電子カルテを導入するメリットとは?導入時のポイントや電子カルテの種類について解説
電子カルテは、従来使用されていた手書きの紙カルテを電子データで一元管理し、記録・共有できるシステムです。紙カルテと比べて、情報の検索性や共有性が高く、医療現場の業務効率化とスタッフの業務負担軽減を可能にします。電子カルテは自院の業務フローや特徴に合ったシステムを選定することが大切です。また、スタッフへの教育やセキュリティ対策なども欠かせません。さらに、電子カルテにはオンプレミス型やクラウド型などの種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。本記事では、電子カルテを導入するメリットや導入時のポイントについて解説します。
目次
電子カルテと紙カルテの違い
電子カルテは、患者さんの診療情報を電子データで一元管理するシステムです。一方、紙カルテは従来の手書きの診療記録を指します。紙カルテは紙の文書で保管されるため、必要な際に情報を探し出す手間がかかってしまっていました。しかし電子カルテの登場で、患者さんの診療情報や処方薬、検査結果などを電子データで管理することが可能になり、容易に検索したり、照会したりすることができるようになりました。それだけでなく、電子化したことで複数のスタッフや医療機関とカルテを瞬時に共有することもできるため、スムーズなコミュニケーションが可能になっています。
電子カルテの普及率
厚生労働省の「電子カルテシステム等の普及状況の推移」によれば、令和2年時点での電子カルテの普及率は、一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%となっています。特に大規模な病院ほど普及率が高く、400床以上の病院では91.2%に達しています。一方で、200床未満の病院では普及率が48.8%にとどまっています。特に小規模な病院では、紙のカルテの運用で十分対応可能であることや、コスト面やセキュリティ対策への懸念から、電子カルテの導入が進んでいない状況です。
このような状況のなか、厚生労働省は「電子カルテの標準化」に取り組んでいます。電子カルテの標準化とは、電子カルテシステムに統一された規格を設け、項目を統一することを意味します。令和5年12月には、厚生労働省がベンダー向けに標準化に関する説明会を実施し、そのなかで「2023年度には必要な要件定義等に関する調査研究を行い、2024年度中に標準化の開発に着手する」と発表しました。最終的には、2030年までにほぼすべての医療機関で電子カルテの導入が見込まれています。
さらに、電子カルテの標準化は「電子カルテ情報共有サービス」の準備でもあります。電子カルテ情報共有サービスとは、全国の医療機関で患者さんの電子カルテを閲覧できるサービスであり、患者さん自身もマイナンバーカードを利用して自分の電子カルテの記録を確認できるようになるものです。このサービスは2025年の運用開始を目指しており、厚生労働省は早急な電子カルテの普及を推進しています。
(出典:電子カルテシステム等の普及状況の推移|厚生労働省)
(参考:電子カルテ情報共有サービス(仮称)について|厚生労働省)
電子カルテを導入するメリット
医療現場における電子カルテの導入は、多くのメリットをもたらします。ここでは主なメリットを5つ紹介します。
迅速なアクセスが可能になる
電子カルテの導入によって、診療情報の検索や照会が容易になり、必要な情報への迅速なアクセスが可能になります。これにより、従来の紙カルテでの運用時に比べて、医療現場の業務効率化が進み、スタッフの業務負担軽減や患者さんの待ち時間短縮が期待できます。
検査結果の取り込みが容易にできる
電子カルテは、検査結果を簡単に取り込むことができます。別室で行った検査結果も電子カルテで確認できるため、患者さんの状態を即座に把握でき、適切な治療計画を立てやすくなります。また、レセコンや自動精算機との連携も可能なため、レセプト作成や会計業務の効率化や正確性の向上につながります。
保管スペースが不要になる
電子カルテの導入により、紙カルテを保管するスペースや管理コストを削減することができます。紙カルテは長期的に保管するスペースが必要なため、患者数の増加とともにその場所の確保が課題でした。さらに、過去の紙カルテを電子化するサービスを利用することで、そのスペースを別の用途に活用できます。
ヒューマンエラーを防止できる
電子カルテを導入することで、手書きによる書き間違いや読み間違いといった指示の伝達ミスを回避することができます。電子カルテのなかには、不正確な情報や矛盾した情報が自動的に検出される機能をもつシステムもあり、医療ミスや誤診のリスクを未然に防ぐことができます。
ほかの医療機関との情報共有がしやすい
クラウド型電子カルテは、インターネットを介してクラウド上でデータの管理をおこなうため、分院設立時などほかの医療機関との情報共有が容易になります。また、スムーズな診療情報の共有は、地域医療連携を推進し複数の医療機関における二重検査や二重投薬などの非効率な医療提供を防ぐことができます。
電子カルテを導入するデメリット
電子カルテを導入するデメリットとしては、以下のものが挙げられます。
パソコンやシステムの操作に慣れるまで時間がかかる
電子カルテの導入には、スタッフがパソコンやシステムの操作を学ぶ必要があります。特に高齢の医師や看護師のなかには、パソコン操作が苦手という方も多いかもしれません。ただ、一度使い方を覚え慣れれば、その後の業務が大幅に効率化されることが期待できるため、これらの学習に必要な手間やコストは必要経費といえるでしょう。
紙カルテを電子化する必要がある
電子カルテの導入初期には、過去の紙カルテを電子化するという手間が発生します。これには多くの時間と労力が必要となるため、スタッフの負担が一時的に増加する可能性があります。また、紙カルテと電子カルテを並行して使用する期間があれるため、情報が錯綜しチームの連携に不都合が生じるケースも考えられます。
セキュリティ対策が必要になる
電子カルテには患者さんの個人情報が含まれているため、プライバシー保護の観点からセキュリティ対策は必要不可欠です。セキュリティ対策の不備や情報漏えいのリスクを放置することは、患者さんのプライバシーを知らぬ間に侵害し、クリニックの信用をを失うことにもつながります。サイバー攻撃に備えたウィルス対策ソフトの導入や第三者の閲覧を制限するID・パスワード管理の徹底、ログの監視やアクセス制限などを設けて内部不正にも対応するなど、スタッフのプライバシー保護に対する意識を高める対策が必要です。
導入・運用費用がかかる
電子カルテの導入には、専用のソフトウェアやハードウェアの購入費、設置工事費、スタッフの研修費などの導入費用がかかります。また導入費用に加え、システムの月額使用料やネット使用料など月々の運用費用も発生します。特に大規模な医療機関や複数の診療所を運営している場合は、費用が高額になりますので、事前にいろいろな電子カルテを比較検討し費用対効果を見極める必要があります。
停電などの緊急時には利用できない
電子カルテは、災害などの非常時に停電が発生すると利用ができなくなります。緊急時に備え、バックアッププランとして、一時的に紙カルテでの運用もできる体制を整えておく必要があるでしょう。
電子カルテ導入時のポイント
自院の特徴に合っていない電子カルテを導入をすると、無駄な費用が生じたり、結果的に期待した費用対効果を得られない可能性もあります。ここでは、電子カルテ導入時に検討すべきポイントについて解説します。
導入する目的を明確にする
電子カルテを導入する際には、まず導入目的を明確にしましょう。例えば、業務効率化や医療品質の向上、患者さんの満足度向上など、可能な限り具体的な目標を設定してください。目的を明確にすることで、導入後の成果を評価しやすくなったり、目的から逆算された実効性の高い計画を立てたりすることができます。
自分のクリニックに合ったシステムを選ぶ
電子カルテにはさまざまな種類や仕様があるため、自院の規模や特徴に合ったシステムを選ぶことが重要です。機能や操作性、カスタマイズ性などを比較検討し、導入前にデモ機を試したり、トライアル期間を設けたりすることで、スタッフの使用感を確かめることが大切です。
導入・運用費用を把握する
電子カルテは、導入費用だけでなく、運用費用もかかります。月額のシステム使用料に加えて、サーバーの保守費用やソフトウェアのアップデート費用などを考慮し、全体の費用を把握しましょう。また、長期的な視点で費用対効果を検討し、予算内で適切なシステムを選ぶことが大切です。
運用・サポート体制を構築する
電子カルテを導入した後も、適切な運用体制やサポート体制を構築することが重要です。システムのトラブルや不具合が発生した際に、迅速に対応できる体制を整えましょう。また、システムの運用やデータの管理を担当するスタッフを適切に配置または採用し、電子カルテの導入効果を最大限に活用できる組織を構築することも大切です。
電子カルテの種類
電子カルテには、オンプレミス型とクラウド型の2つの種類があります。それぞれに特徴があり、メリットとデメリットがあるので、医療機関の規模やデータ管理方針に沿ったタイプを選びましょう。
オンプレミス型電子カルテ
オンプレミス型の電子カルテは、医療機関内のサーバーにデータを保存し、管理するシステムです。医療機関が院内にサーバールームを設置し、システムの管理・保守を行うため独自のカスタマイズがしやすく、セキュリティの設定やデータの管理面で高い自由度が得られます。ただし、インフラ整備にともない導入費用が高額になる傾向があり、サーバーの保守やメンテナンスを自院で行う必要があります。
クラウド型電子カルテ
クラウド型の電子カルテは、インターネットを介してクラウド上にデータを保存し、管理するシステムです。医療機関は専用のサーバーを設置する必要がないため、比較的導入費用を低く抑えられます。また、保守やメンテナンスなどはクラウドプロバイダーが対応してくれるため、医療機関側は運用面での負担が軽減されます。ただし、月額の運用費用がかかり、外部インターネット環境のクラウドサーバーを利用するため、安定した通信環境の確保やセキュリティ対策が必要不可欠です。
最近では、費用面や運用・保守の観点から、クラウド型電子カルテの普及率が上昇しています。クラウド型電子カルテはクラウド上にデータを保存するため、どこからでもアクセスでき、災害時のBCP対策としても注目されています。
電子カルテが満たすべき3つの原則
厚生労働省は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」において、電子カルテが満たすべき3つの原則として、「真正性」「見読性」「保存性」を求めています。
真正性
真正性とは、正当な権限を持つ人が記録して確認された情報に関して、故意または過失による虚偽入力や書き換え、消去および混同が防止されており、かつ、第三者から見て作成の責任の所在が明確であることをいいます。なおここでいう「混同」とは、患者さんを取り違えた記録がなされたり、記録された情報間での関連性を誤ったりすることを意味します。
真正性のポイントとしては、下記のようなものが挙げられます。
・記名、押印が必要な文章には電子署名やタイムスタンプを記録する。
・誰が電子カルテを記載したか、作成責任の所在を明確化する。
・システムを更新する際は、新旧のシステム間における記録内容に相違がないようにする。
見読性
見読性とは、電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできることをいいます。実質的に「診療に用いるのに支障が無いこと」と「監査等に差し支えないようにすること」の両方を満たすことが求められます。
見読性のポイントとしては、下記のようなものが挙げられます。
・「診療」「患者への説明」「監査」「訴訟」などに際し、それぞれの目的に支障のない応答時間でデータ処理を行い、必要な情報を必要なタイミングで提供できるようにする。
・必要な情報を必要なタイミングで正当な情報利用者に提供できなかったり、記録時と異なる内容で表示されたりすることは重大な支障となるので、それを防ぐためのバックアップや冗長性の確保などのシステム全般への備えが必要である。
・見読手段である機器、ソフトウェア、関連情報等は常に整備されている必要がある。
保存性
保存性とは、電子データとして記録された情報が法令等で定められた期間に渡って真正性を保ち、見読可能な状態で保存されていることをいいます。
保存性のポイントとしては、下記のようなものが挙げられます。
・保存性を脅かすそれぞれの原因に対する技術面および運用面での各種対策を施す必要がある。
・外部保存を行っている場合は、保存施設において、これらの対策が行われているか確認する必要がある。
・マスタ変更の際に、過去の記録が記録時と異なる内容で表示されることなどがないようにする必要がある。
(出典:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(システム運用編)第6版)
編集部まとめ
本記事では、電子カルテを導入するメリット・デメリットや、導入時のポイント、電子カルテの種類などについて解説しました。自院の業務フローや特徴に合った電子カルテを選定し有効活用することで、業務効率化や業務負担軽減が期待できます。この記事が、自院に合った電子カルテの導入の参考になりましたら幸いです。