医療DXの課題や取り組み事例、クリニックでの医療DXの進め方を解説!
業務を効率化する施策として注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)は、一般企業にとどまらず、医療業界でも導入を進める病院が増えています。とはいえ、DX化に課題を感じている病院やクリニックは少なくないでしょう。
本記事では、医療DXの課題や取り組み事例、クリニックでの医療DXの進め方について詳しくご紹介します。
医療DXについて
医療DXについての概要や取り組むべき理由、具体的な取り組み事例などを交えて解説します。
- 医療DXとはなんですか?
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医療DXとは、データの管理やデータを取り扱うスタッフの業務を効率化する取り組みのひとつです。例として、次のような内容が考えられます。
- 疾病の発症予防
- 受診、診察
- 治療
- 薬剤処方
- 診断書等の作成
- 診療報酬の請求
- 医療介護の連携によるケア
- 地域医療連携
- 研究開発 など
これらの業務や活動で扱う情報を、クラウド などのシステムを通してやり取りし、医療サービスの効率化や質の向上を図ります。
- 医療DXに取り組むべき理由を教えてください。
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口頭でのやり取りや紙ベースでの管理に時間を取られていた業務をデジタル化しサービスの効率化や質の向上を図ることで、保健や医療、介護を提供するスタッフが患者さんと向き合う時間に集中できる環境を整えることができます。それにより、よりよい医療サービスの提供を目指します。
厚生労働省が発表している「医療DXについて」には、以下の5点の実現を目指すと記載されています。
- 国民の更なる健康増進
- 切れ目なく、より質の高い医療等の効率的な提供
- 医療機関等の業務効率化
- システム人材等の有効活用
- 医療情報の二次利用の環境整備
特に業務効率化は、多くの患者さんが来院するクリニックにとって取り組むべき課題の一つです。医療DXを進め、煩雑になっている書類業務などを効率化できれば、診察や治療にかける時間を今よりも確保できるようになるでしょう。
(参考:医療DXについて|厚生労働省)
- 医療DXの取り組み事例にはどのようなものがありますか?
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医療DXの取り組み事例には、以下のものがあります。
- オンライン資格確認の導入:
マイナンバーカードの保険証利用
- 電子カルテ情報共有サービス:
全国の医療機関や薬局などで患者の電子カルテ情報を共有する仕組み
- 標準型電子カルテシステム:
医療DXシステム群とつながり、情報の共有と民間サービスとの組み合わせが可能な電子カルテ
- 電子処方せん:
複数の医療機関や薬局で処方、調剤された情報を参照でき、電子的に処方せん運用を行える仕組み
- 予防接種事務のデジタル化:
マイナンバーカードを用いて、オンラインで接種対象者の情報を確認する取り組み
- 診療報酬改定DX:
診療報酬の算定と窓口負担金の計算を行う電子プログラム
そのほか、スタッフ同士のやり取りにチャットツールを活用する取り組みも各医療機関で進んでいます。
医療DXの現状と課題
取り組むべき理由や事例を確認したところで、医療DXの現状と推進にあたっての課題も確認しておきましょう。
- 医療DXはどの程度進んでいますか?
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電子カルテシステムの普及率を例に上げると、令和2年時点で電子カルテを導入している一般病院は57.2%、一般診療所では49.9%と半数程度です。平成20年には一般病院で14.2%、一般診療所で14.7%だったことを考えると普及は着実に進んでいます。
その一方、国は2030年を目標にすべての医療機関に電子カルテを導入し、業務効率化とデジタル化を進めていく方針を打ち出しています。現状の数字を考えると、医療DXの推進は道半ばといえるでしょう。
- 医療DXにおける、政府の具体的な施策を教えてください。
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医療DXの推進のために政府は医療DX推進本部を設置し、関連する施策の進捗状況等を共有、検証します。また、医療分野の情報化に関するガイドラインや電子処方せんの運用ガイドラインを整備し、医療機関向けに情報提供を進めています。
さらに経済産業省の取り組みとして関連する医学会と連携し、ヘルスケアサービス提供に関するエビデンスの整理が行われています。そのほかにも、エビデンスに基づく指針等の作成や事業者の適切なサービス提供の促進もしており、医療DXを推進する動きが活発になっています。
- 医療DXを推進するにあたって、どのような課題がありますか?
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大きな課題として、オンライン資格確認システムの普及が進んでいない点があげられます。
そもそもオンライン資格確認に使われるマイナンバーカードの取得は任意であり、2024年時点でも国民全員が持っているものではありません。それが2024年秋を目処に健康保険証を廃止すると政府から発表がなされ、混乱を生みました。
また、2023年にはマイナンバーカードと紐づいた健康保険証の情報が誤っていたという報道があり、マイナンバーカードに健康保険証の情報を統合する仕組み自体の信頼性が揺らいでいます。オンライン資格確認システムをベースとする電子処方せんの推進などは、現状を鑑みると大きな課題といえるでしょう。
クリニックでの医療DXの進め方
ここからは、クリニックでどのように医療DXを進めていくか、クリニックでの医療DXの進め方について紹介します。
- クリニックで医療DXを推進するメリットを教えてください。
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医療DXを推進することで業務効率化が進むだけでなく、データの集約と分析による経営改善にも役立ちます。患者さんの診療歴や治療効果が把握しやすくなり、データが蓄積されれば診察や治療方法を最適化できるようになるでしょう。
Webでの診療予約やオンライン診療なども始めれば、多様な患者さんのニーズにも対応できるようになります。利便性が高く、快適なサービスを受けられるのであれば、自然と患者さんから選ばれるクリニックになっていくでしょう。
- クリニックで医療DXを推進するデメリットや注意点はありますか?
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クリニックで医療DXを推進する場合のデメリットや注意点は以下の通りです。
- 患者情報の流出リスク増加
- 導入コストと維持費の増大
- 患者さんとの接触機会低下
今まで書面で管理していた患者情報などをデジタル化することで、サイバー攻撃の対象になる可能性があります。患者情報の流出リスクを減らすためには高度なセキュリティシステムの導入が必要となり、ランニングコストが発生する点は留意しておきましょう。
また、業務の効率化が成功する反面、患者さんとの接触機会が低下してしまう恐れもあります。効率化によって診察時間や待ち時間などの待合室での交流などが減ることで、患者さんとの信頼関係が築きにくくなるかもしれません。
継続した受診につなげるために、より満足度を高める別の施策を考える必要が出てくる可能性があります。
- クリニックにおける医療DXの進め方を教えてください。
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クリニックにおける医療DXの進め方として、次のような流れが考えられます。
- クリニックが目指す目標を設定
- 現状を分析し、DXが必要な領域の洗い出し
- 目的にあったサービスの選定
- サービスの段階的な運用
- 評価とフィードバックを実施
まずはクリニックの目指すべき目標を定め、運営状況やITインフラの整備度合いを加味して導入するサービスを選定します。医療DXのサービスにはそれなりのコストがかかるため、段階的に導入していくのも一つの方法です。
また、実際に使用するスタッフからのヒアリングなどで、現状の分析とDX化が可能な領域を洗い出すことが重要です。せっかく導入したのに業務の効率化につながらないといったことにならないよう、しっかり検討することで費用対効果を高めることができます。
導入後には、スタッフや患者さんからのフィードバックを受け、拡充や縮小などを考えていくことでランニングコストを抑えながらブラッシュアップしていきましょう。
- 医療DXにかかる費用について補助金制度はありますか?
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2024年11月時点の、医療DXに関連した補助金制度は以下のとおりです。
- 電子処方せん補助金
- 電子カルテ情報共有サービスの補助金
- オンライン資格確認関係の補助金
電子カルテ情報共有サービスの補助金を利用したい場合、オンライン資格確認システムを導入していなければなりません。電子処方せんもオンライン資格確認システム導入済みが前提となるサービスです。
ほかにも、業務効率化や経営改善のためにITツールを導入する中小企業や小規模事業所を支援する制度として、IT導入補助金を利用できる可能性もあります。
申請期間や対象などは、導入を検討している内容に応じて厚生労働省などのホームページで確認してみるとよいでしょう。
編集部まとめ
今回は、医療DXの課題や取り組み事例、クリニックでの医療DXの進め方について紹介しました。
医療DXの導入により時間を取られていた業務が効率化され、保健や医療、介護を提供するスタッフは患者さんと向き合う時間に注力できます。経営改善の参考になるデータ集約や分析も行えますので、有効活用できればクリニックの運営にも役立つでしょう。
ただし、情報流出のリスクやランニングコストの増加など、運用する上での注意点も存在します。段階的な導入や補助金の活用などを検討し、スモールスタートで医療DXを進めてみるのも一つの方法です。
自院に合う方法で医療DXを導入して、業務効率化と生産性向上を目指しましょう。