TOP > 開業後、医院経営あるある > 男性看護師が少ない理由は?クリニック開業前に知っておくべき現状と男性看護師採用のメリットと活用法

男性看護師が少ない理由は?クリニック開業前に知っておくべき現状と男性看護師採用のメリットと活用法

                   
投稿日: 2025.03.05
                   

優秀な人材の確保は、クリニック開業において経営の成功の鍵をにぎる重要なポイントの1つです。特に、看護師の採用と定着は、クリニックの医療サービスの質を維持する上で欠かせない要素となっています。

今回は、増加傾向にありながらもまだまだ少数派である男性看護師に注目し、その現状と課題を考えます。

男性看護師を採用することは、クリニックにとって大きなメリットとなり得ます。クリニック運営における男性看護師の活用方法についても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

男性看護師が少ない理由

男性看護師が少ない理由

男性看護師は、全体のどの程度の割合を占めるのでしょうか。まずは、男性看護師が少ない理由を考えてみましょう。

現在の男性看護師の割合はどれくらいですか?

令和4年度の看護師全体の人数は131万1687人です。そのうち、男性看護師の就業者数は11万2164人で、割合にすると8.6%です。平成24年は6万3321人、平成26年は7万3968人、平成28年は8万4193人、平成30年は9万5155人、令和2年は10万4365人と、直近10年間で約1.8倍になっているので、男性看護師は少数派ではあるものの増加傾向であることがわかります。

>>平成24年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省

>>平成26年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省

>>平成28年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省

>>平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|生労働省

>>令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省

>>令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省

男性看護師が少ない理由は?

男性看護師が少ない理由として、日本の看護教育の歴史的な背景と、看護師に対する社会的な固定観念の2つが考えられます。

日本の看護教育は、ナイチンゲール方式によって発展してきました。

ナイチンゲール方式では看護師は女性の専門職とされており、考案者のナイチンゲールは「優れた看護師は優れた女性であり、優れた女性とは“よりよく、より高く、より清らかな資質を備えた女性”である」と述べています。こうした背景から、もともと看護師を志すのは女性に限られていたと考えられます。

>>ナイチンゲール方式による看護教育の特徴とその拡がり― 教育の創造と伝承―

2001年、保健婦助産婦看護婦法が保健師助産師看護師法に改定され、性別を問わず『看護師』という名称に統一されましたが、以前は『看護婦』と表されていました。このことからも、看護師は女性であるという固定観念が根強く残っていることがわかります。女性の看護師は1880年過ぎの明治時代から存在していたのに対し、日本で正式に男性看護師が登場したのは1968年です。

さらに、着替えや清拭などの処置に対する女性患者さんの抵抗感に加え、テレビドラマや漫画などのメディアでも看護師は女性として描かれる傾向にあった、というさまざまな事情があります。

このように、男性看護師のイメージが湧きにくい環境にあったため、男性看護師を目指す人自体が少なかったと考えられます。

男性が看護師を目指すのは難しい社会的課題とは?

男性看護師は増加傾向ではあるものの、男性が看護師を目指すのは難しいと考えられる、さまざまな課題が残されています。

まず、男性が看護師として働きやすい環境が整っていないという点が挙げられます。

クリニックなどの小規模施設では、院長以外のスタッフは女性の看護師や医療事務のみ、といったところも少なくありません。更衣室やトイレなどの男性従業員用の設備が整っていない、男性看護師への配慮不足など、働きにくさを感じる場合もあるでしょう。

また、男性看護師の昇進や昇給のキャリアモデルが少なく、管理職として活躍する例も限定的です。さらに、「あの人のように働きたい」「こういった働き方がしたい」という、男性看護師のロールモデルを見つけにくい点も課題と言えます。将来の待遇や働き方が見えにくいことも、男性が看護師を目指しにくい理由の1つと考えられます。

男性看護師が働きにくい職場環境とは

男性看護師が働きにくい職場環境とは

少数派の男性看護師が、働きにくいと感じる環境はどのようなものでしょうか。具体的に考えてみましょう。

男性看護師は職場でどのような悩みを抱えているのですか?

男性看護師は数が少ないという現状で、次のような悩みを抱えがちだと考えられます。

  • 女性中心の職場になりがちで同性の同僚が少ないため、孤独感を感じやすい
  • 処置の際に「女性看護師に変わってほしい」「男性に担当してほしくない」など、患者さんから性別に関わる要望を受ける可能性がある
  • 患者さん側が気にしなくても、処置を行う側として気を使わざるを得ない状況がある

このように、女性看護師のイメージが強いことによる悩みを抱えている男性看護師が少なくありません。

男性看護師のキャリアパスに制限はありますか?

診療科の特性上、産婦人科や婦人科の勤務は性別による制限が考えられます。

また、女性患者さんが多い病棟や診療科への配属が避けられる傾向にあるほか、特定の処置やケアの担当から除外される可能性があります。

これらは患者さんからの要望による場合も多く、性別によるもので解決が難しい問題です。このような問題が、男性看護師の長期的なキャリアパスの描きづらさにつながっています。

男性看護師のワークライフバランスや給料・待遇への課題とは?

夜勤がある職場では、女性看護師が時短勤務や妊娠などで夜勤を免除される場合、男性看護師の負担が増加してしまう傾向にあります。

共働き世帯が増えている現代では、ワークライフバランスが取りにくくなる環境と言えるでしょう。改善するためには、「男性だから」といった性別による負担の偏りの解消が求められます。

また、令和5年の男性看護師の平均年収は約525.7万円で、一般男性の平均年収は約563万円なので、やや低めです。働き続けるためのモチベーションとして、昇給のための資格取得や管理職を目指すといった、キャリアアップを目指せる環境が必要とされるでしょう。

>>令和5年賃金構造基本統計調査

男性看護師を採用するメリットと活用方法

男性看護師を採用するメリットと活用方法

ここからは、クリニックに男性看護師を採用するメリットと、男性看護師に長く働いてもらうための環境づくりのポイントなどを紹介します。

男性看護師を採用するメリットはありますか?

重症患者の移乗や体位変換、患者抑制など緊急時の対応、重い医療機器などの機械の移動といった、力が必要な業務の際には男性の身体的な強みを活かせるでしょう。

また、AGA(男性型脱毛症)やED(勃起不全)など、男性特有の悩みに対する診療を行っている場合は女性看護師が避けられる傾向にあり、男性看護師は心強い存在です。

男性看護師の適性が高い診療科は?

男性看護師が向いている診療科は複数あります。

診療科男性看護師が向いている理由
救急科救急搬送された重症患者の移送や移乗介助暴れている場合や不穏患者への対応など
精神科暴力行為のリスクがある場合の対応行動制限が必要な場面での適切な介入男性患者さんへの共感・傾聴など
泌尿器科男性患者さん特有の症状や悩みへの対応導尿や膀胱留置カテーテルの管理EDなど性機能障害に関する相談への対応など
整形外科大柄な患者さんの移乗・移動介助ギプス固定や装具の着脱介助など

女性の患者さんが男性看護師に身体のケアをしてもらうことに抵抗があるのと同じように、女性看護師に身体をケアしてもらうことに抵抗がある男性の患者さんも少なくありません。

男性の身体的な強みを活かしやすい力が必要な業務だけでなく、男性の患者さんへのケアが多い診療科に適正が高いでしょう。

また、男性看護師の適性や希望、経験を活かせる配置が求められます。

男性看護師に長く働いてもらうには?

男性看護師に長く働いてもらうためには、まず男性看護師が孤独を感じない、働きやすいと感じる職場環境を整備することがポイントです。具体的には、以下のようなことを心がけましょう。

  • 男性用の更衣室やトイレ、仮眠室を設置する
  • 看護師や他職種との人間関係がよく、コミュニケーションが取りやすい環境を作る
  • 性別を意識せずに悩みを共有、相談しやすい環境を作る

さらに、男性看護師がキャリアアップできる環境づくりも重要です。認定看護師などの資格取得支援、管理職への登用、男性看護師のニーズが高い業務への配置など、男性看護師がキャリアパスを描きやすい環境を整えましょう。

まとめ

まとめ

今後のクリニック運営において、男性看護師は重要な存在です。

多様な人材の確保によって質の高い医療サービスの提供が可能になり、男女それぞれの視点や強みを活かすことで、患者さんの多様なニーズにきめ細かく対応できるようになります。さらに、職場全体の活性化と組織力の向上にもつながるでしょう。

これらのメリットを引き出すためには、男性看護師が働きやすい環境を整え、将来のキャリアパスを提示する、といった取り組みが必要です。

クリニック開業を考える際、男性看護師の採用は、単なる人材確保の意味合いだけでなく、クリニックの競争力を強化して医療サービスの質を向上させる、重要な経営戦略となり得ます。

開業準備の段階から男性看護師の受け入れ態勢を整え、能力を最大限に活かせる体制づくりを検討することが、開業成功の鍵となるでしょう。