医療事務を効率化する電子カルテとは?選び方や導入時の研修方法も解説
電子カルテシステムは、業務効率化と医療の安全性を両立させるための基盤です。
政府は、遅くとも2030年までにはおおむねすべての医療機関で電子カルテの導入を目指すとしています。電子カルテの導入は、医師の診察や治療の質向上に寄与するだけでなく、医療事務の効率化にもつながります。
本記事では、電子カルテの活用場面、導入による効果、導入後の円滑な運用を支える研修方法などを解説します。
クリニックの電子カルテ導入と医療事務の業務効率

医療事務は、患者さんが来院してから会計を済ませるまで、フロー全体で電子カルテを使用します。主な使用場面は、受付と予約管理、会計、レセプト業務の三つです。
受付・予約管理では、来院時の保険証や履歴の確認、初診患者さんの基本情報登録、問診内容のカルテ記載などに電子カルテを活用します。
会計業務では、医師が記録したカルテ内容や患者さんの医療保険情報に基づき、窓口で徴収する医療費を計算します。
レセプト業務では、診療報酬明細書の作成、点検、提出などの請求業務で電子カルテを使用します。
このように、電子カルテは医療事務の中核となる業務全般で幅広く使用されています。
これまで紙のカルテで行っていた記録や会計処理、診療報酬請求の手続きなどをデジタル化できるので、電子カルテ導入で医療事務の業務効率向上を期待できます。
例えば、受付から会計までの一連の流れを電子カルテと連携させることで、患者さんの情報入力や確認作業の二重入力が不要になります。予約システムと連動していれば、来院時に自動で受付処理が完了し、診療内容に応じた会計計算も自動化されます。
これにより、入力ミスの防止や会計待ち時間の短縮につながり、受付業務がスムーズに進むようになります。
また、診療内容が自動的に請求データに反映されるため、転記ミスや記載漏れのリスクが減り、レセプト点検作業も効率化されます。修正箇所をシステムが自動で検出してくれる機能を備えている電子カルテなら、締め処理のスピードを向上させることができるでしょう。
さらに、医師や看護師、事務スタッフが同じデータをリアルタイムで参照できるため、情報共有のスピードと正確性が向上して、業務全体の流れが明確になります。
電子カルテ導入は、医療事務スタッフにとって多くのメリットがあります。
- 事務作業の効率化と正確性の向上
- 請求業務や集計作業の自動化による残業時間の削減や業務負担の軽減
- 患者さん対応や院内オペレーションの改善
- より幅広い業務を担当できるようになることで専門性と働きやすさが向上
- スタッフ間の情報共有が容易になる
また、電子カルテ上で患者情報が統合されることで、「次にどの準備が必要か」「どのようなフォローが求められているか」といった判断がしやすくなり、スタッフが主体的に動ける環境が整います。これは、クリニック全体の生産性向上やチーム力の強化にも直結します。
このように、電子カルテは医療事務スタッフの業務効率化だけでなく、働き方や職場の雰囲気にもよい影響を与えられる可能性があります。
医療事務の業務効率向上が期待できる電子カルテの選び方

電子カルテの主な機能は以下のとおりです。
- 受付、再来登録
- 予約管理機能
- 問診記録
- 診療記録
- 履歴管理(既往歴や薬剤、検査結果やアレルギー情報など)
- 会計処理
- 保険請求(レセプト)との連携機能
- 紹介状や検査依頼書、診療情報提供書などの帳票出力と電子共有機能
- 情報セキュリティ上必要な運用管理機能
- 検査データや画像データへの参照機能、電子化管理
- 電子カルテ情報共有サービスへの対応
電子カルテにはさまざまな機能がありますが、電子カルテや電子処方箋対応、マイナ保険証対応、データ交換標準(HL7 FHIRなど)への準拠などの機能はほかの医療施設や調剤薬局との連携にも影響を与えるので、導入を検討する際は搭載されているかどうかを確認しておきましょう。
医療事務の業務効率を高めるためには、電子カルテの種類や機能の方向性を見極めることが大切です。
電子カルテには大きく分けて、クラウド型(インターネット経由)とオンプレミス型(院内サーバー設置型)の2種類があります。
クラウド型電子カルテは、インターネット環境があればどこからでもアクセスでき、ソフトウェアの更新やバックアップが自動で行われるため、医療事務スタッフの管理負担が軽減されます。受付・会計・レセプト業務がリアルタイムで連携し、複数端末から同時に作業できるため、日常業務の効率化が期待できます。
一方、オンプレミス型電子カルテは院内サーバーを設置してシステムを運用するタイプで、通信環境に左右されにくい安定性が特徴です。患者さんのデータを院内で一元管理できるため、セキュリティ面を重視したいクリニックに向いています。カスタマイズ性が高く、業務フローや診療内容に合わせて細かい設定ができますが、導入やメンテナンスに専門知識やコストが必要となる場合があります。
どちらのタイプを選ぶ場合でも、医療事務の業務効率を考えるなら、レセプトソフトや予約システムとの連携機能が充実している電子カルテを選ぶことが重要です。最近ではダッシュボード分析や自動アラート機能を備えた電子カルテもあり、未処理レセプトの通知や会計ミスの自動検出など、事務スタッフのヒューマンエラーを防ぐ仕組みが整っているタイプを選ぶと、日々の業務がよりスムーズになります。
加えて、予約システムや問診システム、オンライン資格確認システムなど、外部システムとの連携機能が充実している電子カルテは業務効率の向上が期待できます。
実際に業務を日々行うのは医療事務スタッフです。導入するシステムが既存の業務フローと大きく乖離していたり操作性が低かったりすると、かえって業務効率を低下させるリスクがあるので、電子カルテを導入する際は医療事務スタッフにも意見を聞きましょう。
特有の事務処理が存在しているケースもあるので、実際の業務フローや具体的な要望、実務のなかで困っていることなどを含めて一連の業務フローを確認しておくと、電子カルテ導入の際に役立ちます。
クリニックで電子カルテを導入後の研修方法

マニュアルは、導入後のスタッフの疑問を解消し、業務を標準化するための重要なツールです。具体的には以下のような構成が検討されます。
- 基本操作
- セキュリティ、情報管理マニュアル
- 保守運用マニュアル
- トラブル対応
- FAQ集
システム提供元が提供する標準マニュアルに加え、自院の業務に合わせた独自の情報を盛り込む必要があります。わかりにくい部分は、スクリーンショットなどを使用して、誰でも操作できるようにしておくのがポイントです。
また、システム障害や災害などの緊急事態が発生した場合の対応フローや、データバックアップ、復旧の手順を明確にしておくとよいでしょう。
電子カルテ導入時に行う研修の内容は、主に基本操作と業務別操作の二段階で構成されます。
基本操作研修では、システムへのログイン方法、画面の見方、情報の検索方法、データ入力の基本操作など、全スタッフが共通して必要とする基礎的なスキル習得を目指します。この段階では、実際の操作画面を使ったハンズオン形式の研修が効果的です。
業務別研修では、医療事務スタッフ向けに受付業務での患者さんの登録、保険証確認、予約管理、会計処理、レセプト作成などの実務に即した操作をレクチャーします。特にレセプト業務については、チェック機能の使い方や、エラーが表示された際の対処法など、専門性の高い内容を重点的に習得する必要があります。
研修方法には、ベンダーによる集合研修、オンライン研修、実地でのOJT(On-the-Job Training)などがあります。OJTとは実際の業務を通じて操作や知識を習得させる方法です。必要に応じてテストデータを使った模擬運用期間を設けることで、本稼働前に操作に慣れることができ、電子カルテの導入がスムーズに行えます。
マニュアルがあっても、研修は必要です。マニュアルは操作手順を文字や図で確認できる重要なツールですが、実際の業務を行うためには電子カルテ操作の習熟が必要です。
現場の業務フローのなかでどのタイミングでどの機能を使うのか、イレギュラーな事態にどう対応するのかなどの実践的な判断は、マニュアルだけでは習得が困難です。
特に医療事務の業務は、患者さんの対応と並行してシステム操作を行うため、スピードと正確性の両立が求められます。研修では実際の画面を操作しながら、より深い理解と操作スキルの習得と、業務の属人化防止のための業務標準化を目指しましょう。
また、診療報酬改定などの変更に対応するためには、定期的な研修やフォローアップが欠かせません。マニュアルは日常的に活用しつつ、研修を通じて実践力を養うことが、電子カルテを上手に活用するための鍵です。
編集部まとめ

電子カルテは、医療事務の受付や会計、レセプト業務を効率化する中核的なシステムです。患者さんの情報を一元管理し業務を効率化することで、スタッフは患者さんへの対応により注力できるようになります。
レセプトコンピューター機能一体型や外部システムとの連携機能が充実したものを選び、適切な研修を実施することが重要です。
医療DXが進むなか、今後も長期的に活用できるシステムを選択し、業務改善と患者さん満足度の向上につなげましょう。




