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医院の「閉院」と「廃院」の違いは?事業承継という選択肢についても詳しく解説

                   
投稿日: 2024.10.08
                   


医院を閉めるという選択において、「閉院」と「廃院」という言葉がありますが、それらに違いはあるのでしょうか。

今回は医院の閉院と廃院について、またそれ以外の事業承継という選択肢についても解説します。

医院の「閉院」と「廃院」とは

医院の「閉院」と「廃院」とは
「閉院」と「廃院」に違いはありますか?

「閉院」と「廃院」は、ともに医院の事業を停止するという意味で、それぞれの言葉に違いはありません。

医院を閉院・廃院する理由とは?

医院を閉院・廃院する主な理由は以下のとおりです。

  • 病院の開設者や法人代表者の高齢化により後継者がいない
  • 経営のスキルが不足している
  • 資金繰りがうまくいっていない

近年、後継者不足で閉院・廃院を余儀なくされるケースが増加しています。

厚生労働省が発表した令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況によると、病院の開設者、または法人の代表者の年齢構成の割合は、60~69歳で35.7%、70歳以上で33.0%と、60歳以上が70%近くを占めています。このように、現在の医療業界では病院の開設者や法人代表者の高齢化が深刻な社会問題となっています。

(参考:厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」

また帝国データバンクのデータによると、2023年度の医療機関の閉院・廃院の件数は、前年度比37.1%増となる709件となり過去最多を更新しました。

内訳をみると、病院が19件、診療所が580件、歯科医院が110件となり、診療所と歯科医院は過去最多を更新しました。10年前と比較すると、診療所は2.4倍、歯科医院は2.8倍にも増えています。

(参考:帝国データバンク「医療機関の「休廃業・解散」 動向調査(2023年度)」

医院を閉院・廃院する以外に選択肢はありますか?

閉院や廃院する以外には、以下のような選択肢があります。

・第三者への事業承継

医院をほかの医師に引き継ぐ方法です。医院を新しい経営者に引き継ぐことにより運営を続けることができるため、患者さんやスタッフへの影響を最小限に抑えることができます。

・ほかの医療法人との合併

ほかのクリニックや医療機関と合併することで経営の安定化を図る方法です。合併することで、資源の共有や経営効率の向上が期待できます。

・経営改革

経営方針の見直しなどを行い、医院の再生を目指すことも選択肢の一つです。

閉院・廃院のメリット・デメリット

閉院・廃院のメリット・デメリット
閉院・廃院のメリットを教えてください。

閉院・廃院のメリットは、主に次の2点が考えられます。

  • 自分のタイミングで引退できる
  • 後継者問題で悩む必要がない

閉院・廃院の最も大きなメリットは、引退を考えた場合にすぐに実行できることです。事業承継など第三者への承継やほかの医療法人との合併などの場合は、応じる相手先がいなければ実行できません。

実際、医院の約半数は後継者が決まっていないといわれています。しかし、閉院・廃院であれば相手先を検討する必要がなく、自分の好きなタイミングでやめることができるため、後継者問題で悩む必要がありません。

実際に医院を閉院・廃院する際の手続きは次のとおりです。

【医療法人(病院)の場合】

病院を閉院・廃院する場合は、ただ経営を終了すれば良いわけではなく、医療法第55条に定められている次のいずれかに該当する閉院理由(解散事由)が必要です。

  • 一 定款をもつて定めた解散事由の発生
  • 二 目的たる業務の成功の不能
  • 三 社員総会の決議
  • 四 他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。次条第一項及び第五十六条の三において同じ。)
  • 五 社員の欠亡
  • 六 破産手続開始の決定
  • 七 設立認可の取消し

また、これらの理由のなかで、以下の場合は解散認可申請、または解散届の提出のどちらかが必要です。

閉院理由(解散事由)必要な書類
解散認可申請が必要な場合二 目的たる業務の成功の不能
三 社員総会の決議
・解散の理由書・解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録・財産目録および貸借対照表・残余財産の処分方法を記載した書類・解散及び清算人就任を登記した登記事項証明書(履歴事項全部証明書)原本
解散届の提出が必要な場合一 定款をもつて定めた解散事由の発生
五 社員の欠亡
・医療法人解散届・解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録・財産目録および貸借対照表・残余財産の処分方法を記載した書類・解散及び清算人就任を登記した登記事項証明書(履歴事項全部証明書)原本

解散認可申請や解散届を提出後は、次の流れに沿って手続きを進めます。

  1. 解散の登記(合併、破産手続き開始の決定以外のみ必要)
  2. 清算人就任の登記 
  3. 医療法人解散登記完了届 
  4. 清算人の就任登記届の届出 
  5. 清算手続き(2カ月以内に3回以上の公告を官報に記載)
  6. 清算結了の登記 
  7. 清算結了届の届け出

【診療所の場合】

診療所を閉院・廃院する場合は、以下の届出を提出する必要があります。

  • 保健所:診療所廃止届、X線装置廃止届
  • 厚生局:保険医療機関廃止届
  • 都道府県:各種医療機関廃止届(被爆、生活保護、結核など)
  • 労働基準監督署:労災保険確定保険料申告
  • ハローワーク:雇用保険適用事業所廃止届、雇用保険喪失届、雇用保険離職票、健康保険喪失届(医師国保)、健康保険証の回収(医師国保)
  • 税務署:事業廃止届

ただ、各都道府県によって異なる場合があるので、閉院・廃院が決まったら各都道府県の病院・医療機関向けの案内で確認しましょう。

閉院・廃院のデメリット

閉院・廃院の主なデメリットは次のとおりです。

  • 手続きが煩雑
  • 多くの費用がかかる

先述のように、閉院・廃院をしようとするとさまざまな場所に届出を提出する必要があり、手続きが煩雑です。また、閉院・廃院後も一定期間、カルテなどの特定の情報や装置には保管の義務が発生するため注意が必要です。

また規模や診療科によって異なりますが、閉院・廃院ではさまざまな名目で費用が必要になり、一般的には合計で1,000万円程度が必要といわれています。

すべての手続きを経営者のみで行うことは、時間、労力ともに負担になります。この負担を軽減するために税理士や社会保険労務士へ依頼するケースも多くみられますが、その場合は別途手数料が発生します。

事業承継のメリット・デメリット

事業承継のメリット・デメリット
事業承継のメリット

閉院・廃院せずに事業承継を行うメリットは次のとおりです。

  • 生活資金を確保できる
  • 地域での医療を維持できる

閉院・廃院を選択した場合は、先述のとおり多くの費用が必要になります。しかし、事業承継を行うことで売却代金を得ることができ、手元に金銭を残せる可能性があります。

また、閉院・廃院を行うと、その地域で患者さんが医療を受けることができにくくなります。特に地方や過疎地域であれば一つの医院がなくなることは大きな問題です。

しかし事業承継を行えば、経営者は変わるものの患者さんは今までと変わらず医院に通うことができます

これらのメリットがあるため、医院を閉めることを検討する際には、閉院・廃院だけでなく事業承継も検討してみましょう。

事業承継のデメリット

事業承継のデメリットは、引継ぎが完了するまでに長い時間を要することがある点です。一般的な事業承継は以下の手順で行います。

  1. 専門家に相談:専門家に相談し、医院の価値を評価してもらう
  2. 承継先の選定と交渉:承継先を選び、条件を交渉する
  3. 契約と引き継ぎ:契約を締結し、承継を実行する

この手順のなかでも、承継先の選定と交渉には多くの手間と時間を要するケースが少なくありません。

まとめ

まとめ

今回は、医院の「閉院」と「廃院」の違いと、事業承継について紹介しました。医院の後継者問題は年々深刻さが増してきています。

医院を閉めることを検討する際は、閉院・廃院だけでなく、事業承継も選択肢の一つとして検討しましょう。それぞれの方法のメリット・デメリットを考慮することで、より良い選択ができるかもしれません。