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医師の働き方改革で何が変わる?実施される理由や取り組み内容について解説!

                   
投稿日: 2024.07.16
                   

2024年4月から医師の働き方改革が本格的に始動しました。医療現場の過酷な労働環境を改善し、医師の健康と患者さんの安全を守るための重要な取り組みです。これには長時間労働の是正や、適切な休息の確保、多様な働き方の推進などが含まれます。特に、時間外労働の上限規制やフレキシブルなタスクシフト/シェアの導入が注目を集めており、医師がより健全な職場環境で働けるようになることで、医療の質の向上と持続可能な医療提供体制の確立が期待されています。本記事では、医師の働き方改革の具体的な取り組み内容や、改革が必要になった理由などについて解説します。

医師の働き方改革とは

医師の働き方改革の基本事項

医師の働き方改革とは、医療機関に勤務する医師の健康を守り、長時間労働を是正するための法改正およびそのために医療機関が行うべき取り組みの総称です。この改革は、医師が心身ともに健康を保ちながら働き続けられる環境を整え、患者さんに安全性の高い医療を提供することを目的としています。持続可能な医療提供体制の維持にも寄与する重要な施策といえます。

2024年4月から施行された法改正では、医師の時間外労働に上限が定められており、上限を超えた場合は労働基準法141条により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が医療機関に科せられます。

医師の働き方改革で何が変わるのか

医師の働き方改革で、まず大きく変わるのが勤務時間の長さです。施行後は、医師の「時間外労働に上限規制」が設けられ、しっかりと休息時間をとることが義務付けられます。医師が十分な休息をとることは、医師だけでなく患者さんにもメリットがあると考えられています。これまで医師の長時間労働は、医師の健康リスクへの影響だけでなく、業務遂行能力の低下や医療事故の誘因となることが問題視されていました。医師の働き方改革が実現することで、医療事故につながるようなミスが減り、患者さんが安心・安全な医療を受けることができるようになるのです。

医師の働き方改革が目指すかたちとは

病院の常勤勤務医の約4割は年間で960時間超、約1割は年間で1860時間超の時間外・休日労働を行っているとの実態が報告されています。特に救急、産婦人科、外科、若手の医師は長時間労働の傾向にあります。医師の働き方改革では、労務管理の徹底と労働時間の削減で医師の労働環境を改善し、すべての医療専門職が自らの能力を活かしてより能動的に対応できるようにすることで、安全で質の高い医療を持続可能なかたちで患者さんに提供することを目指しています。

(参考:医師の働き方改革概要 | 厚生労働省

なぜ医師の働き方改革が必要なのか

医師の働き方改革が必要とされる理由には、下記のようなものが挙げられます。

医師の長時間労働

医師の働き改革が施行された背景には、医療機関における長時間労働の常態化が問題になっていることがあります。厚生労働省・医師等働き方改革推進室の「医師の働き方改革について」によると、20~30代の医師を中心に労働時間が週61~66時間と、労働基準法で規定されている週40時間を大幅に超えている状況にあります。

(参考:医師の働き方改革について | 厚生労働省

医療従事者全体の人材不足

近年では、急速な少子高齢化に伴い、医療業界の人材不足が社会問題化しています。また、団塊世代が75歳を迎える2025年には、医療介護への需要が最大化することも予測されています。そのような中、適切な医療を効率良く提供するためには、医師だけでなく看護師や医療技術者などの労働環境も整え、医療従事者全体が効率的に連携をとって治療にあたることが必要といえます。

労務管理体制の整備遅れ

医療機関の勤務形態は一般企業に比べて複雑であり、勤怠管理がいまだに手書きで行われているケースも少なくありません。手書きの情報をデータと照合する作業は手間がかかり、人為的ミスも発生しやすいでしょう。医療機関が医師の労働状況を正確に把握するためには、紙やエクセルでの管理方法から脱却して、効率的に勤怠管理ができるシステムの導入が必要です。

医師の働き方改革のポイント

労働基準法第36条(サブロク協定)とは

労働基準法第36条に基づく労使協定のことを36協定(サブロク協定)といい、労働者に対して1日8時間・週に40時間の法定労働時間を超えて時間外労働をさせる際は、この協定の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。また、2018年6月に労働基準法が改正され、36協定で定められた時間外労働に罰則付きの上限規制が設けられました。

(参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針 | 厚生労働省

医師の時間外労働上限規制に関する3つの水準

2024年4月から医師にも適用された「時間外労働の上限規制」ですが、その際、年間の上限については、一般の労働者と同程度である960時間が上限(A水準)となります。しかし、医療機関において様々な医師の労働時間短縮の取り組みが行われたとしても、時間外・休日労働時間が年960時間をやむを得ず超えてしまう場合には、都道府県が、各医療機関の労務管理体制を確認した上で、医療機関の指定(B水準・C水準)を行うことで、その上限を年1860時間とできる枠組みが設けられ、それに伴う健康確保措置が求められます。

A水準:診療に従事するすべての医師が対象(ほかの水準に当てはまらない医療機関全てが該当)

時間外労働が上限を超えた場合の就業上の措置(努力義務)

・連続勤務制限28時間

・勤務間インターバル9時間の確保

・代償休息のセット

※実際に定める36協定の上限時間数が一般則を超えない場合を除く。

B水準:地域医療確保暫定特例水準(救急医療機関や救急車の受け入れが年間1000台以上又は年間での夜間・休日・時間外入院件数500件以上の医療機関などが該当)

時間外労働が上限を超えた場合の就業上の措置(義務)

・連続勤務制限28時間

・勤務間インターバル9時間の確保

・代償休息のセット

C水準:集中的技能向上水準(研修などを行う医療機関)

時間外労働が上限を超えた場合の就業上の措置(義務)

・連続勤務制限28時間

・勤務間インターバル9時間の確保

・代償休息のセット

※臨床研修医については連続勤務時間制限を強化して徹底

(参考:医師の時間外労働規制について | 厚生労働省

(参考:地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準の指定の枠組みについて | 厚生労働省

勤務間インターバルのルール

勤務間インターバルの確保は各水準とも9時間となっており、例えば、翌日の勤務が午前8時開始であれば、前日の勤務は23時までに終える必要があります。当直を行う場合、翌日は当直終了時(日勤開始時)から4時間以内に勤務を終えなければならず、当直明けには勤務間インターバルとして18時間を確保する必要があります。ただし、やむを得ない事情で就業上の措置を実施できなかった場合は、代わりの休息を付与することで代替えできます。その際は「勤務間インターバルの延長」もしくは「所定労働時間中における時間休の取得」を、「該当勤務の発生後、できる限り早く付与する」ことと、「オンコールからの解放などにより、仕事から切り離された状況を設定する」ことが定められています。

複数の医療機関で働く時の注意点

地域医療支援を行うために医師をほかの医療機関へ派遣している場合や、自院で雇用する医師が副業・兼業を行っていることを把握している場合は、医師本人の自己申告などにより副業・兼業先の労働時間を把握し、自院での労働時間と通算して労働時間を管理する必要があります。そのため、医師の副業・兼業先での勤務予定や労働時間を把握するための仕組み作りが必須になってきます。

医師の働き方改革に向けた具体的な取り組み

ここまで、医師の働き方改革の概要や必要性、ポイントなどについて説明してきました。ここからは、改革を実現するための具体的な取り組みについて解説します。

一元的な勤怠管理システムの導入

医師の働き方改革を実現するためには、紙やエクセルでの煩雑な勤怠管理から脱却して、一元的な勤怠管理システムの導入が必要になります。また、医療機関での適切な勤怠管理を行うためには、次の3つの機能が大切です。

  1. 時間外労働時間の上限を超えないように管理できる機能がある
  2. 業務に合わせて打刻方法を選べる
  3. シフト管理・複雑な勤務形態の管理に対応できる

タスク・シフト/シェアの推進

タスク・シフト/シェアの推進は、医師以外の職種に医師の業務の一部を任せる業務移管のことで、医師の長時間労働問題を打開する狙いがあります。厚生労働省の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」の資料には、以下のような記載があります。

要件① 原則として各資格法の資格の定義とそれに付随する行為の範囲内の業務であること

要件② その職種が担っていた従来の業務の技術的基盤の上にある隣接業務であること

要件③ 教育カリキュラムや卒後研修などによって安全性を担保できること

(参考:医師の働き方改革を進めるための タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理 | 厚生労働省

医師の長時間労働の常態化を改善するためには、これらの要件を満たす医師以外の専門職との「タスク・シフト/シェアを推進」していくことが重要です。

患者さんへの協力依頼

医師の長時間労働を削減していくためには、患者さんの協力も必要です。平日の昼に行く時間がないという理由で、夜間や休日などの診療時間外に緊急性のない受診をすることは、医師やその他の医療従事者の負担につながるため、普段から決められた診療時間内での受診に協力することが大切です。また、医療機関では医師の働き方改革の一環として、チームで医療を提供することで、一人の医師への負担の偏りをなくしたり、各職種の専門性を活かすことで、患者さんに提供する医療の質を高めたりする取り組みが始まっています。そのため患者さんも、いつも診療を担当してくれている医師以外の医療スタッフが対応することを容認する必要があるでしょう。

編集部まとめ

本記事では、医師の働き方改革をテーマに、改革が必要な理由や実際の取り組み内容について解説しました。医師の働き方改革が実施されることで、医師の労働環境の改善や、医療の質の維持と向上が期待されています。改革の実現のためには、医療機関に適切な労務管理と診療体制の整備を行うことが求められています。