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医療のICTってなに?いま必要な理由、事例、課題などを解説

                   
投稿日: 2024.01.17
更新日:2024.03.06
                   

「ICT」という言葉がさまざまな場所で使われるようになり、数年が経ちました。「Information technology」を表す「IT」に対し、「Information and Communication Technology」を表すのが「ICT」です。日本語では「情報通信技術」などと訳されることが多く、IT技術により、「つながる」ことができる技術がICTと呼ばれます。

医療のICTとは

医療のICTとは

では、医療におけるICTとは、どのような技術のことを指すのでしょうか。ここからは、ICTが医療分野ではどのように活用されているのか、どのような利点や課題があるのかといったことについて説明します。

ICTとITの違い

まずは、ICTとITの違いからご説明します。前述したように、ICTは「Information and Communication Technology」の略称であり、ITは「Information technology」の略称です。具体的には、パソコンやスマートフォン、タブレットなどはITであり、データ通信を利用した情報技術、情報通信技術のすべてをITと呼んでも問題ありません。そして、それらを活用して「人と人をつなぐ」「情報を共有する」技術が、ICTです。具体的には、パソコンやスマートフォンのアプリを利用して行うオンライン診療や、電子カルテを利用して離れた場所に情報を共有することなどが、医療におけるICTです。医療においては、ITを活用して医師と患者、医師と医師などをつなぐ技術がICTと呼ばれているのです。

医療ICTが必要になる理由

医療ICTの普及・活用が求められている理由は、大きく分けて3つあります。1つ目は、医師不足の解消です。日本は少子高齢化に伴って、医療を必要とする人の人数は増えているものの、医療を提供できる人の人数は減っているという現状があります。都心と比べて地方は、特にその傾向が顕著です。その現状を打開するための方法として、オンライン診療による遠隔地からの診療が期待されています。また、ICTを使って医師や看護師の業務負担を軽減させることも、医師一人が対応できる患者数を増やす手段として期待できるでしょう。2つ目の理由は、医療費の削減です。前述した少子高齢化などの理由により、国民一人当たりの医療費は増加しています。この状況を、医療ICTを用いて業務効率化を図ることで、解決したいと考えているのです。3つ目は、医療従事者一人当たりの業務負担の削減です。ここまで説明してきたことからもわかるように、医師不足に伴い、医療従事者一人当たりに求められる業務量は多くなっています。そのような状況を解消し、医師や看護師といった医療従事者の負担を減らすことが、医療ICTには求められています。

医療ICTの現状

ここまでの説明で、医療業界においてICTの活用が強く求められていることがおわかりいただけたかと思います。では、実際にICTの普及は進んでいるのでしょうか。電子カルテ、オンライン診療、地域医療情報連携ネットワークという、代表的な3つのICTについて説明します。

電子カルテの普及率

医療におけるICT化の代表的な技術の一つが、電子カルテです。電子カルテは、これまで紙に記入していた患者さんの医療情報をデータに置き換えることで、情報の検索や閲覧を容易にしたほか、ほかのシステムとの連携や他組織への共有もできるようにしました。紙カルテは保存するために場所が必要でしたが、データになったことでその必要がなくなったことも電子カルテの利点です。では、このような利点がある電子カルテは、現在どのくらいまで普及しているのでしょうか。厚生労働省が出したデータによると、現在の電子カルテ導入率は50%前後となっており、その割合は年々増え続けています。また、400以上の病床数を有する病院では、普及率が90%を超えているなど、規模が大きい病院であればあるほど、電子カルテを活用していることがわかります。患者数の多さや病院の広さは、カルテの管理や共有にかかる時間と手間に比例するため、それらを解消する手段として電子カルテを活用していることがうかがえます。

オンライン診療の普及率

次に、オンライン診療についてです。オンライン診療は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、急速に普及が進みました。これまでは初診は対面診療が義務付けられていましたが、現在は感染防止のための一時的な措置として、初診からオンライン診療を行うことが認められているというのも、普及が進んだ要因の一つです。そのため、対面での外来診療は基本的に行っておらず、オンライン診療を主体にしているというクリニックも出てきています。オンライン診療には、ほかの患者さんや医師と対面接触をしないため感染防止につながる、どこにいても診療が受けられる、待ち時間が発生することが少ないといったメリットがあります。特に、「どこにいても診療が受けられる」という点は、医師不足に悩む地域の住民にとっては大きなメリットです。このような利便性の高さから、オンライン診療に対応しているクリニック数の増加や、引き続き初診からでもオンライン診療が受けられるように法律を整備することが求められています。

地域医療情報連携ネットワークの運用

最後に説明するのは、地域医療情報連携ネットワークについてです。地域医療情報連携ネットワークは、電子カルテなどの情報を共有できるシステムのことです。例えば、患者さんが不調を感じてクリニックを受診した際に、医師がこれまでの既往歴や検査歴などを聞いても、時間が経っている場合や専門的な内容の場合は明確に答えられないこともあるでしょう。そのような際に患者さんの同意を得たうえで、ほかの病院で記録されている情報を閲覧することができるのがこのシステムです。また、ほかの病院に患者さんを紹介する場合などにも、情報を共有するうえで役立ちます。「適切な医療を効率的に受けられる」「紹介・逆紹介後も継続して経過を観察できる」といったメリットのある画期的なシステムではありますが、普及状況は低迷しているというのが現状です。

医療のICTのメリット

ここからは医療におけるICTのメリット、活用により求められていることなどを説明します。

適切な医療の提供と地域医療の充実

ここまで説明してきたことからもわかるように、ICTの活用は、患者さん一人ひとりに適切な医療を提供するために役立ちます。電子カルテなどを用いて、過去から現在までの情報を瞬時に手に入れられるようになることで、複数の調剤薬局から薬を重複して処方してしまったり、持病があるにもかかわらず不適切な検査や治療をしてしまったりといったことを防ぎやすくなるからです。また、オンライン診療の項目でもお伝えしたように、医師が不足している地域の医療を充実させるためにもICTは重要です。クリニックが少ない場所や、患者さんの症状を専門とする医師がいない場所でも適切な治療を受けられるようにすることは、少子高齢化が進む日本において重要な取り組みとなるでしょう。

新しい診断技術や治療法、新薬の研究・開発

診療情報がデータとして蓄積されることは、今後の診断技術や治療法、新薬などの研究・開発にも活かすことができます。罹患する人の傾向や、症状が現れるパターン、特定の薬を服用した際の改善傾向パターンなど、さまざまな情報がビックデータとして蓄積されることで、今後の医療の発展が期待できます。また、個人のレベルにおいても、治療データや診断データがスマートフォンやパソコンで簡単に確認できるようになれば、自身の健康状態の把握や管理がより容易になると考えられます。

医療機関の業務効率化

ICTの活用は、医療従事者の業務効率化につながります。例えば、膨大な数の紙カルテの中から必要な情報を探し出すことと、膨大な電子カルテデータの中から検索をして情報を探し出すことのどちらが簡単かを考えてみれば容易に想像がつくでしょう。また、近年ではAIを用いることで電子カルテへ音声で自動入力をしたり、膨大な文章量の論文を解析したりということも可能になっています。このような一つひとつの業務負担の軽減が、医療機関における業務効率化や医師不足対策につながっています。

BCP対策と医療の地域差の解消

BCPとは、Business Continuity Planの略であり、日本語では「事業継続計画」と訳されます。災害を始めとした緊急事態が発生した際に、可能な限り早急に復旧し事業を継続できるよう策定しておくプランのことです。ICTは、そのプランのために重要な役割を担っています。例えば火事が起これば、紙カルテは燃えてなくなってしまいますが、電子カルテであればバックアップを利用することで、復旧が可能になるからです。また、「地域医療の充実」の項目でもお伝えしたように、場所を問わず診療が受けられるオンライン診療を活用することは、医師の数に差がある都心部と地方での地域医療格差を埋めるためにも役立つと考えられています。

医療のICTのデメリットや課題は

医療のICTのデメリットや課題は

では、医療ICT化をこれまで以上に促進していくにあたって、どのような課題やデメリットがあるのでしょうか。

ICTの使いこなしや完全なICT化は難しい

まずは、すべての医療従事者や医療機関がICTを使いこなすことは、そう簡単ではないということです。さまざまなICTを用いたシステムが開発されていますが、医療従事者によってITリテラシーは異なります。うまく使いこなせる人もいれば、一部の機能しか使いこなせないという人もいますので、ICT化にあたっては事前に講習会を開いたり、継続したフォローを行ったりということが必要になります。

患者情報のセキュリティ対策は必須

また、情報共有を柱とするICTにおいて、データのセキュリティ対策は欠かせません。セキュリティ対策が万全でなければ、膨大な量の個人情報が外部に漏洩してしまう可能性もあります。セキュリティソフトを導入するのはもちろん、セキュリティ対策のルール策定、情報を管理する側のセキュリティ意識の向上も求められています。

システムエラーが発生した場合の備え

医療のデジタル化においては、災害や停電などによるシステムエラーが起こる可能性があるということを頭に入れておく必要があります。例えばこれまでお話してきたように、電子カルテは情報の閲覧・共有が瞬時にできるというメリットがあるものの、停電時にはそのデータが使えなくなります。そのようなトラブルの際にはどのように対応し、どのようにして業務を遂行できるようにしておくのかといった、備えを万全にしておく必要があります。

医療ICTの導入事例

最後に、現在医療の現場で導入されているICTについて紹介します。

電子カルテシステム

まずは、ICTの代表システムである「電子カルテシステム」です。そもそもカルテとは、診療記録のことであり、患者さんの基本情報から既往歴や家族歴、症状、生活習慣、アレルギー、服薬状況といった、さまざまな情報が記録されています。これが電子化されたことで保管場所にも困らず、情報の検索や閲覧、連携医療機関への共有が容易になりました。前述したように普及率は年々上がってきており、今後も増えることが予想されます。

オンライン予約・診療システム

オンラインでの予約・診療システムも、医療ICTの一つです。これまでは受付で直接スタッフと次の診療日時を決めたり、電話をして予約を取ったりする必要がありましたが、近年では多くのクリニックで、HP上などで予約を取ることが可能になっています。これにより、スタッフの業務時間の短縮や入力ミスの削減など、患者さんの予約取得にかかる作業工程の削減につながっています。また、前述したように、オンライン診療も今後のさらなる拡大と継続が求められています。

電子版おくすり手帳

おくすり手帳と聞くと、紙でできたノートタイプを思い出す方も多いかもしれません。しかし、このおくすり手帳は、持っていないと診療や処方を受けられないものではないため、持ち歩く方は少なく忘れられやすいという難点がありました。そのような理由もあり、徐々にスマートフォンなどにダウンロードが可能なアプリタイプへと移行が進んでいます。それにより、おくすり手帳を確認できないことによる薬の重複や副作用の発現を防止しやすく、適切な処方・服薬指導を行いやすくなるというメリットにつながっています。

まとめ

医療におけるICT化のメリットや今後の課題、導入事例などをまとめました。医療ICTは、医療機関にとっては医師不足の解消や業務負担の改善、患者さんにとっては通院の負担軽減や適切な医療を受けることにつながります。普及においては複数の課題があり、一般化までにはまだ時間がかかるであろうことも予想されますが、国民の健康や長寿のためには欠かせません。今後のさらなる拡大・発展を期待しましょう。