看護DXとは|看護DXの目的や進め方、注意点を詳しく解説!
医療現場の業務効率化や働き方改革が叫ばれるなか、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が注目されています。
特に看護分野でのDX、すなわち「看護DX」の推進は、看護師の負担軽減や患者さんへのサービス向上に直結する重要なテーマです。
本記事では、看護DXの目的や具体的な進め方、注意点をわかりやすく解説します。
クリニックにおける看護サービスの課題
まずは、クリニックにおける看護サービスの課題を説明します。
人手不足
日本では、今後も少子高齢化が加速していく見込みです。看護師の需給のバランスとしては需要が過多となり、人手不足が続くことが予想されます。
特に、東京や神奈川などの首都圏、あるいは大阪や奈良などの近畿地方において看護師が不足するとの見通しがあります。
業務範囲が広い
看護師は患者さん対応だけでなく、事務作業や物品管理、記録業務など、多岐にわたる業務を抱えています。これにより、患者さんへの直接ケアに集中しづらい状況が生まれています。
負担が大きい
多忙な日々の中で、看護師の身体的・精神的負担が増大しています。この負担が原因で離職する看護師も少なくなく、現場の人手不足がさらに深刻化する悪循環に陥っている可能性があります。
長時間労働になりやすい
特にスタッフが少ないクリニックなどでは、看護師の業務負担が過多になった結果、長時間労働になりやすい傾向があります。
例えば、日本看護協会による2023年の病院看護実態調査報告書によると、正規雇用看護師の2023年9月における一人あたりの月平均超過勤務時間は次のとおりです。
- 1〜4時間未満:30.4%
- 4〜7時間未満:23.4%
- 7〜10時間未満:13.3%
平均すると5.2時間という結果で、看護師の長時間勤務が常態化しているという点が読み取れるでしょう。
看護DXとは
2024年4月より、医師の労働時間上限の規制が始まりました。いわゆる「医師の働き方改革」です。それに伴い、看護業務効率化や生産性向上が必要となっている一方で、看護師の間接的な業務負荷が大きく、看護ケアの時間の確保と質の担保が難しくなっているという現状があります。
限られた人的資本でその状況改善と患者さんのニーズを満たすため、医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)は重要な課題とされています。
ここでは、看護DXについて解説していきます。
看護DXの概要
「看護DX」とは、デジタル技術を活用して看護業務を効率化し、患者さんへのサービス向上を目指す取り組みを指します。
具体的には、電子カルテや患者情報管理システムの活用、看護記録の自動化、AIによる診断補助ツールなどを導入することで、看護師の負担を軽減し、現場の生産性を向上させます。
看護DXを成功させるためには、技術の導入だけでなく「看護DX計画」を策定することが重要です。この計画では、現場の課題を可視化し、どの業務をデジタル化するかの優先順位を定めます。また、計画を実行するための体制整備も欠かせません。厚生労働省の指針では、看護DXの推進には「計画の策定」「計画に基づいた具体的な取組の実施」「導入効果の検証」が求められ、これらを円滑に進めるための実施体制を構築する必要があるとされています。
看護DXの目的
看護DXには以下のような目的があります。
- 業務の効率化
- 患者満足度の向上
- 看護師の負担軽減と定着率向上
看護記録や物品管理などの間接業務をデジタル化することで、看護師が患者ケアに集中できる環境を整えます。また、AIを活用した異常検知ツールにより、患者さんの状態変化を早期に発見することも可能になります。
デジタルツールを活用することで、患者さんのニーズに迅速かつ的確に対応できるようになります。例えば、診療予約システムや患者モニタリングシステムを活用することで、待ち時間の短縮や質の高いケア提供が実現します。
これらの取り組みによって長時間労働や多忙な業務を軽減することで、看護師の身体的・精神的負担を軽くし、職場環境の改善を目指します。結果として、看護師の定着率向上や離職防止にもつながります。
そのためには、組織全体での取り組みが必要です。特に、DX計画を推進する担当者の設置や現場の声を反映したプロセス設計が成功の鍵となります。計画策定から効果検証までを一貫して行うことで、看護DXはより実効性を持つ取り組みとなるでしょう。
クリニックの看護DX推進で実現できること
次に、クリニックの看護DXを進めることでどのようなことが実現できるのかを解説します。
看護記録や患者情報のデジタル化による業務の効率化
従来の紙ベースの看護記録は、記入や保管、共有に時間と労力がかかります。
看護DXでは、電子カルテやモバイルデバイスを活用することで記録作業を効率化できます。これにより、記録漏れの防止や情報共有の迅速化が実現し、業務全体の流れがスムーズになります。また、記録の検索性が向上し、必要な情報を瞬時に確認できるため、医療ミスの防止や患者ケアの質の向上にも寄与します。
AIを活用した患者モニタリングでの異常検知の迅速化
AIを活用したモニタリングシステムは、患者さんのバイタルサインや症状のデータをリアルタイムで解析し、異常を検知する仕組みを提供します。
例えば、心拍数や酸素飽和度の異常が検知されると、即座にアラートが送られます。これにより、看護師は迅速な対応が可能になり、患者さんの状態悪化を防ぐことができます。特に高齢の患者さんや慢性疾患を持つ患者さんのケアにおいて、AI技術は重要な役割を果たします。
看護師が患者ケアに費やすことができる時間の増加
業務の効率化により、看護師が患者さんとのコミュニケーションやケアに集中する時間を増やすことができます。これにより、患者さんのニーズに寄り添ったケアが提供され、信頼関係の構築が容易になります。患者さんの満足度向上や心理的な安心感の提供にもつながり、結果として医療サービス全体の質を向上させます。
看護師の負担軽減によるメンタルヘルスの改善
看護師の業務負担が軽減されることで、過労やストレスの原因が減少します。
具体的には、夜間業務や事務作業の効率化、時間管理の最適化が挙げられます。また、スタッフ間の業務分担が見直されることで、チーム全体の働きやすさも向上します。
これにより、看護師のメンタルヘルスが改善され、離職率の低下や職場全体の士気向上が期待できます。
患者満足度と診療効率の向上
DXを通じてクリニック全体の業務が効率化されると、患者さんの待ち時間短縮やスムーズな診療が可能になります。
また、診療予約システムや患者ポータルサイトの活用により、患者さんが自身の情報を確認し、必要な手続きや問い合わせを簡単に行える環境が整います。これにより、患者さんの利便性が向上し、クリニックへの信頼感が高まります。同時に診療効率も向上し、クリニック全体の運営が円滑に進みます。
クリニックにおける看護DXの進め方
看護DXの進め方には、現場の課題を把握し、看護師の意見を取り入れながら適切な計画を立てることが重要です。スムーズな導入のためには、段階的な取り組みと十分なサポート体制を整えることが成功への鍵となります。
看護DXを推進する担当者を決める
看護DXの推進には、計画の立案から実行、導入後の検証まで一貫して指揮を取る担当者が必要です。担当者には、現場の課題を理解し、デジタルツールの活用に関する知識を持つ人物を選ぶことが重要です。
専任の担当者を設けることが難しい場合でも、管理職やリーダーが主体となり、必要に応じて外部の専門家の支援を受けることを検討するといいでしょう。
また、担当者はスタッフ間のコミュニケーションの橋渡し役として、現場の声を反映した施策を設計する役割も担います。
看護師へのヒアリングを実施する
看護DXを推進する上で、現場の看護師の意見や要望を取り入れることが成功の鍵となります。
具体的には、ヒアリングやアンケートを通じて、業務で感じている課題や効率化が期待できる領域を洗い出します。このプロセスを経ることで、現場に適した改善案を計画に反映できます。
また、ヒアリングを行うことで看護師の参加意識を高め、看護DXの取り組みに対する協力を得やすくなります。
看護サービスを可視化する
現状の業務フローや看護サービスを可視化し、どの業務が非効率でDX化に適しているかを分析します。
フローチャートや業務日誌を活用して、業務内容を視覚的に整理するのがおすすめです。これにより、無駄な業務や改善の余地があるプロセスを明確にし、具体的なDXの導入計画を立てやすくなります。特に、記録業務や物品管理など間接的な業務にDX化の効果が高いことが多いため、優先的に検討します。
間接看護業務の中からDX化できるものを選ぶ
看護業務には、直接患者さんに対応する「直接業務」と、それ以外の「間接業務」があります。間接業務の中で、DX化の効果が見込まれる業務を選定します。例として、以下のようなものがあります。
- 書類作成や記録業務:電子カルテやテンプレートを活用して効率化
- 物品管理:在庫管理システムを導入し、発注や棚卸しを簡素化
- スケジュール管理:スタッフのシフトや業務スケジュールを共有できるデジタルツールを利用
DX化できる業務の選定には、現場スタッフの意見を取り入れ、進めていきましょう。
DXツールを選定する
DX化には、適切なツールの選定が欠かせません。ツール選定の際には以下のポイントを考慮します。
- 現場のニーズに合っているか
- コストと導入の手間
- セキュリティ
看護師が使いやすく、現場の課題を解決できる機能を備えたツールを選ぶことが大切です。導入費用やランニングコストが予算内に収まり、看護師の負担が増えない範囲で導入可能であるかも検討しましょう。また、患者情報を扱うため、セキュリティ対策がしっかりしているかどうかも大切なポイントです。
ツールの選定時には、複数の製品を比較し、無料トライアルなどを利用して看護師が実際に試用することをおすすめします。
導入研修を行う
新しいツールやシステムを導入する際は、看護師への研修が重要です。初期研修だけでなく、以下のポイントを意識した複数回の研修を実施します。
- 基本操作の習得:
システムの使い方をわかりやすく説明し、実践を通じて学べるようにします。
- トラブル対応の訓練:
システムエラーや不具合が起きた場合の対処法を共有します。
- 現場での活用例を紹介:
実際の業務でどのように活用するか、具体例を示します。
また、研修後も現場でのサポート体制を整備し、看護師が気軽に質問できる環境を提供することも大切です。
看護DXを進めるうえでの注意点
看護DXの促進は、看護の現場での負担を軽減し看護サービスの質を高めることに貢献します。しかし、注意点もいくつかあります。
トップダウンで進めない
現場の意見を聞かずに進めることで、せっかく導入しても手間が増えてしまったり、思っていた結果が出なかったりする可能性があります。そうなると看護DXの取り組み自体に反発を招き、定着しにくくなるという問題が起こるかもしれません。ヒアリングやアンケートなどを通じて、現場の声を反映したプロセスを設計しましょう。
現場を巻き込む
看護DXを進めるためには、現場の看護師がDXのメリットを実感でき、看護師の協力を得ることが重要です。看護DXとはどのようなもので、どのようなメリットがあるのか、そのためにどういった取り組みをしていくべきかという点について、しっかりと現場の看護師と共有しましょう。
複数回の研修を実施する
看護DXの取り組みについて、十分な理解を得たりスキルを習得したりするためには、一度の研修では難しいと考えられます。現場の看護師がまとまった時間を研修のために費やすことも難しいため、段階的な研修を計画します。
最終目標を「看護業務の効率化」とする
DXは手段であり、目的ではありません。最終的なゴールを業務効率化に設定し、看護師の負担軽減を目指すことで効果が期待できるでしょう。
まとめ
今回の記事では、看護DXとは何か、その背景にある看護の課題や看護DXで実現できること、さらに実際の進め方や注意点について解説しました。
看護の分野でのDXを上手に進めていくことで、多忙な看護師の負担を軽くし、さらに看護サービスの質を高められるでしょう。
しかし、推進には現場の理解と協力が欠かせません。適切な計画と丁寧なプロセスを通じて、クリニック全体の業務効率化とサービス向上を目指しましょう。