く展開されています。これらの支援サービスでは、物件選びから開業後の経営改善まで総合的なサポートを提供しており、多忙な医師にとって心強い存在です。
例えば開業支援コンサルタントは、物件選定はもちろんのこと事業計画の策定や許認可手続き、内装工事、機器導入など、クリニック開業の全工程をサポートしてくれます。特に初めての開業では、煩雑な申請手続きや解決すべき多くの経営課題がありますので、専門のアドバイザーの助けが役立つでしょう。
クリニック開業の物件選びにおける注意点
クリニック開業の物件選びでは、いくつかの注意すべきポイントがあります。ここでは、物件選びの際に注意すべき点を解説します。
法規制を確認する
クリニックの開業物件には、さまざまな法的な規制があります。特に、物件が医療機関として使用できるかどうかの確認は必須です。
都市計画法に基づいて、商業地域や住居地域では異なる用途規制が存在します。特に、住宅地で開業する場合は、地域の条例や規制を遵守することが求められます。
また、20人以上の患者さんが入院できるような、いわゆる病院を開院するには、以下のような設備を備えている必要があります。
- 各科専門の診察室
- 手術室
- 処置室
- 臨床検査施設
- エックス線装置
- 調剤所
- 給食施設
- 産科病院の場合には、分べん室及び新生児の入浴施設
- 療養病床を有する病院の場合には、機能訓練室
- その他都道府県の条例で定める施設
開業しようとするクリニックの規模によっては、このような設備を整える必要がある点には注意しましょう。
契約期間を把握する
契約期間を事前にしっかりと把握しましょう。定期借家契約の場合、契約期間があらかじめ決められているため、基本的には更新できません。ただし、貸主と借主の双方が合意すれば、期間満了後の再契約は可能です。
オーナーの意向や特約事項を確認する
診療科目にあわせた内装が必要ですが、賃貸物件では改装の自由度に制限がある場合も少なくありません。オーナーから改装工事の許可が取れるかどうか、また退去時の原状回復義務や特約事項があるかどうかも事前に確認しておきましょう。
まとめ
クリニック開業の物件選びのポイントについて解説しました。
開業するエリアや物件の良し悪しは、その後の経営に大きく影響します。
土地購入やテナント入居など、それぞれのメリットとデメリットを十分理解したうえで、納得のいく物件選びを目指しましょう。