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医療法人ってなに?メリットやデメリットなど詳しく説明

                   
投稿日: 2024.01.16
更新日:2024.03.05
                   

これから病院・クリニックの開業を考えている方や、法人化することを検討している方は、「法人化することでどんなメリットを得られるのか」「どのタイミングで法人化をすべきか」と、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本記事では、医療法人の種類、法人化することでのメリット・デメリット、医療法人の手続きの流れ、法人化をするタイミングを詳しく解説します。将来、医師として独立を目指す方にも役立つかと思います。

医療法人ってなに?

医療法人ってなに?

医療法人には、4つの種類があります。ここでは、4つの医療法人の特徴、法人化することの目的、個人病院・診療所との違いについてお伝えします。

医療法人の特徴と種類

医療法人には、「社会医療法人(旧特別医療法人)」「特定医療法人」「基金拠出型法人」「経過措置型医療法人」という4つの種類があります。社会医療法人(旧特別医療法人)とは、都道府県の知事から認定された団体です。救急医療・災害医療・離島医療など、公益性の高い医療を行うことが必須条件となりますが、税制上の優遇措置が認められます。特定医療法人は、国税庁長官から公益性の承認を受けた団体を指し、法人税の軽減が適用されます。基金拠出型法人とは、基金制度を採用した団体です。基金とは、出資金のことで、外部から出資を募ることができます。運営や経営に関する発言権・議決権は出資者にはありません。経過措置型医療法人は、2007年4月1日以前に設立された、持分(財産権)のある団体を指します。

医療法人の目的

医療事業の経営を法人化することで、節税効果が期待できたり、融資を受けやすくなったりと、運営に必要な資金の調達が容易になることが期待できます。それにより、新しい医療技術を取り入れたり組織を改革したりと、事業を拡大することも可能になります。税制上の優遇措置は、このように医療の質が良くなることで、国民一人ひとりの健康寿命を延ばすことが狙いとされています。

医療法人と個人病院・診療所との違い

医療法人に属する場合は、収入を報酬という形で受け取るため、経営者であっても銀行口座から引き落としたり使用したりすることができません。ただ、医療法人にすることで、分院を増やせたり、病院以外に介護施設や看護師学校などの施設を運営できたりします。個人病院・診療所は、医師自身が医療サービスの提供を行う傍ら、経営を行います。収益は医療法人と違い、自由に扱うことができます。

医療法人のメリットは?

法人化をすることには、具体的にどのようなメリットがあるのかと気になる方も多いかと思います。税金対策ができ節税効果が期待できる、金融機関からの融資を受けやすくなる、クリニック以外に介護施設や看護師学校を運営できるなど、法人化にはさまざまなメリットがあります。下記でさらに詳しく説明します。

医療法人の金銭的メリット

法人化することによる金銭的なメリットは、節税効果が期待できるということです。例えば、理事長が家族を従業員などとして雇うことで、給与を支払うことができ、支払う給与金額が高いほど、病院や診療所にかかる税金を減らすことができます。所得税や住民税などの個人課税が、法人課税に変わることで税率が下がり、より税の負担を抑えられます。さらに、医療法人の場合は退職金の支払いが可能です。退職金は給与よりも税金の軽減ができ、節税することができます。

医療法人の社会的メリット

医療法人として運営を行うことは、社会的な信用度の向上につながると言えるでしょう。医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要となります。審議会を行うなど、厳選なる審査を経て決定されます。また、事業報告書や監査報告書の作成も義務付けられています。これらは、都庁や県庁に閲覧の申し出をすれば、一般の人でも見ることができます。運営において、社会的信頼が高いため、金融機関からの融資も受けやすくなります。

医療法人の規模拡大のメリット

医療法人の場合は、複数の医療機関を運営することができます。さらに、介護老人保健施設・看護師学校・医学研究所・精神障害者社会復帰施設などの業務も行えます。事業を拡大することで経営の幅が広がり、大きな収益が期待できます。また、新しい理事長への継承をスムーズに行うことができ、開設許可を新たに受ける必要はありません。

医療法人のデメリットは?

医療法人ってなに?

法人化には、メリットだけでなくデメリットもあります。例えば、事業拡大に伴って収益を上げられる反面、従業員の生活を守るため、健康保険や厚生年金に加入する必要があります。そのほか、後継者に財産贈与ができないこと、書類作成や手続き業務に時間がかかることなど、いくつかのデメリットがありますので詳しく説明します。運営時における注意事項についてもまとめています。

医療法人の金銭的デメリット

医療法人で得られた収入や財産は、経営者の判断で自由に扱うことはできません。また、雇った従業員や役員は、健康保険・厚生年金に加入させる義務があります。こうした制度への加入は、従業員の社会保障を守るためにも避けることができません。個人経営の病院よりも経費は増大しますが、健康保険・年金制度は、従業員の健康・暮らしを守るうえでも重要な措置となります。さらに、税理士への報酬も法人化することで増額されます。

医療法人の社会的デメリット

医療法人は公益性の高い医療を行っていることもあり、地域医療を行ううえでの責任があります。そのため、個人的な理由で解散することはできません。解散をする場合は、都道府県知事の認可が必要となり、理事長が退任する場合も新しい代表者に引継ぎを行わなくてはなりません。また、個人病院とは違い、財産を後継者に贈与することもできないようになっています。

医療法人の運営面のデメリット

法人化すると、事業拡大ができる反面、運営が複雑化・多様化します。具体的には、理事会・社員総会の開催、自治体の面談、保健所の実施検査などが発生します。特に大変なのが、書類作成です。事業報告書等一式を都道府県知事に毎年提出したり、2年ごとに役員変更の手続きを行ったりする必要があります。事業報告書等や監査報告書の閲覧請求が求められれば、適宜対応をしなくてはなりません。また、法人化をするためにも、さまざまな手続きが必要となります。この点から、法人化の決断をためらってしまう開業医の方は多くいらっしゃいます。

医療法人化する手続きや手順

法人化するための手続きは、おおまかに申請書作成・設立総会の開催・設立認可申請・都道府県知事の許可・設立認可書の登記となります。そのほか、開設するにあたり、各種手続きが必要です。ここでは、「申請書を作成するうえでのポイント」「都道府県知事の許可が下りるまでの流れ」を解説します。

申請書作成

医療法人の手続きをするのにまず必要となるのが、設立事前登録です。事前登録は、各自治体のホームページにある、入力フォームより申請を行います。登録内容は「現医療機関名」「設立代表者」「郵便番号・住所」「電話番号」「メールアドレス」です。自治体ごとに登録期間が決まっていますので、申請しないと仮受付書類の提出ができなくなります。そして、医療法人設立説明会に参加しなくてはなりません。自治体によって、会場に赴く必要がある場合もあれば、オンラインで受講できる場合もありますので、事前に調べておきましょう。最後に、医療法人の定款を作成します。定款で定めておかなくてはならないのが、「目的および業務」「名称および事務所の所在地」「開設する病院・診療所・施設の所在地」「社員および社員総会に関わる規定」「公告の方法」などです。厚生労働省のホームページに、定款例があるので、参考にすることをおすすめします。

設立総会

定款を作成してから、設立者3名以上で設立総会を開催する必要があります。また、総会で話し合った内容は議事録に残さなくてはなりません。具体的には、「開催日時、場所」「出席者の氏名、住所」「設立趣旨の承認」「設立時社員の確認」「役員および管理者の選任」「設立代表者の選任」「リース契約引継ぎの承認」「事業計画および収支予算の承認」「役員報酬総額の予定額」などです。自治体ごとに、議事録の参考例がホームページに掲載されていますので、確認するといいでしょう。

申請

設立認可申請には、仮申請と本申請があります。仮申請で指摘された箇所を修正し審査が通らなければ、本申請に進むことはできません。それぞれ、申請期間が決まっています。大幅な修正が必要になる場合は、自治体によって、次回以降の申請に回されることがあります。設立認可申請書の様式は、各自治体の指示に従ってください。

許可

設立認可申請書の本申請が完了したら、書類審査が行われます。自治体によっては、代表者の面談審査・実地審査などがありますので、事前に対策することが重要です。審査に通過すると、都道府県の医療審議会で審議されます。そうした流れを経て、都道府県知事の許可が下りると、設立認可書が交付されます。

登記

設立認可書を受け取ったら、2週間以内に登記を行う必要があります。登記する内容は「名称」「目的・業務」「事務所の所在場所」「理事長の氏名・住所」「存続期間、解散に関する規定」「資産総額」です。これらが終われば、医療法人を設立するのに必要な手続きは完了です。

各種届出

医療法人を開設するのに、都道府県知事の認可以外に、各種手続きを行う必要があります。例を挙げると、「診療所の開設許可申請」「法人診療所開設届」「個人診療所廃止届」「診療所使用許可申請」などの保健所の手続き、「法人の保険医療機関指定申請書」「個人の保険医療機関指定廃止届」などの厚生局の手続きが必要です。そのほかにも、銀行口座や電気・ガス・水道・電話などの契約の名義変更、税務署・中小企業事業団・医師会・リース会社などへの手続きも行わなくてはなりません。

医療法人化を検討するタイミング

個人で病院を経営するよりも、法人で経営したほうが節税を期待することができます。そのタイミングは、「年間所得が1800万円を超えている時」「社会保険診療報酬が5000万円を超えている時」「開業から7年目が経過している時」です。ここでは、タイミングのポイントについて解説します。タイミングがずれてしまうと、税金を多く支払うことにもなりかねません。

年間所得が一定額を超えている時

年間所得が、1800万円を超えている場合は法人化することを検討しましょう。理由は、個人事業主として、1800万円以上を稼いでしまうと累進課税となり、税率が40%に上がってしまうからです。法人化することで、15〜20%台に抑えることができ、大きな節税効果をもたらします。

社会保険診療報酬が一定額を超えている時

社会保険診療報酬が5000万円を超える場合は、個人で運営する医療機関を法人化させるタイミングです。5000万円を超えると、事業を運営するのに必要な経費「概算経費」が利用できなくなります。概算経費とは、経費計算に手間がかからないようにするための計算方法です。通常は、雑誌代やウォーターサーバーの利用費用などのレシートを集めて、計算しなくてはなりませんが、売り上げの〇%というふうに、概算経費にあてることで計算をしなくて済みます。こうした手間が増えてしまうと、運営がしづらくなります。

開業から7年目が経過している時

開業から7年が経過すると、課税対象額が上がります。特に注意しなければならないのが、開業時に購入した医療機器の償却期間が終わってしまうことです。6年目までは、減価償却分として経費を計上できていたものが、7年目になると経費として計上することができません。そうすると、医療機器が利益に換算されるため、利益の増加に伴い、支払う税金も多くなります。

まとめ

医療法人に関する概要をはじめ、法人化のメリット・デメリット、手続きの流れなどを紹介しましたが参考になったでしょうか。医療法人を検討している方も、個人病院・クリニックをこれから運営する方も、この記事を参考にさらに具体的に今後の構想を練っていただければ幸いです。「事業を拡大していきたい」「医療機関が累進課税対象となった」などであれば、法人化することも視野に入れましょう。