患者さんの情報収集に必須の思考法「POS」を詳しく紹介!
「POS」と呼ばれる思考法を聞いたことがあるでしょうか。医師や看護師、薬剤師などの医療従事者の方にとって、POSは大切な思考法になります。そのためこの記事では、POSという言葉を聞いたことがある方から聞いたことがない方まですべての方が、その考え方や仕組みを理解し、それに基づいた行動をとれるよう詳しく説明していきます。ぜひ参考にしてみてください。
POS医療とは
POSを意識して行う医療を、POS医療と呼びます。では、POSやPOS医療とはどのようなものなのでしょうか。まずはその点について詳しく解説します。
POS(Problem Oriented System)について
POSとは、Problem Oriented Systemの略称のことであり、日本語では「問題志向型システム」と訳されます。L.L.Weed氏によって1968年にアメリカで提唱され、その後L.Willis Hurst氏によって広められました。具体的には、「情報収集」「問題の明確化」「解決のための計画立案」「計画の実施」という4つの工程を繰り返すことで、患者さんが抱える問題を的確に捉え、論理的に解決していくという考え方や仕組みを表します。例えばある患者さんに「薬を飲み忘れることが多い」という問題があった場合、まずはその状況を精査し、飲み忘れが多くなってしまっている原因を明確化します。その後、その原因に基づいて論理的に解決方法を立案し、それにそって計画を実行していきます。その後は再度情報収集を行って問題が解決されているかどうか確認し、まだ解決できていないようであれば再度「問題の明確化」「解決のための計画立案」「計画の実施」を繰り返していくという流れになります。この考え方・仕組みは、医師や看護師、薬剤師、そのほかのコメディカルなど、すべての医療従事者にとって、患者さんの健康を守り、医療の満足度を高めるために大切なものとなっています。
POSとDOSの違い
医療現場においては、POSのほかにDOSという考え方もあります。これは、D-Oriented Systemのことであり、DはDisease(病気)やDoctor(医師)を指します。つまり、疾患や医師を中心とした考え方のことです。これは一見、大きな問題はない考え方に見えるかもしれません。しかし、「病気を治すこと」そして「病気を治すことが医師の仕事」という考え方だけでは、状況によっては病気を治したとしても患者さんの満足度を上げることはできない場合があります。例えば、疾患の治療を行う際の選択肢が2つあり、1つは手術が必要になるがほぼ確実に病変をなくせるもの、もう1つは再発の恐れはあるが服薬のみで行う治療だったとします。DOSの考え方では、病気を治療することが主軸に置かれるため前者を選択する可能性が高くなりますが、患者さん本人は手術を望んでいないかもしれません。このような問題が発生してしまうことが、DOSの課題として考えられるようになってきており、その課題を解決するための方法としてPOSが採用される場面が多くなってきています。POSはProblem Oriented Systemの略称だと説明しましたが、PにはProblemのほかにPatient(患者本人)やPerson(人)という意味も含まれており、「病気そのもの」ではなく「病気を抱える患者さんの問題点」を解決することに重きが置かれている点が、DOSとの大きな違いとなっています。
POMRとは
POSの考え方や仕組みを理解していただいたところで、次にPOMRを解説します。
POMR(Problem Oriented Medical Record)について
POMRとは、Problem Oriented Medical Recordの略称です。POSの考え方・仕組みで行う医療のことをproblem oriented medical(問題思考型診療)といい、その考え方に基づいて行う記録や記録方法をProblem Oriented Medical Record(問題志向型診療録)といいます。
POMRの4つのステップ
POMRには、POS思考法と同様に4つのステップがあります。1つめは、基礎情報(基礎データ)から問題を明らかにすることです。ここでは、「患者さんのプロフィール」「診査」「臨床診断」「臨床検査」といった基礎情報から問題点を明らかにしていきます。そして2つめのステップで、その明らかにした問題点をリスト化します。その際は、問題点の抽出、問題点のグループ化、問題点のリスト化という流れで行います。3つめのステップでは、作成したリストに基づき、問題点ごとに初期計画を立案します。そして、問題点ごとに経過記録を記していくというのが4つめのステップとなります。この4つめのステップでは、SOAPという形式が用いられます。
POSをベースに作成するSOAP形式の看護記録
POMRの4つめのステップとして、SOAP形式での経過記録を行うと説明しました。では、SOAP形式とはどのようなものなのでしょうか。
SOAPとは
SOAPとは、記載する事柄の頭文字をとった略称です。SはSubjectiveを意味し、主観的事項、自覚的症状、過去の出来事などを指します。OはObjectiveのことであり、客観的事項、他覚的所見、現在の出来事を意味します。Aは考察、評価、判断を表すAssesment、Pは計画、方針を表すPlanを指しています。またPOMRではそのほかに、治療行為、指導内容、患者さんに説明した内容も記載するようになっています。これらの内容を、問題点ごとにまとめていく形式で、POMRは作成されます。
SOAPが医療現場で採用される理由
SOAPは、看護の世界を中心に、医療現場で採用されています。その理由の1つは、SOAP形式で記載することにより、患者さんが抱える問題点をしっかりと捉えた経過記録が可能になることです。問題点を抽出し、グループ化・リスト化しながら記録していくことで、患者さんがどのような問題を抱えているのかが明確になるという利点があります。また、そのようにわかりやすく明確な記録になっているため、医療従事者同士での共有がスムーズに行えるという点も、多くの医療現場で採用されている理由となっています。
SOAP作成時の大事なポイント
前述したように、看護を中心とした多くの医療現場で採用されているSOAPですが、その利点を最大限に生かすためにはいくつかの大事なポイントがあります。まずは、患者さんのデータ収集や分析をしっかりと実施するということです。SOAPの目的は、患者さんが抱える問題を明確に把握し、その解決までの経過を記録するということであるため、ベースとなる情報がしっかり収集できていないと効果が薄くなってしまいます。そして実際に記録として残す際には、記載内容に一貫性を持たせること、問題点を適切に分けて記載していくことが大切です。S(Subjective)やO(Objective)に記載されていない問題をA(Assesment)に記載してしまったり、問題点がまとめて記載されていたりすると、適切な計画立案ができなくなってしまいます。また、SOAPで立案した計画を実施している最中に、新たな問題が発生することもあります。そのような場合は、そのたびに情報を追加し、計画を立案していくようにしましょう。論理的な考え方や細かい分析などが必要となるため、SOAP形式での経過記録を苦手としている人も多いですが、この形式での記録ができるようになることで、患者さん一人ひとりにより適した治療や検査、看護ができるようになります。
今後のPOS医療の展望
POS医療は、患者さんの問題点に目を向けた仕組みの医療として一定の評価を得ています。では、POS医療は医療業界や看護業界にどのような影響を与えてきたのでしょうか。また、一定の評価を得ている一方で、POS医療には「認知症の患者さんや意識を失っている患者さんの場合は、患者さんが抱えている問題点をどのように把握すればいいのか」といった意見もあります。そのような点も踏まえ、POS医療は今後どのように発展していくと考えられているのでしょうか。
POSが医学会に与えた影響
まずは、POSが医療業界に与えた影響から説明します。POSは、医師に対してはそこまで普及が進んでいません。これは、多くの医科大学が長い歴史を持っており、1968年にアメリカで提唱され、1970年代に日本でも紹介され始めたPOSは、その後新しく新設された医科大学や大学病院でない限り、取り入れられてこなかったことが原因として挙げられます。また、医療そのものへの影響もそこまで大きくはないと考えられているためです。それは、そもそも日本の医療は、患者さんが訴えを起こしたことをきっかけに問診や検査が行われ、それらの情報をもとに診断、診断に基づき治療、治療後は経過観察をするという流れが整備されているためです。このように問題解決のための流れが整備され、そのうえでさまざまな発展・専門化を遂げているため、POS医療が影響を与えているとは考えにくいのが現状です。ただし、この問題解決過程は生物医学的側面においてであり、心理医学的側面や社会医学的側面では普遍的な考え方や仕組み、体系は確立されていません。
POSが看護業界に与えた影響
次に、POSが看護業界に与えた影響を説明します。看護業界に関しては、医師業界よりも積極的にPOSに取り組もうとする動きが見られました。また、その後は看護過程の各構成要素の見直しが行われたり、問題点を指すProblemが医師の診断に基づく医学的問題であることを問題視して「看護診断」が生まれたりと、POSを広げ根付かせるためのさまざまな取り組みが見られています。積極的な取り組みが見られたものの広く普及するまでには至っていないのが現状ではありますが、保守的な仕組みが根付いている看護業界の中で、革新的な問題解決視点が養われたということは、POSが与えた大きな影響だと考えられています。
POSの今後
医療業界・看護業界へのPOS普及の現状を踏まえ、今後POSはどのように普及・発展・消滅していくと考えられるのでしょうか。その答えは現時点ではわかりませんが、1つの指標としてアメリカでのPOSの現状を確認する手があります。現在アメリカの医学校では、POSは100%普及しているといわれています。しかし、完全に普及したことにより、内科学の代表的な教科書にはPOSについて特筆されてはいません。また、看護業界では医療費支払いシステムの変化によりPOSを行わなくなったという現実もあります。日本とアメリカでは、そもそもの思想や、医療費支払制度などの医療システムにさまざまな違いがあるため一概にはいえませんが、POS医療が定着するためには長い時間が必要だと考えられます。
POS医療における監査(オーディット)とは
「監査」とは、一般的に何かしらの事柄に関して、その正確性や妥当性などを判断することを指します。英語ではオーディットといい、これはPOS医療においても行われています。
監査(オーディット)の内容
POS医療における監査とは、行った治療やケアが、その患者さんにとって適切であったか、また有用であったかを判断し、修正していくことです。主に「記録形式についてのオーディット」「治療やケア課程のオーディット」に分かれており、それぞれに対し判断を行っていきます。また、監査を行う際には、批判やあら探しになるようなことは避けること、評価を素直に受け止めることが大切になります。
記録形式についての監査(オーディット)
記録形式についての監査は、この形式・システムが適切に生かされて運用されているかどうかを調べるための監査です。漠然と監査をしてしまうと、監査を行う個人の感覚に判断がゆだねられてしまう可能性があるため、具体的かつ基準化された監査表を用いて判断していくことが望ましいとされています。
治療やケアの過程の監査(オーディット)
治療やケアの過程の監査は、ある特定の疾患を持つ患者さんに対する治療やケアの質を判断するための監査です。実際に提供した治療やケアにより、患者さんがどのように変化したのかを、目標と照らし合わせて判断します。
監査(オーディット)する時期や実行者
監査は、「毎日の記録を行うとき」「毎日のカンファレンスのとき」「期待される結果が出る評価のとき」「合同カンファレンスのとき」など、時期を決めて行います。行うのは、同僚や先輩、医師やそのほかの医療スタッフ、看護記録委員会やPOS委員会などさまざまです。自分自身で監査を行う場合もあります。そのため、前述したように具体的で基準が明確になった監査表を用意しておくことは、適正な監査を行ううえで重要となっています。
監査(オーディット)する対象者
監査は、POSに基づいて医療や看護を提供する者に対して行われます。
まとめ
患者さん目線の医療を提供するうえで大切な考え方・仕組みであるPOSについて説明しましたが、参考になりましたでしょうか。日本では、定着に至っているとはいえないPOSですが、患者さん自身に目を向け、患者さんの問題を解決できるよう動く姿勢は、医療従事者にとって大切なものです。1つひとつのサイクルを着実に行い、繰り返していくことはそう簡単ではなく、始めは記録方法などに戸惑うこともあるかもしれませんが、ぜひ実践してみてください。