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医療法人にしない理由とは?デメリットとメリットを比較して解説!

                   
投稿日: 2024.04.03
                   

経営しているクリニックを医療法人にした場合、節税対策ができたり、承継の際に手続きを簡素化できたりと、様々なメリットが得られます。一方で、法人化のメリットとデメリットのバランスから、法人化をしない選択をするクリニックも多くあります。法人化は、メリットだけではなく、デメリットもしっかりと理解してから検討する必要がありそうです。

そこで、この記事では、

  • 医療法人にしない理由
  • 医療法人にするデメリット
  • 医療法人にしない方がいいクリニックの特徴

これらについて、解説していきます。

医療施設の法人化について迷われている方は、この記事をぜひ参考にしてみてください。

医療法人とは

医療法人とは、病院や診療所、介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき設立された法人のことをいいます。

医療法人化すると、院長を含む職員の全員が「医療法人に雇われている従業員」となり、病院から給与を支給される「給与所得者」になります。

まずは、個人事業主として病院を開業し、事業規模の拡大によって法人化を検討する医師が多いようです。

医療法人の種類

下記のように、医療法人には様々な種類があります。

・出資持分のある医療法人(社団医療法人)
・出資持分のない医療法人(社団医療法人)
・財団医療法人
・社会医療法人
・特定医療法人
・広域医療法人

なお、2007年4月1日以降、社団医療法人に関しては出資持分のない医療法人しか設立できなくなっています。

医療法人に関係する統計データ

厚生労働省が調査している、「2022年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」では、下記の調査結果が公開されています。

  • 一般診療所における医療法人の割合は、45,967施設と全体の43.7%
  • 一般診療所における個人経営の割合は、40,064施設で全体の38.1%
  • 前年と比較すると、一般診療所における医療法人の数は919施設(2.0%)増加している

 

この調査結果から、全体の4割弱の診療所が医療法人化していないことがわかります。それでは、医療法人化しない理由とは何なのでしょうか。

医療法人にしない理由 

医療法人化しない理由には、クリニックごとに様々なものが考えられますが、その中でも下記の理由から法人化を選択しないというケースが多いようです。

  • 法人設立の手続きに工数がかかる
  • 決算書の作成や資産管理が煩雑になる
  • 法人化したあとの運営資金の問題
  • 個人経費が利用しづらくなる

医療法人化するデメリットにも繋がる内容のため、それぞれを具体的に説明していきます。

医療法人にするデメリット

医療法人にするデメリット

医療法人化することには、下記のようなデメリットがあります。

  • 法人化の手続きや運営管理が煩雑になる
  • 社会保険の加入が必須になる
  • 個人でしていた借入金の引き継ぎができない
  • 法人と個人で財産が区分される
  • 残余財産が出資者に分配されない
  • 医療法人から退任させられることがある
  • 解散時に時間がかかる

法人化の手続きや運営管理が煩雑になる

医療法人は、都道府県の認可を受けることで設立ができます。各都道府県によって、必要な書類やフォーマットが異なるため、自身で調べ準備しなければなりません。

大きく分けて、下記書類の準備と提出が必要です。

  • 都道府県への設立事前登録
  • 医療法人設立説明会の参加
  • 医療法人の定款を作成
  • 設立総会の開催と議事録の作成
  • 設立認可申請書の作成と提出
  • 設立登記申請書類の作成

設立後の運営管理においても、個人経営に比べ手間がかかります。

  • 決算報告の届出(年1回)
  • 試算総額の登記(年1回)
  • 役員の登記(2年に1回)
  • 社員総会の開催(年2回)
  • 理事会の開催(年2回)
  • 監事による監査報告(年1回)
  • 総会理事会の議事録作成

(参考:医療法人設立の手引:東京都保健医療局

医療法人は、都道府県の認可のもとで事業をおこなっているため、適切な経営がされているか報告する義務が発生します。しかしながら、これらの実務を経営者一人で行うことは難しいため、税理士や司法書士、行政書士などに依頼して実施する必要があります。

税理士や司法書士、行政書士への委託費が増える

医療法人の設立や運営管理は煩雑なため、その分、税理士などのパートナーへの業務委託費はかさんでしまいます。例えば、確定申告を税理士に依頼する場合、個人経営であれば数万〜20万円ほどが相場とされており、法人の場合は10〜30万円、委託する業務内容によってはさらに高くなってしまうでしょう。また、事業規模が拡大すればするほど、運営管理のための費用も増加していきます。

社会保険の加入が必須になる

医療法人は、社会保険への加入が必須となっており、支払う費用の半額を法人が負担しなければなりません(労使折半)。これは、健康保険法(第161条)で明記されており、事業主、つまり法人も負担することが定められています。(保険料の負担及び納付義務)

第百六十一条 被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する。(引用:健康保険法第161条:法令検索

これらの負担も事業規模が拡大し、スタッフの人数が増えるほど、運営管理費用の増加に繋がりますので、収支バランスを考えた適切な採用人数にすることが重要といえるでしょう。

借入金の引継ぎができない

医療法人では、「運転資金を目的とした借入金」を個人から引き継ぐことができません。もし、個人経営の時に多額の運転資金を借入れていたのなら、医師自身の役員報酬から返済しなければならないため注意が必要です。

一方で、開業資金としての借入金は引継ぐことは可能です。例えば、医療機器の購入や内装、什器などの設備投資費が該当します。

ただ、借入金の引継ぎには、提出しなければならない書類がさらに増えてしまうというデメリットもあります。借入残高や法人設立後の事業計画をもとに、税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。

法人と個人で財産が区分される

医療法人と個人で財産が明確に分けられるため、個人で資金が必要になった場合、法人の資金を使用することができなくなります。

もし、資金繰りが苦しくなり、法人の資金を使用しなければならないような場合は、法人から個人への貸付金として帳簿に記載して申告する必要があります。

役員への貸付金が多い法人の場合は、金融機関からの信頼が損なわれてしまい、新たな融資を受けることが難しくなる可能性があります。

役員報酬として支払うこともできますが、その場合は、所得税や住民税を納める必要が発生してしまいます。このように、医療法人化した際は、個人経営のとき以上に厳密な財産管理が大切になります。

残余財産が出資者に分配されない

医療法人を解散することになった場合、残った財産は国や地方公共団体に帰属することになっています。医療の公益性・非公益性の観点から出資者には分配されないことが医療法で定められています。

一般的な株式会社では、解散後の残余財産は株主に帰属するため、残余財産が出資者に戻らないことに不満を感じる方もいるでしょう。

もし医療法人を解散することが決まったのなら、負債を返済した後にどのくらいの財産が残るのかを把握し、役員報酬や役員退職金の支給計画をしっかりと立てるなどして、残余財産を残さないようにする必要があります。

医療法人から退任させられることがある

場合によっては、たとえ理事長でも、医療法人から退任させられることがあります。理事会や社員総会にて、過半数が理事長の退任を求めた際は、それに応じなければならないからです。個人経営の診療所にはない、医療法人ならではのリスクといえるでしょう。これを悪用した医療法人の乗っ取りといった問題が起きることもあります。

解散時に時間がかかる

医療法人の解散時には時間がかかります。解散を決めた後に、各都道府県に届け出を提出し、さらに法務局で解散について登記を行う必要があります。

解散の理由によって届け出の種類は異なり、総会決議によって解散が決まった場合は「解散許可申請」が必要になります。これは、各都道府県において、仮申請受付時期が定められており、事前審査、本申請と手続きが進んだ場合、最終的な許可が出るまでに6カ月ほどかかります。

医療法人は、地域住民の健康を支える重要な公的機関のため、一度法人化すると簡単に解散することはできないのです。

医療法人にするメリット

医療法人にするメリット

ここまで、医療法人にしない理由や、医療法人にするデメリットについて説明してきましたが、医療法人化にはデメリットだけでなくメリットもあります。

  • 税金対策ができる
  • 事業の多角化ができる
  • 将来の承継や相続対策ができる

それぞれ、具体的に解説していきます。

税金対策ができる

医療法人にすることで、下記のような節税対策が期待できます。

  • 給与所得控除を受けられる
  • 法人課税で税率を抑えることができる
  • 家族を役員にすることで、役員報酬や退職金を支払える

令和2年より給与収入が850万円を超える方は、195万円の給与所得控除が適用されます。個人経営の青色申告特別控除は65万円になるので、給与所得控除の方が節税効果が高くなります。

また日本では超過累進税率が採用されているため、高所得者の場合は最高で45%の所得税を納税しなければなりません。一方で、医療法人にかかる法人税は15〜23.2%となっているため、医療法人化することで節税することが可能になります。

一般的に、年間の課税所得が1,800万円を超えると税率が40%に上がるため、このラインを目安に医療法人化を検討するケースが多いようです。

事業の多角化ができる

医療法人化していると、分院設立や介護施設の開業といった複数の事業展開が可能になります。これらを上手く経営をすることができれば、収益の向上も見込めますし、地域医療の活性化にも貢献することができるでしょう。

法人化して健全な運営ができていると、金融機関からの信用も高くなり新たな融資を受けやすくなるというメリットもあります。

将来の承継や相続対策ができる

医療法人にしていれば事業を承継する際に、新たに診療所の開設届を申請する必要はありません。理事長交代として簡易に手続きをすることができるため、子どもへの事業承継のために法人化するというクリニックもあります。

法人化して家族を医療法人の役員にすれば、その家族に役員報酬を支払うことも可能で、さらに、この役員報酬に対しても給与所得控除を適用することができます。また、個人の場合は認められていない退職金の支給も、医療法人化していれば家族に対して支払うことができます。退職金は通常の給与に比べ、税金面で優遇されるというメリットもあります。

医療法人にしない方が良いクリニックの特徴

医療法人にするメリットとデメリットを比較したうえで、それでもメリットの方が大きいクリニックは法人化を検討すべきでしょう。

しかしその中でも、下記のようなデメリットを強く感じるクリニックでは、法人化をしようとしても失敗するリスクが高くなります。

  • 医療法人設立の手続きと運営管理が手間と感じる
  • 分院や介護施設など、新たな事業展開を考えていない
  • 税金面のメリットよりも手間が増えることを嫌う
  • 相続する後継者がいない

特に一つ目の、法人設立の手間と運営管理の煩雑さは想像以上のものとなります。法人化を試みたものの、手続きの煩雑さに諦めるというクリニックもあるようです。

また、医療法人を一度設立してしまうと、簡単には取り消せないので注意が必要です。子どもへ承継するために法人化をしたものの、結局は引き継がなかったとなれば、労力だけがかかり後悔することになるでしょう。

医療法人化をするメリットとデメリットをよく比較したうえで、税理士などの専門家の意見も考慮して検討することをおすすめします。

編集部まとめ

この記事では、クリニックが医療法人にしない理由、法人化をするメリットとデメリット、法人化をしない方が良いクリニックの特徴について紹介してきました。

近年では、個人経営よりも法人化をしている診療所の方が多くなっていますが、法人化することでのメリットが全ての診療所に当てはまるわけではありません。

法人化するデメリットもしっかりと理解したうえで、それでもメリットの方が大きいと感じる診療所が法人設立に向けて準備を進めるべきでしょう。