TOP > 開業の準備、開業とは > 【クリニック開業時】看護師採用の基礎知識と方法、ポイントを詳しく解説!

【クリニック開業時】看護師採用の基礎知識と方法、ポイントを詳しく解説!

                   
投稿日: 2025.12.15
                   

クリニックを開業するにあたって欠かせないのが、看護師の存在です。診療補助だけでなく、患者さんとのコミュニケーションや院内の雰囲気づくりなど、その役割は多岐にわたります。一方で、人材不足により看護師の採用は年々難しくなっており、「何人採用すべきか」「採用費用はどのくらいか」と悩むこともあるでしょう。

本記事では、クリニック開業時に知っておきたい看護師採用の基礎知識について解説します。

クリニック運営に看護師の役割が重要な理由

クリニック運営に看護師の役割が重要な理由

クリニックにおいて、看護師の働きはクリニック全体の質や業務の効率に直結します。ここでは、看護師がクリニック運営に重要とされる主な理由を解説します。

医師の診療を円滑に進められる

看護師は、患者さんの療養上のお世話や医師の診療の補助を行う専門職です。クリニックにおいては、具体的に次のような役割があります。

  • 診察や検査の補助
  • 注射の実施
  • 医療器具の洗浄・滅菌
  • 物品管理・発注

このように、看護師が幅広い業務を担うことで医師が診察や治療に専念でき、診療が滞りなく進むのです。

参照:

『診療の補助』(公益社団法人 日本看護協会)

患者さんとのコミュニケーションの要になる

看護師は、医師や薬剤師、栄養士などほかのスタッフと患者さんの橋渡しのような役割も担っています。例えば、医師の診断結果や治療方針を患者さんやご家族の理解度に合わせて補足して説明したり、薬剤師に代わって薬の服用方法を伝えたりします。逆に、患者さんが疑問や不安に感じていることを医師に伝えることもあります。

看護師は患者さんにとって身近で相談しやすい存在であり、クリニックにおけるコミュニケーションの要といえます。

参照:

『チーム医療』(公益社団法人全日本病院協会)

クリニック全体の雰囲気づくりに影響する

看護師の応対の丁寧さは、患者さんの満足度やクリニックの雰囲気に影響します。特に小規模なクリニックではスタッフ同士や患者さんとの距離が近く、看護師の言動や態度がクリニック全体の雰囲気づくりに影響を与えることがあります。

看護師の応対の質が高ければ、患者さんに「また来たい」と思ってもらえる可能性も高まります。特に初診の患者さんにとっては、受付や看護師の態度がクリニックの第一印象を左右するため、その重要性は高いといえるでしょう。

参照:

『第2章 病院における患者満足度向上への取り組み』(厚生労働省)

クリニック開業時の看護師採用について

クリニック開業時の看護師採用について

続いて、クリニックを開業する際に何人の看護師を採用すべきか、どのようなスキルや適性を重視すべきかなど、具体的な採用計画のポイントを解説します。

クリニック開業時に必要な看護師の人数

医療法において、一般的な病院では外来患者さん30人に対して看護師1人という配置標準が設けられています。ただし、この基準は病院向けのものであり、クリニックでは厳密に配置標準が定められているわけではありません。

では実際、どのくらいの人数を採用するケースが多いのでしょうか。全国の保険医団体連合会の調査によれば、無床診療所では平均して正職の看護職員を2.25人、パート1.55人を雇用しており、正職・パート合計で平均3.8人の看護職員がいる計算です。有床診療所では、平均で正職8.76人、パート2.77人を雇用しており、平均で11.5人の看護職員を配置しているというデータがあります。開業するクリニックの規模と照らし合わせて、採用人数を決定するとよいでしょう。

参照:

『医療法に基づく配置標準について』(厚生労働省)

『診療所における看護職員確保アンケートの概要』(全国保険医団体連合会)

クリニック開業時の看護師に求められるスキルや適性

クリニック開業時の看護師に求められるスキルには、主に以下のような点が挙げられます。

  • 基本的な臨床スキル
  • 短時間での情報収集・アセスメント力
  • 患者さん・家族への指導力
  • コミュニケーション・協調性

まず、一つ目は採血・注射・バイタルサインの測定といった基本的な手技に加え、外来で実施される創傷処置や検査の介助などに対応できる臨床スキルです。特に、スタッフの数が少ないクリニックでは、個人のスキルの高さが求められます。

二つ目は、診察前の短い問診や待ち時間を活用し、生活背景や症状の変化などの必要な情報を整理して、医師につなぐことができるアセスメント能力です。クリニックでは、患者さんの表情やしぐさから異変に気付き、適切に報告する力も欠かせません。

三つ目として、服薬や生活習慣、検査結果などについて、患者さんの理解度に合わせて説明し、患者さんのセルフケア支援につなげる指導力が挙げられます。

さらに、医師や受付事務などのスタッフ同士で協力して仕事を進めるコミュニケーション能力も、クリニックの看護師に求められる資質といえるでしょう。

看護師の採用コストの目安

看護師採用にかかる費用は、採用手段によって大きく異なります。代表的な方法と、それぞれのコストの目安は以下のとおりです。

採用手段採用1人あたりの費用(目安)費用の特徴
求人広告の出稿約100,000~600,000円成功有無に関係なく費用が発生する
自院ホームページ運用コストのみ掲載費は無料
ハローワーク無料公的サービスで費用不要
看護師紹介サイト採用者の年収の約20%入職決定時に手数料が発生
紹介(知人・関係者)謝礼を支払うことがある紹介元との関係に配慮が必要

このように、看護師の採用にかかるコストは、選択する採用方法によって幅があることがわかります。

参照:

『病院の人材紹介手数料』に関するアンケート調査(公益社団法人 全日本病院協会)

看護師の採用にかかる期間の目安

看護師の採用にかかる期間は約6ヶ月間を目安に考えましょう。

開業の6ヶ月前頃には、採用する看護師の人数や勤務形態、賃金や手当を決定します。事業計画で算出した人件費の範囲や、診療体制などを踏まえ、以下を明確にしておくとスムーズです。

  • 看護師の勤務形態
  • 給与・時給、残業手当、交通費の扱い
  • 休日・シフト体制

開業の3ヶ月前には募集方法を決定し、求人を出します。応募が集まり始めたら早めに書類選考や面接を行い、内定を出しておくとよいでしょう。看護師の転職活動は在職中に行われる場合もあるため、入職までに1~2ヶ月の猶予が必要となるケースもあります。開業直前に慌てないように、1ヶ月前には採用を確定させておくのが理想です。

看護師の給与相場

厚生労働省の調査によると、役職者を除く看護師の平均月収は約400,000円です。しかし、この金額には基本給のほかに各種手当てが含まれる場合が多く、特に夜勤手当は収入に大きく影響します。

また、給与水準は職場の体制によっても差があり、24時間体制の医療機関では夜勤を伴う働き方が一般的なため、平均より高くなるケースがあります。

クリニックを開業して看護師を採用する場合は、これらの点を踏まえ、地域の給与相場や職場内容とのバランスをみながら、応募者に納得してもらえる給与設定をしましょう。

参照:

『看護師の平均賃金(月収換算)』(厚生労働省)

クリニック開業時に看護師を採用する方法

クリニック開業時に看護師を採用する方法

求人広告の出稿

求人広告の出稿は、広く求職者にアプローチできる手段として有効です。主に、以下のような媒体が利用されています。

  • 看護師専門サイト
  • 総合求人サイト
  • 地域フリーペーパー・求人誌

それぞれの媒体によって、ユーザー層や利用にかかるコストが変わります。

例えば、全国的に展開している看護師専門サイトや総合求人サイトは、都市部を中心に登録者が多い傾向にあります。一方で、地域密着型のフリーペーパーは限られた地域への訴求力が高く、徒歩圏や車通勤圏内で仕事を探している看護師の目にとまりやすいでしょう。

広告掲載費も媒体によって異なります。掲載費は無料で採用時にのみ費用が発生するプランや、採用の有無に関わらず掲載する期間によって費用が決まるプランなどさまざまです。

ホームページやSNSでの募集

クリニックのホームページ上に採用情報を掲載したり、SNSで求人告知を行ったりする方法では、文章だけでなく写真や動画などを用いれば、求職者が実際に勤務するときのイメージをしやすくなるでしょう。

SNSの活用は費用がかからない点がメリットですが、投稿内容やフォロワーへの周知、拡散力を高める工夫が求められます。

参照:

『医療専門職支援人材の確保・定着のための手引書』(厚生労働省)

ハローワークでの募集

公共職業安定所(ハローワーク)に求人を出す方法です。ハローワークの求人申請は無料で行え、地域の求職者に幅広く情報提供できます。ハローワークの職員が、条件に合う求職者を紹介してくれることもあります。

看護師紹介サイトの活用

看護師紹介サイトの利用率は高く、全国の病院の約77%が看護師紹介サイトを利用しているとの報告もあります。費用については成功報酬型を採用している会社が多く、看護師1名を採用するためにかかる平均手数料は約76万円とのデータもあります。

参照:

『「病院の人材紹介手数料」に関するアンケート調査 調査結果概要』(厚生労働省)

紹介

友人や知人の看護師を紹介してもらう方法もあります。知人経由の紹介であれば、職場の雰囲気や業務内容を事前に理解したうえで応募されるため、ミスマッチが少ないというメリットがあります。ただし、募集経路が限られるため、人手不足の状況によっては十分な人数を確保できないことがあります。

クリニック開業時の看護師採用のポイント

クリニック開業時の看護師採用のポイント

クリニック立ち上げ期は、職場の雰囲気が形成される大切な時期です。この段階でよい人材を確保し、安定した体制を築くことがその後の運営に影響を与えます。採用時から、スタッフの定着を意識した環境を整えましょう。

評価制度を設ける

看護師に長く働き続けてもらうために、公平で納得性のある評価制度を整えましょう。

評価基準が不明確なままでは、「どれだけ努力しても給与や待遇に反映されない」「役割の違いが評価と結びつかない」と不満が蓄積し、離職につながりかねません。評価制度を取り入れればスタッフのスキルアップの方向性が明確になり、日々の成長を実感するきっかけやモチベーションの向上にもつながります。

求めるスキルレベルや要件をはっきりさせる

看護師の採用において、求めるスキルレベルや要件を示すことは、採用のミスマッチ防止や人材の定着につながります。

具体的には、以下のような項目を提示するとよいでしょう。

項目記載例
必須スキル
  • 採血・点滴の対応ができる
  • 電子カルテの入力経験がある
  • 外来看護経験がある
歓迎スキル小児科経験者歓迎、美容医療経験者優遇など、自院の診療内容に合うスキル
職歴・経験
  • 該当診療科の経験がある
  • 外来勤務経験3年以上
勤務条件の整合性
  • 土曜日勤務可能週
  • 3日以上勤務可能

ハローワークの求人票記載ルールでも、仕事内容や必須スキルを具体的に記載して、労働条件を明確化することが求められています。

参照:

『事業主の皆様へ、ハローワークからのお願いです』(労働基準監督署)

クリニックの理念やミッションを決めておく

クリニックの理念やミッションも明確にしておきましょう。理念が曖昧なまま募集を行うと、応募者が職場の方向性をつかめず、入職後に「思っていた医療と違う」というミスマッチが起きるかもしれません。

理念の言語化が、採用に与える主なメリットは以下のとおりです。

  • 求人情報に理念を明記することで、理念に共感する看護師の応募が期待できる
  • 入職後の行動基準が共有され、早期離職のリスクを減らせる
  • 職員が同じ目標に進みやすい

看護師採用において、理念の提示は採用・評価・教育の判断基準として活用され、日常業務に浸透させるのに役立ちます。開業準備の段階で明確にし、求人票や採用面接で伝えることをおすすめします。

無理のない業務量になるよう人数を調整する

クリニックの運営において、看護師一人ひとりの業務負担が大きくならないよう、適切な人員配置と業務量の調整を行いましょう。看護職の離職理由の一つとして、過重労働や人手不足による負担の増大が挙げられています。

無理のない勤務体制の整備は、医療の質と安全を守るうえでも欠かせません。先述したとおり、クリニックの規模や診療の内容に応じて、必要とされる看護師の人数は変わります。1日の平均患者数や、ピークの時間帯などを踏まえた人員設計をしましょう。また、繁忙期や急な欠勤も想定し、複数のスタッフで業務をカバーできる体制を整えておきましょう。

参照:

『看護師等(看護職員)の確保を巡る状況』(厚生労働省)

多様な働き方を用意しておく

看護師が長く働き続けられるクリニックを実現するために、多様な働き方(勤務形態)を選択できる仕組みを整えましょう。日本看護協会は、看護職が自分らしい働き方を選べる環境整備を推進しています。

具体的には、次のような方法があります。

主な選択肢具体例
働く時間の長さが選べる短時間正職員
勤務時間帯・曜日を選べる時差出勤、フレックスタイム制度
夜勤形態の選択日勤のみ、夜勤のみ、夜勤回数の選択
多様な休暇制度看護休暇、育児・介護休暇など

このような制度をあらかじめ整備しておくと、ライフステージの変化に応じて柔軟に働ける環境を提供でき、看護師の離職防止につながるでしょう。また、働き方の選択肢があることで、応募時の安心感や職場の信頼感を高める効果も期待できます。

参照:

『職場の制度と法律を知ろう』(公益社団法人 日本看護協会)

まとめ

まとめ

開業時には、必要な看護師の人数や求めるスキル、採用にかかる費用や期間を把握し、クリニックの規模や診療方針に合った採用計画を立てましょう。また、業務量の調整、多様な働き方の導入といった取り組みを進めることで、採用のミスマッチや早期離職を防ぎ、看護師が長く働き続けられる環境づくりが可能です。

これらを踏まえて、開業前から計画的に採用活動を行い、質の高いクリニック運営を目指しましょう。

【参考文献】