クリニックの開業スタッフの重要性|採用と定着率を向上させる方法

新規でクリニックを開業する場合、どのようなスタッフを採用するかが成功の鍵をにぎっています。
しかし、必要なスタッフの内訳や人数、採用するスケジュールなど、疑問に思う点は多々あるでしょう。また、開業スタッフとしてよい人材を採用できたとしても、長く働いてもらえなければ意味がありません。
そこで今回は、開業スタッフの採用の重要性や定着率を向上させる方法を解説します。
目次
クリニックの開業スタッフが成功の鍵をにぎる理由

優秀な人材確保は、患者さんの満足度や安定経営につながります。まずは、クリニックの開業スタッフが成功の鍵をにぎる理由を解説します。
開業スタッフの採用が重要
クリニックを開業するにあたって、患者さんの受付や誘導、処置の説明などを担当する看護師や医療事務はなくてはならない存在です。
特に開業して間もない時期は、患者さんだけでなくスタッフ自身も慣れない環境で、問題も起こりやすいといえます。
トラブルなどに臨機応変に対応でき、患者さんに安心感を与えられるようなスタッフを採用できれば、開院当初のバタバタした状況を乗り越えやすく、クリニックの第一印象をよくすることにもつながるでしょう。
スタッフの働きやすさが患者満足度に直結する
開業スタッフとして採用したい経験豊富な人材は、働き続けたいと思う条件や自分にとっては譲れないポイントなど、明確な基準を持っている方も多いでしょう。
残業があまりない、福利厚生が充実している、休みが取りやすいなどの働きやすさを実現できれば、定着率が上がります。定着率が上がればクリニックの運営も安定し、質の高い医療を提供できやすくなります。
このように、スタッフの働きやすさを実現することは、結果として患者さんの満足度向上につながるのです。
スタッフの定着率がクリニックの安定経営を決める
働きやすいクリニックは、自然とスタッフの定着率が向上します。新たに採用するコストが削減でき、支出を抑えられるので安定した経営につながるでしょう。
クリニックの規模にもよりますが、スタッフの人数確保の面からも、定着率は無視できない指標といえます。
クリニックの開業時に必要なスタッフと役割

ここでは、クリニックの開業時に必要な職種や規模に応じた人数の目安などを解説します。
採用が必要な職種
クリニックを開業する際は、以下の職種を採用する必要があります。
- 医療スタッフ(看護師・医療事務・診療補助など)
- 事務スタッフ(受付・会計担当・総務など)
看護師は、医師の診療を補助する役割として、診療をスムーズに進めるためにも慎重に採用する必要があります。
また、以下の職種の採用が検討される場合もあります。
職種 | 主な業務内容 |
---|---|
医療クラーク | ・電子カルテの代行入力 ・患者情報の整理 ・検査オーダー入力 ・医療文書の作成 など |
看護助手 | ・看護師の診療補助 ・診療に関わる備品の準備、片付け ・問診票の受け渡し |
クリニックによっては、受付や診療費計算、レセプト業務を行う医療事務が、医療クラークや看護助手の業務を引き受けるケースもあります。
診療科目ごとに必要な職種
採用を検討すべき職種は、診療科目によっても異なります。
診療科目 | 職種 |
---|---|
産婦人科 | 助産師 など |
眼科 | 視能訓練士 など |
精神科 | 臨床心理士 など |
リハビリ科 | 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 など |
人工透析 | 臨床工学技士、管理栄養士 など |
健康診断 | 臨床検査技師、診療放射線科技師 など |
有床の診療所 | 医療ソーシャルワーカー、社会福祉士 など |
これらの職種は各科で専門性を発揮する職種のため、クリニックの強みをアピールする役割も担ってくれるでしょう。
クリニックの規模に応じたスタッフの人数の目安
クリニックの規模や売上によって、採用すべき人数は変わってきます。
無床であれば職員の配置基準は設けられていませんが、有床の場合は以下のような人員配置が必要となります。
- 看護職員:患者さん4人に対して1人
- 看護補助者:患者さん4人に対して1人
2024年3月に金融庁が発表した業種別支援の着眼点 医療業(小規模クリニック)によると、一般診療所の全体の人件費率の平均は45.1%でした。
人件費だけで概ね50%前後の支出となってしまうため、売上に対して過剰にスタッフを採用してしまうと営業利益が低下してしまいます。
月の売上を1000万円と概算する場合、人件費は500万円前後に抑えられるよう、計画的に採用を進めましょう。
(参考:業種別支援の着眼点 医療業(小規模クリニック)|金融庁)
適材適所を考えた配置計画
クリニック開業の際、採用したい職種は多岐に渡ります。
スタッフの定着率を上げるためには働きやすい環境を整える必要がありますが、そのためには適材適所を考えた配置計画が重要です。働きやすい環境を整えるためには、必要なところに必要な人数が十分配置されているか、能力を活かせる配置、能力を補い合える配置になっているかを定期的にチェックし、配置を見直すことが大切なポイントです。
もし業務量が多くなっている場合は、カルテの入力業務などを任せる医療クラークや、看護師の補助を行う看護助手の追加採用を検討し、各職種の負担を分散できるように配慮しましょう。
開業スタッフの採用スケジュール

開業スタッフの採用スケジュールは、開業から逆算して半年以上前から始めるのがポイントです。以下に、大まかな流れを紹介します。
時期 | 各月で取り組むべき内容 |
---|---|
5カ月前 | 採用条件の検討 |
4カ月前 | 配置検討・決定 |
3カ月前 | 就業規則作成求人募集面接 |
2カ月前 | |
1カ月前 | 採用・社員研修 |
スタッフの採用のほかにも、資金調達や医療機器の選定など準備すべきことは多岐にわたるため、半年以上前から着手すると余裕を持って採用活動を進められるでしょう。
開業スタッフの採用方法とチェックすべきポイント

開業までには求人の掲載やよりよい職場環境づくりなど、準備すべきことがは多数あります。採用までに押さえておきたいチェックポイントを確認しておきましょう。
効果的に採用する求人方法
開業前の段階で、クリニックのホームページから採用につなげるのはなかなか難しいでしょう。そこで、開業前は多くの求職者にリーチするために、クリニックのホームページだけでなく、ハローワークや求人サイト、人材紹介会社による求人を組み合わせるのがおすすめです。
それぞれの方法のメリットは、次のとおりです。
募集方法 | メリット |
---|---|
ホームページ | ・情報掲載の自由度が高く、自由に更新できる ・クリニックの雰囲気や独自性を伝えやすい ・掲載期間などの制限がない |
ハローワーク | ・無料で求人を掲載できる ・地元企業の求人を多く紹介している |
求人サイト | ・仕事を探している人が時間や場所を選ばずに閲覧できる ・幅広い層にアピールできる ・定員に達した場合の出稿停止など柔軟性が高いサイトが多い |
人材紹介会社 | ・成功報酬型である場合が多い ・人材紹介会社が採用活動に介入するため、採用までの手間を省くことができる ・人材紹介会社によるサポートでマッチ度の高い人物を採用できる可能性が高まる |
予算と相談しながら、仕事を探している人の目に留まりやすい方法を組み合わせて、上手に活用しましょう。
また、スタッフが増えてきたら社員紹介制度(リファラル採用)を導入するのもおすすめの方法です。
リファラル採用とは、すでにクリニックで働いているスタッフの紹介による採用のことで、求人媒体を利用せずに採用できるので費用を抑えることができます。クリニックの雰囲気などを知ったうえで応募してもらえる点や、紹介者にサポートを依頼できる点、職場の人間関係の構築がしやすい点など、メリットの多い採用方法です。
求人広告で応募者を増やすポイント
求人広告を出す際は、仕事内容や待遇はもちろん、どのような仕事を経験してスキルや能力を身につけていくかというキャリアパス(仕事における道筋)をイメージしやすいかどうかも意識しましょう。研修の充実度やスキルアップの支援などをアピールし、働くイメージを持ってもらえる文章を意識するのがポイントです。
困った時は周囲のサポートを得られる安心感、昇給制度の充実、福利厚生の充実など、クリニックの魅力を伝えることも必要です。
情報を羅列するのではなく、読みやすいように工夫しましょう。
面接でチェックすべきポイント
開業スタッフは、即戦力として働いてもらえる人材の確保が必須です。医療業界での経験の有無を確認し、能力を活かせる配置を考えます。さらに、トラブルや問題が起こりやすい開業時点では、特に対応力やコミュニケーション能力も求められます。
業界での経験や診療科に適した資格を有しているかを書類段階で判断し、集団面接やケーススタディなどで、対応力やコミュニケーション能力を見極めるのもよいでしょう。
スタッフの定着率を高めるための職場環境づくり

ここではスタッフの定着率を高めるための具体的な取り組みや、想定されるトラブルを予防する方法を解説します。
スタッフが働きやすい職場環境を作るのには?
快適な職場環境を整えるためには設備面や労務面での調整が必要です。休憩室の完備や更衣室の清潔さ、希望のシフトが勤務に反映されているかなど、ハード面だけでなくソフト面にも気を配りましょう。
また、厚生労働省が発表した看護職員就業状況等実態調査結果によると、退職理由の第4位が「人間関係が良くないから」でした(その他を除く)。
スタッフ同士の関係性は働きやすさに直結するため、スタッフ間でのトラブルには気を配り、食事会などのコミュニケーションの場を用意しましょう。
(参考:看護職員就業状況等実態調査結果|厚生労働省)
給与・福利厚生・勤務時間の設定ポイント
スタッフの働きやすさには、給与や福利厚生、勤務時間も大きく影響します。
しかし、すべてのスタッフが満足する条件を提示するのは困難です。競合であるクリニックの情報をリサーチし、自院の魅力としてベースアップや特色、柔軟性を打ち出しましょう。
人間関係のトラブルを未然に防ぐには?
クリニックを運営していると、意見の相違などで生じるトラブルは避けられません。
大きなトラブルに発展する前に解決できるよう、スタッフが院長に相談しやすい信頼関係を築くように心がけましょう。
また、トラブルを未然に防ぐためには各スタッフの業務内容や役割を明確にすることも効果的です。一部のスタッフに負担が偏らないよう、業務内容や役職などの役割を調整するのがポイントです。スタッフの相談窓口を設け、スタッフ間のトラブルを把握できる仕組みを作るという方法もあります。
スタッフの教育とスキルアップ支援

チーム一丸となってクリニックの経営を成功させるためには、社員教育やスキルアップ支援が必要です。
ここでは、研修の必要性やキャリアアップの提供方法などを解説します。
開業時のスタッフ研修の必要性
開業時のスタッフ研修は、クリニックの理念や経営方針、目標などを確認する重要な場です。理念や経営方針をスタッフが理解しないまま開院すると、クリニックの方針がブレてしまい、患者さんの満足度に影響が出るおそれがあります。
また、開業直後はスタッフ自身も慣れない環境で、トラブルや問題も起こりやすい状況です。想定されるトラブルと対処法を、職種ごとにしっかりと研修でシミュレーションしておくことで、臨機応変に対応しやすくなります。
継続的なスキルアップ支援の重要性
スタッフの定着率を上げるためには、やりがいを感じられるかどうかも重要なポイントです。能力に応じた研修の開催、資格取得費用のサポートなど、スタッフが継続的にスキルアップしていける支援を行いましょう。
キャリアアップの機会を提供する
継続的なスキルアップ支援と同時に、自身のキャリアを高めていきたいと考えるスタッフに向け、役職への登用や関連資格の取得支援なども積極的に検討してみてください。
クリニックの成功にはスタッフの協力が必須

クリニックの成功のために、スタッフの協力について意識すべきポイントを紹介します。
クリニックの経営方針をスタッフと共有する
経営方針を理解しているのが院長だけでは、クリニック全体として質の高い医療を提供できません。クリニックの方向性を統一できるように、ミーティングなどで経営理念や目標を伝えるよう心がけましょう。
また、適正な評価を得られるシステムを整備し、スタッフが自分の仕事に誇りを持って業務に従事できる環境づくりも大切です。
定期的なミーティングの場を設定し意見交換
クリニックに関わることをすべて院長が決めてしまっては、スタッフとの信頼関係を築くことは難しいかもしれません。
定期的にミーティングなどで意見交換する場を設け、現場の声を経営に反映させて働きやすさを向上させましょう。スタッフ目線で改善点を洗い出すことで、患者さんのニーズなどを発見できれば、継続的な成長を目指せるはずです。
院長とスタッフの信頼関係を築く
スタッフとの信頼関係を築くためにも、スタッフそれぞれのよい点や感謝の気持ちを伝えるようにしましょう。認められた、必要とされたという経験は仕事に誇りを生み、モチベーションにもつながります。
組織の結束力を高めるためにも、日頃から感謝の気持ちやフィードバックを心がけるようにしましょう。
まとめ

今回は、開業スタッフの採用の重要性や定着率を向上させる方法を解説しました。
クリニックの成功には、スタッフの採用と定着が不可欠です。採用時は採用人数や配置計画を慎重に検討し、研修などで人材育成を進めましょう。
定着率を向上させられれば、安定した経営が実現できます。クリニックを長く続けるためにも、スタッフとの対話を大切にし、組織として継続的な成長を目指していってください。