医療DXの進め方とは?ツールの選定から運用開始後のポイントまで詳しく解説!
近年、医療・介護の現場では複雑な事務作業、膨大な紙の書類、そして患者さんの待ち時間など、さまざまな課題が山積しています。医療DXは、こうした課題をデジタル技術で解決し、より質の高い医療を効率的に提供するための重要な取り組みです。
本記事では、厚生労働省が掲げる医療DXの全体像から、クリニックの開業時・開業後に役立つツールの選び方、導入の進め方まで、詳しく解説します。
医療DXとは

医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は、保健・医療・介護の各段階で発生する情報やデータを共通の形式に整え、必要な場面ですぐに共有・活用できるようにする取り組みです。これにより、医療・介護の質や安全性を高め、国民一人ひとりによりよい医療やケアを提供することを目指しています。
医療DXの概要
医療DXは、医療現場の効率化と質の向上を目的として、以下の3つの主要な目標を掲げています。
- 全国医療情報プラットフォームの創設:医療・介護・検査・予防接種・レセプト情報などを統合し、一貫した医療サービスを受けられる仕組みを整備
- 電子カルテの標準化と普及:2030年までに標準型電子カルテを導入・普及させ、情報共有を円滑にすることを目指す
- 診療報酬改定DX:診療報酬のルール変更をデジタルで素早く反映できるようにし、医療機関の事務負担を軽減する取り組み
これらの施策により、患者さんの情報が正確かつ迅速に共有され、医療の質と安全性が向上することが期待されています。
厚生労働省が推進している施策
厚生労働省が推進している施策は以下のとおりです。
| 施策名 | 概要 |
|---|---|
| オンライン資格確認の導入 | ◦マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組み ◦患者さん本人の健康・医療データに基づいた適切な医療提供を可能とし、医療DXの基盤となる |
| 電子カルテ情報共有サービス | ◦全国医療情報プラットフォームの一環 ◦全国の医療機関や薬局などで患者さんの電子カルテ情報を共有できる仕組み |
| 標準型電子カルテシステム | ◦全国医療情報プラットフォームとつながり、情報の共有が可能な電子カルテ ◦民間サービスとの組み合わせが可能 |
| 電子処方箋 | ◦電子的に処方箋を運用する仕組み ◦複数の医療機関や薬局で直近の処方・調剤情報を参照できる |
| 医療費助成のオンラインによる資格確認 | ◦マイナンバーカードを医療費助成の受給者証として利用できるようにする取り組み |
| 予防接種事務のデジタル化 | ◦予防接種事務をデジタル化する取り組み ◦マイナンバーカードを用いてオンラインで情報を確認する ◦予診票をスマートフォンで完結させるなどを導入 |
| 介護情報基盤の構築 | ◦利用者の情報を自治体・介護事業所・医療機関など関係者間で円滑に共有する取り組み |
| 医療などの情報の二次利用 | ◦患者さんの病歴などのデータを新薬開発や治療法改善に役立てる取り組み ◦現在、法的なルールなど検討の段階 |
| 診療報酬改定DX | ◦診療報酬改定のルール変更をデジタルで迅速に反映し、医療機関の事務負担を軽減する取り組み |
これらの施策の推進が、患者さんと医療従事者双方にメリットをもたらすことが期待されています。
医療DXの進め方|デジタルツール選定

医療DXをスムーズに進めるためには、デジタルツールを計画的に選定することが重要です。ここでは、クリニック開業や運営にあたって押さえておきたい流れを6つのステップで解説します。
①どのような医療DXツールがあるか確認
医療現場で利用されるデジタルツールは多岐にわたります。医療DXを進めるにあたり、まずどのようなツールがあるか、全体像を把握しましょう。
| 領域 | 代表的なツール | 主な機能 |
|---|---|---|
| 来院前予約・問診 | Web予約、LINE予約、Web問診 | ◦当日の処理を円滑する ◦来院前の情報収集 ◦トリアージ |
| 受付・会計 | 受付KIOSK、番号発券、 自動釣銭機、キャッシュレス決済 | ◦受付の自動化 ◦会計の迅速化 |
| 制度対応 | オンライン資格確認 (マイナ保険証対応) | ◦受診時に保険資格をオンラインで確認 ◦医療情報の活用 |
| 記録オーダ | 電子カルテ、レセプト(レセコン)、オーダエントリ | ◦診療記録 ◦検査、投薬、処置の指示を一元的に管理 |
| 処方 | 電子処方箋 | ◦情報の電子的連携 ◦重複投薬の防止 ◦履歴参照が可能 |
| 画像検査 | PACS、モダリティ連携、 検査情報管理 | ◦画像や検査結果を院内で一元的に参照 |
| 地域連携・情報共有 | 電子カルテ情報共有サービス、 地域連携パス、在宅連携ツール | ◦医療機関・薬局・介護事業所と診療情報を共有 |
| 遠隔医療 | オンライン診療プラットフォーム、ウェアラブル連携 | ◦遠隔での診療と経過観察を支援 |
クリニックの規模や診療科によって必要なツールは異なるため、まずはどのようなツールがあるのかを広く把握し、自院に必要なものを検討できる基盤をつくることが大切です。
②開業時に用意しておきたいツールを確認
次に、開業時点で導入しておきたいツールを整理します。クリニック経営の基盤といえるオンライン資格確認システム・レセプトシステム・電子カルテの3つは開業時に優先して導入すべきでしょう。
オンライン資格確認は、マイナンバーカードや健康保険証で患者さんの本人確認と保険資格の確認を迅速に行うことで、受付業務を効率化します。
レセプトシステムは、診療内容を正確にレセプト(診療報酬明細書)としてまとめ、請求業務を自動化します。電子カルテは、診療記録や指示(オーダ)を一元管理し、レセプトシステムと連携することで、業務効率を向上させます。
将来の情報共有や標準化に対応できる製品を選べば、予約や問診、電子処方箋、画像・検査システムとの連携もスムーズに行うことができます。
ほかにも、Web予約やWeb問診といった患者さんが来院前に情報を入力できる仕組み、電子処方箋やPACS・検査情報システムを整えておくと便利です。
電子処方箋は過去にほかの医療機関で処方された薬の情報や、飲み合わせの悪い薬、重複している薬をチェックできるため、安全な処方につながります。
PACS(医用画像管理システム)や検査情報システムは、レントゲンやCT検査などの画像データや血液検査などの検査データをデジタルで管理・共有するシステムです。
開業初期から患者さんにとって利用しやすい環境を整えることも重視してシステムを導入することで、管理業務と診療の両方で効率アップさせられるだけでなく、患者さんからの信頼も得やすくなります。
③業務効率化が期待できるツールを確認
さらに、業務効率化が期待できるツールも検討しましょう。日々の外来運営をよりスムーズにするためには、以下に挙げるようなデジタルツールが効果的です。
これらを活用することで、患者さんの待ち時間短縮や、スタッフの作業負担軽減といった効果が期待できます。
- Web予約システム
- 自動再来機や精算機
- 患者呼び出しシステム
さらに、デジタルサイネージを設置すれば院内の情報掲示や啓発活動を効率的に行えます。これらのツールは開業に必ずしも必要ではありませんが、業務効率や患者満足度向上が期待できるので、導入を検討する価値があるといえます。
④各ツールの導入コストや利用できる補助金を確認
DXツール導入の際は、初期費用と月額費用などの費用を長期的な視点で把握しておく必要があり
医療DX推進の流れを受け、国や自治体では補助金や助成金を設けている場合があります。
代表的なものに、ITツールの導入を支援するIT導入補助金2025、オンライン資格確認や電子処方箋などの補助金、各自治体が独自に行っている医療DX支援などが挙げられます。
こうした補助制度を活用すれば、初期投資を抑えられます。対象となる経費や申請スケジュール、要件はそれぞれ異なるので、事前に新しい情報を確認しましょう。
⑤候補のツールのシステム間連携の可否を確認
候補のツールが絞り込めてきたら、各ツール同士の連携が可能かどうかを必ず確認しましょう。
例えば、候補のレセコンと電子カルテの相性が悪い場合、二重入力が必要となるなど業務効率が下がってしまう可能性があります。また、Web予約やWeb問診システムが電子カルテにデータを取り込めるかどうか、開業時ではなく後から導入しようと考えているツールとも連携できるか確認し、自院の運用に合ったシステムを組み合わせることが必要です。
⑥開業資金とのバランスをみながら導入ツールを決定
最後に、開業資金全体とのバランスをみて導入するツールを決定しましょう。
便利だからといって多くのツールを導入すると、初期投資が膨らみ資金繰りを圧迫する可能性があります。逆に、必要最低限に絞りすぎると業務が非効率になり、患者満足度に影響することもあります。
そのため、開業時に用意しておきたいツールと将来的に導入したいツールに分けて整理しておくのがおすすめです。開業後に状況を見ながら段階的に拡充することで、資金負担を抑えつつ、効率的に医療DXを進めていくことができます。
医療DXの進め方|導入

ここでは、医療DXツールを選び、実際に導入を完了させるまでの具体的な進め方について解説します。
ベンダーの決定から導入までのフロー
DXツールの導入は、ベンダーの選定から始まります。複数のベンダーから見積もりを取り、デモンストレーションを通じて実際の操作性を確認しましょう。
契約内容、サポート体制、連携の可否、将来的な拡張性などを総合的に比較検討し、自院に合ったベンダーを決定します。スタッフ全員がスムーズに操作できるよう、トレーニングとテストを実施し、問題なく稼働できることを確認しましょう。
導入までにクリニックが準備しておくこと
DXツールの導入までに、どの作業をデジタル化したいのか、スタッフ間で共有しておきましょう。機器の設置場所や電源、ネットワーク環境を確保し、スムーズな工事ができるように準備を進めます。
また、導入後の混乱を避けるため、事前にスタッフ向けの研修を計画し、ツールの操作方法や新しい業務手順を周知徹底しておくことが重要です。万が一のトラブルに備え、緊急時の対応方法も定めておきましょう。
医療DXを導入する際の注意点
医療DXを導入する際は、コストや操作性だけでなく、スタッフが無理なく使えるかどうかを重視することが大切です。高度な機能があっても、使いにくければかえって業務負担が増える可能性があります。また、電子カルテやレセコンとの連携可否を確認し、二重入力やデータ不整合が起きないように注意しましょう。
セキュリティ対策や個人情報の保護、導入後のサポート体制やトラブル時の対応力も、安心して利用するための重要なポイントです。目先のコストだけでなく、長期的な運用を見据えた検討が重要です。
医療DXの進め方|運用開始後

医療DXツールは導入したらそれでよいというものではありません。システムを日々の業務に定着させるためには、継続的な取り組みが不可欠です。運用開始直後はトラブルが発生する可能性に備えてマニュアルを準備し、ベンダーのサポート窓口も活用しましょう。また、定期的にスタッフ間でツールの利用状況や課題を話し合い、改善策を検討していくことも大切です。
さらに、運用開始から一定期間が経過したら、導入したDXツールの効果を確認しましょう。待ち時間の短縮、レセプト作成時間の短縮、入力ミスの減少など、具体的な指標を設けて評価することで、導入成果を可視化できます。
まとめ

医療DXは、単にデジタルツールを導入すれば完了するものではありません。業務効率を改善し、医療の質を高め、スタッフが働きやすい環境を築くために継続的に取り組むことが求められます。
まずは開業時の基盤となるツールを整え、その後、運営状況に合わせて段階的に拡張していくことが成功への鍵です。適切な医療DXの導入を進めることで、患者さんとスタッフの双方にとって、よりよい医療現場の実現を目指しましょう。




