TOP > 開業の準備、開業とは > 整形外科クリニック開業に必要な電子カルテの機能と選び方や注意点を解説

整形外科クリニック開業に必要な電子カルテの機能と選び方や注意点を解説

                   
投稿日: 2025.12.20
更新日:2025.12.15
                   

近年、日本の医療現場ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しています。国が、電子カルテを導入していない無床診療所向けにクラウドベースの電子カルテを開発中であるなど、政府は電子カルテの導入を強く推進しています。こうした背景から、新規開業において電子カルテシステムの導入は重要な要素です。

特に整形外科クリニックは、多くの画像データの管理やリハビリテーション記録など、他科とは異なる特有の機能が求められます。

本記事では、整形外科クリニックに必要な電子カルテの機能、導入のメリット、そして適切なシステムの選び方と注意点などを解説します。

整形外科クリニック開業時に電子カルテを導入するメリット

整形外科クリニック開業時に電子カルテを導入するメリット

整形外科クリニックで、電子カルテを導入するメリットは多岐にわたります。ここでは主要な3つのメリットを解説します。

業務効率の向上

電子カルテの大きなメリットの一つは、業務効率の向上です。紙カルテの場合、過去の診療記録や検査結果を探したり、記録や処方の入力をしたりする作業に時間がかかっていました。

電子カルテでは、患者さんのすべての診療情報がシステム上で一元的に管理されるため、データの照会や共有が容易になります。また、診療録の記録、処方の入力や診療情報提供書や診断書といった各種文書作成において、テンプレートや自動入力機能が活用できるため、これらの作業にかかる時間を短縮できる可能性があります。

また、電子カルテはレントゲン撮影機器やPACS(画像管理システム)と連携できるため、画像検査結果の確認も効率よく行えます。

保管スペースの削減

カルテには、保管義務期間(5年間)があり、クリニックには膨大な量のカルテを保管するためのスペースが必要でした。特に整形外科では、レントゲン写真などの画像検査を行うことが多く、結果も含めたカルテの保管スペースの確保は大きな課題です。

電子カルテを導入することで、診療情報をデジタルデータとして保存できるため、物理的な保管スペースを大幅に削減できます。

事務ミス、読み間違えの防止

紙カルテでは、手書きの文字が読みにくかったり、転記時にミスが発生したりするリスクがあります。薬剤の処方ミスや検査オーダーの間違いなども、手書きカルテの読み間違えから生じることがあります。

電子カルテでは、すべての情報がデジタルで記録されるためこうしたミスを防止でき、スタッフが正確に情報を把握しやすくなります。

また、電子カルテの多くには自動チェック機能が搭載されています。薬剤の禁忌情報や相互作用、アレルギー情報などを自動的にチェックし、問題がある場合はアラートで警告してくれるため、医療の安全性向上に役立ちます。

さらに、会計業務においては、自動的に診療報酬点数が計算される機能を利用すれば計算ミスや入力漏れが減少します。レセプトコンピューターと連携していれば、診療内容が自動的に反映され、レセプト作成業務でのミスも少なくなります。

電子カルテの種類

電子カルテの種類

電子カルテには複数の分類方法があり、クリニックの規模や運用方針に応じて適切なタイプを選ぶ必要があります。ここでは、導入形態やレセプトコンピューター(レセコン)との連携方法による分類を解説します。

導入形態の種類

電子カルテは、システムを稼働させるサーバーの設置場所により、クラウド型とオンプレミス型に分けられます。それぞれの特徴とメリット・デメリットを把握しておきましょう。

クラウド型

クラウド型電子カルテは、インターネットを通じてクラウドサーバー上に診療データを保存・管理するシステムです。院内にサーバーや専用機器を設置する必要がなく、システムの利用と保守・サポート、バックアップ、セキュリティ対策などが含まれる月額利用料を支払うことで使用できます。

インターネット環境があればパソコンやタブレットなどさまざまな端末からアクセスできるため、診察室だけでなく処置室やリハビリ室でも利用可能です。また、システムのメンテナンスやアップデートは基本的にベンダーが行います。

ただし、利用するために常時安定したインターネット環境が必要な点や、カスタマイズの自由度がオンプレミス型に比べて低い傾向にある点には注意が必要です。

オンプレミス型

オンプレミス型電子カルテは、院内にサーバーを設置しサーバー上でシステムを稼働させるシステムです。システムのカスタマイズの自由度が高く、自院の診療スタイルや業務フローに合わせて、画面構成や機能を細かく調整できます。また、院内のローカルネットワークで運用するため、インターネット環境に左右されることが少ないのも特徴です。

レセコンとの連携方法による分類

電子カルテは、診療報酬請求を行うレセコンとの連携方法によっても分類されます。診療から会計、レセプト作成までの業務フローに大きく影響するため、電子カルテ導入の際は分類について知っておきましょう。

レセコン一体型

レセコン一体型は、電子カルテとレセコンが1つのシステムに統合されているタイプで、診療記録から会計業務、レセプト作成まで一貫して処理できます。

レセコン一体型を導入することで、電子カルテに診療内容を入力するとその情報が自動的にレセコンにも反映され、会計やレセプト作成に必要なデータをすぐに利用することができます。

近年推進されているオンライン資格確認システムとの連携も効率的で、患者さんの保険情報だけでなく、薬剤情報や特定健診情報などの医療情報を、電子カルテとレセコンの双方で活用しやすくなります。

ただし、システム障害が発生した場合は電子カルテとレセコンの両方が使えなくなる可能性があります。

分離提携型

分離提携型は、電子カルテとレセコンがそれぞれ独立したシステムで、データ連携によって情報を共有するタイプです。

導入時の柔軟性が高く、すでにレセコンを導入している場合でも既存のレセコンを活かしたまま電子カルテを追加導入することができるため、クリニックのニーズに合わせて自由度の高い組み合わせができる点が特徴です。

電子カルテとレセコンそれぞれの得意分野を活かせるため、使い勝手や機能性を細かくカスタマイズでき、将来的に片方のシステムだけを入れ替えるなど柔軟な運用が可能である点も強みです。

一方で、メーカーが異なることで連携の仕様調整やサポートの窓口が分かれてしまい、トラブル時に原因の切り分けが複雑になることがあります。また、連携がうまく機能しない場合はデータの反映にタイムラグが生じるなど、運用面での注意が必要です。

整形外科で求められる電子カルテの機能

整形外科で求められる電子カルテの機能

整形外科クリニックでは、ほかの診療科とは異なる特有の機能が電子カルテに求められます。ここでは、整形外科で求められる電子カルテの機能を解説します。

描画機能

整形外科の診療では、患者さんの症状や所見を視覚的に記録する描画機能は重要な役割を果たします。

骨折の部位、痛みの範囲、関節の可動域の制限などを図示することで、診療情報を正確に記録します。さらに、リハビリテーション内容などの記載にも役立ち、日々の診療を効率化する助けになります。

自賠責や労災保険への対応

整形外科では、交通事故による外傷や仕事中の怪我など、自賠責保険や労災保険を使用する患者さんが一定数来院します。これらの保険による診療は、通常の健康保険の診療とは異なる手続きが必要なため、煩雑な事務作業が発生します。

自賠責や労災保険に対応する電子カルテシステムは、保険種別に合わせた専用の請求書式や、それらの患者さん特有の診療経過記録(初診日、事故状況、症状固定日など)を容易に管理・出力できる機能を搭載しています。この機能は、複雑な手続きによる事務負担を軽減し、診療報酬の適切な請求を行ううえで役立ちます。

整形外科特有の加算項目への対応

整形外科の診療には、運動器リハビリテーション料をはじめとする整形外科特有のさまざまな加算項目があるため、これらを正確に算定できる機能は診療報酬の取りこぼしを防ぐことにつながります。

わかりやすい画像管理機能

整形外科診療では、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査が頻繁に行われます。これらの画像を効率的に管理し、診察時にスムーズに参照できる機能は、整形外科向けの電子カルテには欠かせないといえるでしょう。

整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ方法

整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ方法

整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ場合、次の順番でステップを踏むとよいでしょう。

  • 自院の診療方針と必要機能を明確化する
  • 複数のメーカーから情報収集する
  • デモンストレーションで実際の操作性を確認する
  • 見積もりと総コストの比較

まず、自院が目指す診療スタイルと規模を明確にします。次に、整形外科に適した電子カルテを提供しているメーカーをリストアップし、資料請求や説明を受け、デモンストレーションやトライアルを通じて実際の操作性を確認します。医師や看護師だけでなく、実際に診療で使用するスタッフ全員で体験するとよいでしょう。

最後に、絞り込んだ候補について詳細な見積もりを取得し、初期費用やネットワーク構築費用、月額の運用費用、システムの更新費用など予想されるコストを算出して比較します。

これらのステップを経て、自院の診療内容との適合性、導入・運用コストの比較、サポート体制の充実度なども総合的に判断し、導入を決定します。

整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ際の注意点

整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ際の注意点

電子カルテの選定では、機能や表面的な価格だけでなく、長期的な運用を見据えた総合的な判断が必要です。ここでは、整形外科の開業時に電子カルテを選ぶ際の注意点を解説します。

導入コストとランニングコストをシミュレーションする

電子カルテを導入する際は、初期費用だけでなく長期的なランニングコストを含めた総コストを把握しておきましょう。整形外科では患者数が多く、レントゲンやMRI、CTなど画像検査との連携が多いため、電子カルテ本体以外の費用がかかりやすい傾向があります。

導入時には、電子カルテ本体の費用、レセコンや画像ファイリングとの連携費用、サーバー・パソコンなどの機器代、院内LAN工事、スタッフ研修費などが発生します。整形外科では画像機器との連携コストが大きくなりやすいため、複数社の見積もりを比較しておくのがおすすめです。

運用開始後のランニングコストとしては、クラウド型の場合は電子カルテの月額利用料、オンプレミス型の場合は保守費がかかります。また、レセコン利用料や画像ファイリングの運用費、バックアップ費用などが毎月または毎年発生するのが一般的です。

そのため、開業前には1年後・3年後・5年後の総額をシミュレーションし、自院の規模や診療内容に合わせて無理のない運用ができるかを確認することが大切です。

整形外科は長期的な運用を前提にするため、初期費用の安さだけではなく、総額で負担の少ないシステムを選ぶことが失敗しない電子カルテ選びのポイントです。

自院の診療内容や想定する患者層に即したものを選ぶ

電子カルテは、自院が扱う疾患や検査内容、想定する患者層に合っているかどうかが重要です。

特に整形外科は種類の異なる疾患が多く、画像検査との連携も多いため、診療内容に適したワークフローが整っている電子カルテを選ばないと日々の診療で使いづらさを感じる原因になります。

例えば、変形性膝関節症や肩関節疾患など整形外科特有の診断名を入力しやすいか、リハビリ指示がスムーズに出せるか、エコー・レントゲン画像がすぐに参照できるかといった点は、日常診療の効率に直結します。また、スポーツ外来や交通事故診療を想定している場合は、それらに必要な書式・テンプレートを用意している電子カルテだとスムーズに運用できます。

自院の特徴に合わない電子カルテを選んでしまうとスタッフの業務が煩雑になり、患者さんの満足度低下につながる恐れがあります。

開業前に診療内容や導入予定の検査機器、患者層の特徴を整理し、それらに合った電子カルテを選ぶことがストレスの少ない運用につながります。

医療事務や看護師、理学療法士の視点でも検討する

電子カルテは、医師だけが使うものではありません。受付スタッフや看護師、理学療法士など、現場で実際に操作するスタッフ全員にとって使いやすいことが重要です。

受付や診療室、リハビリ室など複数の場所で電子カルテが同時に稼働するため、どこかひとつでも使いにくさがあると業務全体の流れが滞ってしまいます。電子カルテはスタッフ全員が日常的に使うシステムであるため、スタッフ全員ができるだけ使いやすい電子カルテを選ぶことが、整形外科の円滑な運営につながります。

まとめ

整形外科クリニックの開業で、電子カルテの選定は業務効率と診療の質に影響する重要な要素です。整形外科特有の加算項目への対応、画像管理機能、自賠責・労災対応など、整形外科ならではの要件を満たす電子カルテを選びましょう。

また、導入形態やレセコンとの連携方式を理解し、長期的な費用やスタッフの使いやすさも含めて総合的に判断するのも大切なポイントです。

複数の電子カルテを比較し、自院の診療方針に合うシステムを選ぶことで、スムーズな開業と質の高い医療提供につながります。

【参考文献】