TOP > 開業後、医院経営あるある > 開業医の廃業率は上昇傾向?開業医が直面する課題とクリニック存続のための対策を解説

開業医の廃業率は上昇傾向?開業医が直面する課題とクリニック存続のための対策を解説

                   
投稿日: 2024.05.16
更新日:2024.05.16
                   

開業医の廃業率が近年増加傾向にあり、地域医療の提供体制に深刻な影響を及ぼしつつあります。診療所の休廃業・解散件数の増加は、開業医の高齢化や後継者不在、コロナ禍による経営悪化が主な要因と考えられます。開業医の廃業は、地域住民の医療アクセスや健康リスクにも直結する問題です。本記事では、開業医の置かれた現状と廃業が地域医療に与える影響を探るとともに、開業を志す医師に向けて成功のポイントや心構え、直面する課題や持続可能な経営のための対策などについて解説します。

開業医の廃業率の現状と将来予測

近年、開業医の廃業率が増加傾向にあり、地域医療の確保に重大な影響を及ぼしつつあります。特に診療所の休廃業・解散件数の増加が顕著であり、2021年には過去最高の471件に達しました。これは廃業率にすると約0.47%で、2018年の廃業率が約0.38%であることと比較すると廃業率は上昇傾向にあるといえます。

診療所の休廃業・解散件数の推移と倒産件数との比較

診療所の休廃業・解散件数は、2016年の375件から年々増加し、2021年には471件となりました。一方、倒産件数は年間約20件前後で推移しており、2021年の休廃業・解散件数は同年の倒産件数の21.4倍にのぼりました。倒産件数はほぼ横ばいで、休廃業・解散件数の増加傾向とは対照的な状況であることから、事業終了を決断する際の診療所の財務状況は健全な傾向にあることが推測されます。したがって、休廃業・解散件数増加の背景には、開業医の高齢化や後継者不在といった構造的な問題があると考えられます。

開業医の高齢化が休廃業・解散件数増加の主因

実際、診療所の開設者の82.5%が60歳以上であり、そのうち70代以上が42.0%を占めています。2011年に最も多かった開設者の年齢は56歳でしたが、2021年には66歳が最多となり、開業医の高齢化が急速に進んでいることがわかります。多くの診療所が現在の開設者によって立ち上げられた小規模な医療機関であり、後継者が不在のケースが目立ちます。今後、高齢の開業医の引退にともない、診療所の廃業率はさらに上昇することが予想されます。

コロナ禍による経営環境悪化が廃業を加速

加えて、新型コロナウイルス感染症の拡大は、開業医の経営状態に深刻な打撃を与えました。感染対策のためのコスト増加や受診控えによる患者数の減少が経営を圧迫し、廃業を検討せざるを得ない状況を加速させたのです。さらに、近年の社会問題である医療従事者の人材不足が、廃業の決断を後押しした可能性もあります。

開業医の廃業が地域医療に与える影響

開業医の廃業率上昇は、地域医療の提供体制に重大な影響を及ぼします。特に無床診療所の廃業数増加は、住民の医療アクセスを悪化させ、地域の医師不足を加速させる恐れがあります。さらに、プライマリケアの担い手不在による住民の健康リスクの上昇も懸念されます。

無床診療所の廃業数増加による住民の医療アクセス悪化

無床診療所は、地域住民にとって最も身近な医療機関であり、風邪や慢性疾患の管理など、日常的な医療を提供する重要な役割を担っています。しかし、無床診療所の廃業数が増加することで、住民は身近な場所で医療を受けられなくなり、遠方の医療機関への通院を余儀なくされる可能性があります。特に高齢者や交通手段が限られている住民にとっては、医療アクセスの悪化が健康管理の障壁となり、病気の早期発見・早期治療の機会を逸してしまうことが懸念されます。

地域の医師不足の深刻化と医療提供体制の弱体化

開業医の廃業率上昇は、地域の医師不足を加速させる要因となります。廃業する開業医の多くは高齢であり、若手医師による開業が進まなければ、地域の医師数は減少の一途をたどることになります。医師不足は診療科の偏在を助長し、特に小児科や産婦人科など、地域で必要とされる医療の提供に支障をきたす恐れがあります。さらに、残された医師の過重労働は医療の質の低下を招く危険性があり、診療ミスや判断ミスにつながりかねません。地域の医師不足と医療提供体制の弱体化は、住民の生命と健康に直結する重大な問題なのです。

プライマリケアの担い手不在による住民の健康リスク上昇

無床診療所の廃業は、地域におけるプライマリケアの担い手不在につながります。プライマリケアは、住民の健康管理や疾病予防、健康増進などを包括的に行う医療であり、住民の健康を守るうえで欠かせない役割を果たしています。しかし、プライマリケアの担い手である開業医が不在となれば、住民は日常的な健康管理や疾病予防の機会を失うことになります。その結果、生活習慣病の悪化や重症化、感染症の蔓延などのリスクが高まり、住民の健康が脅かされる可能性があります。

開業を成功に導くためのポイントと心構え

開業を成功に導くためのポイントと心構え

医師にとって開業は人生の大きな転機であり、やりがいと挑戦に満ちた道のりだといえるでしょう。一方で、開業にはリスクもともないます。開業を成功に導くためには、十分な準備と計画的な資金調達、地域のニーズを踏まえた診療科目の選定と競合との差別化、そして医療の質の向上と患者満足度を高める努力が不可欠です。

開業前の十分な準備と計画的な資金調達

開業前の準備は、開業の成否を左右する重要な要素です。開業場所の選定、診療科目の決定、必要な設備・機器の導入、スタッフの採用など、開業に向けたさまざまな準備に十分な時間をかける必要があります。特に、開業資金の調達は慎重に行う必要があります。銀行からの融資や自己資金の活用など、計画的な資金調達を行い、開業後の安定した経営基盤を築くことが重要です。また、開業後の収支予測を綿密に行い、想定される収入と支出のバランスを見極めることも欠かせません。

地域のニーズを踏まえた診療科目の選定と差別化戦略

開業する地域の医療ニーズを見据えた診療科目の選定は、開業の成功に大きく影響します。地域の人口動態や疾病構造、既存の医療機関の状況などを分析・把握し、地域に必要とされる医療を提供することが重要です。さらに、ほかの医療機関との差別化を図ることで、集患率アップが期待できます。例えば、特定の疾患に特化した専門性の高い医療の提供や、患者さんの利便性を高める工夫など、自院ならではの強みを打ち出すことが求められます。

医療の質の向上と患者満足度を高める努力

開業後の経営を成功させるためには、医療の質の向上と患者満足度を高める努力が欠かせません。医療技術の研鑽や先進的な医療情報の習得に努め、患者さんに高品質な医療を提供することが重要です。また、患者さんとのコミュニケーションを大切にし、患者さんの不安や疑問に真摯に向き合うことで、信頼関係を築くことができます。院内環境の整備や待ち時間の短縮など、患者さんの視点に立った改善に取り組むことも求められます。さらに、地域社会との連携を深め、健康教育や予防医療など、地域に根ざした医療活動を展開することも重要です。

開業医が直面する課題と解決策

日々の診療に注力する一方で、医院経営を円滑に進めていくためには、さまざまな課題に対応していく必要があります。そのなかでも特に重要なのが、医療人材の確保と定着、医療機器の更新と設備投資、そして医療事故防止とリスクマネジメントです。これらの課題に適切に取り組むことが、安定的な医院経営の実現につながります。

医療人材の確保と定着に向けた取り組み

質の高い医療を提供し続けるためには、優秀な医療人材の確保と定着が欠かせません。しかし、医療従事者の離職率の高さや、人材獲得競争の激化など、医療人材を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうしたなかで、開業医には、魅力ある職場環境の整備と、スタッフのモチベーション向上に向けた取り組みが求められます。具体的には、適正な労働時間の管理、休暇取得の推進、研修機会の提供、キャリアアップ支援などが挙げられます。スタッフとのコミュニケーションを密に取り、一人ひとりに寄り添った、働きやすい職場づくりに努めることが大切です。

医療機器の更新と設備投資

医療技術の進歩にともない、医療機器も日進月歩で進化しています。より高度で精緻な医療を提供するためには、医療機器の定期的な更新と、必要な設備投資が欠かせません。しかし、医療機器の導入には多額のコストがかかるため、費用対効果を慎重に見極める必要があります。開業医には、自院の診療科目や患者層、将来的な展望などを踏まえた戦略的な投資計画と経営判断が求められます。同時に、医療機器の適切な維持管理や、スタッフの操作教育にも力を注ぐことが大切です。限られた経営資源のなかで、最大限の効果を生み出す工夫が必要でしょう。

医療事故防止とリスクマネジメントの徹底

医療事故は、患者さんの生命や健康に関わる重大な問題であり、クリニック経営にも深刻な影響を及ぼします。医療事故を防止し、万が一事故が起こった際にも適切に対応できる体制を整えることは、開業医の責務といえます。具体的には、医療安全管理体制の構築、インシデント・アクシデントレポートの活用、定期的な医療安全研修の実施などが求められます。また、医療機器の定期点検や、スタッフの技能向上にも注力し、人為的ミスの防止に努めることが大切です。さらに、医療事故発生時の対応マニュアルを整備し、速やかな患者さんへの対応と原因究明、再発防止策の実施が可能な体制を構築しておくことも重要です。

持続可能なクリニック経営のための対策

地域医療の担い手として長く活躍していくためには、持続可能なクリニック経営を実現することが不可欠です。そのためには、病診連携の強化による急性期後の患者さんの受け皿としての役割を果たすこと、在宅医療への参入による新たな収入源の確保、そしてICTの活用によるオンライン診療の導入といった業務効率化が有効な対策となります。

病診連携の強化による急性期後の患者さんの受け皿としての役割

地域病院との連携を強化し、急性期治療後の患者さんの受け皿としての役割を積極的に担うことは、クリニック経営の安定化に大きく貢献します。急性期病院では、在院日数の短縮化が進む中、退院後の患者さんのフォローアップや療養管理のニーズが高まっています。開業医がこれらのニーズに応えることで、安定した患者数の確保と収入維持が期待できます。病診連携の強化には、地域病院との顔の見える関係づくりや、円滑な情報共有のための体制整備が欠かせません

在宅医療への参入による新たな収入源の確保

在宅医療は、今後ますます需要が高まる分野であり、開業医にとって新たな収入源となり得ます。超高齢化社会の進む日本では、自宅での療養を望む患者さんや、在宅での看取りを希望する患者さんが増加しています。在宅医療に参入することで、これらの患者さんのニーズに応えながら、クリニック経営の安定化を図ることができます。在宅医療への参入には、訪問診療体制の整備や、介護サービスとの連携強化、24時間対応の体制づくりなどが必要となりますが、地域包括ケアシステムのなかで重要な役割を果たすことができるはずです。

ICTの活用によるオンライン診療の導入と業務効率化

ICTの活用によるオンライン診療の導入と業務効率化

ICTの活用は、クリニック経営の業務効率化と患者さんへの医療サービスの質の向上に大きく寄与します。特に、オンライン診療の導入は、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に急速に広がりをみせています。オンライン診療を導入することで、患者さんの利便性の向上と感染リスクの低減を図りながら、クリニック経営の安定化につなげることができます。また、電子カルテシステムやAI技術の活用により、診療録の管理や業務の自動化を進め、業務効率の向上と医療スタッフの負担軽減を実現することも可能です。ICTを活用した地域医療ネットワークの構築は、病診連携の強化にも役立つでしょう。

編集部まとめ

開業医の廃業率上昇は、地域医療の持続可能性を脅かす重要課題です。医師の高齢化や後継者不在、コロナ禍の影響などで診療所の休廃業・解散件数は増加の一途をたどっており、地域の医療提供体制は弱体化しつつあります。特に無床診療所の廃業は、住民の医療アクセスやプライマリケアの機会を奪い、健康リスクを高める恐れがあります。持続可能な地域医療の実現には、クリニックの経営基盤強化が求められます。この記事が、クリニック経営の課題や不安を解消し、患者さんへのより良い医療サービスの提供につながれば幸いです。