TOP > 開業医の年収・お金に関する話 > クリニックでのキャッシュレスの普及率と導入するメリット、導入の手順を解説

クリニックでのキャッシュレスの普及率と導入するメリット、導入の手順を解説

                   
投稿日: 2024.12.19
                   

近年、日本ではキャッシュレス決済の普及が進み、医療機関でもその導入が注目されています。
特にクリニックにおいて、業務効率化と患者さんの利便性向上を目指すうえでキャッシュレス決済の導入が急務であると考えられています。しかし、普及の現状や導入の障壁について十分に理解されていないのが現状です。

本記事では、クリニックでのキャッシュレス決済の普及率、導入が進まない理由、導入のメリット、そして導入の手順を解説します。より良いサービス提供のヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

クリニックにおけるキャッシュレス決済の普及率

クリニックにおけるキャッシュレス決済の普及率

まずは、クリニックにおけるキャッシュレス決済の普及率についてのデータを紹介します。

令和6年度(2024年)「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」の調査結果によると、クリニックのキャッシュレス決済の導入率については以下のとおりです。

  • クレジットカード(デビットカードを含む):32.8%
  • QRコード決済:9.6%
  • その他の電子マネー:9.7%

(参考:医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書|厚生労働省

この結果は、全国の病院ならびに京都府と沖縄県の診療所が対象となっています。

また、令和2年度「医療分野におけるキャッシュレス決済の普及状況」では、医療機関におけるキャッシュレス決済と全体の比率を比較した調査データが公表されています。

この調査結果によると、2018年度で全体が24.1%に対して、医療機関のキャッシュレス決済比率は7.3%という結果でした。

(参考:令和2年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業―医療分野におけるキャッシュレス決済の普及促進パート―|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

これらの調査結果から、クリニックのほかに大きな病院なども含めた医療機関でのキャッシュレス決済比率は増加傾向にあるものの、全体の比率と比較するとかなり低いということがわかります。

さらに、医療分野におけるキャッシュレス決済普及率の増加は、全体と比べて少ないということもわかっています。

しかしながら、経済産業省のデータによると、2023年のキャッシュレス決済比率はさらに上昇し、39.3%であったと報告されていることから、今後ますますキャッシュレス決済の需要は高まると予想されます。

(参考:2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました|経済産業省

クリニックにキャッシュレス決済が普及しない理由

クリニックにキャッシュレス決済が普及しない理由

なぜクリニックのキャッシュレス決済が普及しづらいのか、ここからはその理由について解説します。

売上の入金までに時間がかかる

現金会計と異なり、キャッシュレス決済では売上金が即日入金されません。サービスによっては入金まで数日から1週間程度のタイムラグが発生するため、資金繰りを心配するクリニックでは敬遠されがちになっている可能性があります。

手数料がかかる

キャッシュレス決済の手数料は医療機関負担となります。

そのため、キャッシュレス決済による手数料の負担が売上の利益率を圧迫する可能性もあるため、キャッシュレス決済の導入をためらうクリニックも多いようです。

端末の導入費用がかかる

クリニックにキャッシュレス専用端末を導入するためには初期費用が必要です。

端末の種類や機能によっても異なりますが、数万〜数十万円を要する場合が多いようです。特に規模の小さなクリニックでは、費用対効果が見えにくいため導入が進みにくいのが現状です。

端末のランニングコストがかかる

キャッシュレス決済を導入すると、導入費用だけでなく運転費用として決済代行会社へ支払うシステムの利用料やメンテナンス費用、顧客データの管理費用などが発生します。これらのランニングコストがかかる点も導入の障壁とされています。

シニア層等が操作できない可能性がある

医療機関はシニア層も多く利用します。キャッシュレス決済が普及しない理由として、タッチパネルやスマートフォンなどの操作に不慣れな高齢患者さんへの対応が課題として挙げられます。

「現金しか使えない」というシニア層に配慮する必要があるため、医療機関ではキャッシュレス化が難しいという側面があります。

事務スキームを見直す必要がある

会計業務の変更に伴い、受付や事務スタッフのスキームを再構築する必要があります。場合によっては担当者の選定や人材育成、スタッフ研修が必要になる可能性もあります。

また、運用が軌道に乗るまでのあいだは、スタッフの作業効率が低下してしまうことも懸念されます。

クリニックでキャッシュレス決済を導入するメリット

クリニックでキャッシュレス決済を導入するメリット

キャッシュレス決済の導入は導入に伴うコストや手間はあるものの、長期的な視点でみれば、患者さんの利便性向上や感染症対策、業務効率化や経営改善など、クリニックの発展に大きく貢献する施策といえるでしょう。

ここでは、クリニックでキャッシュレス決済を導入するメリットについて解説します。

会計の手間を軽減できる

キャッシュレス決済を導入するメリットとして、会計の手間を大幅に軽減できることが挙げられます。

これまでの現金決済では、現金の受け渡しやお釣りの準備が必要でしたが、キャッシュレス決済ではこれらの作業が不要になります。

特に繁忙時間帯や混雑する待合室では、スムーズな会計処理が可能となり、患者さんの待ち時間を短縮することができるでしょう。

また、スタッフの業務負担を軽減することで、ほかの業務に集中できる環境を作り出すことも可能となります。

レジ締めの集計作業が楽になる

キャッシュレス決済では取引データが自動的に記録されるため、レジ締めや売上確認の作業が大幅に簡略化されます。

現金のやり取りが減ることで過不足が生じるリスクもなくなり、ミスの防止にもつながります。また、デジタルデータとして保存されるため、売上管理や会計監査においても効率的にデータを活用することが可能です。これにより、業務全体の効率化が期待できるでしょう。

感染対策を講じやすい

新型コロナウイルス感染症の流行以降、多くの業界で非接触型決済の需要が高まっています。キャッシュレス決済は、現金やカードの受け渡しが不要になるため、感染症対策としても有効です。

クリニックのような医療機関では特に感染対策が重視されるため、キャッシュレス決済を導入することで患者さんにも安心感を提供できます。

また、スタッフの健康リスクを軽減する点でも有益です。

競合クリニックと差別化できる

キャッシュレス決済を導入することには、競合クリニックとの差別化に効果的というメリットもあります。特に、働き盛りの世代や若い世代の患者さんは、利便性を重視する傾向があります。

キャッシュレス決済を導入することで「最新のサービスを提供しているクリニック」という印象を与え、患者さんの満足度向上や新規患者の獲得につなげることができるでしょう。

また、都市部ではキャッシュレス決済の普及率も高く、キャッシュレス決済に対応していないことが機会損失となる可能性もあります。

管理コストを削減できる

現金決済では、銀行への入金手続きや釣銭の準備など、運用にかかる手間やコストが発生します。一方、キャッシュレス決済では、これらの作業が不要となり、トータルの運用コストを削減できます。

特に小規模なクリニックでは、こうしたコスト削減が経営効率の向上に直結するでしょう。

オンライン診療に対応しやすくなる

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、オンライン診療の需要は急増しました。キャッシュレス決済の導入は、オンライン診療をスムーズに運営するための重要な要素でもあります。

オンライン診療では対面での会計処理ができないため、キャッシュレス決済が必須といえます。

キャッシュレス決済を導入することで、オンライン診療後に即時決済が可能となります。これにより会計処理がスムーズに行えるだけでなく、未収金リスクを防ぐことや患者さんの利便性の向上につながります。

また、診療予約システムと連携すると、予約から決済まで一元管理できるため、業務効率化にもつながります。

クリニックでキャッシュレス決済を導入する手順

クリニックでキャッシュレス決済を導入する手順

適切な手順を踏むことで、キャッシュレス決済をスムーズに導入することができます。

ここからは、クリニックでキャッシュレス決済を導入するにはどのようにすれば良いのか、導入の手順について解説します。

キャッシュレス決済サービスを選ぶ

まずは、どのキャッシュレス決済サービスを導入するかを決めることが重要です。

選択肢としては、クレジットカード、デビットカード、QRコード決済、電子マネーなどがあります。それぞれ手数料率や入金サイクル、患者層との相性などが異なるため、事前にしっかりと比較検討しましょう。

例えば、シニア層が多いクリニックでは使いやすいQRコード決済を優先する、幅広い患者層のクリニックでは複数の決済手段を取り入れるなど、ニーズに合わせて選ぶと良いでしょう。

決済端末を選ぶ

次に、キャッシュレス決済を行うための端末を選定します。

端末には、クレジットカードリーダー付きのものや、QRコード専用のもの、複数の決済方法に対応したマルチ端末があります。

決済端末を選ぶ際には、利用可能な決済手段の種類や導入コスト、ランニングコストを確認することが大切です。設置スペースや操作性も考慮し、クリニックの規模や受付業務の流れに合った端末を選びましょう。

キャッシュレス決済における事務スキームを作成する

先述のように、キャッシュレス決済の導入によって会計業務の流れや内容が変わるため、事務作業の見直しが必要です。

具体的には、以下のようなポイントを重視して再検討するのがおすすめです。

  • 会計処理の流れ

患者さんがスムーズに決済できるよう、受付から会計までの手順を明確化

  • 売上管理方法

キャッシュレス決済で発生するデータを効率的に管理し、日次や月次の集計業務に対応する方法を設計

  • トラブル対応

端末の故障やネットワーク障害が発生した際の対応フローを事前に決めておく

これらを踏まえて、スムーズな運用ができるスキームを構築します。

スタッフに研修を実施する

事務スキームの見直しと並行して、スタッフがキャッシュレス決済の運用に対応できるよう、研修を実施します。以下の項目を中心に研修内容をまとめましょう。

  • 決済端末の操作方法
  • 各決済手段の特徴と患者さんへの説明方法
  • トラブル発生時の対応方法

研修を通じて、スタッフ全員がキャッシュレス決済のメリットを理解し、患者さんに安心して利用してもらえる対応力を身につけることが重要です。

クリニックにおすすめのキャッシュレス決済

クリニックにおすすめのキャッシュレス決済

クリニックでのキャッシュレス決済導入は、患者さんの利便性向上や業務効率化に役立ちます。

以下に、クリニック向けにおすすめのキャッシュレス決済サービスを6つご紹介します。

チョキペイ

クリニック・薬局専用のキャッシュレス決済サービスで、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など多様な決済方法に対応しています。

1台の端末ですべての決済が可能で、Wi-Fiやプリンター機能も搭載しており、使い勝手が良いのが特徴です。

STORES決済

医療向け特別プランを提供しており、クレジットカード決済手数料が通常3.24%から1.50%に引き下げられています。

クレジットカード、電子マネー、QRコード決済に対応しており、幅広い決済手段をカバーしています。

日本医師会員向けキャッシュレスサービス

日本医師会ORCA管理機構が提供するサービスで、会員であれば初期費用なしで特別手数料・価格で利用可能です。

例えば、VISAやMastercardのクレジット決済手数料は非会員だと2.46%ですが、会員は1.45%となります。また、複数のQRコード決済サービスを一括で申し込める「JPQR」にも対応しています。

Square

医療機関での導入実績が多く、コンパクトなポータブル端末を採用しています。

申し込み手続きはオンラインで完結し、主要なクレジットカードブランドと電子マネーは約1週間、PayPayは10日から30日程度で導入可能です。

USEN PAY

クレジットカード決済および電子マネー決済に対応しており、医療機関での決済手数料が1.9%からと低めに設定されています。

PayPayなどのQR決済にも対応する「USEN PAY QR」と併せて導入することでさまざまな決済方法に対応可能です。

Air PAY

クレジットカード決済、電子マネー決済に対応した「Air PAY」、QRコード決済に対応した「Air PAY QR」、ポイントサービスに対応した「Air PAYポイント」の3つを併せて74種類の決済ブランドに対応しています。

振込手数料や月額固定費が0円で、導入しやすいのが特徴です。

まとめ

まとめ

今回の記事では、クリニックのキャッシュレス決済の普及率や普及を妨げる理由、さらにキャッシュレス決済のメリットや実際の導入の手順、さらにおすすめのサービスについて解説しました。

キャッシュレス決済は、医療機関以外の職種やサービスでは導入率が高く、利用者数も増えています。今後、医療の分野においてもキャッシュレス決済は普及していくでしょう。

クリニックでキャッシュレス決済を導入するためにはコストの問題や業務面の見直しなどが懸念点として考えられますが、業務効率化や競合クリニックとの差別化などメリットもあります。

患者さんの層やコスト面の問題などを考慮して、ぜひクリニックでのキャッシュレス決済導入を検討してみてください。