クリニック開業における税理士の選び方

目次
監修税理士

永藤 貴弘
ビジョンシード会計事務所 公認会計士・税理士
2007年上智大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入所致しました。トーマツでは会計・税務領域の支援だけではなくIPO支援、PwCにて事業再生コンサルティング、金融系バイアウトファンドにて当事者として事業承継・企業価値向上に取り組んで参りましたので、多面的に依頼企業様のご相談に対応することが可能です。専門家というよりも壁打ち役としてお気軽にご相談ください。
開業医がクリニックを成功させるには、経営のよきパートナーとなってくれる税理士の存在が欠かせません。
とはいえ、初めて税理士に依頼するとなると、何をポイントに選べばいいのか分からないという方も少なくないかもしれません。
ここでは開業された方、これから開業を考えている方へ向けて、クリニックに適した税理士の選び方を解説します。
クリニック開業時に税理士に依頼すべき理由

クリニックを開業する際、税理士と顧問契約を結ぶことには様々なメリットがあります。なにより煩雑な税務をプロに任せることで、医師は本来の業務に専念することができるでしょう。
ここでは、より具体的に、どのようなメリットがあるのか解説していきます。
税理士に依頼するメリット
クリニックの税務を専門家に依頼する最大のメリットは「税務上の漏れやミスを防止できる」ことです。
また、副次的なメリットには「法人手続きをスムーズに進められる」ということがあります。医療法人化を視野に入れている場合、特にしっかりと押さえておきたいポイントになります。
この2つのポイントについて、さらに詳しくみていきましょう。
税務申告の漏れ・ミスがなくなる
本業の医師としての業務をこなしながら税務も行うのは、非常に困難です。その結果、税務申告に漏れやミスが生じ、支払う税金が増えてしまうケースがあります。
いわゆる「追徴課税」です。クリニックで発生しがちな追徴課税(ペナルティ)としては、次のようなものがあります。
・無申告加算税
期限内に申告が行われなかった場合、追加で徴収される税に5~20%を上乗せした額を支払わなければならない。
・不納付加算税
期限内に税の納付が行われなかった場合、本税に5~10%を上乗せした額を支払わなければならない。
・過少申告加算税
本来払うべき税金より少ない金額で申告した場合、追加で徴収される税に10~15%を上乗せした額を支払わなければならない。
ペナルティを受ければ金銭的な損失はもちろん、税務署から目をつけられてチェックが厳しくなることも考えられます。こうした事態を避けるには、税務のプロに依頼をするのが一番良い方法といえるでしょう。
法的手続きがスムーズになる
税務上のミスをなくすほかに「法的手続きをスムーズに進められる」という点も、税理士に依頼する大きなメリットになります。
たとえば医療法人化をするには、定款の作成から設立総会の開催、認可申請書の提出・審査といったさまざまな手続きを行う必要があります。
医療法人化に関する知見がある税理士に依頼すれば、こうした手続きや法人化のタイミングについて相談することが可能です。
また、事業承継で開業したり、後継者に引き継ぐときも、行政手続きや事業用資産の対応をスムーズに行うことができます。
税務や行政手続きにおいて適切にサポートしてくれる税理士と出会えれば、クリニック経営において非常に大きな力となるでしょう。
クリニックにとって最適な税理士の見つけ方

お勧めの税理士の見つけ方には、「知り合いの医師からの紹介」や、「税理士紹介サービスの利用」などがあります。それぞれ詳しく解説します。
医師同士の繋がり・医療業界関係者から紹介してもらう
クリニックの税務を得意とする税理士を効率よく探したいときは、知り合いの医師や医療業界関係者から教えてもらうのがお勧めです。
実際に利用している同業者の話を聞けるので、信頼できる税理士に出会える可能性が高まります。また知人を介することで、価格交渉などの一歩踏み込んだ話題でも切り出しやすいでしょう。
ただし、知人にとってはいい税理士でも、自分のクリニックに合うとは限りません。あとで困らないためにも、契約する前に料金体系や諸条件をよく確認しておくと良いでしょう。
税理士紹介サービスを利用する
自院に合った税理士を多くの中から探したいときは、税理士紹介サービスの利用がお勧めです。
様々な強みをもつ税理士が多数在籍するため、希望の条件に合う税理士を見つけやすくなります。
また、複数の税理士から相見積もりを取れるため、相場で顧問契約を結ぶことができるのも安心できるポイントです。税理士紹介サービスは基本的に無料の場合も多いですが、手数料がかかるケースもあるので注意しましょう。
税理士に依頼する際の注意点

クリニック経営で課せられる税金は、主に所得税・住民税・個人事業税の3つです。
基本的に売上が大きいほどこれらの税額も大きくなりますが、税務を適切に行えば効果的に節税することも可能です。
つまり税理士と顧問契約を結ぶことによって、かえって所得が増えることもあるのです。
では、クリニックに適した税理士を選ぶときは何に気をつければよいのでしょうか。注意すべきポイントをみていきましょう。
専門知識を持った税理士であるか
税理士には、相続・贈与に強い税理士、不動産分野に強い税理士といったように、それぞれ得意分野があるため、「医療業界の経験が豊富な税理士」を選びましょう。
保険診療や自費診療の管理、税務調査に入られたときの対応や節税対策など、クリニックならではの税務に対して適切なサポートが受けられます。
また、「ほかのクリニックではどうしているんだろう?」という疑問も、多数の事例から回答を得られるでしょう。
税務以外の対応範囲が広いか
クリニックの収益増加を目指すなら、税務だけではなくその他のサポートも請け負ってくれる税理士を選びましょう。クリニック経営を拡大していくには、現状の課題や将来の展望を一緒に考えてくれるパートナーが必要です。
開業支援や医療法人化、事業承継などについて広く対応してくれる税理士は、経営者の心強いパートナーとなってくれます。
料金が明確であるか
税理士を選ぶ上で大切なのが「明朗会計」であるかどうかです。報酬規定があやふやで明確に示されていない税理士事務所だと、顧問料に含まれると思っていた内容に追加料金が発生し、出費が膨らんでしまうことがあります。
顧問料内でどこまで対応してもらえるのか、追加費用は発生するのかといった点は事前に確認しておきましょう。
クリニックに税理士を依頼した際の費用相場

税理士に支払う費用の目安は、個人経営クリニックで年間15〜40万円程度、医療法人で年間40〜80万円程度です。しかし、クリニックの規模や依頼する内容によって変わってくるため、参考値として捉えるとよいでしょう。
一般的には、個人経営クリニックより医療法人の方が費用相場は高くなる傾向にあります。
顧問料の内訳
顧問料の細かい内訳もみていきましょう。税理士事務所や契約によってやや内訳が異なりますが、一般的なものとしては以下の通りです。
・月額顧問料
税理士と顧問契約を結ぶことで発生する費用です。この費用はクリニックの売上高が大きいほど、また訪問回数が多いほど高くなります。訪問時には税務や経営、各種手続きに関して相談をすることができます。
・決算申告料
医療法人の場合、決算と法人税申告を決まった期日までに行わなければなりません。この業務を代行してもらうときに支払うのが決算申告料です。
・記帳代行料
クリニックの帳簿作成にかかる費用です。医師が自分で記帳することも可能ですが、税理士に依頼することで煩雑な手間を省けます。
・給与計算代行料
スタッフへ支払う給与集計や源泉徴収税の計算をしてもらうときにかかる費用です。また、スタッフの雇用や退職によって社会保険の手続きが必要になった場合は、税理士が提携する社会保険労務士を紹介してもらえることもあります。
税理士選定のポイント

紹介してもらった税理士と面談するときは、次のポイントに注意しましょう。
・医療機関での経験が十分あるか
・集患や増患対策のアドバイスを受けられるか
・円滑なコミュニケーションを取れるか
それぞれ詳しく解説します。
医療機関での経験が十分あるか
医療業界の会計処理は、一般企業と異なる部分が多くあります。診療報酬に関わる業界独自の考え方や、医療法人における持分の概念といった特殊な事情に精通していないと、適切な税務を行うことはできません。したがって、医療機関での税務経験が十分にあるかどうかは、税理士選びの重要なポイントになります。
税理士と面談する際は、これまでに請け負った医療機関の実績や経験年数、医療業界への知見があるかどうかをよく確認しておきましょう。
また、医療業界の法規制は頻繁に改正されるため、常に知識を更新しているかどうかも重要な選定ポイントとなります。
集患や増患対策のアドバイスを受けられるか
開業したばかりのクリニック経営を軌道に乗せるには、なんといっても新規の患者さんを集めて増やす対策が不可欠です。クリニックの集患・増患対策のノウハウを持った税理士に具体的なアドバイスを受けることで、早期にクリニック経営の安定化が図れます。
とくに最近はインターネットで情報を集めてから来院する患者さんが多いので、ホームぺージやSNS、Googleビジネスプロフィールなどを活用した集患施策を提案できる税理士は強い味方になってくれます。
円滑なコミュニケーションを取れるか
顧問契約した税理士とは長い付き合いになるので、円滑なコミュニケーションが取れるかどうかは非常に重要です。
レスポンスが早く、こちらが出した質問に的確に回答してくれる税理士であれば、スムーズに連携することができます。
クリニックから依頼される税理士の業務内容

はじめて税理士と顧問契約をする場合、「どこまで仕事を依頼してよいのか分からない」と迷うこともあるでしょう。
ここからは、クリニックから依頼される税理士の業務内容としてよくあるものを挙げていきます。仕事を依頼する際の参考にしてください。
経営コンサルティング
クリニックの経営コンサルティングを税理士事務所が請け負うケースは多くみられます。
経営コンサルティングとしてよくある業務は以下の通りです。
・診療圏調査や資金調達などを担う開業支援
・医療法人化のシミュレーションや設立時期の検討
・事業承継、事業再生のサポート
また、行政書士や社会保険労務士が必要な場面では、コンサルティングの一環としてパイプのある専門家を紹介してもらえます。クリニックの経営課題を専門家チームと二人三脚で解消できるため、医師は本業に専念する環境を整えることができます。
会計帳簿の記帳代行
会計帳簿の作成代行も税理士に依頼することができます。会計ソフトを使って自分で入力することもできますが、仕訳の方法など税務の知識も必要なため、業務負担を軽減できます。
また、記帳代行を依頼することで税理士がクリニックの財政状況を早期に把握できるため、経営コンサルティングや節税相談がスムーズになるというメリットもあります。
アドバイザリー業務
「新規患者が集まらない」
「経費を削減したいが、何を削ればいいか分からない」
「再受診率をもっと増やしたい」
上記のようなクリニックを経営する上で悩みや要望は尽きないものです。
多くの医療機関とつながりのある税理士になら、こうした経営上の課題について具体的な提案を仰ぐことができます。
また、医師個人の資産対策やライフプランニングに関してアドバイスを受けられることも、税理士と雇用契約を結ぶメリットでしょう。
まとめ
税理士は単に税務を請け負うだけではなく、経営のパートナーとなってくれる心強い存在です。
税理士を選ぶ際は、医療業界での十分な実績があるか、経営上の幅広い分野の業務を受けてくれるか、コミュニケーションが取りやすいかなどが重要なポイントとなります。
自院に合った税理士を味方につけ、医師としてさらなる高みを目指しましょう。