医療モールで開業するメリット・デメリット、注意点をわかりやすく解説します!
近年、駅前や商業施設の敷地内に、複数の診療科や薬局が集まる医療モールが増加しています。かつては単独で土地を取得して開業するのが主流でしたが、コストの上昇や人口構造の変化を背景に、医療モール型の開業が注目されています。
モール内では内科・小児科・整形外科などが並び、患者さんは一ヶ所で複数の診療科を受診できるという利点があります。一方で、契約条件や運営方針、診療科の構成など、慎重に検討すべき項目も少なくありません。
この記事では、医療モールの仕組みや開業までの流れ、医師側・患者さん側双方のメリット、そしてリスクを回避するための注意点を解説します。
医療モールでのクリニック開業について

医療モールとは、複数の診療所や薬局、リハビリ施設などが同じ敷地内に集まり、共通設備を利用しながら運営される医療複合施設です。各クリニックは独立採算でありながら、建物や駐車場、共有スペースを共同で使うことで効率的な運営を実現できます。
主に内科・小児科・整形外科などの基本診療科を中心に構成され、薬局や検査施設が併設されることもあります。2000年代以降、地域医療と生活利便性を両立させる開業形態として拡大してきました。
参照:『わが国における医療モールの推進整備状況とマネジメント課題』(産業能率大学)
患者さんにとってのメリットは、複数の診療科を一ヶ所で受診できる利便性の高さです。
例えば、内科で診察を受けた後、整形外科でリハビリを行い、同じ建物内の薬局で薬を受け取ることができます。また、駐車場やエレベーターなどの設備が整い、高齢の方や子ども連れでも通いやすい環境が整っています。
医療モール内での診療科間で紹介や検査依頼がスムーズに行われることも多く、患者さんの移動負担を減らすこともできます。
医療モールは、空き区画があっても希望すれば誰でも入居できるわけではありません。地域の医療需要や人口構成、既存の診療科とのバランスを踏まえて、運営会社や不動産会社が入居医師を調整します。
診療科が競合せず、モール全体として機能するように構成が決められることが多い傾向で、多くの場合、民間企業が中心となって開発を進め、薬局や複数のクリニックが協議しながら構成を整えていきます。
医療モールでの開業は、入居募集への応募から始まり、面談・契約、設計・施工、行政手続き、そして開設準備へと進みます。
まず、運営会社やデベロッパーが地域の医療ニーズを踏まえて診療科の構成を企画し、医師は募集要項を確認して応募します。
面談では診療方針や開業スケジュール、経営計画などが確認され、その後に契約を結びます。契約後は、テナントとして内装設計や医療機器の導入を進め、保健所へ開設届を提出します。消防設備や構造基準などの確認に加え、保健所による現地確認で問題がなければ届出が受理され、診療を開始できます。
医療モールの募集は、開業支援会社や不動産会社のほか、調剤薬局グループやデベロッパーなどの民間企業が案件情報を公開して募集する形が一般的です。
募集情報は医療開業向けサイトなどにも掲載され、地域や診療科別に確認できます。物件によってはすでに複数の診療科が入居しており、連携しやすい診療科を追加募集している場合もあります。現地見学会や説明会へ参加し、立地や運営体制、契約条件を確認すると、自院の方針に合うモールを選びやすいでしょう。
医療モールでクリニックを開業するメリット・デメリットと注意点

医療モールで開業するメリットは、初期費用の軽減と安定した集患効果です。
土地の購入や建物の新築が不要なため、開業資金を大幅に抑えることができます。さらに、複数の診療科や薬局が集まることで相互紹介が生まれやすく、開業初期から一定の患者さんを確保しやすい点も魅力です。
モール全体の看板や広告、立地条件によって自然な集患効果が得られるため、単独開業よりも早く経営を安定させやすい傾向があります。
また、共用部分の清掃や設備点検などを一括で管理してもらえるため、医師が診療に専念しやすい環境が整っています。
医療モールで開業する場合は、まず賃料や共益費といった固定費が高くなりやすい点が挙げられます。建物の維持費や共有スペースの管理費がかかるため、経営面での負担が大きくなることがあります。また、運営会社が決めたルールに従う必要があり、看板の位置や広告の出し方、診療時間などに制限が生じることもあります。
モール全体の集患状況に影響を受けやすいのも特徴で、ほかのクリニックが閉院したり運営会社が変わったりすると、患者数が変動する可能性があります。さらに、契約内容によっては診療科の拡張や移転が難しい場合もあり、経営の自由度が限られることがあります。
医療モールで開業する際は、契約内容と運営体制を慎重に確認することが欠かせません。モール内では複数の診療所が協力して運営するため、方針や診療姿勢の違いによって協調が難しくなることがあります。特に、モール全体を管理する会社の運営方針や、診療所同士が情報を共有する仕組みがはっきりしていない場合、連携が取りにくくなることがあります。
また、賃料や共益費などの固定費が経営の負担になることもあります。入居を検討する際は、契約条件の内容だけでなく、運営会社の信頼性や、モール内で意見を交わす場が設けられているかどうかも確認しておきましょう。
医療モールを選ぶときは、地域の人口構成や医療需要を分析し、自院の診療科がその地域にどのように求められているかを見極めることが重要です。立地や交通アクセス、駐車場の有無など、患者さんが通いやすい環境かどうかを確認しましょう。
また、モール全体のコンセプトや運営方針が自院の理念と合致しているかも検討する必要があります。さらに、地域医療連携の仕組みや行政との協調、近隣医療機関との関係性も把握しておくと、開業後の連携が円滑に進みやすくなります。
編集部まとめ

医療モール開業は、医師にとって経営リスクを抑えつつ、地域医療に貢献できる新しい開業スタイルです。単に診療所が並ぶだけではなく、生活のなかに医療を取り込み、患者さんが通いやすい環境を整える点に特徴があります。モール内の医師同士が連携し、紹介や検査をスムーズに行えることもメリットです。
一方で、契約条件や運営方針によって診療の自由度が制限される場合もあり、自院の理念や方針を明確にしておくことが欠かせません。
信頼できる運営主体と協調しながら、自らの診療の方向性をぶらさずに運営を続けることが、医療モール開業を成功へ導くための重要なポイントです。




