医院承継の相場は?新規開業との違いについても解説
少子高齢化による後継者不足が深刻化するなか、医療施設も事業承継を行うケースが増えてきてます。
しかし、医院承継の相場や押さえるべきポイントなど、具体的な内容については知らないという方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、医院承継の相場や新規開業との違い、想定されるトラブルへの対処方法を解説します。医院承継を検討している方は参考にしてみてください。
医院承継の費用相場
医院承継で開業する場合の費用相場は、2000〜4000万円といわれています。
新規開業と比べると、建設費や内装費、採用費などの費用を最小限に抑えられます。その代わりに「のれん代」の費用が、1000〜3000万円ほどかかります。のれん代とは、その医院が開院してから地域の中で培った知名度や信頼度、かかりつけとして獲得してきた患者数を価値に置き換えて算出される目には見えない無形の資産を指します。
無形資産であることから、のれん代の算出方法はケースによって異なり、直近1〜3年間の営業利益をもとに、いくつかの調整項目を考慮のうえ算出されるため、経営状況などで変動するということを覚えておきましょう。
新規開業との相場の違い
新規で医院を開院する場合の相場は7000万円前後といわれており、建設費や内装費、導入する医療機器によって多額の初期費用がかかります。
その他にも、スタッフの採用費や集患のための広告費など、スタッフや患者さんを引き継ぐことができる医院承継に比べて、かかる費用が高くなる傾向にあります。
医院承継のメリット・デメリット
医院承継のメリット・デメリットについてそれぞれ解説します。
医院承継のメリット
①初期費用を大幅に抑えられる
土地や建物の購入に高額な費用がかかる新規開業と比べて、医院承継は大幅に開業費を抑えられます。加えて、内装をそのまま使用すれば、さらに初期費用を抑えられるでしょう。
②患者さんやスタッフを引き継げる
患者さんやスタッフを引き継ぐこともできるため、集患のための広告費や採用費を抑えられることもメリットとして挙げられます。
③収支計画が立てやすい
医院承継した場合は集患数の予測がしやすいため、開業準備の段階から収支計画を立てやすくスムーズに医療活動をスタートさせることができるでしょう。新規開業の場合、集患が上手くいかず思うように患者数が増えないと、経営が安定するまでに時間がかかってしまうこともあり、一時的に資金が枯渇する恐れもあるため注意が必要です。
しかし、引き継いだ医院の財務状況によっては収益の悪化や患者数の減少も想定されるため、円滑かつ効率的に経営を進めるためには綿密な事業計画と準備が欠かせません。
医院承継のデメリット
①希望に合った案件を見つけづらい
医院承継の案件数が少なく、希望に合った案件を見つけることが難しいということがデメリットとして挙げられます。
そのため、医院承継での開業を考えている場合は、早めにリサーチを始めるとよいでしょう。
②修繕費用がかさむ
医院の築年数によっては修繕や改修が必要になり、思ったよりも開業費用がかさんでしまうかもしれません。
物件の状態をよく確認し、専門家に調査してもらったうえで引き継ぐようにすることをお勧めします。
医院承継を成功させるためのポイント
ここからは、医院承継を成功させるためのポイントを8つ紹介します。
- 仲介業者の選定と秘密保持契約書(NDA)・業務委託契約書の締結
- 医院の評価・価値算定
- 承継先の選定
- 承継先の院長と面談・内見をする
- 承継元との条件の調整・基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 事業譲渡契約書の作成・締結
- 医院の引き継ぎ
上記のポイントをもとに、医院の事業承継の進め方について解説します。
①仲介業者の選定と秘密保持契約書(NDA)・業務委託契約書の締結
医院の事業承継には、医療業界に精通した仲介業者を選びましょう。
医院承継は、一般企業のM&Aとは異なる部分が多いため、医療業界に特化した専門の仲介業者を選定することをお勧めします。
仲介業者を決めたら依頼先と秘密保持契約書(NDA)と業務委託契約書を締結しましょう。
秘密保持契約書(NDA)とは、取引等で相手方から提供される業務上の秘密や個人情報等を第三者に開示しないよう、情報管理の在り方について取り決めた契約書のことです。事業承継を検討するクリニックの財務情報、保有資産などの情報を得て、契約を進めるために必要な契約になります。
②医院の評価・価値算定
まずは自院の評価を行い、事業価値を算定します。
その結果をもとに希望譲渡価格を決め、自院の財務、労務、事業に関する様々な資料をもとに承継先を選定するための医院の概要書を作成します。
③承継先の選定・決定
次に、お互いの条件や希望をすり合わせしながら、承継先を選定・決定を行います。
状況によってはマッチングまでに時間がかかる可能性もあるので、余裕をもって準備する必要があります。
④承継先の院長と面談・内見をする
承継先の院長と面談・内見にて、診療方針や経営方針、医院への想いを確認しましょう。
実際に承継先の医院長と面談して施設の内見をしてもらい、立地や雰囲気、患者層、スタッフの様子など確認しながら、基本合意締結に向けてすり合わせを行います。
コミュニケーションを取りながらお互いを知ることで、自分の考える方針と合うか、すり合わせが可能かの判断に役立つでしょう。
⑤承継先との条件の調整・基本合意書の締結
承継先と条件を調整したうえで、売主と買主の双方で基本合意書を締結します。
基本合意書とは、基本事項について一定の合意に至ったことを確認するための書類で、独占的交渉権、秘密保持義務等を除き、法的な拘束力を持たせない事が一般的です。したがって、最終的な合意に至らなかった場合でも、譲渡する側、譲受する側双方に対して基本的には違約金等が発生することはありません。
基本事項には以下のような内容が含まれています。
- 価格
- 取引の目的物
- スケジュール
- 独占交渉権の付与
- その他双方が重要と考える事項 など
基本合意書を締結することで医院承継に向けて前向きな意思が示され、手続きが進みやすくなります。
⑥買収監査(デューデリジェンス)の実施
基本合意書を締結したら、買収監査(デューデリジェンス)を実施します。
買収監査(デューデリジェンス)とは、対象となる医院の価値やリスクを適切に評価し、「実際に承継して問題がないか」を審査するための行程です。
具体的には、以下の項目を調査します。
- 事業
- 法務
- 財務
- 税務
- 人事
- 不動産
- 環境 など
買収監査(デューデリジェンス)を実施すると、承継後に問題が発覚しトラブルになるリスクを減らせるため、重要な手続きの一つです。
⑦譲渡契約書の締結
買収監査(デューデリジェンス)の結果に問題があれば契約内容や価格などを再調整し、双方が納得する内容となってから最終的な譲渡契約書を締結します。
譲渡契約書は締結した時点で法的拘束力が発生するため、基本的には締結後の破棄はできません。
専門家に相談しながら、契約内容に不備がないか確認したうえで締結しましょう。
⑧クリニックの引き継ぎ
譲渡契約書を締結したら、経営権の引き継ぎやスタッフ、患者さんへの説明など、クリニックの引き継ぎを行います。
引き継ぎには時間がかかる場合が多いため、承継後の運営をスムーズにスタートさせるためにも、スケジュール管理は綿密に行いましょう。
医院承継で想定される問題と対処方法
医院承継で想定される問題には以下の3つが考えられます。
- 患者さんやスタッフが定着せず離れてしまう
- 承継先の経営状態が悪い
- 煩雑な行政手続き
それぞれの問題に対する対処方法もあわせて解説していきます。
患者さんやスタッフが定着せず離れてしまう
承継後に前の院長と診療方針が変わってしまい、患者さんやスタッフが離れてしまうケースも少なくありません。
既存の患者さんが離れることを防ぐためには、医院の診療方針を理解し、患者さんとコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築く必要があるでしょう。
また、スタッフの離職を防ぐには、以下のような方法が考えられます。
- 既存のスタッフを引き継ぐにあたって、話し合う機会を作る
- 必要に応じてスタッフと診療方針や雇用条件のすり合わせを行う
承継直後は前の院長と方針を極端に変えず、患者さんやスタッフの様子を見ながら徐々に方針転換していく配慮も必要です。
事業承継した医院の経営状態が悪い
事業承継した医院の経営状態が悪く、想定したよりも経営が上手くいかない可能性もあります。
経営状態を把握しないまま引き継いでしまうと、承継直後から赤字経営に陥りかねません。
対策として、以下のような方法があります。
- 仲介業者を通じて事前に経営状態を細かく調査しておく
- 承継するに至った経緯について、しっかりと確認する
経営状態をしっかりと確認しておくことで、医院承継後に問題が発生するリスクを最小限にできます。
煩雑な行政手続き
医院承継は労務や税務などの煩雑な行政手続きが多く、医師ひとりですべてを行うのは困難なため、医療業界に特化した専門の仲介業者に依頼しましょう。スムーズな医院承継で早期に経営を安定させるためには、専門家に相談するのも一つの手です。
まとめ
本記事では、以下の内容について解説しました。
- 医院承継の費用相場
- 新規開業との相場の違い
- 医院承継のメリット・デメリット
- 医院承継を成功させるためのポイント
- 医院承継で想定される問題と対処方法
医院承継の相場は案件によって異なるため、条件や希望をしっかりとすり合わせすることが重要です。
医院承継を成功させるためには、専門家に相談しながら綿密な事前準備を行うことをおすすめします。