医療接遇とは?接遇と接客の違いや知っておきたい接遇を紹介
クリニックが選ばれる時代の中、安定して集患をするための取り組みとして「医療接遇」が注目されています。
しかし、医療接遇が集患のために大切といわれても、実際のところ何から始めればいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、
- 医療接遇とは
- 接遇マナーの5つの原則
- 接遇によって得られる効果
- 接遇マナー研修が必要な理由
- 職種別の医療接遇のポイント
これらについて解説します。
自院の接遇マナーが気になる方、これから接遇研修の実施を検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
医療接遇とは
医療接遇とは、医療従事者が患者さんやその家族に対して行うコミュニケーションのことを指します。一般的な接遇と異なり、医療接遇では、患者さん一人ひとりの体調や感情に合わせた対応が必要となります。
ここでは、医療接遇に関係する下記の疑問について解説します。
- 医療接遇の重要性
- 接遇と接客の違い
- 医療接遇が必要とされる理由
医療接遇の重要性
医療接遇は、病院やクリニックが患者さんとの信頼関係を築くために必要といわれています。患者さんとの信頼関係が築けなければ、患者さんが満足する医療サービスの提供は難しくなるでしょう。
患者さんが抱えている症状や不安を正しく聞き取るためには、話しやすい環境を作ることが大切です。
医療接遇のスキルを磨くことは、患者さんが病院やクリニックを信頼し、安心して自身のことを話してもらえる環境作りにつながるのです。
接遇と接客の違い
接遇と接客は基本的な意味が異なります。接客は接遇の中の一部を指す言葉と考えるとわかりやすいでしょう。
具体的に接客とは、
- お客様への応対を意味する言葉
- 売り場の案内や支払い対応などのサービスを提供すること
- 基本的にはマニュアル通りに対応する
- 例えば、初診の患者さんには問診票の記載をお願いすること
これらが、一般的な接客を意味しています。
一方で接遇とは、
- 基本的な接客に加えてお客様へのおもてなしを意味する言葉
- お客様の気持ちや状況を把握した上で適切なサービスを考え提供すること
- 基本的なマニュアルに加えて、状況に即した対応力が必要
- 例えば、問診票を書きづらそうにしている患者さんに対して、医療事務から声をかけてサポートをすること
接客とは接遇の一部でありますが、接客の一段レベルが高いことを実践することを接遇とも言い換えられます。
医療接遇が必要とされる理由
医療接遇が必要とされる理由として下記が考えられます。
- 患者満足度の向上に繋がる
- クリニックの良い口コミや評判に繋がる
- 職場環境を改善しスタッフの離職率が低下
- クレームや訴訟などのリスクが低下
- 効率的なクリニックの運営ができる
医療接遇のスキルを高めることで、これらの効果が期待できます。
これからの病院やクリニックは、ホテルや飲食店などのサービスと同様に、患者さんから選ばれる時代です。安定したクリニックの経営をしていくためには、患者さんの満足度を高めて競合との差別化を図ることは必須といえます。
2020年に厚生労働省が実施した「受療行動調査」では、患者さんが「病院を選んだ理由」が公開されています。
一般的に病院を受診するきっかけは、かかりつけ医からの紹介が大半ですが、本調査の結果では、「家族・友人・知人からのすすめ」「医師や看護師が親切」といった、口コミや接遇に関わる内容が、それぞれ2割近く回答されています。
したがって、患者さんから選ばれる医療機関になるには、医療接遇は必須といえるでしょう。
(参考:令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況|厚生労働省)
接遇マナーの5つの原則
接遇マナーの基本である、5つの原則を紹介します。
- 身だしなみ
- 挨拶
- 表情
- 態度(聞く姿勢)
- 言葉遣い
身だしなみ
接遇において、清潔感がある身だしなみは基本中の基本です。患者さんやその家族から不快感を感じられないように意識することが大切です。
さらに医療の現場では、「安全性」「機能性」も備わっていることが大切です。医療安全に配慮した身だしなみが医療接遇では求められます。
例えば、長い髪は束ねている方が、患者さんの動きを制限しませんし、清潔感も上がるでしょう。爪も短く切りそろえておくことで、手の洗い残しが減少したり、爪下に残る細菌数の減少にも関わるという報告があります。
(参考:手指消毒効果と手指細菌叢に影響する爪の長さ|環境感染誌Vol26)
- 一般的な接遇:清潔感があり不快感を感じられないように意識する
- 医療接遇:一般的な接遇に加えて医療安全と機能性も意識する
挨拶
接遇において挨拶は、スタッフから患者さんに対して「私はあなたに気づいています」という意思表示であり、コミュニケーションのきっかけとなるものです。
一般的な接遇マナーでは、挨拶する相手に好感を与えるため「明るく元気よく挨拶」が正しいとされています。
しかし、医療接遇においては注意が必要です。患者さんは身体の不調や悩みを抱えて受診していますので、相手の様子に合わせて声量やトーンを変えていかなければなりません。
初めて見かける患者さんの場合は、緊張感や不安感を感じさせないように心がけましょう。
- 一般的な接遇:好印象を与えるため明るく挨拶する
- 医療接遇:患者さんの体調や不安に配慮して使い分ける
表情
接遇において表情は、患者さんに様々な印象を与えるため意識して作ることが大切です。
一般的な接遇マナーでの表情は、笑顔を心がけてお客様に好感を持ってもらうことが目的になるでしょう。
その一方で、医療現場において過度な笑顔はかえって患者さんに嫌悪感を持たれてしまう可能性があります。患者さんに安心感や信頼感を与えられる、穏やかな表情が大切です。
よく接遇の研修で紹介される「メラビアンの法則」でも、人と人とのコミュニケーションにおいて、相手の印象に最も影響を与えるのは視覚からの情報であるという人間心理があることは有名です。第一印象を決める表情には特に注意が必要でしょう。
- 一般的な接遇:明るい印象で好感を持ってもらうために笑顔で接する
- 医療接遇:過度な笑顔は禁物で穏やかな表情を心がける
態度(聞く姿勢)
接遇において態度は、表情と同様に患者さんへ様々な印象を与えるため意識することが大切です。特に患者さんから話を聞くときは、相手に視線を向けて姿勢を正すように心がけましょう。
医療現場において、座っている患者さんや家族の方と話す機会が多くあります。その際は立ったまま話を聞くのではなく、患者さんや家族と同じ目線の高さに合わせることで、威圧感がなくなり、相手が話しやすい状況を作ることができます。
- 一般的な接遇:マニュアルに沿って対応する
- 医療接遇:患者さんの状況に合わせて臨機応変に対応する
言葉遣い
一般的な接遇、医療接遇ともに言葉遣いへの注意が必要です。特に敬語の使い方は間違いやすく、正しい言葉の選択が求められます。
間違いやすい敬語の例としてあるのが、尊敬語と謙譲語の間違いです。スタッフにとっては院長と患者さん、どちらも尊敬語を使うため混同をしてしまう場合がよくあります。
さらに医療接遇では、「正しく情報を伝える」ため、わかりやすい言葉遣いを選ぶ意識も必要です。次回の来院日や受診前の注意点など、医療内容に関わることを説明する時は特に気をつける必要があるでしょう。
好感のある言葉遣いに加えて、正しくわかりやすい言葉を選ぶことも大切です。
詳しくは、こちらの記事も参考にしてください。
(内部リンク:医療スタッフが注意すべき言葉遣いとは?医療接遇のよくある疑問を解説)
- 一般的な接遇:敬語の正しい使い方、好感を与える言葉を選ぶ
- 医療接遇:医療に関わる情報を正確にわかりやすく伝える必要がある
接遇によって得られる効果
医療接遇のスキルを高めれば、クリニック経営において良い効果が期待できます。
- 職場環境が良くなる
- 集患や収益向上につながる
- トラブルを未然に防ぎ、労働時間を短縮できる
それぞれについて解説します。
職場環境が良くなる
医療接遇のスキルを高めることで、職場環境の改善が期待できます。
接遇の根本は、相手の状況や立場を察して「思いやり」のあるコミュニケーションをすることです。最初の目的は、患者さんの満足度向上ですが、接遇スキルを高める過程で、スタッフ同士もお互いに対して配慮する考えが生まれてきます。
結果として、互いに尊重する習慣が生まれ、職場全体の環境が良くなります。
集患や収益向上につながる
医療接遇に取り組むことは、集患や収益向上につながります。
患者さんに気持ちの良い接遇を提供できるクリニックは、口コミやインターネットのレビューで高く評価されます。患者さんの再診率が上がり、新規患者の獲得にもつながることが期待できます。
患者さんがクリニックを受診するきっかけの多くは、「家族や知人の紹介」「インターネットの情報や口コミのレビュー」といわれています。
医療接遇で患者満足度を上げることは、クリニックの収益に直結するでしょう。
トラブルを未然に防ぎ、労働時間を短縮できる
医療接遇に取り組むことでトラブルを未然に防ぎ、業務効率の改善につながります。
接遇のスキルが高まれば、患者さんからのクレームが発生する頻度を下げることができます。クレーム対応の頻度が削減できれば、結果としてスタッフの労働時間短縮にもつながります。
日本医師会からの報告によると、医療機関のヒヤリハットやインシデントは、スタッフ間のコミュニケーション不足が原因で発生することが多いようです。
医療接遇に取り組み、コミュニケーションが円滑になれば、このようなトラブルを未然に防ぐことが期待できるでしょう。
(参考:医療従事者のための医療安全対策マニュアル|日本医師会)
接遇マナー研修が必要な理由
医療接遇のスキルを磨くにはトレーニングが必要です。接遇マナーの研修が必要な具体的な理由として下記があります。
- 人による接遇が標準化できる
- チームワーク向上につながる
- 患者さんとのコミュニケーションが円滑になる
それぞれについて解説します。
人による接遇が標準化できる
接遇研修を行う過程で、クリニックが理想とする接遇の標準化ができます。
接遇研修の中では、理想とする接遇について話し合う機会が多くあります。これらの話し合いをすることで、クリニックの理想とする接遇の標準化につながります。
チームワーク向上につながる
接遇研修によって、職場全体のチームワーク向上につながります。
医療事務や看護師、医師のそれぞれが研修の中でコミュニケーションを取る機会が増えます。その結果、お互いの理解が深まり、クリニックのチームワーク向上につながります。
患者さんとのコミュニケーションが円滑になる
接遇研修は、患者さんとスタッフのコミュニケーションを円滑にします。
接遇スキルが高まれば、患者さんとのコミュニケーションミスを防ぐことができ、より患者満足度の高い対応ができるでしょう。
職種別の医療接遇のポイント
クリニックの職種別で注意する点や医療接遇のポイントを紹介します。
看護師
看護師は直接患者さんに触れたり、処置行為を行うため、医療接遇のスキルはほかの職種よりも重要となります。
- 安全性と機能性に配慮した身だしなみ
- 患者さんの体調や状況に合わせた表情や態度
- 医療行為を正確にわかりやすく説明する言葉遣い
これらが看護師における医療接遇のポイントです。
看護師は診察の補助をして、検査や治療などの医療行為の補足説明を行うケースがあります。そのため、医療の専門用語は極力避けながら、患者さんにわかりやすい言葉で正確に情報を伝えるスキルが必要になります。
看護師の医療接遇は、ほかの職種より一段高いレベルで意識する必要があります。
医療事務
医療事務は受診する患者さんと最初にコミュニケーションを取る機会が多い職種です。患者さんからのクレームが発生しやすい窓口の対応も医療事務が行う場合が多いでしょう。
そのため、医療事務の接遇スキルを高めることは、患者さんの様子を察知して、トラブルの発生を未然に防止することにもつながります。
- 患者さんの話を真摯に聴く傾聴力
- 患者さんの様子に合わせた言葉遣いやコミュニケーション力
- 適切なクッション言葉を活用して患者さんに不快感を与えない
- クレームなどのトラブルが発生した時の対応力
これらが医療事務における医療接遇のポイントになるでしょう。
クレームの理由の大半が、診察や会計の待ち時間の長さといわれています。
医療事務はこのようなクレームを最初に受けるケースが多く、初動の対応が求められる職種です。クレームやトラブルをさらに大きくさせないためにも、冷静な判断が必要になるでしょう。
医療事務の接遇は、臨機応変な対応力を意識する必要があります。
編集部まとめ
この記事では、医療接遇とは何か、接遇マナーの5つの原則、接遇によって得られる効果、接遇マナー研修が必要な理由、看護師と医療事務の医療接遇のポイントについて解説してきました。
医療接遇の研修を行ってスキルを磨くことができれば、患者さんの治療に対する不安感を払拭し、クリニックへの信頼獲得につながるでしょう。
病院やクリニックも選ばれる時代、患者満足度を意識し集患対策を行うことは、安定した経営をしていくために必要不可欠です。
この記事が医療接遇を見直すきっかけになれば幸いです。