電子カルテにおける看護記録の書き方とは?コツや注意点などについて解説
電子カルテの普及が進むなか、適切な看護記録は、患者さんの安全性の確保や効率的な情報共有の観点からますます重要になってきています。しかし、慣れない電子カルテの操作方法や記録の書き方に戸惑うこともあるかもしれません。本記事では、電子カルテにおける看護記録の書き方と、そのコツや注意点について解説します。医療サービスの質の向上と業務効率化のために、看護記録の書き方の基本をマスターしましょう。
電子カルテの基本事項
はじめに、電子カルテについて押えておきたい基本事項について解説します。看護記録を書くうえで、知っておきたい基礎知識になります。
カルテ作成は医師の義務
カルテの作成は医師の義務とされています。医師法第24条1項によると「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」とあり、カルテに患者さんの健康状態や治療に関する情報を正確に記録することは、医師の法的責任を伴う基本的な職務の一つと位置付けられています。
カルテの作成目的
カルテの作成目的の一つは、臨床経過を把握することです。カルテには患者さんの臨床経過が記録されており、これを参照することで主治医以外の医師でも過去の病歴や治療経過を知ることができます。
また、カルテは保険請求の根拠にもなります。カルテには、患者さんの診療内容や処方された薬剤などの情報が記録されています。これらの情報は、保険請求の際に必要となるため、カルテに正確な情報を残すことが求められます。
看護記録の書き方の基本
電子カルテの看護記録の書き方を解説します。看護記録は、以下の4つのポイントを押さえて書くようにしましょう。
- 事実を明確に記録する
- わかりやすい表現で書く
- 患者さんに配慮した記載をする
- カンファレンスでの共有事項や指示内容も記録する
事実を明確に記録する
看護記録では、事実を客観的に、そして正確に記録することが重要です。憶測で書くことは絶対にしてはいけません。主観的な表現や推測は避け、観察した事実を明確に記述しましょう。例えば、患者さんの体温や脈拍、血圧の数値と症状の変化などを具体的に記録するとよいでしょう。また、責任の所在も曖昧なままではいけません。担当医については、役職ではなく氏名をフルネームで明記して、看護記録に残すことが必要です。
わかりやすい表現で書く
看護記録は、ほかの看護師や担当医が理解しやすいように、わかりやすい表現で書くことが重要です。専門用語や略語を適切に使い、簡潔で明確な文章を心がけましょう。ただし、看護記録は、医療従事者だけでなく、患者さんやそのご家族にも共有することがあります。自分にしかわからない表現や、院内でしか通じない略語は使用しないようにしましょう。また、文末に疑問や不明点が残らないように注意することも大切です。
患者さんに配慮した記載をする
患者さんのプライバシーや尊厳を守るため、記録内容に配慮することも重要です。患者さんの個人情報は適切に扱い、ほかの医療従事者や患者さん自身が閲覧しても問題ない記載を心がけましょう。また、医療従事者が優位に立っているような表現は避けてください。患者さんを呼び捨てにするのはもちろんのこと、看護師仲間に向けた命令的な文面も誤解を招くことがあるため注意しましょう。
カンファレンスでの共有事項や指示内容も記録する
看護記録には、カンファレンスでの共有事項や医師から口頭で受けた指示内容なども詳細に記録しましょう。看護師同士の連携を円滑に行うためにも、重要な内容は正確に記録し、医療チーム内で情報が常に共有されているか注意を払う必要があります。
電子カルテの看護記録に記載する5つの項目
電子カルテの看護記録には、以下の5つの項目を記載する必要があります。
- 患者さんの基礎情報
- 看護問題リスト
- 看護計画・経過記録
- 看護サマリー
それぞれ順に解説します。
患者さんの基礎情報
患者さんの基礎情報には、氏名、年齢、性別、身長、体重などの基本情報のほかに以下のような情報が含まれます。
- 患者さんのプロフィール(氏名、年齢、性別、身長、体重)
- 入院・来院の経緯
- 既往歴・現病歴・家族歴
- 診断所見
- 検査データ
これらは、適切な診断と看護計画の策定に必要な情報になります。
看護問題リスト
看護問題リストは、看護ケアの必要性と優先度を把握するために、患者さんの抱える健康問題を抽出し、順位をつけてリスト化したものです。病状や症状、治療目標などが含まれるため、看護計画の策定や実施に役立ちます。
看護計画
看護計画とは、看護問題リストをもとに、「観察項目・目標・計画」を策定したものです。それぞれの項目は、看護問題ごとに記載されている必要があります。また、計画内容は看護師が主語ではなく、患者さんを主語として記入するようにしましょう。
経過記録
経過記録には、患者さんの健康状態や看護計画に沿って施された治療の経過を詳細に記録します。治療内容以外にも薬剤の投与量や検査結果などが記録され、治療の進捗確認や効果の評価に役立ちます。
看護サマリー
看護サマリーには、患者さんの看護全般に関する情報を簡潔にまとめて記載します。看護計画の概要や目標の達成状況、患者さんの状態の変化や治療中の経過などがまとめられ、今後の在宅医療での治療方針の策定や他院との情報共有に役立ちます。また、看護サマリーは医療従事者のみが見るものとは限らないため、専門用語や略語はなるべく避け、患者さんやそのご家族でもわかりやすい内容であることが求められます。
これらの項目が、電子カルテの看護記録に必要とされる主な構成要素です。看護記録が適切に記録・共有されることで、医療チームの円滑な連携が可能になり、患者さんは安心して治療を受けることができるようになるのです。
電子カルテの看護記録を書くうえでの3つの注意点
電子カルテの看護記録の書き方には、主に以下の3つの注意点があります。
- 診察後すぐに記録することを忘れない
- 修正は二重線などで訂正し削除はしない
- プライバシー保護とセキュリティの確保
1つずつ見ていきましょう。
診察後すぐに記録することを忘れない
診察や処置が行われた直後に、その内容を電子カルテに正確に記録しましょう。時間が経つと記憶が曖昧になり、記録の漏れや誤りが生じる可能性が高まります。そのため、診察後すぐに記録する習慣を身につけることが大切です。記録の遅延は、患者さんの安全性や治療の効果を損なう可能性がありますので、迅速な対応が求められます。
修正は二重線などで訂正し削除はしない
記録に誤りがあった場合、修正は二重線などで訂正し、削除はしないように注意しましょう。削除された情報は後から復元できないこともあり、記録の完全性や信頼性が損なわれる可能性があります。そのため、誤りを修正する際には、二重線などの訂正マークを付けて記録を残す必要があります。また、訂正した後に正しい情報を追記し、修正前と修正後の内容を後から確認できるようにしましょう。
プライバシー保護とセキュリティの確保
カルテに記載されている情報は、患者さんにとって極めて個人的な情報のため、厳重に保護されなければなりません。一方で、電子カルテの情報は、多くの医療関係者が閲覧するため、常に情報漏えいの危険性に晒されています。そのため、適切なアクセス制限やパスワードの管理、データの暗号化などのセキュリティ対策が必要です。
また、記録する情報がほかの医療従事者や患者さんに誤って公開されないように、ログの記録や不正アクセスの監視も欠かせません。患者さんのプライバシー保護と情報セキュリティ確保のために、常に慎重な姿勢で看護記録を行いましょう。
看護記録にはSOAPを使う
SOAPとは
「SOAP」とは、看護記録を書く際に使われる一般的なフレームワークです。SOAPは次のように分解されます。
・Subjective(主観的情報)
患者さんやその家族から証言される、自覚症状や感覚などの主観的な情報を指します。
・Objective(客観的情報)
痣や湿疹といった身体的所見や、検査をして得られた血圧や体温などの客観的な情報を指します。
・Assessment(評価)
患者さんからの主観的情報や診察による客観的情報をもとに、分析や解釈を行った総合的な評価を指します。
・Plan(計画)
評価に基づいて決定した治療方針や看護計画を指します。同じ症状が出ている患者さんでも、年齢や性別、ライフスタイルといった詳細な部分にまで配慮することで、患者さん一人ひとりに適切なプランを立てることが必要です。
SOAPのメリット
SOAPの利点は、情報が整理されたわかりやすいカルテの作成ができることです。看護記録に慣れていない看護師でも、情報の整理と理解が容易になり、途中で担当者が変更しても、円滑な引き継ぎとその後の一貫した治療体制を継続できます。
SOAPのデメリット
SOAPのフレームワークは、患者さんの一つの問題に対処する治療に適しています。そのため、複数の問題にまたがっている長期間の治療には向いていません。また、情報量が多くなると、限られたフォーマットにすべての情報をまとめるのが難しいケースがあります。SOAPは患者さんの健康状態や治療経過の情報を共有するのに有用なフレームワークですが、そのデメリットを理解し、適切に活用することが重要です。
SOAP活用のコツ
SOAPは看護記録を構造化する際に有用なフレームワークですが、適切に活用するためにはいくつかのコツが必要です。
・各セクションを明確に区分けする
SOAPは 各セクション(Subjective、Objective、Assessment、Plan)を明確に区分けしなければ、構造的に情報を整理することはできません。各セクションの役割を理解したうえで、適切に情報を記載し、読み手が混乱しないように注意しましょう。
・客観的情報を重視する
患者さんやその家族から伝えられる主観的情報も重要ですが、検査結果や身体的所見などの裏付けがある客観的情報を重視しましょう。主観的情報には個人差がある場合や、受け手によって感じ方が異なる場合が多く、情報の信頼性が低い傾向にあります。そのため治療方針や看護計画の策定には、検査結果などの客観的情報を重視する必要があります。
・客観的情報の裏付け
患者さんの主観的な意見や自覚症状を記録する場合でも、それを支持する客観的なデータや経験的な観察を加えることが重要です。
・継続的な更新
評価(Assessment)や計画(Plan)のセクションは継続的に更新しましょう。患者さんの健康状態や治療経過に応じて、評価や計画を適切に加筆し、最新の情報を保つことが重要です。
・記録の一貫性
各セクションでの情報が一貫性を持つように留意しましょう。矛盾した情報や不明瞭な記述が一部でもあると、看護記録全体の信頼性が低下してしまいます。
編集部まとめ
本記事では、電子カルテにおける看護記録の内容と、その書き方とコツを解説しました。カルテの作成は医師の義務という前提のもと、臨床経過を把握することと、保険請求の根拠を残す目的があります。
電子カルテにおける看護記録の書き方については、SOAPというフレームワークを活用することが重要です。SOAPの活用で情報が構造化され、看護師やほかの医療従事者が必要な情報を迅速に把握できるようになります。また、客観的情報と主観的情報を明確に区別し評価することで、患者さんの健康状態を的確に把握できるため、適切な治療計画を提供することが可能になります。本記事の看護記録の書き方やコツ、注意点が、信頼性の高い看護記録作成の参考になれば幸いです。